第29話 ずっと消えないこの思い
「ほーんじゃ次いで!
アンさんにも、くたばって貰いましょか!」
「があぁ!!」
即死とはいかずとも、相当な毒を受けた体で
目の前の男へ食らいつく……リチャード
しかし、体は等に毒で侵され
いつ死のうとも、解らぬ状態
それでもリチャードは、飛びかかる
目の前のそいつを、引き裂く為に
「トロイなぁ!」
<バキぃ!>
「ガぉう!!」
だが体は限界
立ち上がるのもやっとなのだ
そんなリチャードの攻撃は、見切られぬ筈もなく
逆に隙だらけの頭部に、蹴りを打ち込まれる!
それでもこの男は、止まらない!
思……考、回……路も
まとも……には……働き……ませんが
殺……させや……しま……せんよ
メル……ヴィルちゃんは……僕を……
好き……だって
誰よりも、愛を欲するが……この男
その根源は……今より遥かな昔、その時へと遡る
「笑いなさい、リーチェ」
笑いなさい
それが母の、第一の教えでした
辛いときも……悲しいときも
顔が悄気げてしまっては
真の意味での幸せが逃げてしまうと
笑っていれば、きっとそう
今がいくら辛かろうと、いつかは報われる日が来るから
「母様、リーチェには分かりません
お医者様は言っていました、母様は……もう助からないって
現在の医学では、とても手の施しようがないって
なのに……母様は、もう死んじゃうって分かっているのに
なんで幸せな日が来ると、思っていられるのですか?
なんで……そんなに笑顔でいられるのですか?」
「……リーチェ、それは違います
だって私は、ほら……
今がとっても幸せなのですから」
母様は、死ぬ
紛れもなく、それが事実の筈なのに
皆はもう……助からないって言っているのに
母様だけは……ずっと笑ってる
病気が進行したから、一切の身動きが取れなくなって
もう、ベッドの上から動くこともできないのに
それなのに……母様は、自分が幸せだと言って
笑い続けている……
なんでですか?
そう、私は一度
母様に聞いたことがあります
その時に、母様はこう……
「貴方が居てくれるからよ
貴方も……お父様も、リズも
私が居なくなったって、そうやって
貴方のように、私を思ってくれる人が居る」
思い?
それだけじゃ、母様はそこに居ないんだよ
居なくなっちゃうんだよ、母様は
「だからね、私は居なくならないの
貴方達が、私のことを覚えてくれている限り
私はしっかりと、そこに居るんだから」
そう言って母様は、私の胸に手を当て
「いい、リーチェ
これが私の教えてあげられる……最後の言葉
この胸の中で、ズキズキしてる……この痛みは
『愛』って言うのよ」
「愛?」
「そう、愛よ
それは時には、貴方を苦しめる毒になるかもしれない
けどね、愛はたまーに
甘酸っぱい、幸せを運んできてくれるものなのよ」
そう言って母様は、それから2日後に
私の心の中へ、消えていった
母様、やはり私には分かりません
ズキズキも、甘酸っぱいも……
だってずっと心臓は、バクバクって
死んでしまうほど、痛いのですから
愛とはなんですか?
教えて……くれませんよね
母様はもう、この世にはいないのですから
ですが心配しないでください
愛とは何か……結論が出ましたから
愛とは……呪いなのでしょう
人の心を締め付けて、淡ゆくば殺してしまう
そんな力を持った……呪い
ですから、私は必死になって学びました
その、呪いを……
「どうですか?苦しいですか?
ならばそれでいいのです、だって私は
貴方のことを、決して忘れない
愛し続けてあげますから」
「助……け……て」
助ける?何からですか
母様は、間違いのない方でした
人が嫌がることを決して行わない、誠実な方でした
なら、母様が最後に……わたしへと与えたこの愛こそ
全ての方々が納得する、愛の形なのでしょう?
それなのになんで……そんな顔するのです
なんでそんなに悲しそうに……私がおかしいのですか?
ほら、笑って……ほらこうやって
クッフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ
「てめぇか殺人鬼
人の山でまぁ大層なこと、やってくれてんじゃねぇの」
…………男……ですか
ではいけません、だって母様は女
女相手にしか、この愛は成就しないのでしょう?
ならば……男になど……
「プハぁ!
何?そんなことでオメェ、人殺しなんてしてたのか?
ばっかじゃねぇの!てんでおかしいぜ、がっハッハッハ!!」
「な……にゃにがですか
それにこれ……にゃんです
一口のんだだけで……頭がクラクラと」
「はぁ?オメェ……酒も飲んだことねぇっつーのか?
ガハハハハッハッハ!!こりゃ傑作
オメェ……とんだお間抜けちゃんだな」
「…………ヒック」
駄目だ……まともな思考回路が……でない
「いいぜ、だったら教えてやるよ
本物の愛ってのが、なんたるかを」
そこからは悲惨でした
本物の愛を教える、などとほざいて
キャバクラ……おっパブ……ピンサロ
今考えれば、愛などとは程遠い……僻地
そんな場所へと連れ込まれては、私のお金を散財して……
遂には
「これっぽちか、チッ
しらけるぜ……金がねぇんだったら
二度とうちに来るんじゃねぇ!!」
<バタン>
現金が底をつき、身包みを剥がされ
パンツ一丁で、夜明けの街に放り出されたこともあった
「あぁあ……もう朝か」
「どうします
コレじゃもう、資金がありませんよ」
「そうか、んじゃちょこっと
割りのいい商売知ってんだが……二人でやらねぇか?」
それでも何故か、私は前以上に……
その時が楽しくて仕方なかった
私は知らなかったのだ
ちょっとした悪友というのが、ここまで愉快だったとは
そして、何よりも
「そーいやリチャード
オメェまた、エツコちゃんの誘い断ったんだってぇ
それに、店の子み〜んな言ってたぞ
最近お前、なんか付き合い悪いってな」
「いりませんよ、そんな毎晩毎晩
誰彼構わず腰触れるほど、尻軽じゃないんでね私は」
「そんなこと言って、最初はノリノリだったじゃない
なーんかお母ちゃんお母ちゃんって
マザコン気質だったオメェを思って
熟熟パブ片っ端からまわってやったツーのによ」
「…………それがですねぇ
最初は、無条件に反応もしたものなんですけど
少しズーつ、子持ちにしか反応しなくなって来て……
と言うか、家にいった時迎えてくれるその子にぼ」
「待て待て待て待て待て待て
オメェ、まさか…………
マザコンじゃなくて、ロリコン?」
ロリ……コン?
