普通じゃなかった1日 その2
ボーリングのボールにしては柔らかいし、ピンにしては複雑な形状しているだろ。
内訳は、ボールが私の体で、ピンが机とイス。ワォ、企画動画ですら見たこと無いペアだこと。
吹き飛ばされた先で、横倒しになった机に手をつき、体を起こす。
教室の外からは声、足音。早い、素早く教室に近づいてきて―――
「タイミングが悪くて良い奴らだな、ホント!」
さっき入ってきた教室前方から、謎の転校生クンが出ていく。なにやら愉快そうなセリフを吐きながらのご退場。なんだ、テンション上がってんな。
「―――ックゥー、痛い!」
背中も、肩も、ボーリングにされたのも含めて体中が痛い。というか、体が発している痛みにようやく気づき始めた。
痛いと口にして、呼吸も乱れてる事に気づいた。
苦しいが、とにかく息を吐き切る。過呼吸気味になっていた肺から、古い息を吐き出す。
意図的に吐ききって、意図的に長く息を吸う。吸って数秒、肺に息を止めて、吐き出す。
単純な動作、思考を1つにまとめて、少しずつ平常に戻していく。
次のタイミングでどうなるか分からないのだから。
呼吸を繰り返し、息はまともになってきた。
ずっと耳元で脈拍が鳴っている。思考が取り留めもない。
人が気になれば、周囲が気になり、足元が気になり。
敵意に晒され、見知らぬ男子に手を引かれ、足元はおぼつかないながらも走ることは止められなかった。
なんだ、何が起きている?
いや、考えても分かることはないんだろう。そういうものだから。いつもの事だろう。無視しろ、無視。
というか、転校生という事象からして不吉の象徴だった。あの車と爆発もそうだ。
いつもと違う。十分な予兆じゃないか。
いや、そういうのは良い。今は逃げる事が出来るか確認しよう。足、特に足だ。捻ったりしてないか? こういうバタバタした時は痛みに気づきにくい。移動するための生命線なのだ、痣や肌の色が赤くなったりしてないか?
靴下の上から触ってみたり、めくって直接見たりしたが、今のところ異常はなさそうだ。
まずは落ち着こう。急激に巻き込まれたが、落ち着いて行動する必要が……?
「なんか、変わった?」
◆
「落ち着いたか? 水、飲むか?」
いや、こいつはなんだ。なんなんだ?
肩で息をしながら、逃げ込んだ教室の壁に張り付いて、どこで調達してきたのか分からん物を差し出してくるが、話の流れから水筒かなにかか?
同じ学校の、男子制服を着ている。春、新学期になったばかりで新品の制服。
気付けば、自分の新品制服も眼の前の転入生と同じ様に汚れて、新品とは言えなくなってしまった。
廊下を走り、階段を飛び降り、前日の雨に濡れた土の上に転がって、走って、走って―――人気のない所まで走って。
息をついて、見つかれば移動し、しかし学校は出入り口を封鎖されると、外に出るのが途端に難しい。
人混みに紛れて逃げるチャンスを失い、逃走途中でみた校門は、人相も判別出来ない黒い人型が立ちふさがっていた。
学校の周りにある塀は、ちょっと助走してジャンプすれば飛び越えられるなら良かったし、出入り口が数多あれば良かった。
それでは意味が無いとも分かっていながら、今だけはそうであればなと思う。
「口、ゆすがせてもらいます」
水筒に入ってる水を口含ませて、一口。
さっきから急と緩を行ったり来たりして、思考も心拍も追いつかない。
「ジェットコースターみたいな展開って、こういうことなのかな」
「………余裕そうでなにより」
クソっ、独り言になってた。
眼の前の男子は曖昧な、ムニャムニャした顔をしている。
銃撃され追われてるくせに呑気な事考えてるなこいつ、と思われただろうか。チクショウ、失点1点。今日の合計、何点だっけ。
◆
「であれば、少し移動する。全力とは言わないけど、早足ぐらいで行くぞ」
「また? 1つの所に居られない旅人みたいな人生だ」
「学校の中なんて隠れ続けてられるか。同じ様な服、髪、背格好の人間が沢山居れば紛れるってだけなんだから」
こわっ。言いたかないけどオトリ扱いかよ同級生。結構な思考してんなぁ。
「………今のうちに、校舎外にアクセス出来る場所まで一度移動しよう」
「そこの窓は?」
「1階だったらなぁ」
なんの制約なんだ。
「色々と校舎に仕込む前だったものでね。目立とうが、緊急補給を実施しようかなと」
「校舎に、仕込む」
何をだ。
なんか全体的に眼の前の転校生クンは、謎が多いというか、隠しておくのが好きなんだろうか。
「ともかく移動だ、移動。ちょっと静かになったから、一度階段から1階の様子をうかがって、その後を判断するぞ」
◆
というわけで、教室から廊下に出る。
少し怖かった。そりゃそうだ。さっきまで銃撃されてたし、銃撃してきた奴が居たはずなんだから。
でも、その廊下に戻っていった転校生クンは、何事も無かったかのように教室へ入ってきた。水筒付きで。
その時に気づいたが、廊下が静かになっていた。
廊下から聞こえた声も、足音も一切が聞こえなくなった。
だから自分に集中出来た。体に痛みはあるが走れないことはないし、呼吸は整えられたし、今考えても仕方ない事、集中するべきことを分けられた。
だから、少しだけ怖かった。
そんな考えが伝わるはずもなく、転校生クンは廊下へ。別に視界から外れただけなのに、ちょっとした疎外感。
意を決して、廊下に出てみると。
ほら、廊下には黒い人型が3つ倒れているじゃないか―――。
命狙われチャン:実はあらすじ書く前に1話の後書き書いたので、名前が表示されてない可哀想な子。この子が筒木島チャンです
謎の転校生クン:君の肝っ玉はどこから? 私は過去から。
黒い人型3連星:命狙われチャンに向かって銃撃してた人たち。走りながらじゃなくて、腰を据えて撃てば良かったんではなかろうか。




