第23話 初期設定なんてそのうち消えてなくなるもの
前回のあらすじ
腕、捥ぐ
「各自厳戒態勢!目標…東方より急接近!!」
「皆備えよ!新生頭角、編成初の大仕事だ!」
そう、俺達の前で指揮を取るのは
新生頭角再編成時にて、その順位をNO.2にまでくり上げられた
俺直轄の上司に当たる、クロノス・アーデンス・レッジ
「そのようだ…ならば我々も今直ぐに
指定の持ち場へと向かうとするか」
新生頭角NO .7『コンゴルテン・バッカス』
「我々だけで?
八大天使長方に知らせなくて良いのですか」
新生頭角NO .8『サンチェス・マーダーゾーン』
「そんなのはもう上層部の人がやってくれてるんじゃない?
面倒くさいことはいいから
私等は言われたことだけやってた方がいいんじゃないの?
そんな下手に動いても…」
新生頭角NO .9『リュリューレ・ミッドサム』
「そうか…?でもな…
お前はどうする?」
そしてこの俺
新生頭角NO .6『カルデロウ・ドラグニカ』
「えっと…とりあえずは
持ち場についた方がいいんじゃないかな?
急なものだ…そう悠長に、指示も仰いではいられまい」
「そうね、それがいいわ
じゃ、私行きますんで…
後々に処理することがあったらよろしく
期待の星、さん」
はい、私が期待の星です
先日…頭礼祭に出場し、敗退した我々各人だったが
その後の内乱において、頭角の半数が離脱
事情は分からないが…急遽、その穴埋めとして俺達は抜擢された
そう、穴埋めとして…だ
この俺、カルデロウ・ドラグニカは
女神様に選ばれ転生した…選ばれた、選ばれて…
選ばれたんだよ!それでここ来たんだよ!
特別なんだ、この俺は!
そうさ!
現に俺はこれまで、一度たりとも敗北したことは無かった!
この死竜の能力を持って…全ての戦いに圧勝し
富、名声を思うがままにこの手へ収めてきた…
そして!満を辞して、この世界最強の国家組織
頭角への加入の為、この戦いに挑んだ…
しかし!その結果が…1回戦敗退だと!?
相手はどこの誰かも分からない転生者…つまり俺の後輩だぞ!!
自分以下の人間に、俺は負かされた…
それが単にどれだけの苦痛か、分かったもんじゃないよな
その上、その野郎もどさくさで居なくなったってことで
後釜、俺そいつの後釜だぞ
なーんもできてないのに、なーんもできないのに
お情けでこの地位につかされた感じ、やってらんないよもう
はぁ…一応、なにやってるか分かんないけどこの仕事
着いちまったら仕方ない、こなすしかないのか
ってことで…担当場所、行きますか
「いいか、あくまで予測された侵入ポイントがここだ
実際はどのような事態になるか…検討もつかない
敵は前代未聞!たった数名で一国家を敵に回した連中だ!
各々…充分に警戒を…」
三点…この王国中央に侵入されるとしたら
三ヶ所の侵入ポイントが予測される
その内の前方…中央門付近の、最も王城から遠い地点
それが俺の担当ヶ所だ
元より駐屯していた兵士数千名と、指揮官クラスが五人
そして、俺を含めた頭角が…
二人、来るはずなのだが…もう一人が未だに姿が見えない
しかしどうもおかしい…敵はたったの数名なはずなのに
これだけの厳戒態勢を敷いて…まるで本物の戦争だぞ
どうにもこの仕事は、嫌な予感しかしない…
続けていても、はてさていいものか
「…来たぞ!直ぐ真上の、上空!
飛来してくるぞおおおおおお!!!!」
早いな…もう来やがったか
確かに真上に輝くものが…!?
なんだありゃ…もう直ぐそこじゃねぇか!
3、2、1、ダイレクト!!
「"分散"」
<<ドゴオオオオオオオン!!!>>
落下してきたアアアアア!!!マジで…
なんか普通に突っ込んできやがったアアアアア!!!
「!?総員…構えろおおお!!!」
え!?あの距離からおっこちてきたんだよ!
