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レテ川に記憶の欠片を沈めて  作者: なつ
第七章 星の輝く場所、名探偵の到着
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「待って下さい、今入るのは危険です」

 入り口に写ったモニター画面には、宇宙での戦闘画面が、まるで映画のワンシーンのように流れている。旧式の方式で体験できるゲームの映像だ。今、その部屋の中でそのゲームをプレイしているのは、日比野重三、モニター参加者の一人で、警察の人間。

「でも、可能性はもうここにしか残されていない」

 権藤警部が連れてきた芹沢と名乗る女の鋭い視線が、千堂祐次をまっすぐ貫く。冷たい、という表現はそぐわない。逆らうことが出来ない、そして、逸らすことのできない、意思の強い瞳だ。

「実際の部屋とは、ここから2メートルほど離れているようですが、部屋自体が動いているとはとても思えない、いくら方式が古いからといって、それでは効率が悪すぎるのではないですか?」

 確信に満ちた質問だ。

「分かった。認めよう。けれど、この旧式のシステムが非常に非効率的だというのは、今だからそう言えることだ。当時としては、非常に画期的なアイデアだった」

「今入るのが危険、というのは本当に?」

「本当だ。向こうの入り口とつながっていない」

「あら、日比野さん、もうゲームオーバーですか、早いですわね。千堂さん、あなたがプレイしたら、クリアできるものですか?」

「何度もやっているからな、完全とまではいかないが、クリアできるだろう」

「プレイ時間は、10分くらいでしょうか。それ以上の連続プレイは体に負担が大きそうに思えますわ」

「もし、これがプロジェクトとして組まれていたなら、モニターにどれくらい耐えられるかテストするつもりでいた。が、そうですね、10分程度が現実的でしょう。その点、今のシステムに変更したことで、プレイ時間は10倍にしても問題がない。もっとも、そのモニターのテストを今やっているわけですが……」

「私、子どものころゲームに興じたことはないんですけど、知識として知っています。休憩といいますか、ポーズ機能は備わっているんですか」

「……あります」

「ありがとう。それでは千堂さん、これを最近使ったのはいつですか?」

「昨日の夜に、自分が。その前は、権藤さんが乗りました。自分は、まあ、習慣のようなものでして、寝る前に一回は乗ります」

「ありがとうございます。ああ、日比野さんが戻ってきましたね」

 権藤警部よりかはしっかりとした足取りであったが、部屋に戻ってきた日比野の表情は優れなかった。やはり、システムとしては、成功することがないものであったのだろう。現行のシステムに変更したことは、正しい選択だった。

「他に、これをよく使う人はいますか?」

「ご存知の通り、この部屋は今、私の部屋からしか通じていない。私の許可が必要となるものだ。最近では、伊崎くんが使ったかな。それでも1週間以上前のことだ」

「日比野さん、ご感想は?」

「これは、ちょっと刺激が強すぎますね、もっと穏やかなプログラムはないものですか。これなら、先日体験したモニターのが、はるかに楽だ」

「ですから、旧式です。プログラムは他にもいくつかありますが、これが一番簡単なものだと思いますよ。若者にはちょうどよいほどの刺激でしょう」

「まあ、そうかもしれませんな。ちなみに、権藤と比べて、私のプレイはどうでしたか?」

「似たり寄ったりです」

 今立っていられるだけ日比野のほうがましかもしれないが、プレイ時間はどちらも大して代わりがない。芹沢は、日比野と権藤に合図を送ると、失礼します、と丁寧な言葉と一緒に、祐次の部屋を出ていった。

 残された祐次は、その先進的な部屋から、狭い、1Kを模した部屋へと移動する。やはり、こういう部屋のが、祐次の性に合っている。今は主任などという立場だが、自分には向いていないのだろう。

 そして、この有様だ。

 どこで自分の人生が狂ってしまったのか。

「粛清」という表現が、これほどまでに恐ろしいとは、考えもしなかった。彼の部屋に届けられた「自動拳銃」。それを使えという、逆らうことのできない「命令」。

 千堂美影が、今の業務に対して能力的に優れていないことは明らかなことだ。それでも、彼女を手放すことなどできない。そう思っていたが、突然の、粛清。

 祐次が捕まるのは、もう、時間の問題だろう。

 だが、どうやって、祐次がやったのか。

 それが、問題、なのだ。


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