第四章 成長 第十九話 忘れられた子守唄
第四章 成長 第十九話 忘れられた子守唄
夏休みの終わり。
蒼也と葛の葉は、
近所の神社で泣いている女の子の霊を見つけた。
年齢は五歳くらい。
白いワンピースを着ていた。
「どうしたの?」
蒼也が尋ねる。
すると女の子は小さな声で言った。
「お母さんを待ってるの」
神社の神主に聞くと、数十年前、この近くで事故があり、
母親と娘が離ればなれになったという記録が残っていた。
母親は助かったが、娘は亡くなった。
蒼也は毎日のように神社へ通った。
女の子はずっと同じことを言う。
「お母さん、まだかな」
ある日、葛の葉が調べてきた。
母親はまだ生きているという。
現在九十歳を超え、老人ホームで暮らしていた。
蒼真の車で向かい、事情を話した。
老人は静かに涙を流した。
「ずっと会いたかった……」
翌日。
老人は車椅子で神社へやって来た。
蒼也には、女の子の姿が見える。
老人には見えない。
それでも老人は言った。
「ごめんね……助けてあげられなくて……」
女の子は首を振る。
「ううん」
「お母さん、生きてて良かった」
蒼也の目から涙がこぼれた。
葛の葉も尻尾で顔を隠していた。
すると女の子は、突然歌い始めた。
小さな子守唄だった。
老人は驚いた。
「その歌……」
昔、毎晩娘に歌っていた歌だった。
老人の目から大粒の涙が流れる。
見えないはずなのに。
確かに娘がそこにいると分かったのだ。
「お母さん、ありがとう」
その言葉を最後に、女の子の体は光になった。
夏の風が吹く。
境内には誰もいない。
ただ、どこからか子守唄だけが聞こえていた。
蒼也は空を見上げた。
「良かったね」
葛の葉は優しく微笑んだ。
「はい。本当に」
そして二人は手を合わせた。
少女が今度こそ母親のもとから旅立てるように。




