↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/68

63話 水遊び、これぞ青春!

 空は雲一つない蒼天。

 心地よい風が吹き抜け、渓谷の水は穏やかに流れている。

 そして。

 その中で楽しそうに遊ぶ、水着姿の美少女たち――


「きゃっ! 冷たい! よくもやったわね!」

「あ、エリナさん! いくら何でも直接攻撃は――きゃっ! もうっ!」

「ふっふーん。私に喧嘩を売ったアヤカが悪いのよ――ぶふっ!? ちょっと、エトちゃん! 何よその水鉄砲!」

「戦略兵器」

「何それずるい!」


 エリナと彩花ちゃんが水を掛け合い、そこへ天川《あまがわ》が無表情のまま水鉄砲で介入する。

 実に穏やかで、微笑ましい。


 少し離れた場所では、犬井《いぬい》先輩が有栖川《ありすがわ》の腕をぺたぺたと触っていた。


「有栖川さん、肌すごく綺麗……。陶器みたいって、本当にこういう人に使う言葉なんだね」

「ありがとうございます。でも、犬井さんも素敵な肌ですよ」

「ええーそうかなー。ううん、やっぱり有栖川さんの肌は特別だよ! 向日葵《ひまわり》ちゃんもそう思わない? ……向日葵ちゃん? 何でそんな怖い目で私を……というか、胸を見てるの!?」

「……くっ! 私への当てつけか!? そんな脂肪の塊……脂肪の塊なんか、こうしてやる!」

「きゃあっ!? どこ触って……落ち着いて、向日葵ちゃん!」

「これが落ち着いていられるか!」

「あわわ……有栖川さん、助けて!」

「え、ええと……わたくしは、どうすれば……」


 水着姿の美少女たちが、水しぶきの中で楽しそうに騒いでいる。

 その光景は、まさしく一枚の絵画のようだった。

 跳ねた水滴が陽光を反射し、ただでさえ眩しい景色にさらに輝きを加えている。


 ああ。

 これぞ、青春。


 これほど眩しく、美しい光景が他にあるだろうか。

 あるとすれば、それは優人《ゆうと》のラブコメくらいだと断言しよう。


 ゆえに、日常生活においてこれ以上の光景は存在しない。

 誰が見ても完璧な証明。

 Q.E.D.


 人生とは、かくも輝かしく素晴らしいものなのだな。

 胸の奥がじんわりと温かくなり、油断すれば涙すらこぼれてしまいそうだった。


「なあ、優人……」

「……ん?」

「何か、いいな……こういうの……」

「……そうだな……」


 そんな美少女たちの姿を、俺と優人は温かい目で見守りながら、しみじみと語り合った。


 ちなみに、石澤《いしざわ》先生とシルヴィアさんは、皆の様子を見渡せる位置に座り、渓谷に足を浸けながらのんびりと会話をしている。


 残念ながらここからでは会話の内容までは聞こえない。


 だが、慈愛に満ちた微笑みで少女たちを見守っている姿を見る限り、二人もこのひとときを心から楽しんでいるのだろう。


 女性陣は、誰一人として例外なく美少女、または美女。

 性格や内面については、まあ、いろいろと思うところのある曲者の集まりではある。

 しかし、こうして少し離れた場所から見守っている分には、何の害もなく、ただただ目の保養になる。


 これぞまさしく、現世の桃源郷……!

 桃源高校だけに。


 そんなくだらないことを考えながら、俺と優人が心身を癒やしていた、そのときだった。


「そこ、男子二人! そんなところで鼻の下を伸ばしてないで、こっちに来なさいよ! えいっ!」


 いつの間にか俺たちの近くまで来ていたエリナが、優人の足首を掴んで引っ張った。


「う、うわっ!?」

「え? ちょ、ちょっと! きゃあっ!」


 別に、そこまで危険な姿勢ではなかった。

 優人なら、十分に身体のバランスを保てたはずである。


 だが、その瞬間。

 物理法則が、ラブコメの神に屈服した。


 絡まっては崩れ、そして共に落ちた。


 結果――


 ざぶんっ!


