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祝福の拳、救いの手 ~物理系聖職者(シスター)の日常~  作者: みやのやしろ


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第7話 騎士団訪問――それぞれの思惑

 古代都市遺跡の調査を終えて、数日後。


 王都の大聖堂。


 朝の礼拝を終えたアイリスは、大司教の執務室を訪れていた。


「今回の任務、ご苦労だった」


「ありがとうございます!」


「調査隊からも報告を受けている。古代都市の地下に、大規模な動力施設が残っていたそうだな」


「はい! 何千年も前の施設なのに、今でも動いていたんです!」


 アイリスが嬉しそうに答える。


「古代文明の研究においても、非常に価値のある発見だと聞いている」


「それはよかったです!」


 大司教は報告書に目を落とした。


「……ただし」


「はい?」


「ガーディアンとの交戦も記録されている」


「はい!」


「比較的安全な任務だと聞いていたのだが……」


 大司教が苦笑する。


「最初は安全でした!」


「最初は?」


「途中から、少しだけ危険になりました!」


 大司教は小さく息を吐いた。


「それで、遺跡の損傷は?」


「大丈夫です!」


「本当に?」


「はい!」


 アイリスは胸を張る。


「配管が少し溶けたくらいです!」


「…………そうか」


 大司教は何とも言えない表情で報告書を閉じた。


 そのときだった。


 コンコン。


「失礼します」


 扉の向こうから声がした。


「入りなさい」


 扉が開き、リリーが入ってくる。


「失礼します、大司教様」


「どうした?」


「お客様がいらっしゃっています」


「客?」


「はい。王国騎士団のアルベルト様です」


「あ!」


 アイリスが声を上げる。


「アルベルトさん!」


「先日の遺跡調査で同行した騎士だな」


 大司教が頷く。


「用向きは?」


「先日のガーディアンについて、アイリスと話したいそうです」


「なるほど」


 大司教は少し考えた。


「なら、別室で話すといい」


「承知しました。アルベルト様を応接室へお通ししますね」


「お願いします!」


 アイリスが元気よく答える。


「アイリスも行きなさい」


「はい!」


 アイリスは立ち上がった。


「では、失礼します」


 リリーとともに大司教へ一礼し、執務室を後にする。


 廊下へ出ると、少し離れた場所でアルベルトが待っていた。


「お待たせしました、アルベルト様」


「いえ。お忙しいところ、ありがとうございます」


「こちらへどうぞ」


 リリーに案内され、三人は応接室へ入った。


 アイリスとリリーが並んで腰を下ろし、その向かいにアルベルトが座る。


「リリーさんも同席するんですか?」


「ええ。私も少し興味があるの」


 リリーが答える。


「まず、先日はお世話になりました、アイリス殿」


「こちらこそです!」


 アルベルトは一礼すると、本題へ入った。


「早速ですが、先日のガーディアンについて、少しお話ししたいことがあります」


「ビームについてですか?」


「はい」


 アルベルトの表情が真剣になる。


「結論から言えば、あの攻撃が何なのか、まだ断定することはできません。ただ、いくつか気になる点があります」


「あのビームからは、明確な属性が感じられませんでした」


「属性がない?」


「ええ。金属を溶かすほどの熱量がある。それなのに、火属性魔法とは性質が違う」


「では、何なのでしょう?」


 リリーが尋ねる。


「おそらく……属性を持たないエネルギー攻撃ではないかと」


「エネルギー?」


「魔法とは異なる、純粋なエネルギーを光線として放っていたのではないか――ということです。もちろん、現時点では推測にすぎません」


「なるほど……」


 アイリスが頷く。


「でも、盾にオーラを纏わせたら、ビームを弾いていましたよね?」


「そこです」


 アルベルトがアイリスを見る。


「オーラは、自分自身が持つ力です。身体や武器、盾などに纏わせることで、その性能を高めることができます」


 アルベルトは自らの盾へ視線を落とした。


「先日のビームも、オーラを纏わせた盾で受けることで、攻撃を拡散することができました」


「はい」


「ですが、攻撃そのものを消すことはできませんでした。盾にも相当なダメージが残っています」


 アルベルトの視線が、今度はアイリスへ向く。


「一方、アイリス殿は神力を纏わせたメイスでビームの軌道を逸らした。それにもかかわらず、メイスにはほとんどダメージがなかった」


「そうですね」


