第15話 王命――天然氷採取
王都、王国騎士団本部。
その日の朝、アイリスとリリーはアルベルトからの連絡を受け、騎士団本部の会議室を訪れていた。
室内には数名の騎士が集まり、中央の大きな机には一枚の地図が広げられている。
描かれているのは、王都から遥か北方に位置する山岳地帯だった。
「二人とも、来てくれて助かる」
アルベルトが二人を迎える。
「はい! それで、今回はどのようなご用件なのでしょうか?」
「教会にも正式な協力要請を出している。今回は二人にも同行してもらいたい」
「分かりました!」
アイリスは元気よく返事をした。
その隣で、リリーが地図を覗き込む。
「ずいぶん北ね」
「ええ。馬車でも三日はかかります」
「三日……」
アイリスも地図を見る。
近場の依頼ではない。
わざわざ教会にも協力を求めていることを考えれば、相応に重要な任務なのだろう。
「実は昨日、王宮から騎士団に直々の命令が下りました」
「王宮からですか?」
アイリスの表情が引き締まる。
「はい」
王宮から王国騎士団へ直接下された命令。
それならば、やはり重大な任務に違いない。
「それで、私たちは何を?」
「北方山岳地帯へ同行していただきたい」
アルベルトが地図の一点を指す。
「この山の中腹に、一年を通して氷が残っている洞窟があります」
「氷の洞窟……」
「そこで――」
アルベルトは真剣な表情のまま告げた。
「天然氷を採取します」
「…………」
アイリスが地図を見つめる。
それからアルベルトを見る。
もう一度、地図を見る。
「…………」
「…………」
「……氷を?」
「はい」
「取りに行くんですか?」
「はい」
「王国騎士団が?」
「……はい」
アイリスは、ぽかんと口を開けた。
隣ではリリーが眉間に指を当てている。
「……アルベルトさん」
「何でしょうか?」
「王都でも、氷は作れますよね?」
「作れます」
「冷却用の魔道具もありますよね?」
「あります」
「では、どうしてわざわざ三日もかけて北方まで……?」
もっともな疑問だった。
アルベルトはしばらく黙っていた。
やがて、何とも言えない表情で口を開く。
「……陛下がおっしゃるには」
「はい」
「『北方の天然氷で作った氷菓は、ひと味違うらしい』とのことです」
「…………」
再び沈黙が訪れた。
「……それだけですか?」
「それだけです」
「…………」
アイリスはまた、ぽかんとした。
リリーが深いため息をつく。
「それで騎士団を北方まで行かせるの……?」
「王命ですので」
「王命って便利な言葉ね……」
「私におっしゃらないでください」
アルベルトにも思うところはあるらしい。
アイリスはしばらく考え込んでいた。
「でも、どうして教会にも協力を?」
天然氷の採取なら、騎士団だけでも十分に思える。
「目的地は人里から離れた山中にあります。周辺では魔物の目撃例も多い」
アルベルトが地図上の山岳地帯を指で示す。
「氷洞の内部にも魔物が生息している可能性があります。天然氷の採取そのものは難しくありませんが、道中を含めれば戦闘になる可能性は十分にあります」
「なるほど……」
「それに、寒冷地での長期行動になります。負傷者や体調不良者が出る可能性も考え、今回は教会にも支援と治療要員の派遣をお願いしました」
そこまで聞いて、リリーがアイリスを見る。
「それなら、教会に依頼した理由は分かるけど……」
リリーは再びアルベルトへ視線を向けた。
「どうして私たちなの?」
「私から希望しました」
「アルベルトさんが?」
「はい」
アルベルトは頷く。
「これまで何度も共に任務に当たっていますからね。魔物との戦闘になった場合、互いの動きを把握している相手のほうが連携しやすい」
「ああ……」
