誓い ~ Episode0 ~ 閲覧注意
お久しぶりです。いや~うん。みなさんが言いたいことは分かりますよ。前回も更新が遅い云々言っていた癖して今回は一か月以上という体たらくでしょう? 仕方がないでしょう!? 昼夜問わず休みが無いんだもん! ね? わかってくれた? あ、そう?
まぁ、わかってくれたかわからないからいいや! 今回はEpisode0と題していますがちゃんとこれまでの続きから始まりますので未読の際はちゃんと読んでくださいね? 話わからねぇ! と苦情を漏らされても困ります。
以上、スバルさんからの前書きでした~バイバイ!
人類再構築計画…………それはまさしく傲慢といえる人の域から逸脱したその計画は私の同一存在の希が計画したものであった。
私はコピーしたデータを端末上で見直す。相変わらず傲慢に満ちた内容だがどうも私らしいものだ。荒唐無稽なその計画は何度見ても笑ってしまうほど馬鹿馬鹿しく、そして同時にこんなもののために多くの人の命とまともな人生を失うことになったことに対しての憤りを感じる。また、同時にこの計画の末路での人類救済は本当に阻止しても良いものなのかも疑問に思ってしまう。
私は多くの人を生き方を見てきた。泥臭い姑息な生き方をしてきた者、差別・殺人ありとあらゆる犯罪行為の現場に居合わせた私はこの世界の理不尽さを嫌というほど知っている。だからこそ、あの計画は正しいと思えてしまう。これを破却することは正しいのだろうか?
「悩んでいるようだな」
ふと声が聞こえてきた。こういうことを私に言ってくる人は海斗しかいない。
「えぇ、あれを見たらああなるわよ」
「もう一か月近く経つがかなり悩んでいるな。それほど悩むものなのか?」
逆に、海斗は悩まないのだろうか?
「そりゃあそうよ。人類にとって有益な行動だけど、多くの代償がある。あの計画は長期的に見ればメリットの方が上回るけど、人命という大きな代償を軽視してはいけないもの」
「…………前に話したことは覚えているか?」
海斗はため息交じりにそう尋ねてくる。………前とはいつの話だろうか?
「何の話だったかしら?」
「世界線の話だよ。完成した・これ以上発展の見込みのないそんな世界線は消えて無くなるんだよ。だから完成したところでそれはなかったことになる。だからどのみち、この世界の存続のためには戦う他ない」
「そうね」
私はそう返答するが、頭のなかでははっきりとした答えは出ていなかった。
「ねぇ、ハロウィンの仮装どうする?」
「へ?」
唐突になぎさからそんなことを聞かれる。確かに、ハロウィンの時期だ。仮装をするのであれば準備をしておいた方がいいかもしれない。
「ゆのちゃんは何にするの?」
「えっ……えっと……」
「オレはヴァンパイアだな!」
信也もいつの間にか混ざっていた。ヴァンパイア……なんか似合わない気がする……。
「お前の場合はどうせ何かのアニメのキャラだろ?」
信也は海斗のその言葉に反応して指を鳴らす。
「よくわかったな!」
「何年一緒に居ると思ってるんだ。考えていることぐらいわかるさ」
「お前………まるで夫婦みたいなやりとりするなんて…………まさか、同性愛者……?」
「違うが?」
海斗はさらっと否定する。別に人の好みをああだこうだ言うつもりはないが例えそうだったとして信也のそのリアクションは傷つくだろう。
「私はパティシエになるよ!」
「パティシエ?」
私はそう疑問に思う。仮装の本来の目的からお菓子方面に重点を置きすぎていないだろうか?
「うん。みんなにパンプキンケーキ作ってあげる!」
「楽しそうですね」
絵美も知らぬ間にやってきていた。彼女とはあのキャンプ以降少しずつ交流の機会が増えているような気がする。
「えぇ。ハロウィンの仮装の話をしていたの。私は何にするか決めていないけど参考までに貴女は何の仮装をするか教えてくれないかしら?」
「そうですね……キョンシーですかね? 中国のゾンビのことをキョンシーと言うんです。それに以前の仮装パーティーではキョンシーの恰好をしたんですよ」
医療に従事することを夢見る少女が死体に……いや、本来の仮装をするとほとんどがそういう仮装に該当するか……。
「そういえば、赤井さんはイギリスに居たんですよね? イギリスこそハロウィンの本場だと思うんですけど、赤井さんはどんな仮装をしたことがあるんですか?」
「そうね……」
思えば私自身人と関わる機会自体、イギリスにいた時もなかった。それは希も同じだろう。
「ごめんなさい。私、そういうイベントに参加していないの。両親の職業柄、命を狙われる可能性が高いから基本的に家に居ることが多かったし……」
「……ごめんなさい。私、そんな環境だったなんて知らなくて……」
「無理もないわよ。親がMI6なんて普通思わないでしょうし……」
「MI6!? なんかよくわからないけどカッコいい組織の!?」
「なんかよくわからないって……」
確かに、そもそもとしてMI6はスパイ映画のようなカッコよくドンパチするような感じではない。むしろ目立たず誰にも功績を語ることのない闇に生き闇に死すような連中だ。在り方としてはアメリカのCIAに近いだろう。
「まぁ、そう珍しいものでは無いわよ。そこに居る信也の祖父は最高裁判所に務めてたらしいしね」
「嘘っ!?」
「事実だぞ?」
信也の実力はだからこそ底しれない。あの能力もおそらく相当計算しないと発動できないものだ。焔と氷、全く別の能力を持つ場合は『能力二重持ち』と言うらしいがそれを容易く扱う処理能力はきっとかなり高い部類だろう。
「まぁ、ともかく赤井さんの衣装を決めないとですね! 何が良いですか? 赤井さんに合いそうなのは……魔女や吸血鬼、ゴブリンとかどうです?」
「ちょっと待って、なんでゴブリンをチョイスしたのかしら?」
「赤井さんの身長なら………」
瞬間、頭に血が上るのを感じた。だが、それと同時に何故か冷静になれた。
「身長ネタはやめてよね?」
「あ………ごめんなさい」
もしかしたら、MI6の彼女たちに散々囮役として少女……幼女役を演じさせられたからだろうか? 身長ネタでキレなくなったのは欠点の克服だがこのことに関して彼女たちに礼を言う気にはなれない。むしろ、彼女たちは別件まで潜入の手伝いをしたのだから礼をしてほしいものだ。
「そうねぇ……仮装って色々種類があるのね……無難に魔女にしようかしら。ローブと箒くらいなら動きに支障をきたすことなんてないだろうし」
「赤井さん……仮装にそんなこと求めるの?」
「私はコスパや見た目よりも機能性を重視するわ」
事実、道具の一つ一つを自分好みに選び抜いているし、破損・紛失してもすぐに調達できるような物を使うように心掛けている。
「生きづらくない? 大丈夫?」
「人の好みは人それぞれでしょう? 貴女は見た目やコスパを優先するのかもしれないけど私は機能性を追求する。それでいいじゃあないの」
「確かにそうだね」
気づくといつの間にか絵美の敬語が外れていた。こちらとしても敬語で会話されるよりも普段の口調の方がありがたい。
「これいいわね」
「もう注文しようとしてる!?」
「せっかくですし、作ろうよ!」
え? 作る? 服を? 自分たちで? 本当に? 素直に職人に任せるのじゃあだめなの? 本気?
