表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
59/64

第四章 成長 第五十九話 決意

第四章 成長 第五十九話 決意




夕暮れ時、オレンジ色の光が公園の砂場を淡く染め上げていた。


中学一年生の神代蒼也は、母・レイカの背中を追って歩いていた。蒼也は陰陽師の見習いだ。まだ複雑な術は使えず、手元には拙い護符が数枚あるだけ。実戦では、二丁拳銃を操り、魔を射抜く母の背中を見て学ぶ日々が続いている。


公園の砂場に、小さな人影があった。寂しげに、黙々と砂の山を築いている少女。


「……あんなところに」


蒼也が声をかけると、母は無言で頷いた。近づくと、少女は少し恥ずかしそうに顔を上げた。夕日に照らされたその表情は、どこか透明感があり、寂しげな笑みを浮かべていた。


「どうして、一人で遊んでいるの?」


蒼也の問いに、少女は砂の山を見つめたまま答えた。


「お父さんとお母さんがね、迎えに来てくれるのを待ってるの。約束したから」


その言葉には、疑いの余地のない信頼が滲んでいた。しかし、蒼也の胸に冷たいものが走る。少女の周囲には、この世のものとは思えない淀んだ「気」が漂っていた。母のレイカが懐の拳銃に手をかける。その目には、深い悲哀が宿っていた。


「……蒼也。あの子をよく見てごらん」


母の静かな声に促され、蒼也は目を凝らした。少女の足元には影がなかった。そして、少女が遊んでいるボールは色褪せ、雨に濡れた跡まで残っていた。


蒼也の脳裏に、この近所で起きた痛ましい事故の記憶が蘇る。三か月前。この公園で遊んでいた少女が、道路に転がったボールを追いかけてトラックに……。


少女は、自分が死んでいることに気づいていなかった。両親がすぐに迎えに来るのだと信じ込み、その時間だけが永遠にループしているのだ。


「そんな……」


蒼也は言葉を失った。幼い命が、記憶の断片に囚われたまま、孤独な夕暮れを繰り返している。その現実はあまりに残酷だった。


少女がふと顔を上げ、「ねえ、お兄ちゃん。お父さん、お母さん、まだかな?」と尋ねた。


蒼也は目頭が熱くなるのをこらえ、震える手で懐から一枚の護符を取り出した。これは母から教わった、安らぎを与えるための護符だ。


「……きっと、もうすぐだよ」


蒼也の声は震えていた。彼はゆっくりと少女に近づき、そっとその肩に手を置いた。護符が淡く光り、温かな光の粒子が少女を包み込む。


「ずっとここで待っていてくれて、えらかったね。でもね、もう大丈夫だよ。お父さんとお母さんはね、ちゃんと君のこと、ずっと愛してるよ」


少女の瞳から、一筋の涙が零れた。堰を切ったように、公園を覆っていた夕闇が晴れていく。少女の姿が、少しずつ光の粒子となって空へと溶け出していく。


「あ……そっか。わたし、待ってたんだ」


少女は全てを思い出したかのように、優しく微笑んだ。その姿が完全に消える直前、遠くから夕焼け色に染まった空に、一羽の白い鳥が羽ばたいていくのが見えた。


「ありがとう……お兄ちゃん」


「今度は、一緒に帰れるよね。」


最後の一言は、風の中に溶けて消えた。


公園には静寂だけが残った。蒼也は立ち尽くし、ただ空を見上げていた。母・レイカがそっと肩に手を置く。その手は温かく、強かった。


「……蒼也、強くなったわね」


その言葉に、蒼也は涙を拭い、小さく頷いた。護符一枚。それはただの紙切れではなく、誰かの迷いを解き、魂を救うための「絆」だったのだ。


陰陽師としての道のりはまだ遠い。だが、蒼也は決意していた。この悲しい迷子を二度と出さないために、そして、彼らの最期に寄り添うために、自分は強くなるのだと。


西の空の陽が完全に沈み、一番星が静かに輝き始めていた。その星明かりは、かつて迷子だった少女を導く道しるべのように、どこまでも優しく二人を照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