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03 かたかた

 かたかた。

 それからずっと、(あしおと)――つきまとう気配を感じていた。

 なぜかは知らないが、()()は直接、目の前に出てくることはなく、背後まで近寄ることはあるが、振り向くといなかった。


「思ったより動けるようになっているのか」


 ならばなぜ、こうして見えないようにしているかが謎だった。

 だがとにかく、西行としては気味が悪いことこのうえないので、彼らしく逃げた。

 坂東へ。

 奥州へ。

 一度は鎌倉を訪れ、そこで源頼朝と会い、銀でできた鼠をもらったこともある。

 しかし、無双の武者たちの都でも()()()()が感じられてたまらず、銀の鼠はそこらの童にあげて、さっさと逃げ出してしまった。


「心なき 身にもあはれは しられけり しぎ立つさはの 秋のゆふぐれ」


 とは、その頃詠んだ歌である。

 心なき身、すなわち骨で作った人にも、もののあはれをわかってくれ、鴫のように自分はこの夕暮れに立っていく、という意味だったのかもしれない。

 かくして西行は、秩父の土橋や、日光の石、松島の松と、()()を身近に感じ、恐怖に震える。

 そのたびに、戻った。

 来た道を。

 何でか知らないが、恐怖があった。

 ()()は取って食うわけではない。

 ただ、見ている。

 ただ、そばに近づく。

 それだけだ。

 それだけなのに。


「怖い」


 どこか、根源的な。

 そういう恐怖がある。


「なぜだ」


 禁断の外法を使ってしまったという負い目はある。

 だがそれだけだ。

 罪に問われるものではない。

 捨ててあった骨を使っただけのことであるし、誰かに文句を言われる筋合いはない。

 

「くそっ」


 せっかくの雅な旅の人生を送れると思っていたのに。

 これでは、武士でいた頃の方がましだ。

 弓矢のことなど、とうに忘れたが、こうして追っ手に追われれば、討つことができる。


「だが今は仏僧の身。さような殺生など、できぬ」


 そのこだわりが西行を苛む。

 ある時、伊勢神宮に行ったとき、その時はさすがに気配を感じなかった。

 そこで、


何事なにごとの おはしますをば しらねども かたじけなさに なみだこぼるる」


 という歌を詠んだ。

 詠んだものの、実はその直後にまた気配を感じ、西行は逃げるように伊勢をあとにした。

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