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誓い ~ Episode0‘ ~ 閲覧注意

どうも、今回は前回の反省を踏まえて早めに出しました。スバルさんです。

みなさんは大型連休は十分に楽しめましたか? 私は原因不明の腹痛と足の痛みでほぼほぼ寝てました。娯楽っぽいこととしては『ハイウェイの堕天使』を見ました。バイクってカッコイイですけど私は絶対に乗りたくないですね。(運動神経が無いので)

さぁ、今回は前回の続きで結城希の過去編です。イラスト付きですよ! (私、頑張りました! 褒めて~!)

 私は赤井ゆのだった者。私は本来はあの時、死ぬ運命にあったが自身の存在を代償に生き長らえることができた。新たな名前は何がいいのだろうか? せっかくならば願いを込めたいい名前にしたい。

 あの時に足りなかったのは何か? 私は何故、最強足りえる能力をもってしても破れてしまったのか? それは立ち向かう勇気だろう。私は勇気が足りなかった。そして希望を失っていた。ならばもう、答えは一つだろう。ゆうきのぞみ………結城希。それが新たな私の名前。私の贖罪、私の意思、私の意義、私の理想、私の未来。それら全てを抱えて私は歩んでいく。



 私は十年前の2038年に転移した。肉体は高校生の姿のままだ。私はある意味、最もいい時間に戻ることができたのではないだろうか? 高校2年の年度末に起きるあの事件を未然に回避できるかもしれない。


「結城………? え~とねぇ……なんか勉強方法変えた?」


 そんなことを私の新しい担任は尋ねてくる。


「いいえ。でも、私は為すべきことができたので」


 私と過ごした記憶が勝手に補完されているのだろう。私にとって全く知らない担任だが、面倒見は良さそうだ。

 

「そうか。夢を追いかけるのはいいことだがちゃんと寝ているのか? 目の下にクマができているぞ」


 担任は手鏡を内ポケットから取り出して私に見せてくる。私の目元には私の元の苗字のあの超人一家以上のクマができていた。下手したら目に近い大きさのクマではないだろうか?


「本当だ。気づきませんでした」

「君は………入学当初から生真面目なのが特徴だったからね。何事も身体が資本だぜ?」


 身体が資本か………そうならば私の能力で………


「がッ!?」

「おい! どうした! 結城!?」


 痛い。痛い。いたい! 熱い熱い熱いあつい! なんで能力が発動できない? 私は無理をしてでもなすべきことがあるのにその無理を通す手段さえも私は………!



 カツーンカツーンと金属の反響が聞こえてくる。私はどうなったのだろうか? 全身を引き裂かれるような痛みと熱が気が付くと引いていた。


「ここは………?」

「目ェ覚めたか」


 その人物は白く、若く、細く、そして弱弱しい見た目の男性で確かロフストランドクラッチという種類の杖を突いていた。彼は足が悪いのかと思えばどこか歩き方が普通の人と大差ないようで恐らく何か別な事情があるのだろう。しかし、どこの誰か判明しない現状でこの学校の制服を着ておらず教員でもなく、入校許可証すら無いその人物は不審人物に変わりない。

 

「誰!?」


 私は思わず後ずさる。そして私は保健室のベッドの上に寝ていたことを理解した。私はその人物から本能で危険信号を発している身を隠すように布団で私の身体を目から下まで覆う。


「取って食わねぇよ。それよりも感謝して欲しいモンだ。命の恩人にな」

「命の恩人?」

「あぁ。『逆転』のなれ果てさんよ。もう一度その能力が使えると思ったのか?」

「なれ果て?」


 なれ果てとはどういう意図なのだろうか? そもそもとして私のことを知っている人物という者の中でこの人物の心当たりは無い。一体、この人物は何者なのだろうか?

 

「そんなことも理解してねぇのか。何も知らねぇのならば教えてやる。お前はもう『逆転』の能力者じゃあない。時空を操りしその技術を為したお前はその功績からある能力を代わりに得た。改めて『0』の能力者からLEVEL9の新たな能力者の誕生を祝福しよう。結城希、お前の新たな能力は『時間干渉』。過去未来現在のありとあらゆる時空の流れを意のままに操る人の業を外れたものを手にした者よ、お前はその力で何を為す? 何を望む?」


 ………なんだコイツ? 落ち着いているヤツかと思えば急にテンションが上がって変なことを言っている。それに知りたい情報は断片的だが得られた。この目の前の人物は『0』の能力というものの使い手のようだ。LEVEL9の能力に確かそんな能力があったはずだ。そして私の能力が正常に発動しない理由、私の新たな能力と彼が示した『時間干渉』とは一体?


「『0』でいいのかしら? 私は『時間干渉』?」

「どちらの問いもその通りだ。だが、質問に質問で返すな。疑問文に疑問文で答えて点数が貰えると思うのか?」


 ………この人、もしかして『怒』の季節がある人なのか?


「私は最悪の未来を回避したい。だから、人々の意識を変える」

「最悪の未来か………それで? 意識をどうやって変える?」

「もちろん政治よ!」

「は?」

「そりゃあもちろん政治に決まっているじゃあないの。逆に何があるっていうの?」


 あからさまに『0』はため息を吐いた。何か間違ったことでも言っただろうか?


「………お前さんねぇ……よくもまぁ、善人に育ったなぁ。お前はそのままがいい。うん、それがいい」

「何よ~! その言い方! 私が何か間違ったこと言った!?」

「間違っていない。だが最適ではないのは誰だってわかる」


 最適でない? 他に一体何があるのだろうか?