もう死んでるだろ!構えろって…まさか
そいつはまだ、生きてるってのかよ!
「邪魔だて…多いな、丁度いい」
「えぐれた地面の…砂煙から
来た!起き上がったぞ!」
人影が…本当に、あの距離から落ちて
無事だったなんてことは
「テメェ等、知らねぇか?
ボンキュッボンのねぇちゃんを…」
「撃てっ!あの首を打ち取れぇ!」
「そいつの腕ぇ…取りにきた」
<<<ヴィゴォン!!!>>>
<<<ゾラァァァァァァァァァァァ!!!!!!>>>
一振りだった
たったの一瞬、俺は奴が持っている刀をただ
一回ぶん回しただけに見えた…そう、たったのそれで
ここに居た半数以上が吹っ飛ばされた!!!
「野郎がああああああああああ!!!!!!!
どこだ!どこにいやがる!なぁお前知らねぇか!」
「し、しししししししししsss知らないです!!!」
「だったらくたばれやおらぁ!!
おい!!テメェはどうだ!!!」
「知らないです!知らないですから…
助けてくださ…」
「そうか
邪魔だどけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
容赦ねぇえぇぇぇぇ!!!!
まだ意識のある奴を捕まえては、ブチのめし回ってやがる…
しかもあの容姿…知らされていなかったがアレ
俺を倒しやがった…天理柳犁!!
「だぁ…っと、埒があかねぇな
こんな凡兵、いくらぶっとばそうが
まともに情報も持っちゃいねぇ…
やっぱりアレかぁ?攫われた姫様ってのは
お城の最上階にでも囚われてんのがセオリーってものか?
そんじゃそっち行こうかって…
バリア貼られちまってんじゃどうしようも…」
「死竜咆哮ォォォォォ!!!!」
<<<ヒグルウウウウウウギャアアアアアアア!!!!!!!!!!!!>>>
「あん?」
許さねぇ…ここで会ったが100年目!
前の大会での屈辱を、ここで晴らす!
「ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「………」
<ヴィシュン>
!?俺の死竜咆哮が…消えた!
あの男に当たろうって、直前で!!
姿が消えて無くなりやがった…どうして
「ふーん、それなりの火力持ちもいるか
だけど残念。たかが高火力じゃあ俺には…
傷一つ負わせられねぇ!!」
前回この人はラグナロクの超火力ビームに当たっています
そしてそれを、かなり根に持っています
そのくせこれです
笑ってるよ…エゲツない顔で笑ってますよコイツ
憎しみに満ち満ちた顔してるよ…
今直ぐにでもその目標の女見つけたら
嬲り殺しにしそうな勢いだよ
「っで?お前は知ってるか
俺の探してる女をよぉ」
「し、知らねぇな…
だがもし知っていたとしても、お前になんざ…」
”やめなさい、ドラグニカ”
これは…女神様の通信!?
”まともにやり合っても勝ち目はありません
ここは一旦…彼を例の場所へ誘導しなさい”
あそこへ…なんの為に!
”あそこには彼が居る
八大天使長きっての腕利き…その彼が”
なるほど、じゃあそこに
「そうか、知らねぇのか
じゃ、狩る」
突っ込んできやがった向こうからぁ!!
殺意MAXだよあの人
ガチで殺す勢いだよ!!
「死に晒せやボケェェェェェェ!!!!!!」
ああ死ぬ!マジ死ぬ!
もう振り下ろされる寸前!
真っ二つにされます!
ありがとうお母ちゃん、ありがとうギルドの皆
前の世界で生まれたことも
この世界で生きてたことも忘れません!
だからどうか、生まれ変わった時は
スズキになって大海原を泳いでいたい!!
「嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!!!!!
知ってます、本当は知ってますその人のこと!」
「あ?」
なに言ってんだ俺ェェェェぇぇ
助かりたいからって何言ってんだ俺!
知りもしないことを知ってるって嘘ついて…
いや誘導さえ出来ればいいんだけどもし
この場だけ切り抜けても
絶対にバレてコテンパンにされるよ、後で!!
