第16話 死なないで、ルベライト中将!
【ジェネラル・シップ B区画 監房ブロック】
私は手を拘束するロープを、壁に立てかけた剣で斬る。近くには、気を失ったヒーラーズ精鋭兵が倒れている。
「もう少し警戒するべきだったな」
私はそう言い、手首のロープを床に捨てる。
少し前、このヒーラーズ精鋭兵が独房にやってきた。私を無理やり立たせ、最高司令室のある前頭甲板に連れて行こうとした。そのとき、私は勢いよく頭突きを喰らわせ、彼女を気絶させた。
私は剣を手に、独房から出る。この剣はさっきのヒーラーズ精鋭兵の剣だ。彼女の剣を使い、ロープを斬った。
「……さて、ここはどこだ?」
監房ブロックらしく、独房が並んでいる。ただ、どの独房にも誰もいない。ここに収監されていたのは、私だけのようだ。
しばらく歩いていると、鋼の扉が見えてきた。独房ではなさそうだ。その扉に近づくと、それは左右にスライドして開く。中は荷物置きのようだ。
「これは……!」
私は自分の剣を見つける。捕まったときに奪われた武器や道具は、ここに保管されていた。私はヒーラーズ精鋭兵から奪った剣を捨て、自分の剣を腰に装備する。
それが終わると、私は荷物置き場から出る。再び誰もいない独房区画を走る。やがて、また扉に出くわす。そこから廊下に出て、また扉を開けると、今度は大きな廊下に出る。
「…………!?」
「なっ!?」
そこにいたのはヒーラーズ強襲兵と、ヒーラーズ強襲部隊で1人しかいない一般幹部――ルベライト中将がいた。
「ク、クラスタっ!?」
「ルベライトか」
私は2本の剣を手に取る。彼女はヒーラーズ強襲部隊一般幹部にして、戦闘士アーカイズの弟子だ。優しそうな顔してるが、油断ならない。
ルベライトは私を捕えようと、背中に背負ったジェット機を起動させ、宙に飛び上がる。ヒーラーズ強襲兵たちも身構える。だが、――
「みんなは下がってて。ここは私がやる!」
「ルベライトさん!」
ルベライトが飛んでくる。その手には細長い剣――レイピアが握られていた。斬るというよりも、刺すタイプの剣だ。私は剣を持ち上げ、構える。ルベライトは私の右肩を刺そうと飛び込んでくる。
「…………」
私はルベライトの攻撃を素早く避け、その身体を蹴り上げる。バランスを崩したルベライトは、壁に叩きつけられる。血を吐いて、床に倒れる。
「ルベライト中将!」
……ルベライトは私の命を奪おうという気は全くないらしい。それどころか、刺そうとすらしてなかった。右肩をレイピアで狙っているのかと思ったが、そうじゃない。ジェット機で飛び込んで、私を押し倒そうとしていた。傷つけずに、捕まえようとしたらしい。
「あんなに優しいルベライトさんをよくも!」
「クラスタを捕まえるんだ!」
100人近いヒーラーズ強襲兵が、私に向かってこようとする。こちらは私も本気でかかった方がよさそうだな。
「みんな、やめなさい!」
「…………!?」
「ルベライトさん!?」
フラフラになりながら、ルベライトは立ち上がる。あれだけ強く鋼とコンクリートの壁に突っ込んでおきながら、まだ立てるというのはさすがだな。普通だったら死んでいる。
「アーカイズさんの期待と、人の命…… どちらも、大切だけど、私は命を守る!」
そう言うと、ルベライトは私に向かって走ってくる。私は剣で応戦する。さすが、ルベライトはヒーラーズ強襲部隊の一般幹部になれるだけはある。かなりの使い手だ。だが……
激しい攻防。私は勢いよくルベライトの剣を弾き飛ばす。レイピアは、宙でくるくると舞いながら、持ち主の遥か後ろの床に刺さる。
私はルベライトの首に剣を突きつける。
「……お願いです。部下たちには手を出さないでください。私を殺しても構いませんから」
「…………」
「ルベライトさんっ……!」
「そんな、死なないでくださいよ!」
「死なないで、ルベライト中将!」
……ルベライトとアーカイズ。戦い方は似ているが、性格は真逆なのかも知れない。ルベライトは戦闘士の弟子には不向きのような気さえもする。
「……なぜ本気で戦わなかった? お前、私を殺す気どころか、傷つける気さえもなかったんじゃないか?」
「私はいつだって本気です。アーカイズさんの期待にも応えたかった。ただ、それでも、私にも信条があります。“自分以外、誰の血も流させない”という……」
「…………」
部下の血。そして、敵の血も流させない。それがルベライトの信条なのだろう。それがなければ、彼女はかなりの猛者だ。……猛者であることが、いいかどうかは別だが。
私は剣を鞘に戻し、歩き出す。ルベライトも、彼女の部下たちも手を出しては来なかった。私は広く大きな廊下を歩いていく。
だが、そのとき、どこからか大きな爆音が鳴り響き、一帯が揺れる。
「今の音は……?」
「……C区画にはゾイサイトがいます。彼女が暴れてるのかも……」
「そうか」
……ということは、パトラーがまた単独でこのジェネラル・シップに乗り込んできたのかも知れない。彼女とは長い付き合いだ。よく知っている。確かめに行った方がよさそうだな。