「お前はどうやら俺の計画の柱になりそうだ。助けが必要なら俺を呼べ。お前の兄だった者の代わりにはならないが情報提供なら任せろ」

「兄だったって彼はどうしたって言うのよ! ねぇ!」


 彼は答えずにいつの間にか姿を消していた。………十年前、つまり私の兄である高階海斗は今は七歳ということになる。


「お兄ちゃんの電話はまだ無いわよね……」


 となれば高階家の固定電話だろう。今は午後5時、小学校ならばとっくに終わっている時間帯だ。問題は、固定電話である以上は電話をかけると彼以外の人が出る可能性だ。小学生を電話の相手に出せと言うのは普通に考えておかしな話だ。その場合はどう対応すべきだろうか……


「もしもし…………」

「その声は……ゆのか」

「お兄ちゃん!」


 やはり信頼できるのは兄しかいない。


「やけに声が大人びているな。まさかと思うがお前、存在を弄ったな?」

「…………」

「沈黙は肯定と考えるぞ」


 彼はどこまで見ているのだろう? 何故、彼はそんなことまで推測できるのだろうか?


「俺が『IF』の能力者だということは十分知っていると思うが?」


 そうだ。私の行為できっと世界線に影響が出たのだろう。それを感知したからこそこう言えるのだ。


「まずは存在の改変はおいておき、無事か?」

「うん。大丈夫」

「そうか。ならば、説教に移ろう。『大変なことをしでかしてくれたな』」

「大変なこと!?」


 一体、私は何をしてしまったのだろうか? 電話越しの彼の声は先程の家族を心配する優しい兄の声色から今まで聞いたことのない怒気を孕んだものだった。


「1歩間違えれば世界が崩壊していたレベルの行為なんだ。お前に一応聞いた質問の内容だが実は『0』の情報で知っていた。お前に問いただした存在を弄るという行為だが対象がお前についてじゃあない。この世界の方だ」

「え!?」

「元々未熟なお前の能力で実際にそれをするには圧倒的にスペックが足りない。お前も世界も無事だったのは幸いだな。そこで、かなり危険人物だがお前に『0』が傍に付くように依頼しておいた。アイツは危険人物だが根こそ行動は悪だが根は善性と評せる代物だ。きっと、お前の助けになるはずだ。おっと、悪いが切るぞ。高階家の両親は能力を持ちえないからな」


 そういうと海斗との通話が途切れてしまった。

 

「話は聞いたな?」

「うわっ!?」


 いつの間にか私の背後にはその白髪の青年が立っていた。


「改めて自己紹介だ。俺は今なお生きる地獄そのものだ。名前は捨てた。能力名の『0』で呼んでくれ」

「厨二病患者? 自分のことを地獄そのものって………それに名前を捨てたって………」

「笑ってんじゃねぇよ。お前も名前捨てたじゃねぇか」

「私は別に捨てたわけじゃあ………」

「一緒だろ。それよりも、問題はお前の能力の発動についてだ。『時間干渉』。人の身を外れたそれは確実に俺にとっても有益になりうるカードだ。でなきゃお前みたいなガキのお守りなんざしねぇよ」


 つくづく腹立つ言い方のする青年だ。


「俺の妹に好き勝手言ってくれるじゃあねぇか。この取引即刻中止しても構わないんだぞ?」


 どうやってかはわからないが海斗の字が書かれた紙が私たちの頭上から舞い降りてきた。

 

「互いに利益にならないことを書くんじゃあねぇよ。俺の口の悪さは生まれながら信仰している宗教を変えろと言うようなものだ。だから慣れろ」

「慣れろってねぇ………………」


 心を読むことができればきっと彼の言葉が悪意無しに分かるかもしれないが、それができそうな能力を手放したのが悔やまれる。


「お前が考えている俺の心を読もうなんてことをした連中はもれなく発狂して死んだな」

「なんで分かったの!?」

「その何も考えていなさそうなアホ面に書いてある。それに、お前の能力は完全に『時間干渉』に変わったわけではない。『逆転』も数回分は使えるはずだ。だからこその釘差しだ。それが意味することは理解できるよな?」


 意味? つまり………………どういうこと?


「先程の言葉は間違っていないかったようだな。つまり、無意識にお前は能力を使ってしまう可能性があるということだ馬鹿野郎。お前は無意識に能力を使うことが多いってお前の兄から聞いているからな。それが原因で死ぬことがあれば不利益でしかない」

「不利益って貴方は物事を損得勘定でしか見れないの?」

「基本はそれで十分だ。感情論は最後でいい。何もかも感情論なんざ信用できないからな。好き嫌いなんざ善悪の基準にはならない。そうだろう?」


 それって屁理屈じゃあないの?


「屁理屈でも通せば理屈になりうる」

「嘘が嘘であると同じで屁理屈は屁理屈のままよ」

「言うじゃねぇか。少しだが気に入った」


 0はそう言ってグッドサインを私に向けてくる。


「お前は俺の発言を腹立つと言うが言い返せていないだろう? それはお前は違うと思っていても本心では俺の発言を認めているんだ。俺が間違いだと言うのならばそれを証明してみせろ。それはお前にとっての強い成長になる」

「0………………」


 もしかしてこの青年は本当はいい人なのだろうか?


