第30話 憤り
ハァリナの城内侵入、リチャードの勝利
それとほぼ同時刻に、柳犁は
グレイブと、対面していた
「……心配、してくれてたんだね」
「ああ」
「てっきり、僕はもう心の底から
君に嫌われてしまったんじゃないか?
なんて考えてたよ」
「なんつーかな、気色悪いとは思ってる」
「……キツいなぁ、柳犁君は」
地下に聳える大聖堂
その礼拝堂にて、二人は出会った
決してグレイブは、祈りを辞めず
決して二人は、顔を合わせることをせず
ただ、その場で……言葉を交わす
「それでも俺は、アンタが好きなんだよ」
「……愛の告白、じゃないよね」
「そこだ、そういう所が気色悪いってんだ
告白なんかじゃねぇよ……
ただ、人として
アンタは、尊敬できる人間だと思っていた」
「どこが!」
叫び
グレイブは、自らを
尊敬の対象だと言った柳犁に対して
心からの叫びを、ぶつけた
「僕のどこが!
尊敬するに値するって言うんだい?
僕は、僕だけの為に!
君達を……殺そうとした」
「ああそうさ
俺達はアンタに一度、殺されかけた
正直……あん時残った連中の仇かも知れねぇアンタを
俺は、許そうだなんて考えちゃいねぇ
だからここに、俺は来た」
初めて出会った時から、この人はずっと笑っていた
正直言って、そん時のテンションは……
ウザくて仕方なかったんだが
それでもこの人の笑顔には、優しさがあった
初めてだよ
こんなにも……他人のことを考えられる人と出会ったのは
他人が嬉しい時には、一緒に心の底から笑ってくれて
悲しい時も……一緒に、涙が枯れるまで泣いてくれる
こんなにも人間味があって、穏やかな人
俺は今までの人生で一度も……出会いはしなかったなぁ
だからこそ憧れた……
こんなにも、人として輝かしい
誇りを持てる、この人に
だから俺は!
グレイブさんをぶん殴る為にここへ来た
理由なんざ知らねぇが
この人が……窮屈そうで仕方ねぇ
そして、俺に出来るのは……
「アンタをぶん殴る
その為に……だ」
「…………そうか……そうか
君は、私を……止めに」
この時
ここへ来て初めて、グレイブさんは
俺の方を……向いて、顔を合わせた
しばらくぶりに見た、その顔は
やっぱり……笑ってはいなかったよ
「やっぱり駄目なんだ
僕だけで、こんなことを……判断するなんてのは
弱いなぁ……ほんっと、僕の意志は
これを、見てよ」
そう言うとグレイブは
教壇の横の、スイッチを押した
すると、ステンドグラスで描かれた神の象が割れ
その中には……
「………………コイツは」
「これが、僕が国を裏切れない理由
僕の……大切な愛娘
『リューリン・ラー・ブランディー』」
そこに現れたのは、巨大な水槽
その中心に、確かに一人……女性の姿が浮いている
どう見ても、生きているようには見えない
だがかすかに、この時柳犁は
彼女が生きていることを、感じ取っていた
「かろうじて……まだ生きてはいる
魂は……ここにある
体だって修復したんだ!
でも何故か……まだ
起き上がって来てくれない……」
十年前、ある事件をきっかけに
彼女は、魂だけの存在へと化してしまっていた
それを女神の力を借り、ここまで
目覚める一歩手前までの、再現には成功した
「だけどそこから先は……僕次第だって
柳犁君、君を……この手で殺せと
そうすれば、リューリンは助けてくれるって!」
愛する娘か、愛する柳犁か
そのどちらかを選べと、グレイブは
その狭間で、自分に抗い続けていた
だがそれは、同時に
柳犁の逆鱗に、触れることとなった
「冗談じゃねぇ!
勝手に俺を、そんな引き合いに出してんじゃねぇぞ
そんなに大事か!テメェの娘が
生きるか死ぬかの、瀬戸際だってんならよぉ……
だったら見ず知らずの俺なんか、
ぶっ殺しちまえばいいだろうが!」
「出来るか!そんなことが……
君を……僕に殺せと?」
柳犁はなによりも
自分自身のことを勝手に、良いように使われるのが大嫌いだ
このグレイブは、柳犁のことを使ったのだ
柳犁と敵対する理由に、自らを……
必要以上に苦しめる要因に!
「んなことに……んなことのために
俺はアンタと出会ったんじゃねぇぞ、なぁ」
邪魔なものは全部、ぶっ飛ばす
そんな気概もねぇくせに、アンタ
人を好きになったわけじゃあ、無ぇよな?」
「………………」
邪魔なら構わず、俺を殺していけ
そう、柳犁は言い放った
人の枷になるならば、その存在毎消せと
自分勝手極まりない、暴論だが
グレイブをふっ切らせるには、十分過ぎる言葉だった
「グレイブゥゥゥゥゥ!!!!!」
「……ありがとう」
<<ヴァゴン!!>>
一発!
いきなりの先制攻撃は、素手
単純に、グレイブのいた箇所を殴り付けた!
