第18話 お前は自慢の弟子だ
※ストーリー構成上、少し文字数が少ないです。
アーカイズがゆっくりと降りてくる。ルベライトは小刻みに震えている。今度は本気で震えているらしい。表情に焦りが見えている。
「アーカイズさん、ごめんなさい…… 私……」
「……ルベライト、やはりお前では無理だったか」
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ……」
ルベライトは膝をつき、肩を震わせ、泣きながらアーカイズに謝り続ける。彼女は師の期待を裏切ってしまった。
「私は戦闘士だ。敵の血を流させ、最後には殺す。お前は、その私の弟子だ」
いつの間にか、上の階層にいるルベライトの部下たちも黙り込んでいる。誰もがルベライトの身を案じ、アーカイズの言葉一つ一つに怯えているようだった。
「ルベライト、“自分以外、誰の血も流させない”という、お前の信条をどうこう言うつもりはない。だが、私はお前の信条とは相反するものだ」
「……私が弟子のせいで、戦闘士の名を持つアーカイズさんの名誉を、傷つけてしまっているんでしょうか…… ごめんなさい……」
消えるような声で、床に手を付き、俯いたまま謝るルベライト。アーカイズは話を続ける。
「私はセネイシア閣下に忠誠を誓っている。セネイシア閣下が望めば、子供だろうと殺す。だが、お前はそうじゃない。全く逆のハズだ。……なぜ、私の弟子になった?」
アーカイズの言葉に、ルベライトの部下たちが動揺の声を上げる。アーカイズはルベライトを捨てるんじゃないかと、恐れているんだろう。
「わ、私は、アーカイズさんの強さにずっと憧れていました。……2年前、私が大尉だった頃、ラグナロク大戦のある戦いで、多くの部下を失いました。そんなことがあったから、もう部下を失いたくなかったから、当時、大佐だったアーカイズさんの弟子になったんです」
「でも、敵も傷つけられない、だろ?」
「……私は、たくさんの戦いで、血を見すぎました。もう、血をみたくないんです……」
ルベライトは頬を濡らしながら、レイピアを腰の鞘から抜く。そっと、その刃を手で握る。血が流れていく。
「もう、誰の血も見たくない。欲しいのは、――平和な世界。ただ、それだけです……」
「……そうか」
アーカイズはルベライトに背を向ける。腰からハンドガンを取り出し、それを大きな窓に向けて発砲する。窓ガラスが粉々になって砕け散る。
「……パトラー、ダーク・サンクチュアリで待つ」
「えっ?」
アーカイズは私にそう言って、再びジェット機を起動させ、空中に飛ぼうとする。だが、それよりも前にルベライトが言葉を発する。
「私は、――アーカイズさん、私は……あなたの名を汚しただけですかっ!?」
「…………」
「私がアーカイズさんの弟子だったせいでっ、あなたのっ」
「お前の夢が叶うのは、そう遠い日じゃないかもな」
「アー、カイズさんっ?」
「――お前は自慢の弟子だ」
「……えっ――?」
アーカイズは弟子に背を向けまま答えると、今度こそジェット機で飛び上がり、撃ち壊した窓から外へと飛び出す。そのまま、ルベライトの師が戻ってくることはなかった。
◆◇◆
私は小型ジェット機で空高く飛んでいく。次第にジェネラル・シップの前頭部から遠のいていく。
ルベライトの夢は、セネイシア閣下の夢と似る。私たちのリーダーは、世界の治癒――その先には、優しい世界の創造を目指している。
私はセネイシア閣下に忠誠を誓っている。だから、彼の夢が現実になるように戦ってきた。私の行動が、彼の夢の成立になる。同時に、ルベライトの夢の成立でもあった。
「…………」
だが、その夢はもう、叶いそうにない。
例え、この先、上手く国際政府を滅ぼし、ヒーラーズ政府を立てても、その後の戦い――ラグナロク大戦に勝ち抜けるとは、到底思えない。
ウォルタミアシティを占拠した第二次国際政府討伐が、実質、最後のチャンスだった。いや、アレが成功しても、難しかったかも知れない。
「ルベライト、さようならだ……」
私はジェネラル・シップに背を向け、ダーク・サンクチュアリを目指して飛ぶ。彼女の夢は、臨時政府が叶えてくれるかも知れない。
だが、私は臨時政府に降伏はしない。私の夢とルベライトの夢は少し違う。私は世界がどうなろうと知ったことではない。
私の夢は……セネイシア閣下とルベライトの2人が幸せになることだった。エデンやソフィアなど眼中にない。私はルベライトの幸せを願ったからこそ、彼女と別れた。臨時政府でなら、彼女は幸せになれるかも知れない。
「夢の果てを――」
私はセネイシア閣下へ忠誠を誓っている。だからこそ、ダーク・サンクチュアリに戻るのだ。彼の夢の果てを、見届けなければならない。最後まで付き合わなければならない。まだ、臨時政府に降伏するワケにはいかない――