「まぁ、お前の場合それを得てしても死蔵しそうだがな」

「死蔵って?」

「無意味に取っておくことだ。もっと本を読むか知らないものは辞書を引け。学の無さが露呈するようであれば世界中の人々の意識を変えようだなんて一生かかっても不可能だ」

「酷い!! 見直したのに! 絶対に貴方を学の無さで嘲笑うんだから!!」


 私は彼をグーで殴る。しかし、彼は弱そうな見た目の癖して痛がるどころかよろける素振りなど一切しなかった。


「人や物に当たるのは自身が低能であることを周囲に宣伝しているようなものだ。考えてもみろ。お前は勝手に期待したヤツに裏切られてそれに当たった。これを俺ではなく政府にしたらどうだ? 法律でそう動くように規定してあるのに法律外のことを要求して失望して国会議事堂を燃やすバカと同じだ。くだらない期待など捨てちまえ。俺の人生の中でこれは常に思っていることだ。まぁ、物に当たるヤツは大抵が将来に安定性が無いのからな。ゲームで台パンしてなお安定するヤツは演技だ」

「言おうと思ったことを先回りされた! でも確かに言葉は酷いけど…………貴方の言い分は確かに筋が通っていそうね」

「生意気な小娘じゃねぇか。だが、その話を聞き入れる姿勢は評価できる」

 

 0は私の頭を撫でまわす。その手は大きく強く背が縮みそうなくらいな圧だがなんだか温かい。


「なんだ? やけに嬉しそうじゃねぇか。それならこのまま身長の数値の小数点の位置を0以下になるように移動してやろうか?」

「やっぱり身長を縮めようとしていた!」

「クハハハハッ! 圧縮したらお前の良さが凝縮されるんじゃねぇか!? クハハハハッ!!」

「笑い声が邪悪ね」

「地獄の化身に何をいまさら」

「地獄? 何? 貴方自分を堕天使とか地獄の人間だとかそんな厨二病のような発言ばっかりするわね」


 厨二病という話を出した途端に彼の表情が少し強張った。


「そんなんだったらどれほど良かったか。…………俺の能力はこの星最悪の知的生命体、”能力の祖”由来じゃなく文字通り地獄由来だ。その話はいずれお前に話そう」

「何? 貴方、出し惜しみするタイプだったの?」

「出し惜しみじゃねぇ。何事にも適切なタイミングってのがあるんだよ。必殺技しか出さねぇヤツと必殺技を出さずしてやられるヤツ。どちらがよりいいかと言われたら答えは第三の選択肢、そのハイブリッドだ」

「どちらかじゃあなかったの………………?」

「どちらかしかねぇとも言っていない。与えられた情報だけで判断するのは愚者の骨頂だ。そこに相手を陥れるような罠は無いか? そこに他の選択肢はないか? そこに別の事実が隠れていないだろうか? それらを考えていないあたりやはりお前はまだ未熟だ。政治家という人の上に立つ職業を目指すならばそれくらい出来ずしてどうする? 人より優れていないと上に立てるどころか足蹴にされるのがオチだ。まぁ、そのガキのような見た目のお前にはお似合いだがな」

「その一言が余計よ!」


 

 

 0という人物は口が悪い……………………本当に口が悪いが面倒見のいい人物で気づけば私は大学生になっていた。


「お前も大学2年生か…………ガキの成長は早いものだな。もうお前と出会ってから3年も経つのか…………」

「ガキガキってもう私は旧法律での成人年齢に達しているのだけど?」

「お前という存在は3歳児だろ? 結城希という存在は3年前には存在しないんだからな」

「そうだけど…………子供扱いはしないくれる?」


 私はいつものように背を縮めるかのような圧で撫でてくる手を振りはらう。

挿絵(By みてみん)

「貴方が学内でそんなことをしてくるから彼氏かって聞かれるのよ」

「彼氏ィ~? 誰がこんなガキを好きになるんだ? 顔は良いがチビで胸も色気もない上に俺に影響されてか割と口が悪いし、理想主義の塊だ。何がいいんだか…………?」


 好き放題言ってくれるが逆に言えばそれは私の強みでもある。口の悪さは問題だがそれ以外はベイビーフェイスとして人々に愛着や警戒心を持たれなくできるだろう。

 

「貴方の好みになろうとは死んでも思わないけど、貴方の好みのタイプはどんな人なの?」


 0は珍しく顔を赤くして黙りそっぽを向いていた。


「え? 何? 貴方、そういう色恋沙汰あったの!? ってきりそんなのクソくらえって感じなのに?」

「うるせぇな。そう見えなくてもそういうヤツはごまんといるんだ。見かけで判断するなといつも言っているじゃあないか。俺がロシアのクソガキによって出会い頭に八十八分割された話は散々しただろ?」

「そうだったわね。ふふっ、それにしても貴方にそんな相手がいるだなんて」


 捻くれた彼のことだ。きっと彼のような性格か似たような生い立ち、もしくはよっぽどピュアな人なのだろう。


「何ニヤニヤしてるんだよ? 気持ち悪いな」

「別に~? って相変わらず最後の一言が余計よ!」

「それより、レポート提出の締切もう一時間切っているぞ?」

「0………そんなものとうに提出し終えているに決まっているでしょう? 課題や仕事は3週間前に全て終わらせて仕様変更や締め切りの変更に備えるものでしょう?」

「心構えとしては上出来だ。だが、質が伴っていない限り意味がない。内容は?」

「はい」


 私は彼にレポートのデータを送る。


「………成長したな。これなら問題ない。むしろGPAはかなり高いんじゃねぇか?」

「聞いて驚きなさい。私のGPAは3.81! 貴方の在学中のGPAはいくつか知らないけどかなり高いんじゃあないの?」

「旧帝大でこれは十分すぎるレベルだな。睡眠時間も休憩もその能力のおかげで他のヤツよりも時間が沢山有り余るほどできているからな。お前の場合はそんなことをしても時間という資源の無駄遣いをするかと思えばよくやっているじゃあねぇか」


 私はこの3年間で能力の扱いに慣れることができた。元の『逆転』とは感覚が違うものの、今では私の手足のように自在に操ることができている。疲労や寿命は私の身体の時間を戻し、それでも足りない時間は時間の流れを緩やかにすることによって地頭のあまり良くない私に必要な時間を確保することができていた。

 