だが当たらぬ
当然の如く、グレイブは
その攻撃を躱し……即座に
<バギィ!>
攻撃へと転じる
「俺のパンチを軽く躱して
隙のできた背面へと蹴り掛かる、か
アンタ……思ってた以上に、動けるんだな」
「勿論……
コレでも僕は、頭角の実質的なトップ
あのオルテンシアより強い立場にいたんだ」
「言うて能力込みでしょうに
ただの素手じゃ、アンタでもオルテンシアさんには勝てまい?」
「いいや、能力無しでだ
僕の能力は、無能力者の彼には無力……
よって、この順位とは
純粋な僕の、腕力を物語っている!」
「亜空破斬」
<ザシュッ!>
容赦無き一撃
ガード不能の攻撃を、この柳犁
グレイブの心臓部へと、直接放つ!
<グヴィヨォン>
……しかし、その攻撃は不発!
グレイブの心臓部へ直撃する、その瞬間
異様な角度で、曲がり果てた
「!?」
嘘だろ……おい
確かにこの、時空破斬は
昨日今日とで作った、即席の奥義……
ろくに試しもせずに使ってはいたが、まさか
不発になることがあるだなんて!
動揺
柳犁は、この事態に動揺せざる終えなかった
絶対の信頼を置く、自らの能力が不発となったこの事態
分かっていながらも、その動揺がさらなる隙を露わにすると
分かっていながらも柳犁は、その動きを止めてしまった!
だがグレイブ
なんとそこに付け入るどころか
その事態に関しての説明を始めた!
「驚いたかい、柳犁君
これこそが、私の能力……
『支配者特権』
その名の通り、私の能力は
他の能力を支配する
と言っても、柳犁君レベルの相手じゃあ
能力を無効化するくらいが、関の山かな」
なーるほど、無効化と来たか
通りで無能力者相手にゃあ、無力っ言うわけだ
普通の考えで言っちゃあ、この能力者戦において
相手の能力を封じれんのは、軽く反則ってとこだろうが……
グレイブさん……この俺の真価は
そんなチャチな能力だけじゃあ、ねぇんだぜ!
「……わぁあ」
<ガシィィィ!!!>
俺の真上で、いつでも背中狙えるってなぁ
マウント取ったつもりでいた、アンタをよぉ
力づくで!
マウント取り返してやったぜぇ、俺は
力任せに、柳犁は
グレイブを己の真下に組み伏せた!
背骨の中心に、下半身と上半身の軸となる部分に
全体重を乗せ、不動のロックを完成させた柳犁は
すぐさま!その拳をグレイブへと叩き込む!
<バキィ!>
「…………これでいいか」
しかしその拳には、一切の力が篭っていない
軽く……多少頬が腫れる程度の威力で
柳犁は、グレイブの顔面を殴った
「……っへ?何……これ?」
理解不能
柳犁のこの行動に、何色を示すグレイブ
それもそのはず
何故なら、先ほどまでの柳犁は
本気でグレイブを殺そうと、そんな気迫であった
だが実際……グレイブに放たれた、その拳は
決して、人を仕留める為の拳ではなかった
「これでチャラでいいか?
アンタが償うべきっていう、罪への贖罪は」
柳犁は、グレイブが犯したとゆう罪を
何一つ、理解しようとはしていなかった
「まどろっこしいことは全部、これでパーだ
こっから先は、責務だのなんだのの戦いじゃねぇ
グレイブさん、アンタ要するに……」
その中で一つ、柳犁の出した結論は
「ストレス溜まってんだろ?
だったら吐き出さにゃあ」
全部忘れて馬鹿になれ
責任、贖罪、憤し
それらあっても、害100%
だったら一夜に
忘れましょうや
………………
「遅いなー、柳犁」
一方、礼拝堂前にて待たされた
加藤太郎くんはと言うと
大分暇をしていた
「しっかし俺も……
女神さん方、敵に回してるんだからねぇ
ここいら一帯も、敵地に早変わりと」
ついさっき、ノリに任せて
柳犁について来たのはいいものの
下手すりゃ……普通に命落とす選択なんだもんなー、これ
今更後悔……もう遅い!
いつまでも優柔不断じゃ駄目だ!
この喧嘩……コイツだけは、最後までやり切らなければ
「さーて、柳犁が出てくるまでの間
ここの門番でも、張らせて頂きましょうかね」
「シーシシシシシシ、ガービー
なーんかめんどくさそうなのがいるシー」
……あれ、人の声
ってそれって……敵じゃ!?
「っとぉう!テメェ誰だお前!
ここから先はなぁ、この俺が通さんデイ!」
「シシ知ってる。
門番だってねぇ、きみぃ」
なんだぁーコイツは?
えらくデカい口しやがって……
それになんだぁ?シシシって、笑いすぎだ
まったくふざけた奴だなぁ
頭角にいたか?こんな奴
「僕ちん、ペンパド言うの
一応しがない天使やってっから、よろしく」
ああ、わざわざ挨拶どうも
ってええ!?天使って、アンタそりゃあ……
「ま、八大天使長なんですけどねー」
加藤太郎VSペンパド・ジーザス
次回へ続く
次回 俺の生きる道 その1