「ちょっと待ってちょうだい? 確認なのだけど、私たちが?」
「うん」
「衣装を一から?」
「布の裁断から」
「縫って?」
「うん」
「仮装の道具も?」
「魔女なら箒と杖、あとは帽子も」
OMG……噓でしょ? 家庭科の成績は悪くないけど別にそう自主的に制作するのは一度だって……いや、外套の改造はしたな……でもあれをなかったとカウントするならば全くしたことが無い。
「出来たら家庭科と美術の延長線上で作ったって先生に見せれば堂々と学校で仮装できるかも!?」
それが狙いか……確かにその言い訳ならハロウィン当日ならば黙認されるかもしれない。だからといって一からか。ミシンは持ち合わせていないから買うか?
「信也はどうするの?」
彼ならきっとこういう面倒なことはやりたがらないだろう。それに乗じて今回は参加を見送ろう。
「参加するぜ? 何やらなぎさの家で集まって作るらしいからな。女の子の家に集まるのって何か背徳的だよな!」
しまった……彼に聞いたのは間違いだったようだ。
「ゆの……柚木なぎさの家に一度でも行ったことがあるか?」
私が項垂れていると海斗が耳打ちをしてきた。そう言えば一度たりとも彼女の家には入ったことがない。そもそも、彼女は彼女自身の話自体あまりしていない気がする。
「その反応を見るに無いみたいだな。なら忠告だ。”赤井家の人間であることを何があっても柚木家には話してはいけない”」
「なにそれ? なぎさにはもう話しているけど?」
「彼女は別だ。仕方がないと言った方がいいか? ともかく、苗字は何があっても隠し通せ。でなければ流血沙汰になりかねない」
海斗の表情は真剣だった。私にとって家系というものは希薄なものだが彼女の家系にとってはかなり複雑のようだ。
「わかった。でもなんでそんなことを知って……」
そういえば彼の能力は…………。
「いいえ、その青ざめた表情を見ればわかるわ。何が何でも隠し通すわ」
「頼むよ」
私は私の仲間をまだ十分に理解していないのかもしれない。
プリテンダーとはよく言ったものだ。確かに俺は多くのことを隠し、ゆの達の前に高階海斗というベールを被って前に立っている。
「なぁ、「生きづらくないか?」って質問をゆのに問われていたがお前はどうなんだ?」
「それをお前が聞くのか?」
俺よりも嘘で覆われた人物からそう問われた。名前、経歴、能力、見えるもの全てが偽りの存在は一体何を考えてそのような選択肢を選んだのだろうか?
「それはお前と同じだ。生きづらいと感じたことがない。その生き方しか知らないから比較しようがない。そうだろう?」
「あぁ、誰よりも嘘に覆われたお前にそう言われるとなんか安心するよ」
「お前にだけは嘘を吐いたことが無いしな。それに、お前にだけは全ての嘘が白日の下に晒されるからな」
「だからこそ俺たちは本音で語れる。そう言えば、今はどんな姿をしているのか聞いていなかったな。教えてくれよ、今どんな姿をしているのかを」
ソイツは薄気味悪い笑みを浮かべた。
「赤井ゆのが想像しうる兄の姿だ」
「なるほど……合点がいった。なんでお前がそんな行動をとるのか。俺という存在をお前なりに守っていたんだな」
「悪いな。こんなことしか出来なくって」
「いいさ。お前には感謝しているんだ。お前の行動は何もかも恐ろしいレベルに後から見れば全て正しい。お前は十分にやっているさ」
「ありがとう」
そんな彼の礼を聞いて俺は彼を残して屋上を後にした。彼の身分を考えたら十分すぎるほどだ。
「ねぇ、疑問に思ったことはない? デジャヴってヤツを。なんか聞いたこと・見たことがあるってものは何回かあると思うけど、それって実際に別の世界線の貴方に起きた出来事なんだよ」
私は屋上で盗撮した少女の写真を持っている人物に話しかける。
「詩的な台詞だな」
少年は私に向かって話しかける。少年は足音も少年自身の体臭も心拍音すらも誰も認知できない。彼自身が意図的に消しているからだ。
「その姿も好きだね……わざわざ高校生に偽装するなんて、本当に理解に苦しむよ」
私は彼に疑問を呈す。彼の前では五感すべてで伝達される彼の情報が嘘として成立する。だからこそ意図的に伝達している彼の情報が気になる。何故、そんなことをしているのかだ。
「必要だからな。俺との付き合いが長いお前ならそんなことわかりきっているだろう?」
「そりゃあ………そうだけど………」
努力の天才と才能の天才。その二人に隠れている知性の天才。彼にとっての行動は極力避けたいものであるのは知っている。だからと言って………
「佐々木葵……そもそもとして、高校生としてこの学校に在籍していない以上は君はここに今存在することは許されていない。さっさと立ち去るといい」
「そう言われたって私が去るとでも? 私の性格を貴方は嫌というほど理解していると思うけど?」
「そうだな……力づくで追い出すのもやぶさかではない。全身がズタズタに引き裂かれる覚悟はいいか?」
彼はどこからか取り出した拳銃を私に向けてくる。彼にとって拳銃は脅しの道具であり、本命がもっと恐ろしいということを私は知っている。
「貴方がそんなセリフを言うなんて相当なことがあるんだね……いいよ。私も今回は引いてあげる。けど、その前にその物騒なものをしまってくれるかな?」
私は彼が隠し持っている手榴弾を指さす。私だって攻撃されれば痛いし、むやみやたらと傷つくことはしたくない。
「仕方ないな……」
彼がまたどこに隠したのかはわからないがいつの間にか手榴弾が手元から消えていた。
「また会おうよ」
「お断りだバカ野郎」
「野郎じゃあないよ」
「そうかよ」
私はバカのフリをする天才に手を振ってこの校舎から去った。
この時期になると彼女と誕生日パーティーのために奔走した時期のことを思い出す。それだけでなく彼女と過ごしたあの一年間の魂に刻まれた記憶は何時だって忘れたことはない。私は執務室の伏せてある昔ながらの写真立てを起こす。そこには私の親友の柚木なぎさと私の姿が写っていた。だが、実際にこの写真はこの世界でのものではなく別の世界で撮られたものだ。
「あと少し………………あと少しで叶うよ。なぎさ」
私はこの世界に居ない彼女に向かってそう告げる。
一歩ずつぎこちない足取りでそこに向かっていたのを覚えている。私は弱い心を誰にも悟られぬようにする性格だ。この日もいつものように緊張する様子を隠して私は毅然と振る舞うようにしていた。だが、できたのは言葉と顔だけで実際は全身の震えが止まらなかった。
「赤井さん、いらっしゃい〜!」
そう私の担任と名乗った教員が教室の入室を促す。まるで受験での面接を受けている学生のように震えが止まらない身体を隠しながら私はゆっくりと入室する。