アイリスも納得する。
アルベルトが正面で敵を受け止め、アイリスが攻撃する。
そしてリリーが後方から支援する。
これまでの任務でも、何度となく繰り返してきた連携だ。
「なるほど!」
ようやくアイリスが納得した。
「つまり、目的は氷でも、危険な場所へ向かうことには変わりないってことね」
「その通りです」
「分かりました!」
アイリスが胸の前で拳を握る。
「しっかり支援します!」
「お願いいたします」
「……氷菓のために」
「それはおっしゃらないでください」
アルベルトが遠い目をした。
三日後。
王都を出発した一行は、北へ向かう街道を馬車で進んでいた。
騎士団が用意した馬車は二台。
一台にはアイリスたちと騎士たちが乗り、もう一台には採取に必要な道具や食料、野営用の装備が積まれている。
帰路では、そこへ天然氷も加わる予定だ。
王都を離れた当初は、街道の周囲に青々とした草原が広がっていた。
だが、一日。二日。三日と北へ進むにつれて、景色は少しずつ変わっていった。
木々の葉は減り、空気は冷たくなり、やがて街道の脇にも白い雪が目立ち始める。
そして今――。
「わあ……!」
馬車の窓から外を眺めていたアイリスが、思わず声を上げた。
見渡す限りの雪景色。
遠くには真っ白に染まった山々が連なり、その頂は薄い雲に覆われている。
「すごいです! 全部真っ白ですよ、リリーさん!」
「そうね。だから窓を開けないで。寒いから」
「はい!」
窓へ手を伸ばしかけていたアイリスが、そっと引っ込める。
今回、二人が着ているのはいつもの法衣だけではない。
その上から厚手の防寒用の外套を羽織り、手袋と冬用のブーツまで用意されている。
特にアイリスの外套は、普段の法衣と同じ青を基調としたもので、襟や袖には白い毛皮があしらわれていた。
「それにしても……」
リリーが窓の外を見る。
「本当に遠くまで来ちゃったわね」
「はい!」
「氷を取りに」
「…………」
アイリスの笑顔が止まった。
「……考えないようにしていたのに」
「ごめん」
そんな会話をしているうちに、馬車はさらに北へ進んでいく。
◇
昼を過ぎた頃。
一行は山の麓にある小さな集落へ到着した。
ここが馬車で進める限界だった。
この先は街道そのものがなくなり、積雪も深くなる。
目的の氷洞までは徒歩で向かわなければならない。
馬車を降りた瞬間――。
「さ、寒いです……!」
吹きつけた冷たい風に、アイリスが身体を縮めた。
「ですから、ちゃんと前を閉めてください」
「はい……」
アイリスが慌てて外套の前を閉じる。
その間にも、騎士たちは荷物を降ろしていく。
採取用の道具。
登山用の装備。
食料。
野営道具。
さらに、切り出した天然氷を麓まで運搬するためのそり。
どう考えても、氷菓のためとは思えないほど本格的な装備だった。
アイリスが並べられた荷物を眺める。
「……大掛かりですね」
「王命ですので」
「その言葉、何でも解決できますね」
「便利でしょう」
「便利なんでしょうか……」
アルベルトが騎士たちへ指示を出し、装備を分配していく。
準備が整ったところで、一行が集められた。
「これより徒歩で移動します」
アルベルトが全員を見回す。
「目的の氷洞までは、およそ半日です。日没前には到着できる予定になっています」
「はい!」
「それと――」
アルベルトの表情が少し険しくなる。
「氷洞に入る前に、覚えておいていただきたいことがあります」
アイリスが首を傾げる。
「何でしょう?」
「洞窟内部では、火の使用は禁止です」
「氷が溶けるから、ですか?」
リリーが尋ねた。
「それもあります。しかし、問題はそれだけではありません」
今回同行している騎士の一人が補足する。