「なんだそうか、知ってんのかお前
い〜や悪かった、本当悪かった
流石にそれ知らないだけで殺してやるのもか可愛そうだから
いい具合に殺さね〜ようにしばくだけにしといたが
いい加減殺っちまってもいいかな〜と思っていたとこで君
助かったよ、さぁ…どこにいるのか案内してもらおうか」
案内!?この俺に案内しろってか!
どうするよ…
場所だけ教えろってなら、まだ逃げられたかも知れないのに
「えっと、その…はい、分りました
じゃああの、案内しますんで
僕の後、着いてきてくれますか」
仕方ない…やるならやってやる!
コイツを、あそこへ連れて行ってやれば…
あそこなら、コイツもただじゃすまねぇ筈だ
ちくしょう…今に見とけよ
「そっかサンキューな!
なるべく早めに頼む…大分急いでるんでな」
「はいはい…じゃまずそこの道を…」
「え、何?
お前も異世界転生者なの?
奇遇だなー、初めて会った」
「ええええ始めまして
いやー異世界広しと言えど
こんなところに同郷二人…
珍しいこともありますなあ」
なんで俺がこんな奴のご機嫌とりしなきゃなんねんだコラァ!!
女神様の命とは言え…
誘導するにも、機嫌を損なわれたら終いだ
てか前にも俺達合ってるだろうが!
あの時の大会で…俺をボッコボコにしたクセによ
お前がやった奴のことを覚えてないのかも知れないが
お前にやられた奴は、必要以上に根に持つものなんだよ!
「でもなー安藤くん」
「違います加藤です
僕本名、加藤太郎って言います」
「え、何?夜は焼肉太郎くん?」
「それ佐藤です」
結構なペースで走って移動しながら
よくこんなに喋れる余裕があるな、この人
俺結構疲れてきちゃったよ…
なーに、なんで異世界まできて
こんな持久走みたいなことやらなきゃいけないの
「そうか加藤ちゃん
お互い異世界生活、苦労してるみたいだな
これからも何かあったら協力して
頑張って生きてごうな」
なんでしんみりしてんのこの人
なんでもう俺等ダチ公みたいな
人類皆んな友達みたいなスタンスしてんの
これから貴方をがっつり嵌めようとしてるんだよ俺
つーかさっきのもアレだけど
なんでこの人こんなことやってんだ
よりにもよって転生者が
女神様敵に回すなんてな…まず正気じゃないぜ
いったいなにを考えて…
このキャラクターの心理描写を描いた脳内表記
今の所今回は、加藤太郎君一人分しか表示されていないが
一方、柳犁の脳内はと言うと
”………………………”
なにも考えていない
「そーですねー
あっと、着きました…ここです」
この街の中心である城からまた、かなり離れたこの場所
数日前の騒動で、荒れてしまった市街地の後に建てられた
女神様との結託の証たる神殿
遂にここまで…天理柳犁を誘導することに成功した
「これは…城ほど立派とは言えねぇが
ヒロインが囚われてるってには十分…
おあつらえ向きな場所じゃあねぇか」
「ええ、この中にお目当ての人は居ますよ
それでは、私はこれで…」
「おう、道案内ありがとよ」
しめた…コイツ疑いもしてねーよ
純真無垢な顔して中へ入ってったよ
やりましたー女神様ぁ…
これで、この男に制裁を!
<<ズガアアアアアアン!!!!!>>
「…っへ?」
なんで…なんか俺、吹っ飛ばされた気分なんですけど
おもくそ宙に浮いて…俺
「ゆーどーご苦労、カルデロウ君
ま、後は僕達天使様に任せて…
次こそあの世へ逝っちゃいな」
意識も…遠く
「!?慎太郎おおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「やーあお間抜けさん
わざわざ僕のところまで来てくれて、ありがとうね」
「テメェ、よくも孝太郎を…
コイツは腐ってもお前の仲間じゃあねぇのか!」
「たかが人間如きがなにを…
まさか貴方達下等種族が本当に
我々天使と平等に仲間などと言えますか」
「この野郎…待っていろシンタック
お前の仇は、この俺が取ってやる」
「いや割とまだ意識あるんで…
まだ死んでもないんで!!」
忘れねぇぞ…タッキュン、お前と過ごした日々をなぁ
絶対に、この俺の手で必ず…
いや脳内に直接すみません
僕太郎です。
名前がどんどん原型なくなってきてますんで
いい加減正しく覚えてくれませんか?
