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盲目の正義  作者: シタン
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第2話『少女』

千段はあるかと思われる階段を降りると、そこには巨大な空洞が広がっていた


上を見上げるとかろうじて見て取れる土色の天井、はるか遠くにそびえ建つ城とその城下町、その先には地平線まで見える


そして地下空洞全体がその城のはるか上に浮かぶ球体から放たれる光で照らされていた


階段の出口は地下街の端、つまりこの広大な地下空洞の一番際の壁に、ポッカリと穴が空くようにあった


地下街へと続く階段は他にもレムリアの至る所にあり、最もよく使われる皇都からの階段は幅も広く綺麗に整備されていて通行量ももちろんのこと多かったが、50年も前に、かつて地上の廃墟に住む人々が(50年も前からこの上は廃墟だったのだ)開発されて間も無い華やかな地下世界を求めて掘ったといわれるこの薄汚い階段を通って来るのが彼は好きだった


彼は黙って歩みを進める


この巨大な空洞が掘られ始めたのは数百年も昔のことらしい


ここレムリア皇国は魔術大国と呼ばれ、はるか昔から魔力を用いた農業や工業、そして兵器を駆使し、他の大国とユグドラル大陸の覇権を争ってきたが、その魔力の源はレムリアの地下に大量に眠る、魔力を含んだ土だった


十数年前に光から魔力を精錬する技術が開発されてからは採掘はされなくなったが、それまで何百年もの間戦争をするたびに大量の土を掘っていたので、レムリア皇国の地下に「地下街」とは名ばかりの巨大な空洞が出来てしまったというわけだ


皇都の真下に位置する場所、つまり空洞のちょうど中央には地下皇城が建っており、その真上に浮かぶ球体は端的に言えば魔力の塊で、この地下世界の太陽と月の役割を果たしながら空洞の崩落を防いでいる


そして城を中心に街は広がり、中心に近い部分は豪華な建物が多く、端の方へ行けば行くほどみすぼらしくなってゆく


そして彼が今歩いている場所はまさにスラム街とも言うべき辺境で、血の気の多いごろつきがそこらじゅうにいた


しかしそんな無法者共も、彼に手を出そうとするほど命知らずではなかった


以前彼が初めてこの地下スラムに来た時、数十人の賊が武器を持って彼から金目の物を剥ぎ取ろうとしたが、彼も少し喧嘩っ早い時期だったので、まとめて半殺しにされた挙句に全員牢獄に叩き込まれた


それ以来彼の顔はすっかりこの辺に知られるようになってしまったのだ


(あの時は若かったなぁ…)


彼は今でも十分に若いはずなのだが、彼に黙って道を譲るスラムの住人を見て、子供の頃に書いた恋愛小説でも見てるかのような、ほろ苦い感覚に襲われた


しばらく歩いた頃、気付くと彼はスラム街を出て大通りに立っていた


何しろ深夜なので人通りは少ないが、先程までと比べると幾分か小綺麗な建物が並んでいるのを見て、彼は一旦足を止めた


(さて…これからどうするか)


(まだ少しだけ頭が痛むから、酒は無理だな。腹も減ってるわけじゃないし、カジノは…そもそも俺には向いてないしな。闘技場?いやいや、もう殴り合い斬り合いにはうんざりだ…。そもそもなんで来たんだろうな。まぁいいや、頭痛が収まるまでそこら辺りを適当にぶらついていよう)


考えを纏めると、彼は再び歩き出した


(なんだか今日は気分がいいな。いや、頭は相変わらず痛むが…。深夜の静まり返った街を歩くというのは概して気分のいいものだと思うが、果たして今日の気分の良さはそれだけによるものだろうか? まるで何か運命的な出来事がこれから起こるかのような…おや、あの人影はなんだろう)


彼は道端でコソコソとしている人影を見付けると、興味を引かれて近付いていった


(んー?暗いからよく見えんな。身長は150とちょっとくらいかな? ずいぶんとサイズの大きいフードコートを被ってるな。顔はすっぽりフードに入っているが、体格からすると少女だな。…っと、裏路地の方へ入っていったぞ、尾けてみるか)


そう思うと彼はあっと言う間に近くの住居の屋根に登ると、誰にも気付かれないように気配を消しながら、少女と思しき人影を追った


見ていると、少女は何者かから逃げているようだったが、近くに他の人間は見当たらなかった


(一体全体どうしたんだろう。ますます気になるぞ… おっと、ついに立ち止まった。どれ、一つ本人に直接聞いてみるか)


彼は空中に身を浮かべると、ヒラリと少女の目の前に着地した


「ひっ…」


「おっと、大丈夫ですよお嬢様。怪しい者ではありません。いや、今の状況ではどう見ても怪しい者ですが、少なくともあなたを追っている人々とは無関係ですよ」


突然現れた彼を見て少女は酷く驚いて怯えていたが、どうやら彼が追手ではないことを悟ると、多少なりとも落ち着きを取り戻したようだった


「いやなに、そんなに警戒なさらないでください。何もしやしませんから。ただちょっとどんな事情があって可憐な少女がこんな夜中に決して健康的とは言えない街の中を歩いているのか気になりまして、とりあえずどうかそのフードを外して顔を見せては頂けませんかね?」


と、彼は彼の出せる目一杯優しい声で語りかけてみたが


「その…ごめんなさい!」


言うな否や、少女は彼に背を向けてまた走り出した


(うーん、流石に怪し過ぎたかなぁ)


少女の態度にややショックを受けつつ、彼はまた屋上に登って追いかけようとしたが、次の瞬間、とてつもなく嫌な予感が彼の脳裏を掠めた


(近くに…いやまだ遠いが、誰かが走ってきている…。しかも数人だな。あんまり穏やかな連中じゃなさそうだ…ちょっと荒っぽいが、仕方ないな)


考えると同時に、彼は一気に少女に追いつくと彼女を有無を言わせず抱き上げて、人の気配がした方角と逆の方角へ走り出した


「きゃっ! なに? 離して!」


「暴れないでくださいお嬢様、あなたの追手らしい人達が向こうから来ているんですよ。とりあえず安全な所まで行くので少しだけ我慢しててくださいね。あ、ちょっと屋根の上を飛んで渡るのでヒュンとするかもしれませんが、暴れなければ途中で落っことしたりしないので安心してください」


少女は始めのうちは暴れていたが、彼が彼女を抱えたまま窓に足をかけ住居の屋根に飛び上がると、流石に状況を飲み込めたのか今度は彼にしがみついてきた


「そうそう、お姫様抱っことはこうでなくちゃなりませんね。しっかりつかまっててくださいよ、あんな奴ら軽く振り切ってやりますから。あ、別にこの後どこかいかがわしいお店に連れ込んだりもしないのでそこも安心してくださいね。こちとら好奇心ばかりで不純な気持ちなんてこれっぽっちもありゃしないんですから」


屋根の上を飛び跳ねながら、首元で少女が頷くのを見て、彼はさらに風を切る速度を速めるのであった

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