「自己紹介をお願いね」
そう言われたが私の脳内では何を言おうか書き出していた台詞が書かれた台本を捨ててしまったかのように真っ白で思考がまとまらなかった。やっとの思いで絞り出した台詞が…………
「私の名前は赤井ゆの。貴方達、私の奴隷になりなさい!」
だった。瞬間、クラス全体が凍りつき私を見る目付きが歓迎から敵対へと変わったのを感じた。私は自身の発言が招いた愚かさを身を持って理解した。
「え……えとっと赤井さんの席はあそこね。さぁさぁ、授業を始めるよ!」
先生は場の空気を変えようと強制的に授業に持っていったがクラスメイト達は時折私の方を見ては鋭い目付きで睨んできた。
そして、一週間も経てば私に対するクラスメイト達の扱いが変化していった。勉強も運動も芸術も人間関係もダメダメな私はクラスメイトにとっても邪魔な存在でしかなかった。
「赤井〜! 何その汚いリボン。小汚いアンタが付けてるとさらに醜く見えるから取ってほしいんだけど」
「ダメ…………このリボンは…………」
「何?」
昼休みに誰も近づかない体育倉庫へと呼び出された私は数人の女子生徒達に取り囲まれていた。
「イタッ!」
「小汚いけど結構良い素材で出来てるじゃん」
女子生徒の一人が私の結んである髪ごと掴んで引っ張る。髪の毛一本が持ち上げられる重さはおおよそ50グラムでツインテールの片側は3万から5万本。私の全体重を持ち上げられるが彼女がリボンをよく見るために私ごと持ち上げたその髪の毛付け根が物凄く痛い。
「シルクサテン…………赤井の癖に良いもの身に付けてるじゃん」
「えっ…………ありがとう?」
褒められたかと思ったがその瞬間、左側のリボンを解かれるとすぐにビリビリと引き千切られた。
「へ?」
「良いものだけどダメダメだね。小汚らしすぎる。色褪せたその赤いリボンなんて見るに耐えない。アンタだけでも見るに堪えないのに…………」
ビリビリに引き千切られたリボンは宙を舞い地面へと落ちていった。そのリボンは私にとって唯一と言っていい事故で失った両親との繋がりの感じられる物だ。そんなリボンの切れ端を私が泣きながら集めていたのを彼女たちは見逃さなかった。
クスクス笑う声に混じってカチッっと耳元で音がした。泣いていた私はそれが何か推測するのが遅れた。だが瞬間、右側の頭部に熱を感じた。そして焦臭さも感じる。これは…………? 答えが出るよりも先に私は右側のリボンを何故か急いで解いていた。そして、疑惑は確信へと変わる。燃やされていた。
「……………………ッ!!」
大粒で流れる涙を拭いながら私はリボンに付いた火を火傷を気にせず手で直接消火しようと試みていた。だが次第に燃え広がるその火は私ではどうしようもなく体育用品などを経由して倉庫全体へと広がった。
「なっ!? なんでこんな燃え広がるのよ!?」
「知らない! そもそも燃えやすい物ばかりしまってあるじゃあないの!」
「早く逃げないと私達が放火したことになる!」
私を取り囲んでいた少女達は次々と勝手なことを話していた。そんな中、一人が放心状態の私の腕を引っ張り上げた。
「コイツの責任にしよう。アンタは消火器そこにあるから消火活動をしなさい。そしてこう言うの。「私のつけた火のせいで燃え広がった火を消火していました」とね。」
「良いわね?」
私に拒否権は無かった。あの集団の目は氷のように冷ややかで簡単に人を殺してしまうように感じた。私は無意味だとわかっていながら消火器で消火活動を始めた。集団が居なくなって数十秒が経過すると誰かが背後から近づいてくるのを感じた。
「誰ッ!?」
「うわっ!?」
その人物は私の声に驚いたのか態勢を崩して尻もちを付いた。
「大変そうだね。手伝うよ」
その人物はポケットからライターを取り出したかと思えば火が増えるどころか燃え広がっていた火がそのライターへと集まり、蓋を閉めるとライターの火と一緒に消えた。
「……………………能力?」
こんな不可解な芸当は能力以外ありえない。大方、火を操る能力だろうが能力者が差別・迫害を受ける世の中で彼女が何故、こう能力を見ず知らずの私に見せたのかがわからない。
「…………あ、ありがとう」
「お礼はいいよ。…………やっぱりそれくれない?」
白く長い髪を靡かせカッコつけていた彼女は私の服から落ちたショートブレッドの袋を見た途端、よだれを垂らしそうなほど目を輝かせて私に頼んできた。
「こんなので良いならいくらでもあるけど…………」
私は制服の内ポケットにしまっていた個包装のショートブレッドを全て彼女に手渡す。
「ありがとう! 私、甘い物が大好きなんだ!」
そう言うと彼女は5つもあったそれをあっという間に平らげてしまった。
「ぷっ…………あははははっ」
私はショートブレッドは2つも食べれば満腹になるのに一気に5つもこの短時間で食べたこと、犬の型のものだけ腹から食べるという変な食べ方をしたことが私の中でとてもおかしく感じ、思わず笑ってしまった。
「そんなおかしい?」
白髪の少女がふくれっ面で問いかけてくる。
「だって、5つも…………それにスコッティだけ…………あははははっ!」
おかしくて涙が出てきた。でもこう涙が出るほど笑ったのはいつぶりだろうか? 両親が死んでから心の底から笑ったことなど無かった気がする。
「笑った顔、良いね」
「え?」
その少女は私の顔を覗き込んでそう言った。
「そんなこと言われたのはじめて…………」
「そうなの? 折角、可愛らしい顔なんだからもっと笑った方がいいよ! 貴女もみんなも笑顔の方が一番良いんだから」
「でも、私…………みんなに嫌われているから…………」
事実、嫌われていなければ放火の犯人として仕立て上げられたり、リボンをビリビリに引き千切られたりしないだろう。
「それならきっと、みんなの見る目が無いんだね」
「え?」
「だってこんなにも可愛らしくて、燃え盛る火に震えるながらも勇敢に立ち向かう気高い心を持っているんだもん。貴女のような人が嫌われるなんてみんなの方が間違っているよ」
私自身を含め、私はそんな風に高い評価をされたことが無かった。
そんなことを考えているうちに昼休みから5時間目の授業へと移行する予鈴が鳴り響いた。
「もうこんな時間かぁ…………そう言えば、貴女の名前を聞いてなかったね」
「私、赤井ゆの!」
私は彼女に自己紹介する。二度と間違えないように。印象が悪くならないように。
「ゆの…………ユノ……ヘラ? ギリシャ神話の?」
「え?」
「ううん、なんでもない。じゃあね〜!」
「あ、ちょ!?」