「ですが礼儀正しく、名だけは名乗らせて頂きましょう
私は八大天使長が一人…『トレイル・リードラッフェ』」
いーやこの人に名乗っても大して意味ないと思うんですが
絶対覚えられないと思いますから
「トレイル・リードラッフェ…覚えにきぃな
だが礼儀には答えねぇとな。俺は天理柳犁、O型です」
いや一発で覚えてんじゃねぇか
加藤太郎の方が覚えやすいと思うけど覚えられなかった?
なに、逆に特徴が無さ過ぎるのも要因なんですかー
つーか血液型とかどーでもいい
「あらあらご丁寧に…では
始めるとしますかね」
きた!臨戦態勢だ…
来るぞ柳犁!
仇を撃ってくれとまでは言わねぇが
一発くらいぶん殴ってやれ!
あれ…俺どっちの味方だっけ?
「こいよ…あの女ぶちのめす前座だ
精々無様にやられてくれよぉ…」
柳犁も剣を構えた
来る…二人のぶつかり合いが!
「しゃうらぁぁぁぁぁ!!!!」
<ザシュッ!>
先手!柳犁の攻撃が入った
なんちゅう剣圧だ…一振りで
とんでもねぇ量の砂埃が舞ってやがる
まず助かりもしねぇだろうがこれじゃ
相手の姿も捉えられねぇ
「呆気なさすぎるねぇ
真っ二つに別れた体こそ確認できねぇが
今の手応え…完璧に逝ったろ」
「いや恐ろしい…これが
我々の敵一人の力ですか」
後ろ!?
後ろから野郎の声が…
どーゆーこった!今!
ぶった斬った野郎が、俺の後ろに…
「手刀…突きぃ!」
「ウラぁ!!」
<ザシュッ!>
なんで今ので殺られなかったのか知らねぇが
後ろに居ようとも…とった!
今度こそ確実に、胴体をぶった斬ってやったぜ!
「無駄無駄♪僕を真っ二つにしようだなんてそれ、無理だから」
「や…野郎!」
コイツ!
上半身と下半身が分離してやがる!
いや、分離させたのは俺だ…ドテッ腹切り裂いたんだからなぁ!
それで上半身が浮かんでやがる!
なんで生きてやがるんだ!
<ガシィ!>
しかも素手で!
俺の剣先を掴みやがった…
マズい!これじゃあ俺の動きが止められるどころか
アレ下半身!まだ残ってるんだもんなぁ
「ほらキィック!当たっちゃえ」
やっぱし、蹴りかかってきやがった!
だが、その気になれば!
刀の動きを多少封じられてようとよぉ…俺は!
そいつごと刀ぶん回すだなんて訳ねぇぜ!
「があ!でもやっぱ重ぇ!」
しかしこれで!
てめぇの蹴りは防げ…
「!?柳犁!後ろだ!!」
あん!?加藤茶ん…何を叫んで…!?
俺の、後ろ?今の後ろってことはさっき
野郎をぶった斬…まさか!
<バッシィィィィ!!!!!!>
「やーん柳犁くーん、乱暴ー」
「野郎…なんで!なんでてめぇ等、二人いやがる!」
俺の全身を動かないようにホールドしやがんのは…
もう一人の…コイツ!
ちくしょう…なんてこった
コイツ、体を分離出来るどころか
複数体に分身することもできるのか!
しかも感触までまんま人間だ!
じゃなきゃ、俺が斬ったと勘違いすることもなかったからな!
その上このパワー…流石は天使様と言ったところか
この俺が、軽く振り解けねぇんだからなぁ!
<ダガン!>
「くっあぁ!」
ケッコー効くじゃあねぇか…野郎の、蹴りが
俺の横っ腹をよぉ…蹴り上げてくれちゃってまぁ
「あぁん辛そうな顔
でも辞めない、だって二回も…君は僕を斬ったんだよ?