「そのぉ……ちっちゃい子のことが好きな……」
「ああ、それそれ
最近はそれがマイブーム……」
「最悪だよ、最低のシフトチェンジですよ
マザコンからのロリコンって……
極端な野郎だなー」
そう、何よりこの私は
ロリコンなのでした
その、ロリコンの意地にかけ!
目の前で倒れるロリへと
手を差し伸べぬわけがないでしょう!
「はぁん?まーだ向かってくんのか!
おっそろしい執念やなー……っと
アンちゃーん、知っとんのか?
テメェが守ろうとしてるもんに、どれだけの価値があるのか」
メルヴィルちゃん……を
守らずにはいられない!
何故ならば彼女は、ロリだから
「だったら教えてやらぁ!
どれだけの覚悟でこのガキ、助けたいのか知らんが
コイツは捨てられたんだよ、家族から!」
……!?
「ワシは人の不幸話っちゅーのが大好物でなぁ
この人間界と接触するぅ、なったとき
腹が持たれるほど、下劣なエピソードを貪ったわ」
その男は、今まで以上の下卑た笑みを浮かべて
誇らしげに、それを語りだした
「そん中でも、人間ってなー外見!
他人からどーう見られてるかに、えらく過敏や
特にコイツは、その最優秀賞
コイツ自身、なーんもしてないのに
弱いからって、家から追い出されて
裏の市場で捌かれて……
相当苦しかったんじゃないの?
酷いよなー、人間って
自分で撒いた種すら、軽く捨てちまうんだからさぁー」
家族……から
「どうだ?
家族にも見捨てられちまうよーなガキをよぉ
他人に救ってやれる、義理っちゅーもんはあるのか!」
…………そうですか
貴女も……メルヴィルちゃん
愛を、欲していたのですね
「さぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁー!!
このガキが傷物っちゅーんで、助ける気概もなくなったろ!
そーゆうもんだもんなぁ、おマンら人間はぁー!!」
<<ドゴォ!>>
「………………あひぃ」
瞬間!その男は殴り飛ばされた!
そう、他の誰でもない……リチャードの拳に!
「なんっ……でぇ
ただでさえ瀕死だったっちゅーに
なんで……おマンは……立って」
「腹立つんですよ、傷物だとかどーとか
そんなもの、二人の間にはなにも関係ないじゃないですか
それが『愛』ってものなんですよ……
そこを詮索するならば、最初から愛するなどとは程遠い」
リチャードは、立っていた
毒に侵された筈の、その体で
それでも尚、獲物を捉えた……眼光で
「チッ、馬鹿がぁ!
その体で無理するっちゅーことは
自分の寿命を縮めるっちゅーことなんやぞ!
わかっとんのかおマン!死にたいってーんじゃ……」
「笑止千万!
彼女を救う為ならば、この命惜しくもない!
まぁ……どうせ私は死なないんですけど」
この男、リチャード……不死!
この時点で既に、自らの受けたダメージを完治している!
そう、最初からこの男
決して、敗北することなどあり得なかったのだ!
「!?なんや……その回復スピード
可笑しいやろ!まさかおマン……
最初っからカマ掛けてたっちゅーのかい!」
「騙し合い、とも言えませんね
だってそもそもが……
強さそのものが、私と貴方じゃお話にならない差
なのですから」
「ふざけるなぁー!!
だがまてよ、コイツだコイツ!」
そう言うと相手は
地べたに転がる、メルヴィルを掴みあげ
「コイツがどーなってもええっちゅうのかい、ええ!?
されたくないよなぁ……だったら
黙ってワシの言うこと聞いて貰おか……」
「否」
<ザシュ>
「がっ!?ああああああああああああああ!!!!」
だがリチャードは
メルヴィルを盾にされても、動じず
メルヴィルを掴んだ、相手の右腕を切り落とした!
そしてメルヴィルを、優しく抱き上げて……
「すみません……メルヴィルちゃん
貴方に傷をつけぬと、あの約束……
守れませんでした」
「馬……鹿
そんな……こと、言ってる暇じゃないでしょう……に」
「リッチャードオオオオオオオ!!!!!」
腕を落とされようとも、足で
未だリチャードへと挑む、その男に
リチャードは、惨殺を言い渡した
「他人の不幸のみを頬張る、その傲り高った人格
万死に値します、よって
ここに冥府の捌きを、施しましょう」
「がああああああああああああああ!!!!!!!」
「針獄・刺刄幕御裏」
<<ザザザザザザザザシュッイ>>
「ぼ……うら」
無数の針が出現し、男の全身を包み込んだ!
貫き、抉り……完膚なきまでに
その男の生命を終わらせた!
「懺悔も何も、聞きませんがね」
八大天使長 フォン・レッジェイ
全身を針に貫かれて死亡
冥王 リチャード・クラッチズール
割とピンピンしながら生存
頭角 メルヴィル・イルゼル
治療が間に合い生存
次回 憤り




