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第十二章

 どがん、松平の頭が横にぶれ、中身が右側から飛び出した。


 松平の血と脳がべちゃべちゃと降り、筋肉で重い肉体が、幸都の体の上にぐったりと被さる。


「間一髪ってーやつー?」


 視界を転じると、拳銃を持った加東がいた。どうやら松平の頭を横から撃ったらしい。


 彼は幸都に片目をつぶると、ショートカットの女性の肩を喰っていたもう一人の女性……凶人を『処理』する。


「酒井はっ?」


 衝撃を押し殺し幸都が跳ね起きると、外の夕闇の中で酒井の死体を見下ろす伊伏が見えた。


 幸都は張り詰めた胸郭から息を抜いた。


「ヤバかった……助かった……」


「いやー、あんまー安心されてもさー」


 加東が肩を負傷して呆然としているショートカットの女性に、そっと上着を掛ける。


「失敗っしょ? 逃げた中に凶人がいたかもだしー。大衡っちー、いぶっちもー、何してんのー?」


 幸都は唇を噛む。加東は正しい。


 キング・ジムとの関係が割れた時点で、もっと慎重に動くべきだったのだ。小川奈々と親しく接していた松平を疑うべきだった。



 ──凶人に転化した小川奈々とあんなに近かったのに……可能性を持たなかった……。



 悔やむ幸都に、加東がしゃがみ込んでいる被害者を指す。


「オレー、いぶっちとー話してくる。この子は、任せたー」


 突如、傍らの女に噛みつかれた女性は、衝撃故にか固まっていた。


「もうすぐ救急車が来ます」


「……は、はい」ショートカットの女性は、ごっそり感情を失ったかのように、小さく頷いた。


「大丈夫ですか?」


「な、何? ……何が起こったの? どうして真知香さんは私に……」


 徐々にショートカットの女性の目に光が戻って来る。どうやら転化していた女性は真知香、と言う名前らしい。


「……知り合いですか?」


 速い呼吸を繰り返しつつ、女性は頷く。


「わたしとよく同じ時間になった人……子どもを産んだ、から、体型を戻したいって……仲がいいと、思っていた……の」


 どうやら被害者の女性はかなりタフらしい。こんな目に遭ったのに、滲んでいた涙が恥ずかしくなったのか、手で目元をさっと拭いた。


「……私は警視庁の大衡です。あなたのお名前よろしいですか?」


「真中です、真中千早まなか ちはや


 真中はまだぼんやりと、光だけが溢れているジムを見回した。


「これは……いったい……え? 痛い……?」顔をしかめる。肩に傷にようやく思考が届いたのだ。


「すぐに救急車が来ます」


「ええ……と、刑事さん? 何が、あったんですか?」


 凶人、とは答えられない。幸都は頭の中でパターンBを選んだ。


「麻薬です。薬物中毒患者が暴れたんです」


「ああ……」錠剤が溶けるような速度で、真中が頷く。少しは納得したようだ。


「でも……真知香さんが? 松平さん、酒井さんも?」


「……彼女の身元は分かりますか?」


 幸都は頭を砕かれている女性、千早の肩に食いついていた真知香を指す。


「え、いえ、あ、ああっ」


 突如、真中の瞳が揺れ出した。異常な事態にようやく心が追いついたのだろう。


 ──これはダメだ。パニックを起こしかけている……ここから離れよう。


 と判断した幸都が、真中を立たせようとする。


 救急車は外で待った方がいい。 


 ぽとり、と彼女のポケットから何かが落ちる。青い色の、青い折り紙で折られた折り鶴だった。


「これは……?」


 微かに真中の頬が赤くなる。


「これは……貰った物です……篠本君から」


「……篠本」


 幸都の頭の中で、何かが一つになった。



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