彼女は私が名前を聞く前にその美しい長く白い髪を靡かせ走って行った。
「同じ学校の生徒だし、また会えるよね?」
私は彼女にまた会えることを願ってそう言い聞かせるように呟いた。
だが、彼女に再び会うこと無く二ヶ月が経過した。その間、私への嫌がらせが私の生命を脅かすようなものになっていった。きっかけは些細なものだった。私が作業中に怪我し、出血してしまったが私の能力で無意識に治したのを見られたのがきっかけだった。だからこうして、カッターナイフやデザインナイフ、包丁などが私の至るところにいつものメンバーにストレス発散と称して突き立てられていた。
「あ………………ぅ………………」
「顔にやれないってのが一番腹立つわね」
「同感だけど、コイツの能力は頭部には何故か作用しないから先公達に何かあったと勘付かれるからダメだね」
問題にならない場所ばっかり攻撃しているのがまさにいじめっ子の思考と言える陰湿な行動だ。
「ゴホッ!!」
私は肺や喉からの出血によって口に溜まった血を吐き出す。ルビーのように鮮やかな緋色と制服のネクタイと同じ臙脂色が混ざった色の血だった。喀血と吐血が混じったこれは治癒に時間がかかりそうだ。
「汚ッ!?」
どうやら私の血がいじめっ子のスカートに付いたようだ。付いたところで私の能力で雑菌を取り除いて私の身体に戻っていくだけなのだが……。
「ねぇ、謝るとかしたら? 「汚してしまってごめんなさい」って! ほら! 言いなさいよ!」
スカートにかかった少女は私の頭部を踏みつけて強制的に首を垂れさせた。まだナイフが腹部に刺さったままだからやめてほしいのだが……。
「ほら! 謝りなさいよ! 「醜い私の血で高貴なる貴女様のお召し物を汚してしまいすみません」って!」
「…………貴女が………高貴……ねぇ……」
こんな人が高貴か…………痛みなんか気にならない程、滑稽で笑ってしまいそうだ。
「『ノブレス・オブリージュ』…………」
「のぶ………何だって?」
「『ノブレス・オブリージュ』………高貴なる者には義務が伴う。ケホッ……高貴なる者の一般常識よ。19世紀のフランスで提唱されたそれは今でも生きている価値観で守るべき義務」
「そ、それがどうしたっていうのよ?」
私はゆっくりと立ち上がって左腿、右脇腹、肺、左腕、右手、喉と刺さっているナイフを順に引き抜いて最後の一本の切っ先を彼女の方に向ける。
「高貴なる御方、教えてくださる? これのどこが高貴なる者の行動かを」
「~~~~ッ!!」
「へぶっ!?」
彼女は顔を真っ赤にさせながら自身のバッグを思いっきり私の顔面にめがけて振り回しながら背負い、周囲の人たちを連れてそそくさと退出していった。
「あれ? ゆのちゃんじゃん……どしたのその怪我……?」
まだ完全に治癒しきっていない身体をあの白髪の少女に見られた。ここは女子トイレだから何ら不思議なことではないが、この現象を見られるのはマズイかもしれない……。
「ゆのちゃんは中々に強力な能力を持っているようだね……自己治癒……いや、概念……『逆転』かな?」
「何故それを!?」
私はこの僅かな時間で能力を持っていることだけでなくその本質まで当てられるとは思わなかった。もしかしたら、この少女はかなり危険な存在なのかもしれない。
「簡単な推理だよ。その治りかけの傷と華奢な体つきで信じられない傷で立っていられる異常な行動、これだけだと結びつかないけど概念と言った時に僅かに反応が変わったしね。概念系でこんなことができるのは0か逆転だけだし……その0は別の白い男って話だからね」
推理にしては運や当てずっぽうな要素が多かった気がするが確かに当たっている。それに適当な感じに見えて物事を詳細に理解する観察眼が人一倍優れているようだ。
「仮にも小説家の端くれだからね。そういう想像力と観察眼はいい方じゃあないかな?」
「小説を書いているのね。凄いわ!」
「いやぁ……それほどでも……」
彼女は頬を掻いて照れくさそうにしていたが自信ありげなようにも感じた。
「そう言えば、貴女の名前を聞いていなかったわね。名前を聞かせてくれないかしら?」
「あれ? 話していなかったっけ………私の名前は柚木なぎさ。LEVLE9の第10位の能力『座標指定』の能力を持つしがない小説家だよ」
彼女は窓際に立ってそう私に告げた。白く長い髪がまるで絹のように風によって美しく靡いていた。
そう、これが彼女との始まり。そして平穏な日常の終わりの始まりでもあった。
彼女と交友関係を持ち始めた頃から不思議と私に対する嫌がらせがめっきりと減った。どうやらなぎさという人物は異質な存在の中でも上澄みレベルの異質さだった。人々は祟り神かのように自然と避けていく。それは私にも当てはまり、金魚のフンみたいになぎさと一緒にいると認知されているようだった。
「人ってのは愚かだね」
クラスメイト達が彼女から逃げていく姿を見て彼女がそう言った。
「人によるんじゃあないかしら?」
私は彼女の呟きに反応する。確かに愚かかもしれないがそれは一部の人や側面ではないだろうか?
「そうかもね。でも、人は愚かさ故にこうして正体不明・理解不能なものに畏怖し排除しようとする。人類史が始まって変わりない人類の欠陥だよ」
「じゃあ、その欠陥を埋めるなら?」
私のふとした疑問に対して彼女は口角を上げた。まるで悪戯っ子…………いや、人を誑かす優しさというベールを纏った悪魔のように…………。
「人類という種をリセットするのが一番だよ」
「は?」
素っ頓狂な声が出てしまった。彼女の口元は緩んでいるが目は本気だ。この表情の彼女は大真面目にこんなことを言い出しているのだ。
「リセットってどうやって…………?」
「そんなの…………普通にやっていたら不可能だけど、私達が神と呼ぶ存在になればできないことは無いでしょう?」
彼女は秘密基地の設計図を広げる子供のように目を輝かせ、自身の計画について語った。『人類再構築工程』そう題うったものはどこからか仕入れてきたのか各国の機密文書や歴史・宗教的文献など科学が発達した現代において神なる存在を作り出すことが可能なことがこれだけでも読み取れた。
「凄い…………こんな資料どうやって入手したの?」
「ちょっとね…………」
彼女は何故か照れ臭そうに頬をかく。言いたくないのならばこれ以上追求することはしない。
「世界の命運を決めるのは私になりうるってことだよ。そして、ゆのちゃんはそれを開始するためのトリガーになることができる唯一の存在だね」
「私が…………唯一…………?」
訳がわからない。何故私なのだろうか? 彼女が立てた計画だからだろうか? それとも本当に私がそういう存在なのだろうか?