 アイリスは頷く。


「あのときは、私もできるかどうか分からなかったんですけど……」


「それでも成功した」


「オーラと神力。似たような現象を起こしているようにも見えますが、その性質は違うのでしょう」


「神力のほうが、ビームに強く作用した……ということでしょうか?」


 リリーが考え込む。


「その可能性はあります」


 アルベルトが答える。


「そこで、一つ確認したいのですが――聖職者の方々は、普段どのように神力を使うのでしょうか?」


「基本的には、自身の魔力に神力を融合させて使うのが一般的です」


 リリーが答える。


「なるほど」


「神力そのものを、直接攻撃に使う人はアイリスくらいでしょうね」


「そうなんですか!?」


 アイリスが驚く。


「自覚なかったの?」


「私は、ただ神力をメイスに纏わせているだけなので……」


 アイリスは自分の神力の使い方を説明する。


「神力を完全に体外へ放出するのではなく、身体からメイスへ流しているんです」


「身体から……メイスへ?」


「はい。身体とメイスの間で神力の繋がりを保ったまま、メイスに纏わせています」


「なるほど……」


 アルベルトが考え込む。


「だから、メイスで直接ビームに触れたときにも、神力が作用した……」


「そうかもしれません」


 アイリスが答える。


「私は、神力をメイスに集めて、それを直接ぶつけるんです」


「それが、アイリス殿の戦い方というわけですね」


「はい!」


 アイリスは元気よく頷いた。


「そう考えると、興味深いですね」


 アルベルトはしばらく考え込んだあと、顔を上げた。


「アイリス殿、一つ提案があります」


「?」


「もしよろしければ、騎士団の訓練場で検証をしてみませんか?」


「検証ですか?」


「ええ」


「古代兵器のビームそのものを再現することはできません。ですが、属性を持たないエネルギー攻撃なら、騎士団に配備されている魔導兵器で再現することができます」


 そして、二人を見る。


「それに対して、オーラと神力がどう作用するのかを調べてみませんか?」


「ぜひお願いします!」


 アイリスの目が輝いた。


「……アルベルト様」


 リリーが声をかける。


「私も、その検証に立ち会ってよろしいでしょうか?」


「もちろんです。教会側の立会人がいたほうが、こちらとしても助かります」


「ありがとうございます。教会側の正式な手続きは、私からしておきます」


「よろしくお願いします」


 アルベルトが立ち上がる。


「では、後日、騎士団から正式にご案内します」


「楽しみにしています!」


「では、本日はこれで失礼します」


「ありがとうございました!」


「こちらこそ。訓練の日程が決まり次第、改めて連絡します」


「はい!」


 アルベルトは一礼し、応接室を後にした。


 扉が閉まる。


 しばしの沈黙。


「……ねえ、アイリス」


「はい?」


 リリーが意味ありげな笑みを浮かべる。


「アルベルト様って、結構イケメンじゃない?」


「……そうですか?」


 アイリスは首を傾げた。


「背も高いし、騎士としても強いし、礼儀正しいし」


「確かに、頼りになる方ですね!」


「…………」


 リリーが黙る。


「どうしました?」


「いや……」


 リリーは小さく息を吐いた。


「アイリスって、本当にそういうところ興味ないんだね」


「どういうところですか?」


「なんでもない」


「?」


 アイリスは不思議そうに首を傾げた。


 ――数日後。


 王国騎士団。


 アルベルトに案内され、アイリスとリリーは騎士団施設を訪れていた。


「本日はありがとうございます」


 リリーが丁寧に頭を下げる。


「こちらこそ、来ていただいて助かります」


 アルベルトが二人を見る。


「……お二人とも、今日は少し雰囲気が違いますね」


「そうですか?」


 アイリスが首を傾げる。


 青地に金の刺繍が施された、いつもの法衣。


 そして背中には、身の丈ほどもある黄金の十字架型メイス。


「アイリス殿は……まあ、いつも通りですね」


「はい!」


 アイリスが笑顔で答える。


「そのメイスを見ると、なんだか安心します」


「そうですか?」


「ええ。先日の遺跡でも、それでガーディアンと戦っていましたから」


「私の大切な相棒です!」


 アイリスが背負ったメイスを軽く叩く。


 アルベルトは苦笑しながら、隣に立つリリーへ視線を移した。


「リリー殿は……いつもより少し華やかですね」


 リリーは今日、普段よりも少しだけ装いを整えていた。


 髪も丁寧に整え、さりげなく装飾品も身につけている。


「……そうですか?」


「ええ。よくお似合いです」


「…………」