 二人は仲良く水の中へ沈んだ。


「お兄様! エリナさん!」

「ちょ、二人とも大丈夫!?」


 彩花ちゃんと犬井先輩が、慌てて二人の方へ駆け寄る。


 水に落ちたとはいえ、そこまで深い場所ではない。

 もちろん渓谷である以上、岩や小石で怪我をする危険はある。


 だが、俺は知っている。

 こういう場面で、優人が普通に怪我をして終わるところなど、見たことがない。

 むしろ、別の結果になることの方が多い。


 そう。


 たとえば――


「ぷはっ! もう、ユウト! 急にこっちに倒れないでよ! ビックリしたじゃない!」

「いや、俺のせいじゃないだろ!? そもそもエリナが急に引っ張っ……た、から……え?」

「ん? ユウト? どこ見て……へ?」


 ――ラッキースケベという結果になることのほうが、圧倒的に多い!


「きゃあああああっ!!」


 エリナが悲鳴を上げ、慌てて優人にしがみついた。


「え、ちょ、エリナ!? その状態で抱きつかれると、いろいろ危な――」

「仕方ないでしょ! 他の人に見えるじゃない! どこ行ったのよ、私の水着!」


 優人の身体に隠れて、こちらから決定的な部分は見えない。


 だが、少し離れた水面に、エリナの水着の一部らしきものが、ぷかぷかと流れているのは見えた。


 ……なるほど。

 そういうことか。


 いつもながら、重要な場面ほどこちらの視界からは決して見えない。

 これを主人公補正と言うべきか、脇役差別と言うべきか。


 だが、それでいい!

 ヒロインのあられもない姿など、俺のような脇役には不要なものだ。


 もちろん、一人の男として、見られないことに惜しさがないと言えば嘘になる。

 しかし、脇役には脇役の越えてはならない壁がある。


 具体的に言えば、もし俺が見ていたら即座に社会的死亡である。


 まあ、そんな脇役に世知辛い事情はともかくだ。


 これは、紛れもなく水着イベントにおける定番中の定番の――


(水着ポロリイベント、来たああぁぁぁぁぁぁっ!!)


 俺は心の中で歓喜に打ち震えた。

 本音を言えば、今すぐこの喜びを全身で表現したい!


 だが、この完璧なラッキースケベを前にして、余計な声を上げて水をぶっかけるなど言語道断!


 何より、このあっつい興奮を外に出したら最後。

 俺は滅ぼされる。

 社会的に!


 しかし、いつもながら見事な手際だ。


 状況。

 タイミング。

 配置。

 そのすべてが完璧だった。


 どういう原理でああなったのか、あらゆる角度から観察したいという欲望もある。


 しかし、世の中には深掘りしない方がいい現象というものが存在する。

 これはそういうものだ。


 そう受け入れ、静かに味わうことこそ、脇役として正しいラッキースケベ鑑賞姿勢なのである。


 水遊びイベントに欠かせない定番まで自然にこなしてしまう、我らが主人公、神代優人。


 まったく。

 見るたびに、その底知れぬ主人公力には感心させられる。


(さてと。少し離れた場所まで移動して、ゆっくり鑑賞するとしますか)


 このままここにいたら、確実に俺にも火の粉が飛んでくる。


 あの修羅場に混ざるのは御免だ。


 俺は巻き込まれず、遠くから温かい目で見守る専門なのだ。


 友として、せめて冥福くらいは祈ってやろう。

 南無阿弥陀仏。


 さらばだ、優人。

 お前の犠牲は忘れない! ――三秒ほどは。


 拙者はこの場から退散いたそう。

 ドロン!


 視線だけは優人たちに固定したまま、俺は決して火の粉が飛んでこなさそうな位置まで、そっと移動した。


 その間にも、実に楽しそうな修羅場は続いている。


「ユ・ウ・トー!!」

「お兄様! 何をしているんですか!」

「優人君! さすがにこれはひどいよ!」

「ええっ!? 俺のせいなの!? おい、佐助《ようすけ》! お前も何か言っ……って、いない!? あいつ、先に逃げたな!?」


 優人にしがみついたまま離れようとしないエリナ。

 そんな優人を非難の目で見る彩花ちゃんと犬井先輩。

 そして、混乱の中心に立たされた主人公。


 脇役として、このような名場面に立ち会えたことを、心より光栄に思います。


 やがて、いつものように優人の悲鳴にも似た叫びが渓谷に響き渡った。


「何でこうなるんだよおおおおお!!」



 そりゃお前、主人公だからだろ。

面白いと感じていただけましたら、反応をいただけますと励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。