しかもこれは蹴りだ…二回死ぬまで、後何回蹴ればいい?
百回やそこらじゃあ、まったくもって足らんよなぁ
つーことできっちりと、死に晒しやがれぇ!」
「柳犁!」
「カトちゃんよぉ…随分とまぁ
敵の俺の為に声援送ってくれるんじゃないの…」
「なぁ!?」
アイツ、やっぱり本物の馬鹿なのか!
全身は関節技でブロックされ、身動きが取れず
これからリンチにされようって時にあの余裕…
俺の必死の叫びを…ただの声援だとぉ!
「何をほざいてやがる
あちらの加藤さん、必死に貴方が死なないよう
できるだけのことはやっているつもりですよ?
まぁそれが声掛けだけだなんて
彼にも余裕は無さそうですが
なのになんで…一番必死になるべき貴方が!
そんな顔でいられるんです!」
柳犁の、顔…
そうだ、柳犁の顔はさっきから…ここに来たその時から!
ずっと…笑っているままだ!
「可笑しいか…こんな死地でずーと笑ってられんのが
逆だ逆!こんな時だからこそ、
笑ってでもいなきゃあやってられねぇぜ!」
「愚かな…それほどの身の程知らずだったとは
もういい、興醒めです…次の一蹴りで
もう、終わりにしてあげましょう」
なんでだよ!相手は天使だぞ!
分かってた筈だろ…天使を、女神を、世界を敵に回すってことが
どれだけ大それたことか!どれだけ…無謀なことか!
分からねぇわけもねぇ!
なのにそれを…目の前でだぞ…笑ってだぞ…
今まさに、それをやっちまってる野郎が…ここにいる!
俺だって腹の一つでも立てたさ!
女神共の、天使の…連中の身勝手さにはな!
でも逆らって、生きてられるわけもない…
相手は、まさしく世界だぞ!
だから俺は付き従ってきた!
連中の…言う事だけを聞いて、この世界で生きてきたんだ
なのにどうして…ここまで苦しいのだろうか
今目の前でああやって
勝てもしない相手に挑んでるアイツが
ここまで、羨めしいと感じるのか
こんなにも…自由だと思えるのか!
「くたばりなさい、最後はこの私の足と
私の足とで、頭をはさみ潰して差し上げましょう」
「やめてくれ…美女のお味脚ならともかく
野郎の脛毛だらけの足に挟まれても…嬉しくねぇ…」
「安心なさい…
そんな喜びもなにもない
素晴らしい冥界へ送ってあげますから
どうか観念を…」
やられる!一切の身動きも取れずに…柳犁が!
野郎の蹴りに…潰される!
「おらクロス!
チョップ?
キック!」
食らぁ…
<ガッチィ>
わ…なかった!
「な!?
なんだぁ!これは!」
「だぁから言ったろ!
俺が挟まれてぇのはなぁ…
ふわっふわの、太ももだけだぁ!!」
<ギュル>
「あれはっ…鎖だ!
天使を柳犁ごと、鎖でグルグル巻にしてやがる
あれじゃあ身動きがとれない!
それこそが、あの柳犁の能力なのか!」
逃れられない!
柳犁の強靭なる鎖の呪縛からは
何人たりとも、身動きを取ることを許されない!
柳犁は蹴りの当たるスンデの所で
自らと一緒に、トレイルの身体パーツ全てを括り付けた!
「だが馬鹿めっ!
この鎖で体の自由が効かなくなるのは
僕達だけじゃあないんだぜ!」
そうだ!あれは柳犁ごと…敵の動きを封じている
このままではあの鎖を解かない限り…柳犁すらも
自由に動くことができない!
「それでもってこっちにはよぉ…
仲間がもう一人いるんだぜ!」
まさか…それは俺かぁ!?
"ええドラグニカ、今です!奴を消し去りなさい"
女神さまぁー!?
待ってください…俺はアイツに、殺されかけたんですよ!
"それでも動けるのでしょうが!
そんなもの…彼の射程に入った貴方が悪いのです
たったそれだけのことで文句を言っていないで
今貴方のやるべきことをしなさい!"
