氷の精霊獣
「ーーっ!?」
突然、2匹の大型のトカゲの様な姿をした魔獣がココティアーナ達に向かって飛びかかった。しかし、それよりも早くサイが間に入り込み、剣で受け止め、もう1匹は大型犬の様な姿をした魔獣が対峙している。サイの契約魔獣である。
「殿下!ここは大丈夫なので、ココティアーナ嬢を連れて、城の中へ!!」
「分かった。」
サイの言葉に頷いたトワズロードは、こっち。とココティアーナの手を握って、庭園を出ようと走り出すが……、
『ココ!前から来るよ!!』
「えっ!?」
声を上げる妖精の言葉通りに前から唸り声を上げる3匹目のトカゲの魔獣が行手を塞いだ。
睨みを効かせながら、じりじりと近付く魔獣。ギロリとした目付きが、あの日初めて見た鳥の魔獣を思い出し、身体が震えた。
ーーーでも、私しかいない。トワ様を守らなきゃ…!
そう覚悟を決めたココティアーナは自ら前に出て、攻撃魔法を手の中に込める。その姿にトワズロードと視界に入れてたサイは心底驚いたのか目を見開いた。
なっ、御令嬢が前に出るなんで、相手は魔獣だぞ……!?
すぐに助けに行こうとサイだったが、次の瞬間の起きた出来事に、もう大丈夫だと判断したのか、そちらに向かう事をやめ、再び目の前のトカゲに目を向けた。
ーーこれは野生の魔獣ではなく、誰かが一時的に操っているな…。
魔獣の首辺りに術式が施された跡を見つけたサイはそのまま周囲を見渡し、同じ跡を探すと、
………いた。
術者を見つけたサイは自分の契約魔獣に生捕にするよう指示を出す。それに従うサイの魔獣は一気にトカゲを倒し、一目散に術者の元へ駆けていき、捕らえることに成功した。
ーーーーーーーーー
「ココ。下がって。」
「っ!?」
同時刻。ココティアーナは前に出て、攻撃を放とうしたら、トワズロードに引っ張られ、打ち損じてしまった。
「トワ様っ!危ないです!!」
「大丈夫。」
悲鳴を上げるココティアーナを庇う様にして立つトワズロードは冷静で、獲物を見つけたトカゲは鋭い爪で彼に斬りかかろうとした。
ーーーだめっ!!
心の中で叫んだその時……、
「ーーーロウ。出番だよ。」
トワズロードがそう呟いた途端、頭上で召喚魔法の術式が浮かび上がり、そこからホワイトウルフが現れた。
月明かりの中、姿を現したトワズロードの魔獣にココティアーナは目を奪われた。
2人の前に降り立った、ロウと呼ばれた魔獣はそのままトカゲの手と首を押さえ付け、食ってかかるように威嚇をする。
トカゲは怯んだが、今度は口を大きく開き、攻撃を仕掛けた。
「いやっ!」
あの至近距離じゃあ、当たっちゃう……!
思わず目を瞑ってしまったココティアーナに、
「大丈夫だよ。ほら。」
耳元で優しく囁くトワズロードの声に彼女はゆっくりと目を開けると、
ーーーあっ……、
「、凍ってる……?」
「ロウの得意魔法だよ。」
トカゲはカチコチに固まってて、ぴくりともしない。
「お怪我はありませんか?」
すると、2人の元に駆け寄るサイ。
「平気だよ。それより捕まえた?」
「はい。それで私は陛下に報告しに行かないといけないのですが、他の騎士を呼びますか?」
「ううん。ロウに居てもらうから大丈夫。」
「承知しました。フォース公爵様もお呼びしますのでココティアーナ嬢もここでお待ち下さい。」
「は、はい。」
一礼したサイはこの場を後にする。先ほどの騒動は何だったのだろうか…と思うほど、静寂に包まれ、
「大丈夫?」
「あ、はい…申し訳ありません。ボーッとしてしまって、」
軽い放心状態に陥っていると、トワ様は心配そうに私の顔を覗き込む。その距離がとても近い…。
「ごめんね。僕のせいで…」
「…どうしてトワ様が謝るのですか?」
トワ様は何もしてないのに……、
「僕の命を狙った者の仕業だと思うから。それにココを巻き込んでしまった。」
頭を下げるトワズロードに慌てて、
「そんな頭を上げて下さいっ、私はこの通り怪我をしておりません…!それにトワ様は私を守って下さいました。」
こちらこそありがとうございます。そう言って、優しく笑うココティアーナにトワズロードは目を丸くし、そのあと同じように笑ったのだった。
ーーそれにしても……、
私はトワ様が呼び出した魔獣を見上げる。
私達よりも何周りも大きな身体に白くてツヤツヤの毛並み。金色の瞳が見守るようにこちらを見つめていた。
「トワ様の魔獣ですか?」
「うん。名前はロウで、氷の精霊獣なんだ。」
「精霊獣……。」
初めて耳にした種類。特別な魔獣なのかな?