「そうだよ。ゆのちゃんは自己評価がかなり低いけど凄いところが沢山あるんだから! その誇り高き精神、優しさ、容姿、能力…………それらはゆのちゃんという存在の魅力であり、それこそゆのちゃんが唯一の存在になるうる理由だよ!」
「えっ…………えっ…………?」
急に褒められると恥ずかしい。私は顔を手で覆うがはみ出た耳が熱を持っているのを感じる。
「かつて神を追い求めて飛び続け、その翼を取られ絶命した男が居た。有名な逸話だけど私の立てたこの計画はそうならない計画だよ。なんなら私の存在を賭けて誓ってもいいよ」
「人類…………………人類ねぇ………………貴女のその背中には私には想像もできないほど大きなものを背負っているようだけど…………本当に貴女がやる必要があるの?」
傍から見れば彼女がやろうとしているのは長期的に見れば有益だが今を生きる人類にとっての悪になるやもしれない危険な思想だ。そんなものを掲げる人物は頭がおかしい………表現を良くすればそういう禁じられたものに憧れる痛い少女にしか見えない。
「そうだね。私がやらなくても『生成』と『破壊』の二つの能力で代用できる。でも、どうせ死ぬ運命にある命ならばその命は有効活用したいし、ゆのちゃんに奪われる方が私としては納得できる」
……………彼女の目は本気だった。本気でこんなことを言っているのだ。私にはこんなことを言うことはできない。ほぼ会って間もないのにこんな堂々と命を差し出すようなセリフを平然と言うだなんて。
「…………まぁ、この計画はゆのちゃんにあげる。この計画の提唱と実行はゆのちゃんの好きにしてよ。もしかしたら役に立つときが来るかもしれないし………」
「……………できればそんなことが起きないといいわね」
私はそう言いつつその計画が記載された紙を受け取った。その計画が書かれた紙自体はその時以降、目にしたことは無かった。
それからというもの、私となぎさは徐々に仲を深めていった。学校行事だけでなく夏や冬の長期休暇には二人で旅行やお出かけをして寝食を共にし、何度も喧嘩して仲直りしたかも忘れるほどだった。いつしか私と彼女は大親友と呼べる程の仲になっていた。
「ねぇ、なぎさ」
「何?」
私は手に持ったダイスを卓上へ投げる。
「私………………怖いの」
「それは、このゲームが負けそうだから?」
「それはそうなんだけど…………」
私はダイスの目に合わせて駒を動かす。確かにこの卓上のゲームは私が圧倒的劣勢に立たされている上に負けたら罰ゲームだ。これも怖いといえば怖いがこれではない。
「それじゃあ、何が怖いの?」
「今は3月でしょう? もう一年もすれば私たちは卒業してしまう。そうすれば私たちは進路によって分かたれるかもしれない。そんな時に私は貴女が居ない中でやっていけるのか。そして、貴女と疎遠になってしまうんじゃあないかって」
そう私が不安を口にすると彼女は笑いながらダイスを振った。
「神はダイスを振らない。…………自然界では不確実性は存在しないっていう意味だよ」
「…………えっと、それとこの話に何の関係が………?」
「簡単な話だよ。私たちは不確定な可能性ではなく、私たちの距離や立場では引き裂けない確定した未来があるってことだよ」
彼女は決め顔で彼女が振って先程出た最大値が出たダイスの面を私に見せつける。
「はい、ゴール」
「嘘っ!?」
「罰ゲームはコンビニでお菓子を買ってきてよ。しょっぱい物や辛い物じゃあなくて甘い物でよろしく!」
「わかっているわよ」
私は玄関で靴を履きながら返答する。コンビニまではおおよそ歩いて5分の距離だがこの春に近いとはいえ夜の寒さは身に堪える。
「少し、急ごうかしら」
私はやや駆け足でコンビニに向かう。コンタクトを外している私はモノクルを装着していたが店内に入った途端、真っ白に曇ってしまうほどの寒さだったことがわかった。
「買い物リストは……」
私は送信されていたリストを確認すると相変わらず大量の甘味の駄菓子が要求されていた。少しは自重して欲しいものだが敗者である以上、彼女に文句は言えない。
「うわっ……大量ですね」
店員ロボットが私が詰めたカゴを確認して引いている。全く、機械までドン引きする量を買うって私は業者か余程の暴食者と思われているのだろうか?
「合計、45万4281円です。お支払い方法は……」
「カードで」
私はカードリーダーにカードをかざす。代金を彼女から出されるとはいえ、この量を買うとなると流石に恥ずかしい。
「ありがとうございました」
コンビニから出た私は台車を引いて家へと向かう。白い息が春初めの夜の寒さを伝えてきていた。何度も経験したこととはいえ、この台車引きは疲れる。行きで10分程度だったのが30分程度かかってようやくなぎさが居る私のアパートへと辿り着いた。やけに嫌な予感がしながら私はエレベーターを呼び出してボタンを押す。私の部屋の前へと辿り着いたがそこには私の想像を超える光景が広がっていた。
「ナニコレ?」
無理矢理こじ開けられた扉に荒らされた部屋の中に僅かに残っている血痕……そして待っているはずのなぎさが居ない。仮にもなぎさは能力者だ。それもLEVEL9の出力をもつ。そう簡単に攫われるなんてことは…………だが、状況証拠としてそう考えるのが自然だ。
私はすぐに大家と警察・柚木家に連絡を入れて事件について調べた。犯人は? 人数は? 事件性は本当にあるのか? そう調べていくうちに、私の不安は肥大化していった。そもそもとして何故彼女が狙われたのか? 彼女を狙う理由は彼女に恨みを持つ人物の犯行か? 彼女の能力自体か? 前者であれば彼女の小説だろうが、正直線は薄い。となるとやはり、能力だろう。
何とかして情報を手に入れようと数日間奮闘したが情報は全くと言っていいほど手に入らなかった。そんなときに私はこういう非常時に一番頼れる人物を知っていたことを思い出した。
「それで? 俺に連絡を入れたってか?」
「えぇ、貴方ならすぐに分かるでしょう? 高階海斗……いいえ、お兄ちゃん?」
「…………いいだろう。妹の頼みとあらば一日でどこのどいつが何の目的でこんなことを起こしたのかを相手のほくろの数まで一日で調べ尽くしてやろう」
「頼りにしているわ」
彼はあまり接点が無かったが私の兄だということは転校する前に偶然知りえた。だからこそこうやってコンタクトを取ることができたが正直、不安だった。彼にとってなぎさは何故か嫌悪する対象だったようで常に何をするにも目を光らせていた。きっと、彼女の失った過去に影響するのだろうが何故、彼女がロシアに居たころの話まで知っているのだろうか?
