第17話 まぁ、仕方ないよね
【ジェネラル・シップ A区画】
爆音のする方に向かって走っていくと、やがて大きなエリアに出た。橋や階段が複雑に入り組んだエリアだ。
「ここはA・B・C区画に通じる基幹地点のような場所です」
付いてきたルベライトが言う。なるほど、ここから3つの区画に行けるのか。……ということは、A区画――前頭甲板の最高司令室にも行けるのか。
そう考えていると、下の方から再び爆音が鳴り響く。見れば、橋と橋や階段と階段、橋と階段を繋ぐ接続用広場の1つから、白い煙が上がっている。私はそこを目指して階段を下りていく。
「はぁはぁっ……! なんて強さ……!」
「パトラー?」
「…………?」
私は煙の中にいる女性に声をかける。……間違いなくパトラーだ。ただ、なぜか彼女は裸だった。その身体には、いくつもの傷がついている。
「…………! ……あ、ああ、クラスタ。すまない、助けに来たのに」
「大丈夫か? 相手は―― …………!?」
煙の向こうにいるのは、なんとパトラーだった(あっちのは服を着ているな)。その後ろにエコノミアシティで降伏したルビー中将とサファイア中将までいる。
「ク、クラスタ!?」
「パトラー、なのか?」
「クラスタ、あれは偽物だ! 実はルビーとサファイアに裏切られて、一度ヒーラーズ軍に私も捕まったんだ。そして、服を脱がされて…… アイツはゾイサイト中将だ。他人の姿をコピーする技を使ってくる」
裸のパトラーが、服を着たパトラーを指さして話す。……どちらも本当によく似ている。2人が裸だったら、見分けがつかない。
私はルベライトの方をチラリと見る。彼女は裸のパトラーと、服を着たパトラーに視線をやる。
「確かにゾイサイトは他の人をコピーし、完全に化けることができます。どちらかが本物で、どちらかが偽物です」
「それはまいったな……」
「クラスタ、そのクローン兵は……?」
「ああ、ルベライトだ」
……今の質問は、本物がルベライトのことを知らないでしたのか、偽物が信じさせるためにわざとしたのか……
「うわっ、本当に瓜二つだ」
「ゾイサイトさんの能力、初めて見た……」
「ルベライトさーんっ! 気を付けてくださーいっ!」
上の方では、ルベライトの部下がワイワイと騒いでいる。目の前には傷ついた裸のパトラー。遠くには、服を着たパトラーとルビー、サファイアの3人。さて、どうしたものか。
「……パトラー。お前は一応、臨時政府総帥なんだ。あまり危険なことはしないで欲しい」
「ごめん、クラスタ……」
「すまない……」
「…………」
どっちも本物のように見えるな。
「まぁいい。私の実力は知ってるハズだ。臨時政府筆頭将軍の私に、あとは任せろ」
そう言うと、私は剣を抜き取り、後ろを振り返る。私の視線の先には、ルベライトがいた。
「ルベライト、お前の考えは見抜いている。……隙見て私を捕えるつもりだろう。アーカイズ同様、ずる賢いな。上の部下もそのための、だろう?」
「なにぃ!」
「ルベライトさんがずる賢いだと!?」
「ふざけるな!」
「私たちの中将を侮辱してっ、許さない!」
上の階層にいるルベライトの部下たちが怒り出す。だが、ルベライトは至って冷静だった。
「まずはお前から片づけておこうか」
「クラスタ!?」
服を着たパトラーが叫ぶ。私はその声を無視して、ルベライトに飛びかかる。彼女もレイピアを再び手にし、私と激しく斬り合う。何度も金属同士が触れ合い、火花が飛ぶ。
だが、勝負はあっという間についた。レイピアが叩き落される。また、私は彼女の首に剣を付き付ける。
「…………。……さっきも行った通り、部下には――」
「いや、それは無理だ」
「なッ……!?」
俯き気味だったルベライトが私に顔を向ける。上では、彼女の部下が今にも飛び出してきそうな勢いだ。
「クラスタ、殺すのか?」
裸のパトラーが近寄ってきて言う。
「ああ、ここで私たちが倒れるワケにはいかない。万が一ということもある。それに、これまでもたくさんのクローン兵を私たちは殺めてきた。これが初めてでもない」
「お願いです、部下だけは……」
「ルベライト、すまない。私たちも死ぬワケにはいかないんだ。私たちが死ねば、臨時政府は、世界はどうなる。本当にすまない。世界のためだ――」
「……まぁ、仕方ないよね。私たちにも、自由と平和を取り戻すって夢があるから……」
裸のパトラーは軽くそう言うと、一歩下がろうとする。だが、その前に、私は素早く振り返る。
「えっ――?」
私は裸のパトラーを斬り付ける。更に魔法発生装置で左拳に衝撃波を纏い、それで彼女の腹部を殴りつける。裸のパトラー――いや、ゾイサイトは吹き飛ばされ、遠くの接続用広場に激突する。広場が崩れていく。
「クラスタ!」
服を着たパトラー――本物のパトラーが走り寄ってくる。その後ろからルビーとサファイアもやってくる。
「あんた、これが本物ってなんで分かったんだ?」
ルビーが感心したような表情で聞いてくる。私は剣を鞘に戻し、ルベライトを立たせながら答える。
「……最後のセリフで分かった」
「“仕方ないよね”のヤツか?」
「本物ならあんなこと言わない。私を押し倒してでも止めに入るハズだ」
「クラスタ……」
「所詮、アレは表面だけのコピー……劣化模造品でしかない」
私はルベライトにレイピアを渡しながら、一言謝る。だが、彼女も、私が本気で殺す気はなかったことを分かっていたようだった。一言、“知ってた”と言い、レイピアを腰に戻す。すると、上の方にいる彼女の部下たちが、拍手と歓声を上げる。
「す、すごい!」
「クラスタって天才か!?」
「いいもの見させて貰ったよ!」
「クラスタの演技を見破るルベライト中将もすごいです!」
歓声を耳に入れながら、私たちは前頭甲板を目指して歩いて行こうとする。だが、――
「ルベライト、ずいぶん楽しい状況になっているようだな――」
「…………! アーカイズさんっ……!」
広いこのエリアの空中を、小型ジェット機で飛ぶクローン軍人――戦闘士アーカイズが、私たちを見下ろしていた。