「目的の氷洞は、岩山の中に氷が張っているだけの洞窟ではありません。内部には長い年月をかけて形成された巨大な氷層があります。場所によっては壁も、柱も、天井を支えている部分さえ氷です」
「……ということは」
アイリスの表情から、先ほどまでの浮かれた様子が消える。
「下手に溶かすと、洞窟そのものが崩れる可能性があるんですね」
「その通りです」
壁や柱の一部が失われれば、支えを失った氷塊が落下する可能性がある。
最悪の場合、洞窟そのものが崩れる。
「ですので、洞窟内部での火の使用はご法度です」
「分かりました!」
アイリスが力強く頷いた。
「もう一つ」
「はい?」
アルベルトがアイリスを見る。
「壁や天井に強い衝撃を与えるのも避けてください」
「……はい」
「大規模な攻撃も可能な限り控えてください」
「はい」
「魔物を壁へ叩きつけるのも――」
「アルベルトさん」
「何でしょうか?」
アイリスが少し頬を膨らませた。
「どうして私を見ながら説明するんですか?」
「念のためです」
「私だって洞窟を壊したりしません!」
「承知しています」
「本当ですか?」
「はい」
アルベルトは真顔だった。
それがかえって怪しい。
「……リリーさん」
「私はアイリスを信じてるわよ」
「リリーさん!」
「だから『インパクト』は使わないでね」
「リリーさんまで!?」
騎士たちから小さな笑い声が漏れる。
アイリスは不満そうだったが、すぐに気を取り直した。
「とにかく、洞窟を傷つけないように戦えばいいんですね!」
「はい。それで問題ありません」
アルベルトは頷いた。
「今回の第一目的は、あくまで天然氷の採取です。魔物を見つけても、無理に戦う必要はありません。避けられるなら避けてください」
「分かりました」
「それから、当然ですが採取する氷にも火は近づけないでください」
「はい!」
「帰りは切り出した氷をそりでここまで運びます。馬車に積み替えた後は、冷却用の魔道具を使いながら王都まで輸送します」
リリーが小さく息を吐いた。
「……本当に本格的ね」
「王命ですので」
「もう聞き飽きたわ、その言葉」
アルベルトが何とも言えない顔をする。
天然氷を採りに行く。
始まりだけを聞けば、それだけの任務だった。
それも、陛下が天然氷で作った氷菓を食べてみたいという、なんとも気の抜ける理由で。
だが、目的地は魔物も生息する北方の山岳地帯。
そのうえ氷洞内部では、火属性魔法だけでなく、大規模な攻撃や強い衝撃にも注意しなければならない。
どうやら、簡単に氷を切り出して帰るだけでは済まなさそうだった。
アイリスは改めて、雪に覆われた山を見上げる。
白い山肌の遥か上。
今回の目的地である氷洞が、静かに一行を待ち受けていた。
「それでは――」
アイリスは防寒用の外套をしっかりと閉じると、気合いを入れるように両手を握った。
「天然氷を取りに行きましょう!」
「言葉だけ聞くと、本当に騎士団の任務とは思えないわね……」
リリーの呟きを背に、一行は雪山へ向けて歩き始めた。
雪山へ入って一時間ほど。
最初のうちは、アイリスも楽しそうだった。
「リリーさん!」
「なに?」
「歩くたびに足が沈みます!」
「雪だからね」
「すごいです!」
「そうね」
ざくっ。
ざくっ。
アイリスは楽しそうに雪を踏みながら進んでいく。
さらに三十分後。
「…………」
「アイリス?」
「歩くたびに足が沈みます……」
「雪だからね」
「歩きにくいです……」
「さっきまで喜んでたじゃない」
アイリスは雪の中から片足を引き抜いた。
「見るのと歩くのは違いました……!」
「でしょうね」
平地を歩くのとはまるで違う。
一歩進むたびに足が雪へ沈み、引き抜くだけでも余計な力を使う。
しかも背中には荷物。