一日もしないうちに彼から膨大なデータが送られてきた。.zipファイルで圧縮されてはいるが6GBとかなりの量だ。ケネディ大統領暗殺事件の機密文書並みの量を送られてきて正直困惑しているが、彼がご丁寧にも最重要情報のみのフォルダを作って分けてくれていた。内容は現在のなぎさの状況と位置情報、救出に行くための経路プランと私と彼がそれぞれハッキングして作戦を遂行する場合の留意点や想定外の事態の対処法までこと細かく記載されていた。
「まったく、恐ろしくまめね」
私はメモ帳から一枚千切って能力で暴力団の倉庫から適当な拳銃を手元へ転移させる。
「重っ!?」
両親と違い、守られてきた私は当たり前のように物騒な世界と縁が無かった。この拳銃が自分に合っているのか、そもそもとして上手く撃てるのかすら分からない。でも、彼女を救い出すためにはそんな弱音は吐いていられない。
私はポシェットに拳銃を詰め込んで家を出る。日は既に沈んでいて僅かな月明りが私を照らしていた。
「はぁ……はぁ……」
軽く走っただけでも運動不足のこの身体は悲鳴を上げる。肌寒いこの季節でも滝のように汗が流れるのを感じる。でも、彼女を諦めたくない。
「…………ったく、目的を見つけると後先考えずに突っ走るのはお前の悪い癖だな」
「はぁ……はぁ……お……お兄ちゃん?」
「おう、お前の兄貴だ」
バイクに跨る彼は私にヘルメットを投げ渡してくる。
「あっ……」
「ゆるく投げたつもりなんだが、それでも拾えない程疲弊しているなら俺が送ってやるから後ろで休んでろ」
「あ……ありがとう」
「礼はいらねぇよ。妹がこんなに頑張っているんだ。応援するのが兄貴の務めだろ?」
「何それ?」
自然と笑みが出た。張りつめていた心を解してくれた彼には本当に頭が上がらない。
私たちは互いに兄妹と認識してはいたが兄っぽいこと、妹っぽい行動はしてこなかった。こんな出来事がきっかけで仲が深まるだなんて正直、嫌ではあるが他の誰よりも頼もしい。
「目的地は創科生活向上センターでいいか?」
「えぇ。無論そこ以外ありえないわ」
「いや、物資の補給とかはしなくていいのか?」
確かに、今の状態では心許ない。コンビニかどこかに寄って物資の調達などをしたい。
「そうね……あの廃ビルに寄ってくれるかしら? 能力を使うから」
「了解。終わったら降りてきてくれ。1時間経っても降りてこなかったら迎えに行く」
「助かるわ」
廃ビルと言っても骨組みだけではなく、割と最近まで営業されていた商業施設だ。壁やベンチなどの基本的な物品や設備はあるが電気は通っていない。埃っぽいが少し頑張れば我慢ができるレベルだ。
私は能力を発動して着替えと汗拭きシート、タオルなどを用意して汗でビショビショになってしまった身体を手入れする。なぎさ曰く、私はそこに存在するのか疑問に思うほど汗をかいても体臭のにおいがしないということだが本当だろうか?
「待たせたわね」
「………早いな。十分も経ってないぞ?」
お兄ちゃんは腕時計を見つめてそう言う。特段、着替えや装備の一新だけで時間がそう時間のかかるものではない。
「ほい、ヘルメット」
「ありがとう」
私は彼からヘルメットを受け取ってバイクに跨る。時刻は午前2時30分。到着予定時刻はおよそ45分後だ。
「ねぇ、お兄ちゃんは正義の味方を本気で目指しているんだよね? どうして?」
「どうしてか……? そうだな……理想主義になるが誰かを救うってことは誰かを救わないというのが今の世界だ。でも、それは根本的治療にならない。だから可能な限り多くの人を救いたい。それが俺の今の父、俺たちの両親からの思想だよ」
理想主義だ。でも、彼のいいところは全ての人ではなく可能な限りと銘を打っているところだ。彼自身の救い続けた末の破滅が想定できているからこその行動だ。
「貴方ならきっとできるわよ」
「そうか? だったら、期待に沿えるように頑張らないといけないな」
きっとできる。地獄に抗う覚悟という諦めない心があるかぎり彼の能力で無限に近いほどやり直しが効くのだから。
「俺からも質問をいいか?」
「えぇ」
「お前は人を殺したいほど憎んだことはあるか?」
「へ?」
彼から出るとは思えない発言に私は驚いた。でも、この答えは決まっている。
「私はそう思ったことはないわ。人は環境によって作用される。所謂、性善説や性悪説とかそういう理論ね。だからこそ、私はそう思うよりかはそのような行動をさせた世界という環境・システムを憎むわ」
「………そうか。お前が俺の敵にならないことを祈るよ」
「私もそうなりたくないわ。だから、貴方がそうなる前に止めてちょうだい。もしくは、敵になったら容赦なく殺してちょうだい」
「……………」
彼は絶句していた。けれど私にとってこの言葉は本気だ。私自身、間違いを犯す気はないがきっとそれが正しいと思ったらそこに突っ走ってしまうだろう。
「わかった。だが、殺しはしない。俺の理想はさっき語ったばっかりだよな?」
「………そうだったわね。貴方は救える命は救いたいタイプだったわね」
「あぁ、それが俺の生き方だからな。…………もうすぐ着くぞ。用意はいいか?」
「えぇ、十分よ」
創科生活向上センター………科学で生活を向上させるものを創造する研究所が表向きの施設だ。しかし、兄の調べではどうやら生き残りの能力者を拉致しその能力の実態を拷問に近い人体実験にかけることによって解析する政府と裏で繋がっているとされる非合法研究所だ。
侵入ルートは裏口から。監視カメラ、熱源センサーに反応しないように能力で阻害する。
「2時の方向、距離3メートル地点にドローンだ。お前の能力とドローンの性能から考えれば姿勢を低くするだけでやり過ごせる」
「了解」
私は姿勢を低くして監視から逃れる。どうやらこんな簡単なことで監視の目を抜けることができるのか。まったく、兄さまさまだ。
「いいか? 説明はしていたと思うがドローンが去った後の3秒間は物音を立てるな。その時間は超高性能な音探知がされている」
了解。言われるまでもないが私は親からの訓練で幼いころから物音を立てないこと、気配を消すことだけはプロ並みだ。こんなこと、ケーキ一切れを食べるみたいに容易いことだ。いや、訂正。私は胸やけするのだった。なぎさがという条件にすればバッチリだ。
「よし、もうすぐで監視塔が見えるだろ? あれはブラフで本命は地中に埋まっている重量センサーだ。お前は能力で飛行に近い行動はできるか?」
「………私の能力は『逆転』よ。できないことなんて意地でもひっくり返せばいい」
「流石だな。逆転か……ならば自身にかかる重力の作用を入れ替えてみたらどうだ? ベクトルでも重力の有り無しでもいいがかなり精密作業が必要だな」
「それなら、重力の有り無しを変えるわ。現状は少しでも体力は温存するに限るわ」
「そうだな。………言うまでもないが現場で助けが必要ならば俺を能力で呼び寄せてくれ」
「助かるわ」
私の能力で彼を呼び出せるだろうが彼は正義の味方という夢がある以上、相手が悪いとはいえ不法侵入という毒を以て毒を制する私のやり方に極力、巻き込むわけにはいかない。
「OK、その通風孔から中に入れるはずだ。お前のポシェットに自作の暗視ゴーグルとマスクを入れておいたからそれを使ってくれ」
「いつの間に……」
確か、暗視ゴーグルって電子機器だったはず……何故こんなものを自作したのか問い詰めたかったがきっと恐ろしくまめな彼の性格上、ありとあらゆる事態を想定してでの人助けのためだろう。いや、それよりもどうやって私のポシェットに入れたのだろうか?