俺のやるべきことだぁ!ふざけるな、そんなもの俺は…
"まさか貴方まで我々を裏切るつもりですか
よもや知らなかったとは言わないでしょうねぇ
我々に楯突くことは、一体何を意味するのか?
そこの男と一緒に消されたくなければ
素直にコチラの言う事だけを聞きなさい!"
「だああああああああああああああああ!!!!!!」
"構えた、死竜咆哮の構え…
それでいいのです、そのまま…
あの裏切り者を処断なさい!"
「死竜!」
俺の手の中に収束する死のエネルギー…
コイツを…このままの勢いで!
数カ所に分散する!
「暴燐!」
<グオシャア!!>
"!?、…これは!!"
悪いな…女神様
この力と、この世界へ転生させてもらった恩あれど
これ以上、俺が気に食わない生き方はできそうにないんでね!
死竜暴燐!
直線上に全部放出されちまう死竜咆哮のエネルギーを
いくつかに分けて、多方向からの攻撃を可能とした
ちと制御に精神が持っていかれるが、この局面
あの天使にだけダメージを与えるには、これしかない!
「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
<ヒグン!>
「向かってくる!
どけ!どかせ!この鎖を!
そうだ!なんで裏切ってるんだアイツはよぉーーー!!!」
「ビックリだねぇ、まさか
アイツにそこまでする勇気があったとはねぇ」
なぁ、加藤太郎!
<ドバシィ!>
「ダビィイィィイイイガ!!!!
上半身A、B…再起不能…」
直撃!
上下に別れていたトレイルの二つ分の体は
死竜暴燐の直撃をもって粉砕!
柳犁が鎖を解くと同時に、地面へと崩れ落ちた!
「助かった…またありがとな、カトちゃん」
「いいってことよ
程々、コイツ等のやり方には反吐が出そうだったんだ
俺もアンタと一緒に…自由にやらせてくれ」
"なぁぁぁぁぁにをしてんだぁぁぁぁぁ!!!
貴様等!このような暴挙…許されると思っているのか!
我々神を相手にして、ただですむと…"
当然怒り心頭かぁ、女神様は
柳犁さんに聞こえるくらいデケェ声で交信してやがる
それに…コイツはどう答えたものか
「知るか!テメェ等神ごときになんかなぁ!
これ以上…尻尾振ってついていけるかってんだ!
今、この時をもって!この加藤太郎…世界、相手にします」
「よく言った!気分がいいもんだねぇ…堂々と!
神に対しての宣戦布告!させていただきやす」
<バァァァン!!!>
"………馬鹿共が…そのような蛮行、粛清されて然るべきです
行きなさい!トレイル・リードラッフェ!
その能力の真髄を見せつけるのです!"
さっきの野郎が!まだ生きてるのか、アレを食らって
「生きてんだろうな…さっきのはただの分身
あんな攻撃無効とかいう便利性能の分身があれば
わざわざ本体が自ら先陣きる必要もねぇからな!」
そうか…まだあれだけの精度の分身が!
いくらでも出て来ようってのかよ!
いいやいい、いくらでもこい!
そいつ等全部…ぶっ飛ばしてやるからよぉ
「ふふふ、仕方のない人達だ
神に喧嘩を売るなどとは、正気の沙汰ではない
いいでしょう、それほどまでに死を望むのなら
私達が、死刑執行人を努めましょう」
麗しき木偶人形」
いや、なにこれ
啖呵きったのはいいけど、なにアレ
思ったのより数倍、出てきたんだけど
全方向一面!人影だらけなんですけど!!
「ええ…ちょっと多すぎやしませんかね
ここまでやりますかー、普通…
ってレベルで人口密度がハンパじゃねぇぞ」
「なんで少しビビってんだよアンタ…
アレだけ調子づいた発言ぶっこいたのによー
ここで怖気付いてどうす…」
「怖気付いちゃいねぇよ…
ただどうすっかってんだ、これを
この数だぜー…全部ぶっ飛ばすにもよー
ああ、ダル」
だるいって、面倒くさいって言ったよこの人
いやマジで、なんでこんなことやったのこの人!?
”ぎゃははははははははははははははははは!!!!!
