月明かりの下で
あれからココティアーナは部屋に戻り、寝支度をし、ベッドに潜り込んだ。
落ち着いた彼女の様子にダンティールはホッとしつつも、やはり心配で眠りにつくまで寄り添っていた。
「………。」
ダンティールが部屋を出たことを確認したココティアーナはゆっくりと目を開ける。
ごめんなさいお父さま。狸寝入りしました。
心の中で謝り、むくりと起き上がる。
ベッドから降りて、ベランダに出ると月の光が彼女を照らしてくれた。
「ふぅ……」
色々なことが起こりすぎて、頭がついてきてないや。
ちょこんと座り込み、膝を抱える。
ーー明日、トワ様に会えるかな?
このまま会えなかったら、次があるのか分からないのに…。
またね。って言ってくれたけど彼は隣国の王子様。そう簡単に会える方ではない。
「……っ、」
そう思うとだんだんと悲しくなってしまったココティアーナ。胸の奥の何かが込み上がり息苦しい。
ふぅーっとそれを吐き出し、顔を埋める。
どうしよう。
このままでは泣いてしまう。
グッと堪えるように唇を噛み締め、
「……トワさま」
「なぁに?」
無意識に彼の名を呟いた時、返事が返ってきた。バッと顔を上げるとそこにはロウに乗ったトワズロードがいたのだ。
ーーーえ? トワ、さま…?
驚くココティアーナは目を瞬き、軽やかにロウから降りる彼を見つめた。
「……ココ、泣いてたの?」
ココティアーナの表情を見るなりそう問いかけ、そっと頬に触れる。
彼の優しい手付きに顔が熱くなるのを感じ、
「な、泣いてませんよ?」
「でも悲しそうにしてた。」
そう言って、じっと観察するように見つめる彼にドキッと鼓動が高鳴る。
確かに泣きそうになったけど、トワ様が急に現れたからびっくりして涙なんて引っ込んじゃったよ。
なんて考えると何だかおかしくなり、思わず笑ってしまった。だってタイミングが良すぎだもん。
「ココ?」
「ふふっ、ごめんなさい。なんでもないです。」
と笑う彼女にトワズロードは小さく息を吐き、これ以上聞く事をやめた。
「……中に入りますか?」
「いいの?ありがとう。」
2人は部屋に戻り、ソファーに腰掛ける。
ロウは少し離れた場所で横たわり目を閉じた。
「ところでどうしてここに…?」
「会いに行くって言ったのにもう忘れちゃった?」
“またね”ってそう言う事だったの!?
ぽかんとだらしない顔をしまった私。
さっきまであんなに悩んでたのに蓋を開けたらなんて事ない話だった。
「……えっと、そしたらあの時のお話の続きをしてもよろしいですか?」
「うん。もちろんだけど、話しづらいなら無理しなくていいからね?」
そう言って私を気遣う言葉に胸の奥が温かくなる。
でも、トワ様に話したいと思った私は首を横に振り、ごくりと息をのんだ。
「トワ様が見える緑の光の玉は妖精でございます。わたしの加護は妖精王の加護で、その子供達がいつも側にいてくださるのです。」
「妖精王の加護……。初めて聞く加護の名だね。」
「はい。ルピシル国でも耳にした方はいません。なのでわたしが最初に加護を頂いた者となります。」
それからココティアーナは、魔法学園に入学するまでは国家機密となったこと。
加護と魔力は異例の3歳から発現したことなどをトワズロードに話し、
「なので…、このお話は内密にしていただけますか?出来れば、わたしが15歳になるまでは…」
「もちろん。話してくれてありがとう。」
と微笑む彼にココティアーナも笑みを溢すと、
「それで僕の体調を治したんだね。」
「はい。……そのかわりにトワ様に申し訳ないことをしてしまいました。」
しゅんと落ち込むココティアーナにクスクスと隣から笑い声が聞こえ、
「ずっと引き摺ってるね。全然気にしなくていいのに。」
「ですが……、」
とココティアーナが言葉を続けようとしたとき、背後から影が出来た。
振り向くとロウが側に来ていて、トワズロードを見つめる。
「ココ。ロウがどうやって治したのか知りたいみたいだよ。」
「……すごい。精霊獣様と会話が出来るのですか?」
「うん。心を通わせると自然と出来るようになるんだ。」
それを聞いて更に感動するココティアーナ。つまり、2人の間に既に信頼関係が出来上がっているということだ。
まだ、5歳だというのに…。
「えっと、わたしの魔力を流し込み、トワ様の魔力を循環させました。」
「そんなことが出来るの……」
と目を丸して呟くトワズロード。
やっぱそうですよね。普通は有り得ないですよね。
あはは…。と内心苦笑いしていると、精霊獣様が何かを言ったようで、
「…どうやら精霊と妖精は力の質が似てて、それで共鳴したみたいだよ。」
と教えてくれた。やっぱり共通してる部分があったんだ。
「だから精霊獣様も妖精が見えるのですね。」
納得したココティアーナはロウを見つめると、
『ココティアーナも知ったみたいだね。』
『……アルファ!』
突然、妖精王であるアルファがココティアーナに話しかけた。
『私達は住む場所は違うけど、妖精と精霊は同じ自然界の力を司るからね。』
『同じ自然界の力?それじゃあ、お母さまの水神様の加護やお父さまやお兄さまの風神様の加護も同じ自然界なの?』
『いや。私達のとは別の自然界だよ。どっちかっていうと私達の方が稀な場所かな。』
そう説明するアルファに感心していると、
「ココ?」
『おや。隣国の王子が不思議そうに見てるね。ココティアーナ、邪魔したよ。』
楽しそうに言うアルファはそのまま勝手に会話を終了したのだった。




