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浜嶋佐登留のキーボードを打つ手が止まる。グラスビューワに写された画面に、ウインドウがポップアップする。映っているのは知らない女性だ。前髪を上げていて、おでこが光っている。
「おじゃまします。通信を、三人のプログラマー同時に開かせていただきます」
その宣言と同時に、ウインドウが二つ立ち上がる。左上に、第一プログラマーの矢口誠一、右上に第二プログラマーの有田百合、右下に、謎の女性、だ。が、少なくとも、ここにアクセスできる権限を持っている人間ということになる。
「権藤警部の許可を得ています。私は、芹沢と申します。直接ではありませんが、権藤の上司に当たります。今回の事件について、皆さんにいくつか伺いたい点がございます。よろしいですか?」
疑問系になっているが、それは拒否を許さない口調だ。どうみても権藤警部よりも若く見えるが、自分たちがやっている仕事も、能力がすべてで、年齢など重要ではない。その若さで権藤の上司なのだとすれば、かなりの能力があると考えていいのだろう。画面左上の誠一が、肩をすくめてから、なんなりと、と答える。
「それでは、モニター初日の、いたずらプログラムを組んだのはどなたですか?」
「俺だ」
誠一が答える。
「一人でですか?」
「組んだのは俺一人だが、自分範疇のプログラムだけじゃあ、機能しないから、佐登留にも許可を得ている。有田には、何も言っていないが、気づいてないはずはないだろう」
「百合さん、どうですか?」
「もちろん何かを挿入していることには気がついていました。でも、それが何なのか、解読したのは、当日の日中のこと」
「今そのプログラムは残されていますか?」
「いいや。きれいさっぱり消してしまったね」
「それは、オートですか、マニュアルですか」
「手動でだ」
右下の女性の矢次早の質問が続く。
「当日、プログラムを少し旧式のものに差し替えたとうかがいました。なぜですか?」
「うまく機能しなかったからだ。プログラムの基本は一人称のもので、一方は片方を追いかけている状態なんだが、お互いが見ている風景にずれが生じてしまったんで、その原因の究明をしようとしたんだけど、時間オーバー。仕方ないから、一昔前の方式に戻したってだけだ」
「まだ原因は分かっていないんですか?」
「残念ながら」
「ではそれは、あなたが組み込んだプログラムが原因ではないのですね?」
「違うと思います」
右上の百合が誠一の変わりに答える。
「それでは、さらに別のプログラムが組み込んであった可能性がある」
「残っていない」
「可能性は否定できない?」
「まあ、できないな」
佐登留は先日のやり取りを思い出し、口を挟んだ。
「それなら、前エラーが出ていたときのことが関係あるんじゃないか?」
「ああ、あれか。そうか、そうだな、まさしく、その通りだ。ナイスだ、佐登留」
「説明してください」
「俺は自分が挿入したプログラムを手動で消した。消されていたことを夕方に有田も確認している。が、その日の夜、なぜか俺が消したプログラムが復活していた」
「……それは、誰かが、故意に、プログラムを復帰させた、ということでしょうか」
「そうだろうな。おそらくはオートだ。そいつは、俺がプログラムを組み込んでいたことに気がついていなかった。だから、俺が組み込んだプログラムごと、元に戻したんだ」
「あなたならできますか?」
「できないこともない。だが、俺は別のプログラムが組み込まれていたことに気がつかなかった」
「ありがとうございます。おかげで、かなりのことが分かりました」
いえいえ、と誠一が答える。
「一つ、お願いがあります」
芹沢が、拒否できない鋭い口調で続ける。
「もう一度そのプログラムを組み込んでください。そうすれば、そのせいで座標がずれたのではないという証拠になります」
「了解」
それと同時に右下の通信が切れる。
「……なんだか、すごい人だったね」
「あれは本物だな。逆らっちゃいけない」
それから少し話してから、他のプログラマーからの通信と途絶える。佐登留は、自分の能力の低さが恨めしい。もっと能力をつけなければ、まるで会話についていくことも出来ないし、プログラムの修正もできない。決まりきったやりかたではだめなのだと、改めて思う。
時計を確認してから、グラスビューワをはずす。少し早いけれど、今日はもう休むことにしよう。




