隣国のお客様2
苦しそう…?
妖精達の声がした方に顔を向けると、奥にベッドがあり、そこでわちゃわちゃと騒いでいた。
もちろんココティアーナにしか聞こえないし、見えない為、2人は突然振り向いた彼女を見て、少し驚いた表情をした。
クロスロードは彼女の視線の先がベッドであることに気付くと、
「落ち着いたと思ったが、まだ辛いか…」
ぽつりと呟くとそちらへ足を進める。ベッドがある場所は灯りが消えていた。
そのため誰が寝ているのか分からないココティアーナは、
「お父さま…、誰か寝てるの?」
「ああ、陛下の子息がね、」
「へぇ、……え?」
子息って、さっき私と同い年っていう国王様の子供の事?多分、王太子ってことだよね?国王様と部下の方々だけじゃなかったの!?
と、またもや慌て始めるココティアーナ。
「ここに来たのは天候の事もそうだが、実は殿下が体調を崩されてな…、」
「お、お医者さまは?」
「陛下に病ではないからと断られてしまって…。きっと理由があるんだろうけど」
そう言うダンティールの顔はとても心配そうにしていた。やはり同じ親として気掛かりなのかもしれない。
大丈夫かな……。
ダンティールの憂いが移り、心配になったココティアーナは気付けばベッドの近くまで来てしまった。
「本当はココティアーナ嬢にも紹介したかったのだが、息子がこの状態ではな…、」
「いいえ…!」
とんでもない、と首を振った彼女はゆっくりとベッドに視線を向けた。
クロスロードと同じブラックネイビーの髪色にパーマが少しだけかかっている。シュッとした顔立ちでこのまま成長すれば間違いなく眉目秀麗な男になるだろう。だが、今は眉間に皺を寄せ、荒い呼吸を繰り返していた。
ーーこんな苦しそうなのに何もできないの?
胸がぎゅっと締め付けられ、ただその姿を見つめるしかないのかと思うココティアーナに、小さくて頼もしい子達が声を上げた。
『ココ〜。』
『ココなら治せるよ〜?』
「えっ、ほんとう?」
驚いたココティアーナはそのまま声に出し、妖精に話しかける。いきなり話し出した彼女にクロスロードは不思議そうな表情で見つめた。それに気付かないまま会話を続けるココティアーナ。
『うん!この子に触って、ココの魔力を流してあげればいいんだよ〜』
『そうしたら、魔力の道筋がはっきりして巡りが良くなるはず!』
「……わかった。」
人に魔力を流したことはもちろんない。けれど、妖精王の加護を認めてもらったあの日からココティアーナは魔法や加護、教養、マナーの勉強が始まったのだ。
教養とマナーは代々フォース家の家庭教師をしている人から学び、魔法と加護はなんと宮廷魔術師団のルーセル師団長から学んでいるのだ。
宮廷魔術師の長が直々に教えることなど普通はありえない。しかし、これはルーセル師団長からの提案であった。
宮廷魔術師団では新たな魔法の開発などを研究する研究員らがいる。多くの人が研究熱心であるがちゃんと場を弁えている。
しかし、中には深く隅々まで根こそぎ調べるマニアもいるのだ。
まして、3歳で魔力を発現し、初めて認知された妖精王の加護を持つココティアーナなんて最高の研究材料である。
そういう輩がいることを耳にしていたダンティール達。何としてでもココティアーナに近付かせないように、と対策を考えていた矢先にルーセル師団長からお声がかかったのだ。
それは、ルーセル師団長自らココティアーナと接触することで彼らの牽制に繋がるというのだ。でも、師団長はただでさえ多忙な人。そんな方にお願いするのも……。と思ったダンティール達だったが、3歳である彼女に付ける先生をどうしようかと悩んでいた所でもあったのでこの案をのんだのである。
そして、ココティアーナはルーセル師団長の元で魔法と加護を学び、日々成長しているのであった。それはそれはメキメキと…。
ーーーこのままだときっとつらいよね。
ココティアーナは真剣な表情でベッドに一歩近付いた。
何かしようとする彼女を見て、ダンティールは慌てて止めようとしたが、それをクロスロードが制した。
そっと、彼の手を触る。目を閉じ、ゆっくりと自分の魔力を流し始めた。すると、王太子の身体が白い光に包まれると息苦しそうだった呼吸が次第に落ち着き、穏やかな表情へと変化したのだった。
「……国王さま。もう大丈夫です。」