「あら、ふぐのような毒を持った貴方が褒めるのは珍しいわね。明日は雨どころか銃弾の雨でも降ってくるのかしら?」

「降るのはお前の血の雨にしてやろうか?」

「それをしたら時間を逆行させるから問題ないけど、人に当たるのは自身が低能であることを周囲に宣伝しているようなものじゃあなかったの?」

「本当にお前は成長したな。過去の発言まで引っ張り出してくるとは…………おい、わざわざ証拠のボイスメモを出すんじゃあねぇ」


 ちぇっ。珍しく彼を責めることができるチャンスだと思ったのに。


「それよりも、ようやくLEVEL9の能力を生かせることができたな。お前の能力ならば疑似的な不老不死ができる。疑似的な不老不死はLEVEL9の条件の一つ。新たな人柱の完成をLEVEL9の第4位が第9位に心から歓迎しよう。お前の能力は世界の切り札になる」

「ま~た貴方は訳の分からないことを…………」

「LEVEL9ってのは文字通りの人柱だ。ただ、お前の役目はまだまだ先になりそうだがな」

「……………………?」


 


「結城希です! どうか清き一票を!」


 私は卒業後、公務員として生活した後に25歳になった後にすぐ政治家としての人生を歩みだしていた。町の人々が集まる場所で朝から晩まで演説などの選挙活動を行っていた。


「あの人、旧帝大を主席で卒業したエリートらしいぜ」

「俺たちと歳がそこまで変わりないのにすごいよな」

「でも、そんなエリートが私たちのことを本当にわかるのかしら?」

「お金に余裕はあるらしいね」


 私のことを噂するのが聞こえてくる。そうだ。もっと拡散して。私に私の経歴や能力は何も問題ないどころか人々が求めているような人材になるようにした。そうと分かれば私に投票してくれる人が増えるはず。


「なんてことを考えているんだろ?」


 0だ。だがどうやらわざわざ浮いて私の前に現れている時点で私以外に彼を認識している人は誰も居ないのだろう。ならば彼を認識していても反応に出さない方がいいだろう。


「お前はよくやっている。それも俺の知りうる限り片手の数に数えられるレベルにな。だが、お前の良さは知ってもらうようにアピールするにはまだ足りない。正攻法だけで乗り切ろうとするな。グレーゾーンを突け。でなきゃ残りの年月で目標を達成することはできねぇぞ?」


 わかっている。だけど、それは引き返せない一点を越えることに他ならないのでは?


「いつか気づくさ。綺麗ごとだけでは上手くいかない時が必ずあるからな」


 綺麗ごとだけで生きていけない。だとしてもそれを通す生き方は本当にできないのだろうか?


「まぁ、足掻いてみればいい。お前の生き方だ」


 私はどこまで足掻き続けられるのだろうか? それは分からない。でも、私はそこまで足掻き続ける。


 


 2046/02/03


 周囲は節分ムーブで盛り上がっていた中、私は定期健診で病院に来ていた。元々悪かった心臓の調子は存在の変化によって問題なくなっていたが議院の人々が行けとしつこかったのでいくことになっていた。


「結城さん~3番診察室前でお待ちください」


 私は席を移動する。その時に見慣れた顔の人物がストレッチャーで運ばれているのが目に入った。


「…………私?」


 そうだ。あの顔は結城希もとい、赤井ゆのの顔だ。……………………そもそもとして私は私として存在するのならば赤井ゆのという存在がどうなったのか確認したことが無かった。


「AB型のRH-の方はいらっしゃいませんか!? どなたかAB型のRH-の方はいらっしゃいませんか!?」


 そういえば、私はこの日に事故に遭い両親を失ったんだ。どうして思い出せなかったのだろう?


「どなたかAB型のRH-の方はいらっしゃいませんか!?」


 看護師と思われる人たちが院内を走り回って該当者を探している。


「私、AB型のRH-です」


 私は近くにいる院内のスタッフに声をかける。


「あなたは………………いえ、ありがとうございます。こちらに!」


 その人は採血のために私を別の部屋に移す。血液型の照合を終えた後に血液を採られる。400㏄程採られたみたいで少し頭が痛い。


「衆議院議員の結城さんが院内の危機を救ってくださるとは…………ありがとうございます」

「当然のことをしたまでです。それより、命に別状はないんですか?」

「えぇ。両親は残念ながら亡くなられたようですが希さんのおかげでこの子は助かりました。まさに希望ですね!」


 病室にいるその少女の部屋のプレートには赤井ゆのという文字が書かれている。………つまり、どれだけ足掻いても未来は収束するという可能性が高いということが判明した。私という未来では存在しなかった政治家が生まれたことは未来に多くの影響を与えていたと思っていたが結果は全く違い、未来は収束する。


「顔色が悪いですね。大丈夫ですか? 水分補給にどうぞ」

「ありがとうございます」


 私はスポーツドリンクを看護師から受け取る。血を沢山抜いたからそう判断したのだろう。確かにそれもあるかもしれないが…………。


「すみません。ちょっと席を外します」

「はい。お気を付けて」


 私は院内の電子機器使用可能エリアへと移動する。そしてこういう事態に詳しそうな人物に連絡を入れる。


「もしもし」

「なんだ? その声、何かあったのか?」


 その声は冷たく、誰よりもぶっきらぼうな印象を受けるが彼なりに心配しているのが伝わる声だ。


「貴方……………もしかしなくとも未来を変えた経験があるでしょう?」

「何故そう思う?」


 彼は声色を変えない。けれど、その返答で確信を得た。


「逆に、そう考えた方が辻褄が合うのよ。一つ目、0という存在はある時期に突然現れた存在でそれ以前に存在したことが確認できない存在であること。二つ目、やけに未来に関して私にアドバイスをしてきたこと。三つ目、まるで未来を知っているかのような発言が多かったこと。四つ目、貴方はこういう貴方に都合が悪い質問をする場合に私が的を射た発言をすると「何故そう思う」といつも返答していたこと。これで十分かしら? しっかり答えてくれるわよね、”0”!?」