「精霊獣様。助けていただき、ありがとうございます。」
そう言ってココティアーナはロウにお礼を述べ、ぺこりと頭を下げる。
そんなココティアーナをじっと数秒間見つめ、ロウは一歩前足を踏み出すと、スリッと身体でココティアーナを撫でた。
「……ココって何者?ロウが気に入るなんて。」
「えっ!?」
驚いたように言葉を発するトワズロードにココティアーナも同様に声を上げた。
「わ、わたし、いけない事をしてしまったのでしょうか?」
「いや。ロウに限らず、契約魔獣は主人以外には懐かないんだ。」
な、なんと……!
また、何かをやらかしてしまった!と焦っていると、
『わぁ〜!とっても大きいね〜!』
『かっこいい!!』
『ココのこと助けてくれてありがとう〜。』
あぁ!いつの間にぃぃ!!
妖精達はロウの側で飛び回り、きゃっきゃっと話しかけていて、
「……どうやらロウもあの緑の光の玉が見えるみたいだね。」
「は、はい…、そのようですね。」
確かにあの子達の飛ぶ位置を見つめてる。
精霊獣と妖精って何か繋がりがあるの?
アルファに聞かないと分からないや…。
「……?」
あれ。そういえば魔獣と契約が出来るのは10歳になってからじゃなかったけ?
ここに来ると決まってから、タンザナイト国についての知識を身に付けてきたココティアーナ。ちらっとトワズロードを見ると、視線に気付いたのか首を傾げて、
「どうしたの?」
「あ、あの…、タンザナイト国では10歳になってから魔獣と契約出来ると聞いていたのですが、」
とそこまで言ってからココティアーナは気付いたのだ。
ーーはっ!もしかして聞いちゃいけないことだったかも…!
しかしもう手遅れであり、気まずそうに言葉を濁す彼女にトワズロードはクスッと笑い、
「うん。ココの言う通り魔獣との契約は10歳になってからだけど、王族は5歳から可能なんだ。」
「そ、そうなんですね。……あの、私に言って大丈夫なのですか?」
聞いた私が言うのもあれなのですが…、と不安そうに見つめると、
「本当は国家機密だから内緒ね?」
「や、やはり…!?あ、あの申し訳ありませんっ!」
「ううん。ココならいいかなって思ったんだ。だから気にしないで?」
そう言って笑うトワズロード。
そんな彼からの信頼にキュッと胸が締め付けられたココティアーナは意を決して口を開く。
「トワ様、私の話を聞いていただけますか?」
「……もちろんだけど、いいの?」
話しても大丈夫なの?とでも言う様に心配するトワ様。私が何を話そうとしてるのか察したみたい。
でもトワ様だって言ってはいけないことを躊躇なく話したのに、私だけが秘密にするわけにいかないと思うの。
「はい。あの私の……」
「ココっ!!」
話を切り出そうとしたとき、遠くから名前を呼ばれ、振り向くと、
「お父さま…!」
「大丈夫か!怪我は…してないようだな。」
ぎゅっと抱きしめられ、顔や身体のあちこちを確認するダンティール。
「はい。トワ…トワズロード殿下が守って下さいました。」
何となく人前で愛称を呼んではいけない気がして、敬称をつける。
「そうか。殿下、娘をありがとうございます。」
「いいえ。こちらこそ巻き込んでしまい、申し訳ありません。」
そう謝るトワズロードにダンティールは、ちらっと彼の魔獣を見た後、首を横に振り、
「とんでもございません。
すみませんが、娘を部屋に休ませてもよろしいですか?」
そう言って、一緒に来た騎士に確認をし、すぐに了承を得たのかココティアーナを抱き上げ、歩き出してしまった。
どうしよう……。話せてないのに…、
困った私はトワ様に視線を向ける。
すると、彼も私を見ると小さく口を動かした。
「………!」
ーーー“またね”。
声を出さず、そう言い放ったのだった。




