34話
森の奥深く、湿った落ち葉がカーペットのように辺りの地面を覆いつくし、針葉樹が太陽光を遮りその場所には3人だけしかいないようだった。
苔の生えた大きな岩の上、そこにこちらに背を向けて座っている女がいる。
綺麗なバラのようでどこか妖しい雰囲気をまとっている。その長く綺麗に手入れの行き届いた姿と、不気味さだけを極限まで圧縮し、ちりばめられたような森とはギャップが大きすぎる。
翔が一歩、一歩と歩みを進み、落ち葉を踏み潰した音だけが3人の耳に届く。
その時、花札が口を開く。
「翔ちゃん♡やっぱり君から逃げることは難しいね~♡」
翔は俯く、決して目を合わせてはいけない。そんな気がしてしまった。
「花札。....ここで終わりだ。」
花札が立ち上がり、顔だけをこちらの方向に向ける。
「それは君達も一緒だよ。翔ちゃん♡」
パチン!!
花札が指を軽く鳴らすと3人の周囲に結界が高速で形成されていく。
その状況を翔とアリスは瞬時に悟る。
花札は頬を赤らめ、目の周りに指を這わせる。
「あぁ~///いいね~///私こういうのだ~い好きなんだ~///翔ちゃ~ん♡固有魔法は見つかった~??」
翔は目を見開き、歯を強く嚙合わせる。
「なんの話だよ。」
花札が言う
「固有魔法の持たない猿如きが、私に抵抗するなって言ってんの~///」
花札が岩から飛び降り、翔の元へと歩いていく。
アリスが一瞬自分も動こうと足に力を入れる。が。翔を信じてそのまま動かないようにした。
花札が手を自らの顔の前に持ってきて、その手のひらからは魔法の粒子が零れ落ちる。
「この結界魔法は私の固有魔法[身体改造魔法]が施されてるの~///この結界に触れた人間は♡
カラダがぐちゃぐちゃになって死んじゃうの~♡」
結界は形を変形させ、どんどん収縮してゆく。
翔が花札と目を合わせる。歩みを辞めことはない。
花札が不思議そうでどこか驚きを隠さずに言う
「え~w進んできちゃうんだ~命知らず~♡そんなんだから。猿なんだよ♡これ以上近づいてくるなら....」
手のひらで輝く魔法陣を翔に見せる。
「乱暴せざるをえないかな♡」
それでも。
それでも。
進み続ける。
花札が手のひらの魔法陣を発動させる。
花札。お前は何か勘違いをしている。
私はね。もう《《私じゃない》》んだ。
───────反転────────
翔が手を叩く、そうすると花札の体から生気が消えていく。
「え.....?」
ゆら...ゆら...ゆら...
花札が使った魔法は彼女自身の固有魔法である「身体改造魔法」その魔法の改造魔術式を圧縮したものを相手に触れさせることで、無条件に相手をぐちゃぐちゃに改造するというもの。
ゆら...ゆら...ゆら...
全身の神経をぐちゃぐちゃに改造され、刹那にして彼女の体はただの肉塊となった。
なにも考えることができず、何も感じれない。
どうして自分が放った魔法が反転し、こちらに向かってきたのか。
それを理解することですらできなかった。
だが、彼女の体は翔の元へと進む。
ゆら....ゆら....ゆら....
翔は肩にかけていた刀を引き抜き、言う
「ごめん。花札。」
ずっと言いたかった。ずっと思ってた。
本当にごめん。
翔は宙を舞い、花札の頭上を通り過ぎる。
魔法:「幻斬」
翔の刀は花札の喉を切り、死体にとどめを刺した。
バタン。
そんな音だけが聞こえた。
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荒れ果てた戦場の片隅
折れた木々と沼地の中
怒号と砲撃の風を切る高い音が響き、その視界にはひどく冷たい花札の目が見える
花札が小さな声で言う
「翔ちゃん....?人を殺すって....どういう意味か分かる....?」
力なく膝をつく翔のそばに寄って顔を近づける
そうすると翔の持っている刀の刃先を素手でつかみ、みずからの腹に刺し始める
「それはね...未来も。絶望も。希望も。....すべてを奪うことなんだよ...?」
赤い液体が二人の足元へと広がり、そのころには花札が翔を膝立ちで抱えるように顔を落とす
その間も翔の刀が花札の腹の穴を広げていく
それは自傷ではなく、それ以外の何かであった。
「どうして...《《私の弟を見捨てたの》》...?」
翔が涙を流しながら小さくつぶやく
「ごめん....ごめんなさい....」
花札が翔の頬に手を添え、その指を翔の涙が伝う
その緊張と絶望は、戦火の真ん中で凍り付く。
その雪は悲しみを包んでくれない
ただ
涙を凍らすだけだ。
私の固有魔法は「身体改造魔法」。
自分の感じるすべての感覚を快楽に置き換えた。
逆に言えば相手の感覚をすべて遮断し、いとも簡単に実質的に殺すことができる。
でもさぁ......
はぁ........
どうして
どうして気づかなかったんだろう....?
どれだけ自傷しても
どれだけ人を殺しても
どれだけ泣いても
《《弟が死んだ穴はふさがらない》》。