 リリーの口元が、ほんの少し緩んだ。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


「リリーさん、今日はおしゃれしてるんですよ」


 アイリスが何気なく言う。


「ちょっと、アイリス。そういうことは言わなくていいの」


「でも、本当のことですよ?」


「そうだけど……」


 リリーが小さく咳払いする。


「今日は騎士団に来るんだから、少しくらい身だしなみに気を遣ってもいいでしょう?」


「なるほど!」


 アイリスが頷く。


「私もメイスを綺麗にしてきました!」


「……それは何か違うと思う」


 リリーが遠い目をする。


 アルベルトも思わず苦笑した。


「では、訓練場へ案内します」


「お願いします」


 リリーはアルベルトの隣を歩きながら、さりげなく周囲を見渡した。


 訓練場へ向かう廊下には、何人もの騎士が行き交っている。


「…………」


 リリーの視線が、忙しなく動く。


「リリーさん?」


「なに?」


「さっきから、騎士の方をよく見ていますけど……」


「気のせいよ」


「そうですか?」


「そうなの」


「……?」


 アイリスは首を傾げた。


 ――王国騎士団、訓練場。


「わあ……!」


 アイリスは広大な訓練場を見渡した。


「本当に広いですね!」


「騎士団の訓練用ですから」


 アルベルトが答える。


 その姿に気づいた近くの騎士が、アルベルトへ声をかけた。


「アルベルト隊長、この方は……?」


「ああ。先日の古代都市遺跡の調査に同行された聖職者《シスター》だ」


「……聖職者《シスター》?」


 騎士はアイリスと、その背中の巨大なメイスを交互に見る。


「ここは騎士団の訓練場ですが……」


「大丈夫ですよ!」


 アイリスは笑顔で答える。


「こう見えて、戦うのは得意なんです!」


「……そうですか」


 騎士が困惑する。


 アルベルトが苦笑した。


「先日の戦いでは、彼女がガーディアンの動力部を破壊したんだ」


「……!」


 騎士の表情が変わる。


「それは……失礼しました!」


「いえいえ!」


 アイリスが笑う。


「では、検証を始めましょうか」


 アルベルトに案内され、三人は訓練場の一角へ移動する。


 そこには、一門の魔導砲が設置されていた。


「この魔導砲は、属性を持たないエネルギーを射出できます」


 アルベルトが説明する。


「古代兵器と同じものではありませんが、比較実験には使えます」


「なるほど」


「魔導砲の操作は、騎士団の装備・兵器課が担当します」


 一人の騎士が前へ出る。


「装備・兵器課のスミスです。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします!」


 アイリスが元気よく頭を下げた。


「まずは私から」


 アルベルトが盾を構える。


「最初は通常の状態で受けます」


 訓練場の端に設置された魔導砲へ、魔力が集まっていく。


 ――ゴォォォ……。


「発射します!」


 次の瞬間、青白い光線が放たれた。


 ――ズドン!


「ぐっ……!」


 光線が盾へ衝突し、アルベルトの身体が大きく後退する。


「これが基準です」


 アルベルトが盾を構え直す。


「次はオーラを使います」


 アルベルトが盾を構え直す。

 

 次の瞬間、淡い光がその身体から立ち上り、盾へと流れ込んでいく。

 やがて、盾の表面が薄い光の膜に覆われた。

 

「発射します!」


 魔導砲が再び光を放った。


 ――ズドォン!


 光線が盾へ触れた瞬間――左右へと分かれた。


「……!」


「拡散しています!」


 アイリスが声を上げる。


「先日の現象と同じですね」


「ええ。オーラで受ければ、攻撃の力を拡散できます」


 やがて光線が止まり、アルベルトは盾を下ろした。


 表面には、熱による変色が残っている。


「ですが、攻撃そのものを消せるわけではありません。受け続ければ、いずれ盾が持たなくなるでしょう」


「なるほど……」


 アイリスが真剣に盾を見つめる。


「では、次はアイリス殿」


「はい!」


 アイリスが前へ出る。


 背中から黄金の十字架型メイスを下ろし、両手で構えた。


「同じように、神力を使います!」


「お願いします」


 魔導砲がチャージを始める。


 ――ゴォォォォ……。


 低い駆動音が訓練場に響く。


 アイリスは静かに息を吸った。


「神よ――!」


 黄金の神力が、アイリスの身体からメイスへと流れ込んでいく。


 眩い光が、十字架の輪郭を浮かび上がらせる。


「発射します!」


 次の瞬間――


 ――ズドォォォォン!!