身体を動かせば多少は暖かくなるものの、立ち止まればすぐに冷気が外套越しに伝わってくる。
「『筋力強化』を使えば、少しは楽になるんじゃない?」
リリーが言う。
「まだ使いません」
「そうなの?」
「移動だけで魔力を使っていたら、何かあったとき困りますから!」
「それもそうね」
目的地まではまだ遠い。
いつ魔物と遭遇するかも分からない以上、移動のためだけに魔力を消費する理由はなかった。
「それに――」
アイリスが胸を張る。
「これも寒冷地での任務経験です!」
「その意気よ」
「はい!」
ざくっ。
次の瞬間。
「わっ!?」
アイリスの身体が突然、腰近くまで雪へ沈んだ。
「アイリス!?」
「だ、大丈夫です!」
どうやら雪の下に窪みがあったらしい。
アイリスは両手を雪の上へ出し、もぞもぞと這い上がろうとする。
「…………」
リリーがその姿を見下ろす。
「経験になってる?」
「すごくなってます!」
「ならよかったわ」
「見てないで助けてください、リリーさん!」
リリーが苦笑しながら手を差し出す。
その少し前では、アルベルトが空を見上げていた。
先ほどまで見えていた青空は、いつの間にか灰色の雲に覆われ始めている。
風も少しずつ強くなっていた。
「急いだ方がよさそうです」
アルベルトが呟く。
雪山の天候は変わりやすい。
予定では日没前に氷洞へ到着する。
しかし、吹雪にでもなれば予定通りにはいかなくなる。
「全員、少し速度を上げてください! 足元には注意を!」
騎士たちが返事をする。
「アイリス、行きましょう」
「はい!」
ようやく雪から抜け出したアイリスも、外套についた雪を払いながら立ち上がった。
そして一行は、再び山を登り始める。
◇
さらにしばらく進んだ頃だった。
先頭を歩いていた騎士が、不意に足を止めた。
「アルベルト隊長」
「どうしました?」
「……足跡があります」
その言葉に、一行の空気が変わる。
アイリスも表情を引き締めた。
騎士が指した先。
雪の上に、いくつもの窪みが残されている。
動物の足跡。
だが、犬などより一回り大きい。
しかも、一頭ではない。
「狼型ですか」
アルベルトがしゃがみ込み、足跡を確認する。
「おそらくフロストウルフです」
雪山に慣れた騎士が答えた。
「この辺りにも生息しているのですか?」
「珍しくありません。群れで行動します」
アルベルトが立ち上がる。
「全員、警戒してください」
騎士たちが武器へ手を伸ばす。
リリーも周囲を見回した。
アイリスは背負っていた黄金の十字架メイスを手に取る。
白い雪。
白く染まった岩肌。
その向こうには、雪を被った木々。
何も見えない。
だが――。
「……います」
アイリスが小さく呟いた。
木々の隙間。
一瞬だけ。
白い何かが動いた。
「右です!」
その声と同時だった。
雪を蹴り上げ、一頭の魔物が飛び出した。
白い毛皮。
鋭い牙。
雪原に溶け込むような狼型の魔物。
「来ます!」
アルベルトが盾を構える。
さらに一頭。
二頭。
三頭。
雪の中から次々と姿を現す。
フロストウルフの群れが、一行を取り囲もうとしていた。
アイリスが黄金のメイスを握り直す。
そして――。
「ここなら、洞窟ではありませんし、壁も天井もありませんよね!」
アルベルトが一瞬、アイリスを見る。
「はい!」
アイリスの表情が明るくなる。
「それなら安心です!」
アイリスの声と同時に、フロストウルフが雪原を駆けた。
白い毛皮が雪景色へ溶け込む。
速い。
それも、ただ速いだけではない。
深く積もった雪の上を、まるで平地を走るかのように駆け抜けてくる。
「来ます!」
一頭が正面から飛び込んだ。
アルベルトが一歩前へ出る。
構えた盾へ、フロストウルフが勢いよくぶつかった。
ガンッ!
