36話
リオルとヨサンは里を抜け出してお迎えの軍用船に乗り、南朝連邦まで向かっている最中の船内。
来る日に向けての作戦会議も迫る中、ヨサンの中には迷いがあった。
エンジン音と船が波を乗り越える音が激しく聞こえる。
ヨサンが深く俯いている。
それを見たリオルは少し申し訳なさを感じた。わざと間違わせたのは事実。
だが、あの白い少年の体内には既に魔力汚染が始まっていた。
生物リミッターを一度解除した人間はもう既に死んでいると同義だ。
リオルが言う
「んあ....ヨサン....ごめん...傷つけちったか?さっきの....」
ヨサンがうつむいたままつぶやく
「私は....戦争のために生まれてきたんだもん。」
リオルは眉を顰める
「んん....そうだな....」
ヨサンが言う
「戦争のために生まれた僕は、戦争が終わったら、何のために生きればいいんだもん?」
リオルも少し俯く、その後すぐに顔を上げて言う
「んなん。おもっきし楽しむために決まってんだろ!!」
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雨冬くん。雨冬くん。どうして私を置いていくの?
私はあなたと一緒が良かった。
ずーっとそれが良かった。
彫帝里内にはまだ人が残っている。
聖遺物を奪われた雨冬と雨冬を守れなかった椿。
雨冬の肩を激しく揺らしながら椿は必死に雨冬に語り掛ける。
「雨冬くん!雨冬くん!死んじゃダメ!!」
雨冬が倒れている状態のまま言う
「椿さん....ありがとうございました。攻撃を避けてくれて。」
雨冬の服に雫がこぼれる
「どうして....どうして...君が死ななければいけないんだろう?」
幼いころの椿は施設の屋上でボーっと空を眺めているような子供だった。
青いに浮かぶ雲。その雲の形を眺めて一日一日をつぶしていた。
その時、屋上に誰かの気配がする。
どうしたものか。この屋上は立ち入り禁止の場所。掃除の職員ですら立ち入れない。
屋上に出るための扉がゆっくりゆっくりと開かれる。その開かれていく扉をフェンスの前で座り、風に髪を揺らしながら眺めていた。
その時、扉の向こうからは青い髪の少年が現れた。
椿が言う
「あなた....ここに来ちゃだめですよ。」
雨冬が丁寧に手を前に組んで椿の元へと歩き出す
「そうですね。ですがそれはあなたも同じでは?」
椿は雨冬から目を逸らして再び空を眺めだす。
「そうですね....」
雨冬は椿の横に座り、一緒に青空を眺める。
その時椿が質問を投げかける
「どうして君はここに来たの?」
雨冬は椿と同じように青空を眺めながら言う
「毎日聖書を何ページも読まなければいけないですよね。ですが、時々僕はそれがめんどくさくなっちゃって。いつもこうやって青空を眺めているんです。」
椿はふーんとでも言いたげな表情をする。
「奇遇ですね。私もまったく同じ理由です。」
雨冬が言う
「それは良かった。」
椿が一息を吐く。まだ春の序盤。暖かくなり始め、寒さの余韻が消えている。
「はぁ。あなた。名前ありますか?」
雨冬がうんうんとうなずきながら言う
「はい。ありますよ。雨冬杏樹と言います。」
椿が言う
「私はね。毎日お昼休みに花瓶の水を変えていたんです。その時にね。施設の職員さんが『椿ちゃんが毎日花瓶のお水を変えてくれているから、みんなは綺麗なお花を見れるんだよ。』って言われたんです。その時ですね。初めて私が9番じゃなくて大友椿になれた気がしたのです。」
雨冬が言う
「こうやって空を眺めているほうが、自分を感じますね。」
椿は目を軽く伏せて深く瞬きをする。
「まだ....ここで会えますか。」
雨冬が言う
「会えますとも。聖書を読む時間がある限り。」