 彼はククッと笑い出す。気味が悪い邪悪な笑い方だが何故だか安心できる。


「あぁ、2023年。全てが始まったあの年に俺は未来を変えた。お前の3つ目の発言は誤りだがそれ以外は正解だ」

「なら貴方に質問よ! どうすれば未来を変えられる!? 未来を変える条件は一体何なの!?」

「未来を変える条件は簡単なようで難しいぞ?」

「それでも!」

「俺の時の場合になるが未来を変える条件は………………『全てを捨てる覚悟』だ」

「は?」


 私は彼が言った言葉が理解できなかった。それが条件?


「『全てを捨てる』というのは自分という存在だけでなく、過去・家族・仲間・信念さえも捨てた。自分自身が復讐の獣に成り果てようが関係ない。一度起きたことは世界に痕跡が残る。それを消し去る以外未来は変えられない」

「貴方がその痕跡を消してくれるという可能性は?」

「無理だ。俺はその未来を知らない。変えたい未来を知っている者でないと未来は変えられないからな」

「そう………………」


 私は肩をすくめる。私の残った『逆転』の能力で痕跡を消せないだろうか?


「………………能力を使うなら少し考えた方がいい。俺のようになるということはお前にとても耐えられるとは思わないからな」

「貴方ってお人よしよね。お兄ちゃんとの契約期限ってもう切れているのでしょう? だというのにまだ私に付き合ってくれるなんて…………」

「お前はどこか俺に似ているからな。ほおっておけるか」


 やけに素直な彼はきっとこういうことに関しては本当に何かがあるのだろう。


「ねぇ、それなら方法は何があるかしら?」

「そうだな………世界線に関しては俺は専門外だからな。だが、自分の歩いてきた道を振り返ると答えというパズルのピースがいくつも転がっているものだ。ピースをピースだと認識するんだ。それに関して何がある?」


 ピース? 世界を変える? 世界を騙す? 最初の世界には何があった? 私の操られる能力、私のたった一人の親友、能力者の差別、人間の闇、人の意思、人類……………。人類?


「人類再構築計画………………?」

「ンだその物騒な計画は?」

「内容は覚えていないけど私の親友が私にくれた計画よ。確か、『生成』と『破壊』の能力が関わるって話だったわ…………」

「あ゛?」


 急に0は怒りを露わにした。彼が不機嫌なのはいつものことだが怒りをこうして露わにするのは珍しい。


「何? 『生成』と『破壊』の能力に何かあるの?」

「その二つの能力者に関わるな。前者は破滅、後者は敵を増やすぞ?」

「能力の性質と真逆ね。でも、計画の全容がわからない以上はやる意味がないわ。第一、人間に欠陥なんてあまりないでしょう?」

「………………だといいな」


 私は0との会話を終えると院内に戻る。すると”私”をどうするかで困っていたようだ。


「記憶喪失?」

「はい。どうやら3~4年以前の記憶がすっぽりと消えているみたいなんです」


 そういう話を看護師が私に話してくる。突如、私の頭が痛む。3~4年前………そういえば前の世界で3~4以前の私も記憶が無い。まさか、”私”が原因!?


「英国籍を持っているようですが英国に返そうにもそんな人物は居ないと突っぱねられまして…………偽造国籍でしょうか?」


 そりゃあそうだ。MI6の諜報員の子供だ。まともに対応できる訳がない。それならある意味好都合だ。”私”の怪我が私に影響を与える可能性があるのならば私自身が守ればいい。


「それなら私が里親になります。この子は私の遠い親戚のようですので」

「そうなんですか!? 確かに顔つきも似ているし………」


 問題ない。”私”は私が育てる。問題は私の育て方だ。どの情報を渡し、どの情報を疎外するかだ。



「君が赤井ゆのだね。私の名前は結城希、君の遠い親戚に当たる者だ。さっそくだが、君に残念な話だ。君の両親が亡くなった。君もそれに関しては理解しているだろう? そこで選択肢がある。一つ目、私の元で生活する。二つ目、児童保護施設に入る。三つ目、誰も知らない場所で野垂れ死ぬ。好きなのを選ぶと良い」


 私は”私”であることを感づかれないように0のような口調で彼女に相手する。どうやら”私”は困惑しているようだ。それもそのはず、私は数日かかって私は児童養護施設に入ることを選択したが何とかしてこの短時間で第一の選択肢に誘導しなければ………。


「え…………えっと……希さん?」

「あぁ」

「私の親戚?」

「遠いが君の親戚に当たる。その証拠に君と血液型も顔つきも髪・瞳の色が同じだろう? 黒い髪は今時珍しいからな」


 私はこの数年で伸びた髪を搔き上げる。それによって靡く髪が丁度吹いてきた窓際の風にのっていい感じの雰囲気にすることができた。

 うん。我ながらカッコイイのでは? 初頭効果というものは大事にしなくては……。0みたいに「なんだコイツ?」って絶対思われたくないし………。

 

「もしかして、輸血をしてくれた人って!?」

「私だな」

「ありがとうございます!」

「礼はいいさ。人として当然のことをしたまでだからな」


 私は再び髪をかきあげる。少しはかっこつけられただろうか? そんなことを考えていると急に電話が鳴る。


「すまない。もしもし、え? 臨時収集? 国の危機? はぁ? 中東情勢の悪化で朝鮮が? 分かった。すぐ行く。うん。うん。了解。一時間後、成田空港で。んじゃっ」

「今の電話…………」


 ”私”は電話の内容を聞いてくる。あぁそうだろう。国防という言葉をあえて口に出したのだから。その上、臨時で招集されるような重要な職に就いているアピールもしたんだ。


「私は衆議院議員だからね。臨時国会だとよ。土曜日だというのにね。答えはまた後で聞こうか。それじゃあな、赤井少女」

「あ、あの!」


 ”私”がそう言って私を呼び止める。もちろん、応対する気だが振り向くか? 振り返らない方がカッコイイのでは? いや、ここは振り返った方が誠実だ。下手に動くと信用されない可能性の方が高くなってしまう。


「なんだい?」

「え、えとっ……。お仕事、頑張ってください!」

「もちろんだとも。ありがとう。じゃあ、行ってくるよ」


 決まったか?


