第1話『地下街』
頭が痛い
陰鬱な表情で彼は寝床の上に座り、深夜二時を指す時計の針を見つめていた
寝台と小さな机しかない簡素な屋根裏部屋で、その重苦しい表情はつい先程まで悪い夢にうなされていたことを物語っていた
悪い夢
記憶を辿りながら、彼の表情はさらに重くなった
しかし彼が悪夢にうなされるのは今日に限ったことではなかった
‘‘あの日”からすでにもう三ヶ月も過ぎていたが、彼は三日に一晩は悪夢に眠りを妨げられていた
(すっかり目が覚めてしまったな)
彼は寝床から立ち上がり、そばに投げ捨ててあった上着とズボンを身に付け、机から滑り落ちていたコートを掴むと窓を開けて外へ出た
(玄関から出ると、おかみさんに気付かれるやもしれんしな)
そう思いながら、彼は6m程の高さから飛び降りた
スタンッ
着地の瞬間に響く軽快な音が、誰もいない夜の街道にこだました
その場で立ち上がると、彼は大きく深呼吸をした
冬のレムリアの空気は決して綺麗とは言えなかったが、彼の部屋の重苦しい空気と比べるといくぶんもましだった
(久しぶりに貧民街の方にでも行ってみるか)
手に持っていたコートを羽織り、彼は歩き出した
彼の格好はこの時期にしては少し薄着だったが、うなされて火照った身体を冷やすにはちょうどいいように思われた
十五分程度は歩いただろうか、周りの建物の様相が一変した
綺麗な屋根を付けて立ち並ぶ洋館はもはや見えず、今にも崩れそうな(一部は本当に崩れているが)集合住宅が並ぶ通りを彼は歩いていた
ここに来る時はいつも、まるで異世界への門でも通ったかのような錯覚に襲われた
さらに十五分程歩いた頃、彼は赤い建物の前で脚を止めた
その建築物の2階から上はすでに崩れて無くなっており、かつて飲食店か何かの名前が書かれていたであろう看板は文字を塗り潰され、上に大きく別の文字が重ねられていた
「地下街」
看板から少し目を逸らすと、地下へと続く階段が目に入った
彼は軽く周りを見回して人がいないことを確認すると、階段へと足を踏み出した