「いいか? 入ったら二番目の合流地点を左に、四番目を右に、八番目を左に、十番目の手前にある通気口を外して降りろ。そこなら巡回ルートや監視カメラなどに探知されることはない」
「了解、2・4・8・16かしら?」
「倍数じゃあないぞ。2・4・8・10だ。左・右・左・手前通気口。これで覚えたか?」
「ちょっと待ってちょうだい。メモするから………」
彼がナビをしてくれるといいのだが通気口内は電波があまり良くない。だから自分で進むしかないのだ。
「一旦、通信を遮断するぞ。出れたり何か異常があったりしたらすぐにインカムの非常回線を起動してくれ」
「わかったわ。それじゃあ、また数分後ね」
私はインカムの電源を落とす。バッテリー残量は問題ないが何があるかわからない以上、通信が繋がらないのにわざわざ電源を入れている必要はないだろう。
「……埃っぽい」
マスクを用意してくれて助かった。本当に埃っぽい場所で暗視ゴーグルとコレがなければ涙と鼻水や咳できっと潜入に向かないどころか、気づかれてしまうだろう。四番目を右に………。
「なぁ、あの被検体なんだけどかなり衰弱していないか?」
「無理もないだろう。我々人間とは違うバケモノだが自分は人間の少女だと思ってずっと生活してきたヤツだからな」
「ずっと何かブツブツ言っているが精神も本当に大丈夫なのか?」
「………内容は聞いたのか?」
「いや、怖くて聞いてねぇよ」
「それでいい。アイツの能力の性質が完全に把握できていない以上は音声を聞いた者が無差別に能力の対象になるのかもしれないからな」
「そんなこともできるんですか!?」
「いや、わからないが相手はLEVEL9の能力者だ。用心することに越したことはない」
何やら会話が聞こえてきた。どうやらなぎさはかなりマズイ様子だ。急がなければ。
通気口が見えてきた。取り外しは押すだけで外せそうだ。ネジ止めでなくて助かった。
「よいしょっと」
私は通気口からその蓋を持って着地する。音は恐らく近くにいなければ気づかれないくらいだろう。
「無事に出れたわ。けど、どうやらなぎさが危険な状態らしい。早く向かわないと」
「出れたか。なら急がないとだな。監視カメラがこれから多くなるから早めに能力を起動しておけ」
「えぇ。道案内任せたわ」
「任された」
走る。走る。白く動く物体をすぐに感知できるように設計されたであろう通路を走り抜く。まるで迷宮のように入り組んだ研究所は被検体が逃げ出さないように何重にもシャッターやバリケードが出るような仕掛けがあるようだ。
「そこ、赤外線センサーが張り巡らされている。かなりキツイが行くか? それとも少し遠回りするか?」
「センサーを数秒間だけでも切れるかしら」
「……無茶言ってくれるな。二十秒待ってくれ」
十数秒するとセンサーが解除されたのかゴーグルにセンサーが映らなくなっていた。
「流石ね」
海斗は相当疲弊しているのか返答がない。あとは自分で進むしかないのかもしれない。
案内が無くなった途端、私は試行錯誤をしながら進むしかなくなっていた。地図を見ながら走り続ける。方向音痴の私にとって地図はほぼ無いに等しいがそれでも無いよりかはましだ。
「はぁ………はぁ………」
息切れが激しくなってきたころに妙に明るい部屋があった。おそらく人が居るかと思えば誰もいなかった。よく見るとどうやらモニター室のようだ。
「なぎさ!?」
モニターにはなぎさが磔にされている様子が映されているものがあった。どうやら丁度2つ下の階のこの部屋の位置のようだ。大分疲弊しているが点滴が投与されているため今のところは命の心配はなさそうだ。
「急がなきゃ!」
それでもマズイ状態には変わりない。私はモニターから踵を返そうとしたときに何やら放送が入った。
「ごきげんよう『逆転』」
「誰!?」
老齢の男性の声が聞こえてきた。その声は薄気味悪く、正直に言えば生理的に受け付けない声だ。
「『座標指定』の実験体は良い働きをしてくれたようだ」
「実験体!?」
いくら何でもその言い方は聞き逃せない。人の友人をそんな扱いするだなんて。
「何を怒っているんだい? 君も私も万物は科学技術の発展の礎となる。君がよく使うだろう電子機器、市場調査、すべて科学技術の発展に役立っている。いわば実験体だ。何も間違っていないだろう?」
「そう……だけど…」
「まぁ、君と私では命の価値というものが私の方が高いがね」
よし、倒そう。一瞬でも納得させられた自分が恨めしい。
「ふむ………全く、『逆転』はバカだよね~!!!」
「は?」
「何故、『IF』との通信が途絶えたのか。何故、こうしてこの場に君を留まらせているのか。疑問に思わないんだもん」
まさか!? 兄に何かがあったのだろうか? そういえば私からのSOSの発信はできるが彼からのSOSは想定されていない。
「実験体にしたかったけど、能力が能力だからね。流石に何もかもを台無しにされかねない」
「一体………」
「うん?」
「一体、彼に何をした!?」
私は怒気を孕んだ声で叫ぶ。最悪の想定はできている。だけど、そうだと思いたくない。
「殺処分させてもらったよ。邪魔だもん。生かしておく理由ないよね。それに、君たちは人権なぞハナから持ち合わせていない”能力者”なのだから」
許さない。許さない。許してなるものか。私の家族を、親友を傷つけようとしたこの人を!
