表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

2話 親友は主人公、俺は脇役

 朝っぱらから王道ラブコメを直撃してしまった俺は、抑えきれない興奮にそのまま飲まれていた。


「くくく……うははははははっ! 世界よ、我が前に跪け! あーっはっはっはっはっ!!」


「……悪いけど、朝から中二病をこじらせてる友達と一緒に登校できるほど、俺は勇者じゃないんだ」


 おっと。

 どうやら入学式初日だというのに、テンションが上がりすぎてしまったらしい。

 高まる期待が、うっかり俺の中のよくない何かを解き放ってしまったようだ。


 振り向けば、優人が本気で引いた顔のまま、じりじりと後ずさっていた。

 周囲の連中まで、微妙に距離を取っている。どうやら多少は自重した方がよさそうだ。


「えー、そんなぁ。優人ってば、い。じ。わ。るっ♡」


 まるで自重できていなかった!


 優人の目が、さっきよりさらに冷たくなる。

 あまりの冷えっぷりに、見ているこっちの心まで折れそうだ。いや、これはもはや冷たいというより、腐ってる目と言うべきかもしれない。


 もっとも、そんな優人の顔面には、ついさっきのピンク髪美少女との事故の名残――見事なもみじ印が、まだくっきり残っているのだが。


「……本気で先に行くぞ」


「待て待て、親友。ここで俺を置いていくとか薄情じゃないか?」


 優人をからかうと、毎回きっちり面白い反応が返ってくる。

 わかっていても、つい度が過ぎるのは俺の悪い癖だ。


 俺はさっさと歩き出した優人のあとを追いかけ、その肩に腕を回した。

 露骨に嫌そうな顔をしながらも、本気で振り払ったりはしない。


 器が広い。そこにシビれる! あこがれるゥ!

 さすが主人公だ。


 やはり、優人の隣にいる日常は最高に楽しい。

 神代優人という主役の親友ポジション――それこそが、俺に与えられた最高の立ち位置なのだから。


 こういう役回りに転生したのは、今さらながらとんでもない幸運だったと思う。


 なにしろ、前世の記憶を取り戻してからというもの、俺はこの世界についていくつかの確信を得ていたのだ。


 まず一番大事な事実。


 神代優人は、どう考えてもこの世界の主人公であること。


 いや、本当に冗談でも何でもなく、あいつは最初からそういう星の下に生まれている。


 やたらと美少女と縁があるとか。

 妙なタイミングでラッキースケベが発生するとか。

 何か起こればだいたい騒動の中心にいるとか。

 そのくせ最後には、なんだかんだで綺麗に解決してしまうとか。


 今日の朝だってそうだ。

 入学式へ向かう途中、たまたま木の上で猫を助けようとしていた美少女に出くわす。

 たまたまそこへ優人が通りかかる。

 たまたま枝が折れる。

 そして、たまたま完璧なラッキースケベが成立する。


 ここまで来ると、もはや偶然ではない。

 様式美だ。

 もしくは世界の意思である。


 あいつは昔からずっと、そうだった。


 幼い頃には、別の幼なじみの女の子が引っ越すことになったとき、平然と「大きくなったら結婚しよう」みたいな約束を交わしていた。……まあ、今の優人は全く覚えていないみたいだが。

 

 同年代の男子連中が悪ノリで女子を泣かせていたときも、あいつだけは一人で飛び出して「そういうのは駄目だろ!」と止めに入った。


 小学校に入ってからは、親の再婚でできた義理の妹に妙に懐かれた挙げ句、「わたし、お兄さまのお嫁さんになります!」などと宣言されていた。


 他にも細かい話を掘り返せばきりがない。

 とにかく、あいつは昔から妙にフラグを立てる。

 しかも本人にはその自覚がない。

 それどころか、自分へ向けられる好意にはとことん鈍い。


 これで主役じゃないと言う方が無理がある。


 そして二つ目。


 そもそも、この世界そのものがちょっとおかしい。


 国の名前は確かに日本だ。

 地理も、言語も、生活様式も、おおむね俺の前世で知っていた日本に近い。


 だが、細かいところを見ていくと、どうにも違う。


 歴代総理の名前は微妙に違っていたし、俺の知っている歴史と噛み合わない部分も少なくなかった。


 文化の流れも、流行も、前世の記憶と比べるとところどころズレている。


 そして何よりわかりやすいのが、見た目だ。


 前世の日本では、黒髪に茶色や黒系の瞳が普通だった。


 だが、こっちの世界は違う。

 髪も瞳も、やたらとカラフルなのだ。


 赤、青、銀、桃、紫。

 アニメの画面の中でしか見ないような色合いが、なぜか普通に日常へ溶け込んでいる。


 最初は同じ日本にいるはずなのに、自分だけ別の星へ放り込まれたのかと本気で思ったほどだ。


 要するに、この世界はどこかラノベや美少女ゲームじみている。

 優人みたいな奴が“主人公”として成立してしまうための土台が、最初から整っているのである。


 そして三つ目。


 俺にとってはないがしろにできない問題だ。

 

 そんな世界で、神代優人が主役なら――その親友である俺は何だ?


 答えは簡単。

 脇役である。


 ただの脇役ではない。

 主人公の親友という、脇役の中でもかなりおいしい立ち位置を与えられた、いわば脇役界の専門職だ。


 そう考えた瞬間、俺の中で全てが綺麗につながった。


 なるほど。

 俺が前世の記憶を取り戻したのには、ちゃんと意味があったのだ。


 この世界の主役になるためではない。

 主役を支える、完璧な脇役になるためだ。


 もし俺が前世の記憶を持たないままだったら、こんなにも高潔で、こんなにも感動的な結論にはたどり着けなかっただろう。


 そう、これはきっと神の采配だ!


 普段はそんなもの信じちゃいないが、このときばかりは信じてやってもいいと思った。


 脇役としての天命を悟ったあの日、マジで頭上から光が差した気がしたくらいである。


 以来、俺は脇役として最善を尽くしてきた。


 優人がより映えるように情報を集め、流し、整え、必要ならそれとなく場を調整する。


 優人がトラブルを乗り越えやすいように手を回し、ときには周囲を焚きつけて、あいつの“主人公としての見せ場”を演出したことすらある。


 今思い返しても、実に充実した日々だった。


 主役として行動し、

 主役としてトラブルに巻き込まれ、

 主役として壁を乗り越えていく優人を、

 そのすぐ隣で見届ける。


 それこそが俺の喜びであり、生きがいだったと言ってもいい。


 そして今日からは高校編に突入する。


 舞台は新たな学び舎。


 周囲にはまだ見ぬ美少女ヒロイン候補たち。


 これから先、優人のもとには数々のラブコメイベントが舞い込み、青春と波乱に満ちた毎日が待っているに違いない。


 いわば。


 『優人's Love Comedy Trouble in High School』編の開幕なのだ!


 ああ、なんて素晴らしい。

 俺の脇役ライフは、これから先も盤石だ。

 主人公たる優人の隣で、俺は今日もまた最高の観客席を確保している。


 ――少なくとも、このときの俺は、本気でそう信じていた。

面白いと感じていただけましたら、反応をいただけますと励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