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日達瑠璃は、笠倉岬と二人で応接室で休んでいた。岬はすらりと伸びた足を前に投げ出し、時折ふくらはぎを摩っている。そういう瑠璃も同じように足をもむ。自分の部屋じゃないというのが、こんなにも疲れるものだっただろうか。確かに予定外の行程が多いのは事実だけども。
「あたしたちって、いつになったら帰れるのかな」
「どうだろう。モニターの予定はあと3日だけど、もう、できるなら私も早く帰りたいよ。でも、重ちゃんははりきってるし、もう犯人の目星ついてるのかなぁ」
「……そうだよね、犯人、いるんだよね」
二人が座っていたソファーの左手にある扉が、自動に開く。岬と同時にそこを見ると、前髪を上げて、髪をソバージュにした小柄な女性が立っている。知らない顔だ。ここの研究員の一人だろうか。
「あれぇぇぇ」
その女性がまっすぐ瑠璃を指差すと、驚いたようにその指をくるくると回す。そのまま指を額の横に持っていくと、何かを得たかのように、ぽんと拍手を打った。
「瑠璃、ちゃん、じゃない? どう、私の記憶、あっているかしら?」
「はい、そうですけど?」
「……その返事は、私のこと覚えてない返事だな。図星でしょ? うーん、でもまあ、仕方がないといえば仕方がないのかもしれないけどさ。私は、菫。ほら、以前あなたが家庭教師をしてくれてた雅のお姉さんよ」
芹沢雅の、姉? 言われて改めて菫を見ると、確かに、似た面影がある。
「先月は雅の誕生日にも来てくれたでしょ、ありがとう。私もあの場にいたんだけど、あいさつができなくて、悪かったわ」
思い出そうとするが、あの誕生日のとき、私たちのほかに誰かいただろうか。
「不安そうな顔してる。安心して、私が来た限りもう大丈夫だから。私は、こう見えて芹沢の性の中じゃ、優れてるのですから」
ふりふりと、フレアスカートを広げながら菫は、二人の座っているソファーの正面に座った。
「そのためには、私にすべての情報を預けないとだめよ。事件に関して、ううん、事件に関していなくてもいい。この島に来て気になったことや、気づいたこと。素直に私にその情報を頂戴」
菫の瞳は、鋭く瑠璃を見ている。その瞳は、睨まれているわけではないのに、まっすぐで、避けることができないほどに研ぎ澄まされている。
「それからあなたも」
視線がはずされ、菫は瑠璃の隣に座っていた岬を見つめる。
「立場的には、私は権藤の上司にあたる。あなたと一緒に来た日比野よりも上になる。ああ、だけど、日比野は悪くないわ。部下に欲しいくらいね。たぶん彼に任せておいても、あと数日もすれば事件は解決するでしょう。でも、彼はもう一つの事件に気がついていない。気がつきようもないのだけど。それにミズミサキ。あなたとはいずれまた別件でとてもお話を聞くことになるだろうけど、うん、それはまたいずれね」
まくし立てるようにしゃべったかと思うと、その瞳がまた瑠璃へと戻る。
「瑠璃ちゃんは、あの暗号をもう解いた?」
「といたのは私じゃないけど」
「星が輝く場所を見た」
「はい、見ました」
「あなたたちのことは一通りもう調べてある。おそらく照好くんなら、この地下構造の不自然さに気がつくことができる。もっとも、私の場合はずるをして、この建物だけじゃなくて、あらゆる洞穴の位置、場所も知ってるから、その可能性にも気がつけたのだけど。でも、今あなたは、見た、と言った。その場所に行ったのね?」
「はい。行きました。昨日の夜、二人で」
岬が驚いたように振り替える。
「一日目に、伊崎さんが案内してくれた、最初の洞窟の奥です。あの時の行き止まりの場所と、この地下の大きさとが一致していないって。だから、あの行き止まりは偽者だろうって、彼が言うから」
「その通り」
菫の指が、指揮を奏でるように動く。
「あの時、私たちは洞窟側からあそこへ行った。私たちとは別の入り口から、誰かがちょうどあそこへ来ようとしていた。たぶん、私たちに気がついたから、その人は逃げた」
「誰?」
「分かりません。怖くて、追いかけることはできませんでした」
「まあいいわ。それだけの情報があれば、十分。あと二人に聞きたいのは、1日目のモニターのときの様子ね。できるだけ細かく、そのときのことを教えて欲しい」
菫の瞳に、瑠璃はのどを鳴らしながら、分かりました、と答える。