やられるがいい!その無限分身の能力は、文字通り無限!
無限に超耐久の分身を生み出し続けることができる…
しかも!その戦闘能力は一級品!
一国家団体も軽く凌ぐその力…
貴様等に耐え切れるかああああ!!!!!!”
うるっせ、女神うるっせ!
しかも結構重要そうなスペック漏らしてくれたよ!
それでも勝機見えてこないよ、どうなってんだコレェ!
「仕方ねぇ…だるいけどやるか
ああ、ちょっと…そこどいてくれる?」
「へ…この状況でなにやろうっての」
後ろっ側の神殿に俺を退けて…その前へ
唯一の障害物となって、あの大群のやってこない神殿を背に
柳犁は…刀を下げた
「いやまぁ、ここいら一帯消し飛ばすのも早いが
それじゃあコスパが悪すぎらぁ…
今の時代、もうちょい効率良く始末しなくっちゃあなぁ」
そう言うと柳犁は、体勢も下げ
深く…その力を刀へ集中させる
目で見て分かる…だってあの刀身
なんか色変わってきてるもん!
「加えてこっちは簡単だ…
ちょいとここいらの空間を、この刀に集めるだけだ」
ちょいと?
アンタにとってのちょいととはなに!?
随分と随分なこと言ってると思いますけど!
空間を歪め、刀身にいわゆる…
ブラックホールを作り出すのがこの技術!
「見晒せ…『絶・亜空覇刃』」
<<グシャルルルルルラァァァ!!!>>
うわすっごい風!
本当だ…本当に刀身全部に、空間が捻じ込まれているみたいだ
アレを中心に、とんでもない乱気流が発生して…
いや軽く嵐だよ!天変地異だよ!
空模様もなんかエラいことになってんですけど!
なにアレ…あんなの本当に、一個人の所有していい能力なの!?
ひしひしと感じるよ…どう見てもアレ危険だって
なんか本能に訴えられてる気がするよ…
「よーし準備完了!
やっちまうぜ〜、大所帯…
一族郎党、根っこから刈り取ってやるよ」
う〜わ、悪い顔してる
やっぱり悪人だよ柳犁さん
絶対ロクなことしないよ
絶対ロクなことにならないよ、これから
”…なんですこの力は
いやそんなことはいい
やってしまいなさいトレイル!”
「言われずとも!」
あー遂に突っ込んで来た!
「ほんじゃ柳犁さん、やっちゃってください」
「あいよ
見ときな…この俺の超奥義!
この一振りで…」
振った…なにもないとこで剣振りやがった
なんで…んなところで
<<ズバババババババババババババババババババ!!!!!!>>
「がぁ!?」
”これは…”
斬れてる!周りの分身共が斬られてるぅ!
柳犁がか!柳犁がさっき振った…あの剣
アレがなにかしらのアレでああなてるのか!
「絶・亜空破斬…あんのラグナロク相手に
絶っ殺の斬撃を生み出しはしたが…
これをこう考え直した…飛ぶ斬撃ってな!
んま要するに、俺の射程距離内に入ろうもんなら
全員等しく、首チョンパされるっつーこった」
「うーわ、普通に反則でしょそれ…」
「射程距離っつっても
いる場所さえ正確に分かれば、ほぼ無尽蔵だし
最悪俺本体が攻撃されようもんなら
その攻撃は次元の彼方へ消える…
改めておかしい性能してるなー、俺」
「いや凄いのはアンタの能力でしょうが」
”嘘…でしょ
あの一瞬で、あの軍勢の大半をなぎ払っただと!”
いーや驚いたよ…
マジに一瞬でみんなやられちゃうんだもん
なんつーか、こうも呆気ないと
達成した感がないなーっていうか
俺が何もしてないだけか
「おーい女神様、聞こえてる?
聞こえてるのー、こっから話せるのかな?」
「ちょ、いきなり頭触るな」
頭鷲掴みやがって
テレパシーで会話してるからって
頭ごなしで他人も会話できるわけねーでーしょーがい
”聞こえていますよ…天理柳犁
いったいなんの用でしょうか”
あれ、普通に会話してるよこの人達…
しかも女神様めっちゃ冷静やし、どしたの
「おう、アンタ知らねぇか?