 青白いビームが一直線に放たれた。


 アイリスは一歩踏み込み、メイスを振りかぶる。


「――スマッシュ!」


 黄金のメイスを、迫り来るビームへ正面から叩きつけた。


 ――ギィィィィン!!


 黄金と青白い光が激突する。


「――!」


 一瞬、激しい光が弾けた。


 そして――


 ――バシュッ!!


 ビームが無数の光の粒へと分解され、その場で霧散した。


「……!」


 訓練場が静まり返る。


「消えた……」


 アルベルトが呟く。


「いや……ビームそのものを霧散させたのか?」


 アイリスもメイスを構えたまま、驚いたように瞬きをする。


「……できました!」


 アルベルトがゆっくりと近づいてくる。


「先日の遺跡のときとは違いますね」


「はい!」


「先日の戦いでは、メイスを振り抜いて軌道を逸らした。ですが今回は、正面から干渉してビームそのものを霧散させた」


「そうみたいです!」


 アルベルトは魔導砲へ視線を向ける。


「この魔導砲と古代兵器のビームが、まったく同じ性質とは限りません」


 そこで一度、言葉を切った。


「ですが、少なくとも――神力は、属性を持たないエネルギーそのものに干渉できる可能性が高い」


「はい!」


 アイリスが嬉しそうに笑う。


「ところで」


 アルベルトがふと思い出したように言う。


「アイリス殿は、以前から技名を叫んでいましたよね」


「……!」


 アイリスの表情が固まる。


「先ほどは、スマッシュ」


「…………」


「先日の遺跡では、ブレイク」


「……お、覚えていたんですか!?」


「ええ。かなり印象に残っていたので」


「……恥ずかしいです」


 アイリスが俯く。


「ですが、どうして技名を?」


「神力を使うときのイメージを固定するためです」


「イメージ?」


「はい」


 アイリスは黄金のメイスを見る。


「神力は、そのまま使おうとすると形が曖昧なんです。だから、技ごとに名前をつけて、どう使うのかを頭の中ではっきりさせています」


「なるほど。スマッシュなら?」


「神力をメイスに集中させて、一気に叩きつけるイメージです」


「では、ブレイクは?」


「対象の一点を正確に砕くイメージです」


「だから、ガーディアンの動力部を狙ったときに使ったんですね」


「はい!」


 アイリスが頷く。


「技名を決めておくことで、使う神力の形を明確にしているんです」


「なるほど」


 アルベルトが感心したように頷く。


「単なる掛け声ではなかったわけですね」


「はい」


「では、声に出す必要は?」


「ありません」


「ありませんか」


「でも……」


 アイリスは少しだけ顔を赤くした。


「そのほうが、気合いが入るので……」


 アルベルトが一瞬黙る。


 やがて、小さく笑った。


「いいと思いますよ。技のイメージを明確にするためなら、理にかなっています」


「本当ですか?」


「ええ」


 アイリスは少し安心したように笑った。


「それなら、これからも叫びます!」


 そして、メイスを握り直す。


「次は、もっと上手に霧散させてみせますよ!」


「……訓練の目的が変わってませんか?」


「強くなるための訓練ですから!」


 アイリスは元気よく答えた。


「そういえば……」


 ふと、アイリスが周囲を見渡す。


「リリーさんがいませんね」


「そういえば……」


 アルベルトも辺りを見回す。


 少し離れた場所。


 そこではリリーが、訓練に励む騎士たちを眺めていた。


「…………」


 剣を振る騎士。


 槍を構える騎士。


 盾を使って組手をする騎士。


 その間を、リリーの視線が忙しなく行き来している。


「リリーさん、何してるんでしょう?」


「…………」


 アルベルトはしばらくその様子を眺めたあと、苦笑した。


「……まあ、いいでしょう」


「いいんですか?」


「ええ。訓練を続けましょう」


「はい!」


 アイリスはあっさりと頷き、再び黄金のメイスを構えた。


 その少し離れた場所では――


 リリーが相変わらず、真剣な眼差しで騎士たちを眺めていた。

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