30話:元幽霊部員は脇役を見つめる
よくわからないが、久木先輩も加わったことで、記念すべきお悩み相談部の初活動が始まることになった。
ちなみに、現在の席順はというと。
俺と優人が並んで座り、その正面に、犬井先輩、久木先輩、エリナ、天川の順で並んでいる。
なぜ優人がエリナや犬井先輩の隣ではなく、俺の隣に座っているのか。
理由は簡単だ。
この空気の読めない鈍感系主人公様が、犬井先輩が席を立った隙に、
「男同士で座った方がいいよな」
などと言いながら、実に自然な流れで俺の隣へやって来たからに他ならない。
おいおい、ゆーうーとーくーん?
今、自分が何をしているのかお分かりになっておりますかぁー?
この鈍感属性主人公がー!
こういう場面では当然、美少女たちに囲まれながら、きゃっきゃうふふと桃色空間を形成するのがお前の役割だろうが!
たとえば、そうだな。
優人の両隣に犬井先輩とエリナが座る。
その正面に久木先輩と天川が座る。
そして俺は、もっとも遠い端の席で、優人ハーレムをゆったり眺める。
それこそが理想の配置だというのに!
頼むから少しは空気を読んでくれ、この馬鹿野郎!
今日もこいつの空気読めないスキルは通常運転らしい。
俺はもう、涙が出そうです。 しくしく。
……まあ、こいつがこうなのは今に始まったことではない。
とはいえ、だからといって簡単に流せるものでもない。
いつかこの鈍感さが原因で、こいつが誰かに刺されないことを祈るばかりだ。
……いや、割と本気で。
ちなみに、そんな優人の行動に対して、なぜかエリナが鋭い目で俺を睨んでいた。
流石にそれには「理不尽すぎるぞ!」と抗議せざるを得ない。
今回に限って言えば、俺の責任は本当に0%だ。
なので俺も「睨むなら優人を睨め」という気持ちを込めて、同じように睨み返しておいた。
すると、今度は別の方向から視線を感じた。
何となくそちらへ目を向けると、天川と久木先輩が、じっと俺を見ていた。
エリナの視線は明らかに敵意。
いや、一歩間違えば殺意すら感じる類いのものだった。
対して、天川の視線はいつも通り無表情ゆえに何を考えているのかまるで読めない。
なので無視。
問題は、久木先輩の方だ。
さっき部室に現れたときからそうなのだが、なぜか彼女はずっとこちらを見ている。
その視線には、何というか、うまく言葉にできない熱のようなものが含まれている気がした。
初対面の先輩から、そんな視線を向けられるようなことをした覚えがあるか?
そう自分に問いかけてみたが――うん。 やっぱりないな。
優人なら、本人が気づかないうちにあちこちへフラグをばら撒いていても納得できる。
だが俺は違う。
道端に転がる石ころ。
あるいは壁紙と同化しても誰にも気づかれない脇役。
そんな俺に、初対面の美少女先輩から熱い視線を向けられるようなイベントが発生するはずなどない。
考えても理由がわからないので、こちらも無視することにした。
本当に何なんだ、この先輩は。
――それにしても。
こうして三人の美少女から同時に視線を向けられていると、もしかして俺の時代が来たのではないか、などと思ってしまいそうになる。
ははは。
参ったなー。
俺ってば、人気者で困るよーあははは!
……あら、やだ。
自分で考えただけなのに、全身に鳥肌が立っちゃったじゃない!
気持ち悪いですわ!
あまりにも気持ち悪い!
身の程知らずな妄想をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
「それじゃ、改めてお悩み相談部の活動を始めようか! こんなに人が多いの、久しぶりだから私すごく嬉しい!」
よほど俺たちが来たことが嬉しいのだろう。
犬井先輩は、さっきからずっとにこにこしている。
もし彼女に犬の尻尾が生えていたなら、間違いなくぶんぶん振られていたはずだ。
いや、ぶんぶんどころではない。
回転だ。
きっと回転していた。
ヘリコプターのプロペラみたいに高速回転して、それだけで空を飛べそうなくらいの勢いで。
……少し想像してみたが、意外と悪くない絵面になりそうだった。
うむ。
これはなかなか可愛いですね。
よって、ヒロインポイント十点を進呈します。
「ところで犬井先輩。 部活動と言っても、結局ここは何をする部なんですか?」
エリナの質問に、犬井先輩は「よくぞ聞いてくれました!」とでも言いたげに胸を張った。
その結果、特定の部位が強調され、なかなか目の保養になったことはここだけの話である。
犬井先輩は鞄の中をごそごそ漁ると、何かを取り出した。
「じゃじゃーん! 今日の活動内容は、この中に入っています!」
それは、箱だった。
蓋の部分には鍵がついていて、上部には紙のようなものを入れるための細い口が空いている。
どこからどう見ても、
『私は投書箱です!』
と全力で主張しているような見た目だった。
優人が、その箱を見て首を傾げる。
「これ……って、箱ですよね?」
「その通りだよ、ワトソン君! そう、これは箱なのだ!」
存在しない口ひげを撫でるような仕草をしながら、犬井先輩は箱の鍵を外した。
犬井先輩、テンション高いなー。
ちなみに、探偵役が犬井先輩で、優人がワトソンらしい。
配役が雑である。
そもそも相談部で探偵ごっこを始める意味もよくわからない。
だが、犬井先輩が楽しそうなので、まあいいとしましょう。
あと、可愛いし。
鍵を開け、蓋を持ち上げる。
中に入っていたのは、何度か折り畳まれた紙が数枚だった。
犬井先輩はその中から一枚を取り出す。
「お悩み相談部という名前の通り、私たちはここに書かれた悩みと向き合って、それに答えていくんだよ!」
なるほど。
つまり、この箱はただの投書箱ではない。
誰かの悩みが詰まった箱。
言い換えれば、青春イベントの種が入った箱というわけだ。
ラブコメ世界において、こういう箱は侮れない。
中から飛び出すのは、恋の悩みか。
友情の悩みか。
それとも、実に面倒くさい事件の予兆か。
言ってしまえば、青春イベントガチャである。
なるほどなるほど。
これは優人の今後にも大いに関わってくる可能性がある。
脇役として、しっかり観測せねばなるまい。
犬井先輩は紙を広げると、少しだけ表情を引き締めた。
「それじゃ、記念すべき最初のお悩みを読み上げます」
部室の空気が、ほんの少しだけ変わる。
犬井先輩は、ゆっくりと紙面へ目を落とす。
「どこへ相談すればいいのか、悩みに悩んだ末、こうして筆を取ることにしました――」
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