私は能力を発動しようとする。耳鳴りがするのも気にしない。
痛い。痛い。全身が引き裂かれるかのように痛みが全身を巡る。でも、やめるわけにはいかない!
「動こうとしているのかい? でも、AASが君の能力の発動を阻害しているはずなんだけどね。それに……君の能力は一度につき一つの能力しか使えないと思うけど?」
「何故、それを……!?」
「図星かい? まぁ、その枠を私が占領しているからね」
占領といったのか? 一体、どういう意味なのか?
私は困惑していたがすぐにその意図を思い知らされることとなる。
「人間の内と外、入れ替えたらどうなるんだろうね?」
「は?」
そんなもの、生きられない。死ぬしかない。でもそんな質問に何の意味が………?
「まさか!?」
「君が居てくれて本当に助かったよ。君の能力なら『座標指定』を難なく処理できる。そして枠が一つしかない君も同様にね」
「やだ。やだよ………やめて………………お願い…………」
私は額を地面に擦り付けて懇願することしかできなかった。それと同時に彼の笑い声が大きくなる。
「滑稽だねぇ。まるでサーカスの輪くぐりに失敗したライオンのようだ。そんな君にプレゼントだ。一方通行だが『座標指定』の部屋のマイクを君が今居る部屋にだけ聞こえるようにしておいたよ」
「お願いします。お願いします。なぎさに酷いことしないでください。私ができることなら何でもしますから。お願いします」
「う~んと………何か私がまるで悪いことをしているようじゃあないか。さぁ、頭を上げて。ね?」
聞き入れてくれた? 私は恐る恐る顔を上げる。視界にはなぎさの部屋のモニターが映った。その瞬間、なぎさの内と外が遠隔で起動された私の能力によって入れ替えられ、画面にはベットリと血が付着して画面が見えなくなると同時になぎさの悲鳴が聞こえてきた。
「アハッアハ………アハハハハハハハハハハ! そう。その表情だよ『逆転』! 人間以下な君たちだが見た目は私たちと何ら変わらない。それどころか君の容姿は私好みでねぇ。私はそういう絶望に満ちた顔が大好きなんだよ!」
私は声にならない声で泣き叫ぶ。私の手で私の能力で彼女を………一番救いたかった大親友の彼女を私は自らの行動によって殺してしまった。私も彼女と同じくもうじき死ぬ。私の能力によって。殺人鬼には相応しい末路じゃあないか。
私は一種の諦めの境地に居た。仲間は全員死に、私の能力の制御は敵に渡り、敵の所在は掴めず、私は等しく無力な少女。この絶望的状況を打開できる術を私は知らない。もう、私の能力で苦しむ姿を見たくない。
「本当にそれでいいの?」
どこからかそんな声が聞こえてきた気がした。なぎさでもない。海斗でもない。見ず知らずの人の声だ。でも、温かく優しさに満ちた声だった。
「良いわけがない」
そうだ。こんな平然と非道な行為に手を染める人だ。私の能力を解析し、人殺しを行うような人間だ。きっと、ここで見逃したら私たちだけでなく多くの人たちに危害が及ぶ。ならどうすればいい? 敵の位置はわからない。わかったとしてなぎさの能力が解析されている以上は私が向かったとて別な場所に固定されるか転移されるのがオチだ。ふと視線を下に落とす。
「時計……」
海斗が私に預けてきた腕時計がそこにあった。私の趣味ではないが彼なりに気を使ったのか可愛らしいデザインのその時計はカチコチと音を立てて秒針を動かしている。
「時計………時間……時!?」
それは禁忌の行為。自分でも理解している。それをするともう二度と彼女と同じ世界を歩めなくなる。………いや、もうすでに彼女が死した以上は決まっていたことだ。
「ああああああああああああああああああああああ!!」
再び私は能力を発動させる。AASなどという厄介なもの、制御権なんて関係ない。私はありとあらゆる不条理を覆す『逆転』の能力者なのだから!
「無駄なことを………」
「無駄なものですか! 人間は意思があれば何でも成し遂げられる! それの最たる例が私たち能力者なのだから!」
「能力者は人じゃあないんだよ! 君たち能力者は私たち人間にとってのモンキーなんだよ!」
「ならそのモンキーに足元を掬われなさい!」
私は能力を発動させた。時は10年もの歳月を逆行させた。代償として私は私という存在を維持できなくなり結城希と名乗り、『逆転』の能力も事実上使えなくなってしまった。代わりに『時間干渉』の能力を得た私は二度と悲劇を起こさないために奔走することとなる。
さて、後書きですがまだこの章は続きます。なんならこっからが本番かな? 根が生真面目なゆのですから一発で犯罪行為に走るなんてしません。(銃の所持とかは無しね?)散々待たせておいてイラストも無しですが……板タブのペンを実家に忘れてしまい描けなかったんですよ。弘法では無いんで道具を選んでしまうんです。
みなさん、今年度が始まって一か月近く経ちますが新生活は慣れましたか? 今がゴールデンウイークで最高な人も居れば休みが無い人も居るでしょう。今の時期が下手したら一番体調を壊しやすい時期ですのでみなさん、羽目を外しすぎないように……。私? 私は怪我しているんで羽目を外したくも外せないですね。下半身の治癒能力は人並み以下ですから……。
以上、スバルちゃんの後書きコーナーでした。またね!
⸺ おまけ・人物紹介 ⸺
赤井ゆの/この章の主人公? MBTI……建築家
赦してほしいとは言わない。けれど、為すべきことがある。
高階海斗/毎度のように死ぬ MBTI……運動家
この章で描かれているのが実は最初のやり直し
柚木なぎさ/??????? MBTI……仲介者
????????????????????
中村信也/???のプリテンダー MBTI……指揮官
佐々木葵と何故か関りがある。
九条かすみ/この章に出ない
イラスト描けませんでした。BY作者
村雨絵美/なんか仲良くなった
普段なら半殺しにされかねない
結城希/この章の主人公 MBTI……建築家
色々あったが根っこはゆのと同じ
佐々木葵/信也とは古い仲
まだ明かさないよ?
竹中昴/この物語の作者 MBTI診断……論理学者
ゆのと希が同じなのは驚いた(意図せず)




