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第十三章

 街中での刑事による犯人射殺、前代未聞の事態に北千住駅前は騒然として、通勤帰りの人々が、スマホカメラ片手に集まっていた。


「暴れる麻薬中毒者に対する正当防衛」と、警官達と観衆に説明した幸都は、無関係のように発車する、真中千早と数名の負傷者が乗った救急車を見送った。


 公開捜査が出来ないための消化不良の言い訳に、集まった野次馬は不満そうだが、幸都は地域課の制服警官達に以後の説明を丸投げして、道路の植え込みの縁に座り込んでいる伊伏に、近寄った。


「やられたな」彼は笑みは苦かった。「功を焦りすぎた……俺もまだまだ、だ」


 ──こいつもショックを受けるんだな……。


 敢えて事務的に尋ねる。


「伊伏、大まかの状況は分かったのか?」

「ああ、凶人はキング・ジムのオーナー松平良次、トレーナー酒井剛、そして週三で通っていた主婦の牧真知香まき まちかだ……既に捜査本部に報告している」


 伊伏がアメリカン・スピリットをくわえて火をつけるから、幸都は煙から顔を背けながら、呟いた。


「……それだけで済まないかもしれないかも」


「……『暴れた』凶人が、三名だからな……逃げた中にも、今日いなかった会員の中にもいるのかも知れない。それは他の刑事に任せよう……何しろ小川奈々を含めた数人のスマートフォンが手に入った。連絡を取っていた連中はすぐに割れる。普通の警官でも捜査はできるさ……最後の処理は俺達の役目だが」


「お前はこれを知っている?」


 幸都は掌に、真中から預かった折り鶴を乗せた。


「……確か戸田亜美の家にあったな」


 ふっと微笑んでしまう。



 ──伊伏、ちゃんと現場を隅々まで観察しているんだな。



「俺はこれを小川奈々の家でも見たんだ」


 煙草のヤニを肺に染み込ませている伊伏の目が、光る。


「誰の趣味だ?」


「篠本大志……キング・ジムで会った」


「……繋がったな」


「ああ」と幸都は頷く。


「篠本の家はどこだ?」


 伊伏はポケットから携帯灰皿を出して、短くなったアメリカン・スピリットを慎重に消した。


「名簿にあるはずだ」


「おーい、いぶっちー、大衡っちー」


 駆けつけた警察官と話していた加東が、手を振って近寄って来る。


「今、仕入れた情報だー。どーしてかオレ達に届かなかったヤツなー……牧真知香の家に捜査員がー行った。一歳と三歳の二人の娘と夫、姑の遺体をはっけーん……もっと状況を知りたい?」


「もういいよ」幸都はうんざりしたが、加東は許さない。


「ぜってー聞けっ! 娘と夫の体は大半が喰われていたそうだ。姑は刃物滅多刺しで押入に突っ込まれていたって……怨恨かなー?」


 同時に幸都と伊伏、加東の緊急時用スマートフォンが喚き出すかのように振動する。警視庁の無線アプリに緊急連絡が入ったのだ。



『こちらは管理官の谷田部だ、北千住駅で女が暴れている。富永達が行ったが歯が立たない……警官の一人は脚に食いつかれた……東部ストアでも同様の事件が起こっている……凶人だ。特務処理官が必要だ』



「了解」と無線に、伊伏が代表で短く答える。


「あんな大見得切ったのに、結局大騒動か」


 伊伏は捜査本部での一件を思い出したのだろう、自嘲している。


「大衡っちー、篠本って奴の住所。名簿にあったんだけどー……ヘンじゃねー? アーバンタワー北千住。東京スカイツリーのー絶景が見られるーつう高級マンショーン、1402号室、3LDK……」


「へー、随分金回りが良いんだね」


「ところがー大衡っち、篠本君はー名簿に書かれた会社をとっくに辞めてるらしー……その会社もー、中小どころか零細広告会社でー、ネットではー超ブラックと叩かれているー」


「都心の高層マンションに転居するにはこのご時世、出世しすぎだ」


「だよなー、いぶっちー」


 ふん、と伊伏が何かを笑った。


「おあつらえ向きに三カ所だ。どれがいい?」


「なら、オレはー近いからー北千住駅の女」


 加東がいち早く手を挙げる。


「俺は篠本に行く」幸都はかつて会った茶髪イケメンの顔を思い出し、その住処である高級マンションを睨んだ。



 ──いいご身分から狩り出してやるっ!



「了解した、俺は東部ストアだな」


 幸都達三人は、その場で自分が装備している拳銃を確かめる。


「行くか」伊伏が言うと、


「お前らの幸運をー、星にー祈っているぜー」と加東が夜空を見上げた。




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