「………私と見た目そこまで変わりないのにカッコよかったな…………………………」


 わぁい! 決まった!

 私は自前の地獄耳で”私”の呟きを聞き逃さなかった。思い通りに行って内心でガッツポーズをして、僅かに心が弾んでスキップをしながら病棟から離れる。


「院内でスキップはご遠慮ください」

「あ、ごめんなさい」



 一般的に中緯度に位置する日本は日の高さが午前11時半から午後0時半が最大になる。あれ程高かった日の位置がいつの間にか沈んで辺りは暗くなり始めていた。気分は沈む…………訳ではなく、会議で上手くいった私は夜行性な体質と相俟ってスキップしていた時ほどではないがなかなかに気分は高揚していた。


「顔や声には出ていないが気持ち悪いくらい気分がいいのは伝わった」

「0!? いつの間に!?」


 私の横隣りにいつの間に0が居た。彼が神出鬼没なのは今に始まったことではないが音も気配も無い状態で急に現れるのは正直怖すぎる。


「俺は何処にも居て何処にも居ない。『不思議の国のアリス』のチェシャ猫では無いが、量子や概念に干渉できる存在だからな」

「そうだとしても普通はそんなこと言わないわよ」

「そうか? LEVEL9ってのは何処か頭のおかしい連中の集まりだ。そうでなければそんな出力になるはずがない」


 酷い言いようだが私だけでなく彼もなぎさも当てはまるのかもしれない。


「柚木なぎさ?」

「なぎさのこと話したことなかったかしら?」


 それよりも、私………口に出てた?


「無いな。第一、俺はLEVEL9は8人………俺とお前を含めないと6人知っているが今現在のLEVEL9でそんなヤツは存在しないはずだ」

「え? 『座標指定』の能力者よ。彼女はLEVEL9でしょう?」

「………………確かにLEVEL9に『座標指定』は存在する。そしてロシアで俺の身体を八十八分割したクソガキもソイツで間違いない。だが、”柚木なぎさは2042年10月17日に死亡している。”これは信頼できるLEVEL9もどきが実際に確認した事実だ」


 は? なぎさが死んでいる?


「ちょっと待って? 前の世界線、結城希が存在しない世界線では生きていたでしょう? 2048年の3月15日まで生きていたはずよ!?」

「何を言っている? 柚木なぎさなんざとっくにウラジオストクの集合墓地に土葬されている。一体、お前は誰を柚木なぎさと認識していたんだ? そもそもとしてソイツの能力は『座標指定』なのか?」

「冗談きついわよ? なぎさは私の親友で彼女の能力は何度も見たし対象になって移動費タダの旅行をしたりしたわよ?」

「いや、そんな訳…………柚木なぎさは確実に死んでいる。そして半不老不死になりうる存在ではない。であれば…………そもそもとして何故、LEVEL9の出力を出せている? 俺の知らない能力? 権能…………それならば死亡はありえない。じゃあ、なんだ? 死亡偽装?」

「ねぇ、ねえってば!」


 私は思考にふける0の身体を揺らす。私に分かるように説明して欲しい。勝手に思考の世界に入ってどうせ結論が出たらカッコつけて「今はまだ語るべき時ではない。だからその足りない脳みそで精々考えるんだな」と言うに決まっている。それならば、中断させれば結論を聞けるかもしれない。


「ン? あ、あぁ。俺の記憶を辿ったが柚木なぎさが死亡しているのは事実だ。これは俺が嘘を言っている訳でも俺の記憶が偽物になっているというのでもない。そして死亡偽装ではなかった。ここから考えられる可能性は二つ。一つはLEVEL9には一般的に認知されていない能力、もしくは新たな能力がある可能性。二つ目は2042年に死亡した柚木なぎさはLEVEL9で無い可能性だ」

「前者は確かめるのが困難だけど後者ならタダの能力者に貴方はあっさりと負けたってこと?」

「認めたくはないがそういうことになる」


 え? ダサッ! 無敵とも思える能力を持ちながらやられているの!?


「お前のその今にも噴き出しそうな顔を見ると何を考えているのかはわかるが一応それ、お前には特大ブーメランが刺さっているぞ?」

「ブーメラン?」

「能力者どころか無能力者にやられたんだろ?」


 うっ!? 痛いところをついてきたな。


「でっでも…………!」

「この話は五十歩百歩だ。最強たりえる能力でむざむざ負けてしまった。その事実は俺もお前も変わりない。大事なのはそれをどう生かすかだろ?」

「貴方が広げたんでしょうが…………」


 私はボソッと愚痴を零す。彼は聴覚は比較的いい方だが私ほどではないためきっと聞こえないだろう。


「何か言ったか?」

「何も?」


 ほら、やっぱり。


「何を言ったかはわからんが、愚痴を零すなら人のいないところにしろ。政治の頂点を目指すならそういうところは普通にみられるぞ?」

「わかったわよ」


 そういえば、何をしていたんだっけ?