鈍い音が響く。
アルベルトは僅かに身体を沈めただけで、その突進を受け止めた。
「右から二頭!」
騎士の声。
別のフロストウルフが雪を蹴り、側面へ回り込む。
「させません!」
アイリスが黄金のメイスを握り、踏み込んだ。
だが――。
「――っ!?」
右足が雪へ沈む。
いつもの感覚で身体が前へ出ない。
その一瞬の遅れを縫うように、フロストウルフがアイリスの前を駆け抜けた。
「速い……!」
いや。
違う。
フロストウルフが速いだけではない。
こちらが遅いのだ。
アイリスが一歩進むたびに、足は雪へ沈む。
対するフロストウルフは、雪上でほとんど速度を落とさない。
一頭が大きく回り込み、後方のリリーへ向かう。
「リリーさん!」
アイリスが地面を蹴ろうとしたが、すぐに足元を見る。
雪へ深く沈んだ自分の足。
これでは十分に踏み切れない。
「リリーさん、下がってください!」
「分かった!」
リリーが騎士の背後へ下がる。
同時に一人の騎士が前へ出て、剣を構えた。
飛び込んできたフロストウルフが直前で身を翻す。
剣が空を切った。
「くっ……!」
追おうとした騎士の足も雪へ沈む。
その間にフロストウルフは距離を取っていた。
さらに左右から白い影が走る。
一頭が注意を引けば、別の一頭が側面へ。
雪上での機動力を最大限に利用している。
「深追いしないでください!」
アルベルトが声を上げた。
「陣形を崩せば囲まれます!」
「はい!」
騎士たちが足を止める。
アイリスもメイスを構え直した。
追わなくていい。
攻撃するなら、向こうから近づいてくる。
直後、一頭が正面から飛び込んだ。
アイリスは動かない。
引きつける。
さらに引きつけ――。
「今です!」
踏み込まず、その場で身体を捻り、黄金のメイスを振るう。
鈍い衝撃。
フロストウルフが雪の上を転がった。
「よし!」
だが、残るフロストウルフたちが動きを止めた。
距離を保ち、こちらの周囲を走り始める。
「……警戒されましたね」
「こっちが追えないって分かってるみたい」
リリーの言葉通りだった。
待てば近づいてこない。
追えば雪に足を取られる。
『神速』も『飛躍』も、この足場では十分に活かせない。
「…………」
アイリスは足元を見る。
雪。
そして、周囲を駆け回るフロストウルフ。
「……それなら」
黄金のメイスを片手に持ち替える。
空いた手で雪を掴み、一気に握り固めた。
「えいっ!」
そのまま投げる。
白い塊が雪原を一直線に飛んだ。
「――ッ!?」
フロストウルフが横へ跳ぶ。
雪玉がそのすぐ横を抜け、雪面へ突き刺さった。
「…………」
リリーが目を瞬く。
「今の、雪玉よね?」
「はい!」
「雪玉ってあんな速度で飛ぶものだったかしら……」
だが、アイリスはもう次の雪を掴んでいた。
ぎゅっと固める。
今度は相手ではない。
走る先を狙う。
「そこです!」
投擲。
フロストウルフの進路へ雪玉が飛び込む。
白い影が咄嗟に方向を変えた。
その瞬間、速度が落ちる。
「今です!」
騎士が盾を構えて進路を塞ぐ。
フロストウルフが反対へ跳ぶ。
その先には――。
「逃がしません!」
アイリス。
黄金のメイスが振り抜かれた。
フロストウルフが雪の上を転がる。
残る群れが動きを止めた。
距離を取れば雪玉が飛んでくる。
近づけば迎撃される。
しばらく一行を窺っていたが、やがて一頭が身を翻した。
それを追うように、残る個体も雪を蹴る。
白い姿が次々と木々の向こうへ消えていった。
「……逃げましたね」
アイリスがメイスを下ろす。
「追わないでください」
「分かっています!」
アルベルトの言葉に、アイリスが頬を膨らませた。
アルベルトは周囲を確認すると、山の上へ視線を向けた。
「先を急ぎましょう。天候も悪くなってきています」
「はい!」
アイリスは黄金のメイスを背負い直す。
雪上では、いつものようには動けない。
ならば、その場所に合った方法を考えればいい。
一行は再び、氷洞を目指して雪山を登り始めた。