「あぁ、これは驚いた。実はな、魔力が上手く循環出来ず、苦しんでいたんだよ。」
そう言って、クロスロードは息子の頭を撫でる。その表情は安心したように見えた。
それを見て、ホッとしていると、ココ。とダンティールに呼ばれ、そこでやっと自分は大変なことをしてしまったと気付く。
「お、おとうさま……、」
恐る恐る振り返ると、じっとココティアーナを見下ろすダンティール。
言いつけを破ってしまったココティアーナは怒られると思い、ぎゅっと目を閉じると、
ーーーポン
ダンティールの大きな手がココティアーナの頭を撫でる。
「……?」
見上げるとダンティールは仕方なさそうに笑い、
「ココ。本当に遅くなってしまったから、もう寝なさい。明日、お寝坊さんになってしまうよ。」
そう言って、クロスロードに頭を下げると彼女の背中を押し、扉へ向かう。
そのままココティアーナの部屋へ辿り着き、ベッドに潜り込むと、ダンティールはおでこをひと撫でし、軽くキスを落とす。
「魔法と加護の使い方がまた上手くなったな。」
「……怒らないの?」
「ん? どうして?」
「だって、約束守らなかったから。……ごめんなさい。」
シーツを目元まで引っ張り、隠れるように身を縮めるココティアーナ。
反省の色を出す娘の姿にダンティールは苦笑いする。
約束は破ってしまったが、別に悪いことをしたわけではない。それにタンザナイト国の王太子の体調が戻ったのだから良しと考える。
まぁ、この後を考えると少し面倒ではあるが……、
「苦しむ人が目の前にいて見過ごすなんて優しいココには出来ないからね。でも、次は気をつけるんだよ?」
「はい。」
こくんと頷くココティアーナを見て、ダンティールは微笑むとまた頭を撫で、彼女が眠りにつくのを見届けるのであった。
ーーーーーーーーー
「戻りが遅くなりました。」
「いや。ココティアーナ嬢は眠ったかね?」
クロスロードがいる先程の部屋に戻ったダンティール。待ち構えてたかのように彼は声を発した。
「にして、ココティアーナ嬢は何の加護を授かったのかな?」
「それはお答え出来ません。」
既にココティアーナは加護持ちだと断定するクロスロード。直球な質問は彼らしい。と思っていると、
「答えられないってことは珍しい加護なんだ。」
「それはご想像にお任せします。」
もはや言ってるようなものであるが、この男の前で隠そうとも遠回しに言うにも、あまり意味がない。勘が鋭いのだ。
でも、こちらも言われっぱなしになるつもりはない。
「殿下の体調不良は、契約魔獣が原因ですよね?」
「ほぅ…、どうしてだ?」
クロスロードは、にやりと面白そうに口角を上げた。それはダンティールがどんな見解を言うのか楽しみにしてる時の表情であった。
「タンザナイトの王族の皆様は魔力量が多い。それに3歳で魔力が発現し、すぐにコントロールの訓練が始まる。何故なら5歳の時に魔獣と契約をするからです。なのでその分の魔力がまだ馴染んでいなかったのが原因かと思われます。」
「なるほどね。よく口外無用である我々一族の契約魔獣の事を知ってたね。」
「貴方が若い時にポロッと私に話していたではありませんか。」
「えっ!本当か?」
「えぇ、そんな機密情報を言うなんて。と思いましたので私の心の内に留めておきました。」
タンザナイト国では魔獣と契約出来るのは10歳になってからであり、かつそれまでに基礎魔法を完璧にしなければならない。理由は魔獣が言うことを聞かなくなり、殺される恐れがあるからだ。
王族らが5歳で魔獣持ちなんて知れば、それよりも前に狙う者も現れるであろう。
しかし、幼少期から誰よりも早く厳しい訓練を受けている彼らを狙おうなんて無謀に近い。それくらいタンザナイトの王族らは強い上に契約魔獣が特殊なのだ。
「で、どうなんですか?」
「ん?」
「惚けないで下さい。どんな魔獣と契約したのですか?」
「それはまだ言えないな〜」
「なら私も言えませんね。」
ダンティールがそう言い返すと、残念とでも言うように溜め息をつくクロスロード。
「いずれ分かることですよ。お互いに。」
「そうだな。…なら少し飲まないか?こんな時ぐらいしか気軽に話せないからな。」
「いいですね。」
こうして2人は昔に戻ったかのように会話を楽しむのであった。