「病院の前で長時間突っ立ってる変人………」


 0はそんなことをボソッと呟く。

 

「それ、貴方にも当てはまるんだからね?」

「俺はお前以外に姿が見えないようにしたからお前が独り言を言っているようにしか見えねぇよ」

「貴方ねぇ!」


 

 問題は表面化していないだけで無数にある。


「議長! これはどういうことですか!? 能力者の名誉回復は今を生きる人類にとって果たすべき課題です。その法案の審議を持ち掛けることすらダメとは一体何を考えているんですか!?」


 私は議長に問い詰める。理解できない。無実の証明だって何十年も前の事件でも名誉回復に努めるのは当たり前だ。オルレアンの聖女のように実際に名誉回復された前例がある。個人ではないにしろ、今なお忌むべき対象とされているのはどう考えてもおかしい。


「君ねぇ…………やる気があるのは分かるが常識的に考えてもみろ。これは日本国の問題じゃあないんだよ。”世界の警察”がそう決めたんだから仕方がないだろ?」

「世界との協調は分かりますが、悪なる行為を認可するということですか!?」

「しつこいぞ! 悪というものは敗者なんだよ。歴史は常に勝者が作るんだ。それが悪であろうともそれが正義になってしまう。それが分からない愚か者ではないだろう?」

「ですが………………!」


 理解している。世界はそのようにできている。どこまでも残酷で不条理だ。それはおそらく0が一番理解している。そんな彼をずっと傍で見てきたんだ。分からない訳がない。でもだからといって…………


「何でそんなに…………まさか、君は能力者なのか!? 能力者症…………君は議会に入ってから老化も成長もしていない。能力者はそういった症状を発現すると聞いたことがあるぞ!? 結城君、君は!?」


 議長は私の腕を掴むが勢い余って爪が食い込み、出血してしまった。そう、出血してしまったのだ。


「すまない。ワザとじゃあないんd…………んなっ!? 傷が物凄い勢いで治っていく!? やはり君は!?」


 私は思わず逃げ出す。マズイマズイマズイ! ここで能力者と判明するのは物凄くマズイ。


「そうだ、少し時を戻せば…………」


 私は少し前に時間を戻す。


「何でそんなに…………まさか、君は能力者なのか!? 能力者症…………君は議会に入ってから老化も成長もしていない。能力者はそういった症状を発現すると聞いたことがあるぞ!? 結城君、君は!?」

「違います」


 私は議長の手を払いのける。傷がつくことはない。だというのに………。


「おい、大丈夫か? 腕から血が…………んなっ!? 傷が物凄い勢いで治っていく!? やはり君は!?」

「そんな馬鹿な!?」


 私は思わず逃げ出す。


「0! 0!? 居ないの!?」


 私は0を呼び出す。こうした事態に最も適切な対処ができる人物は彼しか思いつかない。


「だから言っただろ。”一度起きたことは世界に痕跡が残る”と」

「そんなの良いから何とかして!」


 0は大げさに溜め息を吐く。


「なら一度時を戻せ。話はそれからだ」

「わかった! 頼んだわよ!」


 私は再び時を戻す。


「何でそんなに…………まさか、君は能力者なのか!? 能力者症…………君は議会に入ってから老化も成長もしていない。能力者はそういった症状を発現すると聞いたことがあるぞ!? 結城君、君は!?」

「違います」


 私は議長の手を払いのける。傷がつくことはない。世界に残った痕跡によって私の腕は損傷する。


「おい、大丈夫か? 腕から血が…………んなっ!? 傷が物凄い勢いで治っていく!? やはり君は!?」 


 二度も起こればもう狼狽えることはない。


「0…………お願い」

「あいよ」


 彼は議長の頭に指を押し付ける。


「君は!?」

「0」


 彼は議長の記憶と意識を手放させた。それによって倒れる議長を私は支える。


「重っ!? 0~持つの手伝ってくれないかしら~」

「断る。そもそもお前の人生をたった今救ったばかりだ。これ以上はする義理はない」

「ケチ」

「ケチで結構」


 

「気がつきましたか。具合は大丈夫ですか?」


 私は医務室で議長の意識が覚醒するのを確認した。


「えっと…………私は一体…………?」

「過労で倒れたんですよ。無理をするのも程々にしてくださいね?」


 もちろん、嘘だ。だが、理由がある方が不自然に思われにくいだろう。


「すまない、結城君。君も疲れているだろうに…………議題に出すことはできないが私個人の考えを言おう。我々、人間はね”劣っていることを自覚するのが怖い”んだ。人間は”傲慢”でこの星の頂点であることを信じて疑わない。そんな人間に能力が一部の人だけ手に入れた。それが物凄く怖いんだ。いつまでもトップであり続けたい。そうでなくては意味がないとね。笑ってしまうだろう? 優れているのが彼らであることは誰の目にも明らかだ。かつてAIの発展が恐れられていたように能力者の登場は同じ人間だからこそ強く映るんだよ」

「勉強になります」


 私は考え込む。きっと人類は能力者だけでなくこのままだと他の優れた存在が登場したときに恐れ、蔑み、排斥しようとする。


「何かスッキリしたような顔じゃあないか」

「えぇ。おかげさまです」


 やるべきことは決まった。今までやりたくはなかったが将来を見据え、なぎさのため、私のため、そしてこれからを生きる全人類のために私は………………。


 


「結局、やるのか? その計画…………」

「えぇ。これは誰かがやらねばならないものよ。それが私だったというだけよ」

「傲慢だな。神にでもなった気か?」


 0は強く私を睨む。人類という種を書き換えようとしているのだ。これを傲慢と言わず何というのだろうか?


