隣国のお客様3
「……んぅ、あれ、もうあさ…?」
寝返りをしたココティアーナは目を覚ます。深く眠ってたような気がしたが、時計を見るとまだ朝方で少しだけ明るい空がカーテンの隙間から見える。
ーーーあの子大丈夫かな?
ふと思い出すのはタンザナイトの王太子であった。加護の力で治したからきっと大丈夫なはず。タンザナイト陛下だって、安心してたし。
「………。」
もし、また苦しんでたら?
不安になったココティアーナはゆっくりとベッドから降りたのであった。
ーーー誰か警備してるかな。って思ったけど、誰も居ないや。
廊下を歩くココティアーナが向かう先は王太子がいる客室だった。
メイド達が働き出すまでまだ時間がある。その隙に様子だけ見て、すぐ部屋に戻ろう。
うんうん。と頭の中でシミュレーションをしている内に部屋の前に辿り着く。
扉の前も誰も立っていなかった。
やっぱりみんな寝てるんだね。でも、王族の方がいるのに見張りをつけないなんて大丈夫なの…?
ソーッと扉を開けるココティアーナ。真っ暗かと思ったが、カーテンの隙間から光が漏れ、少しだけベッドを照らしていた。
これならお顔もよく見えるわね。
よし。と一歩踏み出したその時ーー、
「ーーーだれ?」
「っ!?」
声変わりする前の男児特有の高い声が響き渡り、ビクッとココティアーナは驚いた。
えっ!もしかして、起きちゃった!?
王太子が目を覚ますというまさかの事態に慌てふためくココティアーナに、
「そこにいるよね?」
王太子の確信めいた声色にココティアーナは意を決して返事をした。
「は、はい。勝手にお部屋に入って、申し訳ございません…。」
すると、王太子は起き上がったのか、シーツの音が頭を下げるココティアーナの耳に届く。
「なんで入ってきたの?」
「そ、それは…、殿下の体調が気になって…」
「僕の、」
そう呟くと、言葉が途切れた。
これはやばい。怒られる所じゃない。とココティアーナの頭の中は、フォース家没落や処刑など悪い方向へ巡らせるのだった。
しかし、
「……もしかして、君が助けてくれたの?」
「へ……?」
そこでやっとココティアーナは頭を上げた。それと同時にカーテンがひとりでに開いた。王太子が魔法を使って開けたのだろう。
夜明けの光に照らされた彼の顔がよく見え、2人の視線が交わった瞬間、ココティアーナの中で何かが駆け抜けるような感覚に陥った。
初めて見た時と同様、パーマかかったブラックネイビーの髪色と整った顔立ち。それに加え、光り輝く宝石ベニトアイトのような色の瞳に彼女は惹かれた。
そんな彼もココティアーナの混ざり気のないふわふわのブロンドヘアに、くりっとした透明感あるローズピンク色の瞳が自分を見つめており、なんだか胸の奥がうずいた。
「え、えっと、それは……、」
ドキドキと鼓動が高鳴るココティアーナ。
ダンティールとの約束を思い出し、口をつぐむ。
どうしよう。言っちゃダメよね。
困った彼女は眉を下げ、思考を巡らせていると、
「今、聞いたことは忘れて?」
「えっ……?」
何故か王太子はそう言ってくれた。
すごく助かったけど、でもなんで?
うーん。と考えていると、彼の口から衝撃的な質問をされた。
「ーーーそれより、君の周りに飛んでる緑の光の玉はなに?」
ーーーえ。
こてんと首を傾げた彼は私に向けて指をさす。そろーっと横を向くと、いつの間にか私の周りにぱたぱたと妖精達が飛んでいて、
『おはようココ〜。起きるのはやいね!』
『あっ!あの子も元気そうでよかった!』
『ほんとだ〜!ココのおかげだね!』
やった〜やった〜!とくるくる飛び回るその姿はとても可愛い。……じゃなくて!!
「あ、ご、ごめんなさいっ!!」
「えっ!まっ、」
謝罪の言葉を口にしたココティアーナは翻し、引き留めようとした彼の声を無視して部屋を出てしまった。
そのまま極力足音を立てないようにして、自室に戻り、ベッドへダイブする。
「どっ、」
どうしよう!なんで見えたの!?
隣国の王子様だよ!?
「あるふぁーー……」
キャパオーバーしたココティアーナは枕に顔を埋め、こもった声で妖精王の名を呼ぶと、
『おはよう。呼んだか?』
数秒もたたない内にアルファは白い光の玉の姿でやってきて、愛し子であるココティアーナに挨拶する。
「おはよ…。あのね、私以外に妖精達の姿が見える子が現れたんだけど、その子も愛し子なの?」
『昨日、ココティアーナが助けた男のことか?』
「うん…」
ココティアーナは顔を上げ、こくんと頷くと、
『きっと、ココティアーナの魔力を彼の中に流したからだろうね』
「えっ…!それが原因!?」
てっきり、輸血するような感覚でいたけど、それって結構やばいよね…!
「だ、大丈夫なの?」
『平気だろう。』
「……なんかアルファ、気にしてなさそうだね。」
焦燥なココティアーナとは裏腹にアルファは平然とした声色で会話をする。特に焦りを見せない彼にココティアーナは訝しげな顔を向けた。
『あぁ、恐らくあの男の……、いや。いずれココティアーナにも分かるだろう。』
「なにそれ教えてくれないの?」
何かを知ってるような素振りをみせるアルファに不貞腐れていると、
『そう案ずるな。ココの魔力によってあの者の身体に悪影響は及ばん。』
「……もう、十分におよぼしてるよ。」
見えないものが見えちゃうなんて、霊感をもつのと同じじゃない。
『兎に角、ココティアーナが気にする事はない。ほら、昨日は遅く寝たのだろう。まだ寝ていろ。』
そう言って、アルファはシーツを浮かせ、彼女の身体にかける。なんとも世話焼きな妖精王だ。
ココティアーナは身体の向きを変え、寝る体勢をとる。
どうかあの子が誰にも言いませんように。
と願いながら、彼女は眠りについたのだった。
ーーーーーーーーー
あれから数ヶ月後。ココティアーナはダンティールに呼ばれ、執務室へ向かった。
「お父さま。ココティアーナです。」
「あぁ、入りなさい。」
執務室なんて初めて入るけど、私に用ってーー?と思いながら、ココティアーナはカーテシーをする。
「ココ。タンザナイト陛下を覚えているだろう?」
「はい。」
タンザナイトと聞いて、緊張が走る。もしかしてバレちゃった?と内心ドキドキしていると、
「今度、仕事でタンザナイト国に行くことになってな。」
「お仕事…」
てことはお父さまとはしばらく会えないんだ……。
外交官であるダンティールは時折、他国との交流を図る為、家を空けることが多い。今ではココティアーナも慣れてきたが、最初の頃は寂しくて泣く日もあった。
「そこでな。丁度、国主催のパーティーもやるようでね招待状を頂いたんだ。」
そう言って、ダンティールは2枚の招待状をひらひらさせる。
………2枚?
首を傾げるとダンティールはにっこりと笑い、
「ココもお呼ばれされたから、一緒に行こうね。」
「………。」
ーーーはい?
数秒後、令嬢らしからぬ叫び声を上げるココティアーナなのであった。