あの…胸元見せビッチ、名前は確か…」
”ラグナロク様、ですね”
……誰?
「やっぱしグルか…
無事なんだろうな、サーシャとミリエルは」
”ええ、二人共ご無事ですよ
仲良く…眠ってらっしゃいます”
「どこに居る?」
柳犁の目が…マジだ
今までにないくらい…つかコイツにこんな顔できたんだ
それだけ真剣に話してやがる!
”ですから、そこの彼が言っていたでしょう
その、神殿の中にですよ”
!?マジか…マジにこの中に居るのか!
嘘だろ…ただの誘導の為の方便かと思ったが…
「本当なんだな」
”中に行けば分かることでしょう
たとえそれが罠であったとしても
貴方にはなんの障害にならないことが分かりましたから”
「そうか、信用するぜ」
”では…”
…おわった、のか
柳犁が肩を落とした、ってことは
「カトちゃん、ちょっと用事ができた
お前はここで待っといてくれ」
「待てって…あの神殿の中に行くんだろ
さっきの会話、全部聞いてたって…」
「だからこそだ…間違いねぇ、これは罠だ」
「お前…それを分かってて、俺を退かせてまで
一人で行こうっつーのかよ!」
今更そんなの水臭いんじゃねーか!
俺も…お前と同じ道を歩んでいこうと…
「それでも満に一つ、ここにアイツ等が居るのなら
行かねーわけにはいかんでしょう…
んな我儘に、お前を付き合わせられるかって」
「柳犁…」
俺は勘違いをしていたんだな…
俺にはこのシチュエーションで
柳犁の言葉を振り切ってまで、付いて行くってことができねぇ
わざわざ罠だって分かってる場所に、入ろうだなんて馬鹿なこと
できる訳がねぇ…
だがコイツは行こうとしている
そんな馬鹿げたことを、平然とやろうとしている
こんな野郎と肩並べて歩いてげるだなんて思うには
少し俺は…馬鹿野郎にはなれねぇみたいだ
「ねぇ、アルティレルゥ〜
さっきの天使ちゃん、全然柳犁に適ってなかったけど〜」
「申し訳ない…ラグナロク殿
まさかあれ程まで、天理柳犁の力が上がっていようとは」
「あれ程?おいおい、冗談はよせよスティーブ
あんなのはほんの一部…柳犁の力の…
灼羅桜邏の、たったの一欠片
あんなもんじゃないっつーの、アレの本気は」
「………」
「次は期待できるんでしょうね?」
「はい、次の者こそは必ず…
天理柳犁の力を、限界以上に引き出すことでしょう」
「ほう?」
「なんせ、次は…」
神殿っつーにゃしみったれた場所だな
外見程煌びやかでもない、つーかほぼ教会じゃあねぇか
っとしばし歩いたら、礼拝堂ってのか…
何かしら懺悔したいようなことのあるような
未練たらったらの、後ろめたい連中しか集まらない…
クソ面白くもねー場所
ああ…んなこと言ってたら一人いるじゃねぇか
よく知ってるやつが
「アンタも…お祈りの一つでもしに来たのかい、ねぇ」
「お祈り…か
祈れば許してもらえるような
そんな軽い罪、僕にあるのかな」
「そうかい…
そんな些細な罪一つも犯しちゃいねーというかい」
「いいや…数え切れないんだよ
僕の罪は…もうどうやっても
決して消えることはない…
例えこの命、神に捧げようともね」
「んじゃ、コイツならどうだ?
コイツなら…アンタの言う罪なんぞ、軽く消えちまう」
なんであの時、俺は逃げたのかね
任せろって、言われたからか?
信じたかったからか…野郎の言葉を
いや、んなもんじゃねぇな
だって今俺は…こんなにも
「神への祈りでも、法による裁きでもない
ただの一発、俺の拳…
そいつで殴られりゃ消えちまうような、ちゃっちい罪
俺に心から心配された、それがアンタの罪状だ
なぁ、グレイブさん」
次回 愛でるとは