「そうね。神になった気にでもなっているのかもしれないわ。でも、神を殺して成り代わる計画があるとしたら?」

「は?」


 0は目を丸くして呆気にとられる。


「これよ。なぎさがかつて提案したものだけど内容は失ったものだから9割が私の計画よ」

「ソイツの名前が無いが?」

「勿論、ただの論文ならば彼女の名前を書くのは筋だけどこれは人類という種を途中で虐殺する過程があるの。そんな悪しきものに彼女の名前は載せられないわよ」

「フッ………まだ人の心は残っていたか…………」


 私は人の心を何があっても離さない。外道に堕ちたとしても…………。


「お前………これ…………死ぬ気か?」

「私が死んだとて問題無いわ。私という命でこの先生まれるすべての命を救えるのならば喜んで命を差し出すわ」

「そうか………………お前もその選択肢を選ぶんだな…………名前も顔も知らねえヤツのためにお前は自身も一番大切なヤツさえも切り捨てるんだな…………」


 そう言うと彼は背を向けて去っていく。その背中はどこか寂しそうなものだった。

  


 

 私は計画を実行すると決めた後にすぐに私の計画に賛同してくれそうな人を集めて『ブラック・ジャック』という組織を結成した。

 

「ボス! 計算完了しました」

「ご苦労様。結局、どれくらいの人数の魂が必要なの?」

「私も驚いたのですがその数、2,821,364人の魂です」

「…………282万人? 282人じゃあなくて?」


 私は部下の報告に耳を疑う。2,821,364人? 冗談じゃない。こんな人数を殺害するだなんて絶対に精神がおかしくなってしまう。これは私一人どころか数百の人数を集めても難しいだろう。


「今すぐ、世界中の死刑囚の数を確認して! それから、ダークマターを材料とする槍の新造の発注をして頂戴!」

「死刑囚ですか? そんなの今時全然居ませんよ!」

「それでも…………!」


 犠牲になるのは極力、その運命にある者であるべきだ。罪なき者を殺すのは私が憎む人たちと何ら変わらない。


「ボスは確か………『時間干渉』の能力を持っているんですよね? それなら『座標指定』を合わせればこの世の全てを操れないんですか?」

「確かに4次元の支配は考え方によればこの世界を支配できることに変わりないけど……」

「それならば最後の仕上げはボスに任せます。私たちは死刑囚や法では裁けない巨悪・死ぬ運命にある者を葬ります。そのためのダークマターの槍ですよね?」

「えぇ」


 ダークマターは組織によって原子構造が判明できない、持ち主以外の能力の影響を受けないという性質以外に魂というエネルギーを蓄積することができるという性質が判明した


「ところで、ボス…………組織の名前の由来は何なんですか?」

「簡単な話よ。ブラックジャックはトランプで21にするゲームでしょう? トランプの起源はタロットカードの小アルカナと言われているの。そして大アルカナの21に対応するカードは『世界』。私たちは世界を変える。それが悪とそしられようがね」

「…………ボスのことですから、カッコいいからとか言い出すかと思いました」


 私を何だと思っているんだ?


「まぁ、それもあるのだけど………………」

「やっぱり~!」


 だって仕方がないじゃあないの。組織名がカッコ悪いの嫌じゃん? 私嫌だよ『人類再構築推進委員会』なんて感じのヤツ。


「ロマンと合理的なものは共存できるのよ」

「その黒いドレスもですか?」


 私の着ているドレスのことだろう。


「私の見た目には威厳もカッコよさも何もないけど、ドレスってなんか威厳ありそうじゃあない?」

「令嬢気分ですか…………」

「いいの!」

結城希の物語………いかがでしょう? 印象と違うと思われるかもしれませんが合理主義がベースでありながら可愛げやロマンもあるおもしれー女という感じが結城希・赤井ゆののコンセプトです。

ちなみに大学生のころの希のイラストですが、高校生の時期でも大人として総理大臣となった時のものでもなく何故その時期なのかというと「キャラデザを固定していいのか」問題です。

イラストとして一度形にすると、読者は想像しやすくなりますが逆にその絵のデザインにキャラの印象が固定されてしまいます。そのため、私のようなド三流絵描きが描いた絵で印象を固定してしまいたくないのであえて大学生というあまり場面に出ない彼女のイラストを描くことにしました。まぁ、そのおかげで希はゆのと同様に童顔であること・瞳が赤のままであることが視覚的にわかりやすくなったと思います。


余談ですが、かすみさんのイラストを前回の章に入れておきました。後書きとかはいじっていないのでこれ以降に読んだ方は「おかしくね?」と思われるでしょうがそういう仕様です。ログみたいな感じで残しておきます! 手抜きじゃあありません! かすみさんの方が希よりも圧倒的に時間がかかりました。作画コストが高いのに加えて小ネタも詰めましたのでよかったら考察してみてください。



⸺ おまけ・人物紹介 ⸺


結城希/この章の主人公

実は組織結成前にラスベガスのカジノでブラックジャックによって全財産の半分を失った


0/似た運命の持ち主

好き好んで杖を突いているが杖を突く必要性は無い身体


赤井ゆの/騙される娘

好きだった・憧れの反転はどこまでも深く


高階海斗/0の依頼主

0をW.W.Ⅲの前に書き込まれた『0だが、何か質問あるか?』というスレッドのIPアドレスから特定


柚木なぎさ/LEVEL9?

子供と見て完全に油断した0を八十八分割した少女?


九条かすみ/この章に出ない

イラスト描いた!! BY作者


緋山みなみ/この章にはまだ出ない

彼女が敵になるわけではない


武田信二/この章にはまだ出ない

歩く(自分以外の)破滅フラグ製造機


竹中昴/この物語の作者

LEVEL9のコンセプトは明確に敵になる・悲惨な運命を辿る者以外はおもしれー奴ら

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