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27話 部活勧誘の季節、これぞ青春

 桃源高校に入学してから、一週間が経った。


 桃源高校では、この時期になると一種の戦争が始まる。


 そう――


「テニス部、いかがですかー!? そこの新入生諸君! 我々と一緒に、青春をテニスに燃やしてみないか!」


「漫画研究部です……あ、あの、もしご興味があれば……」


「科学部でーす。 化学実験から物理検証、ロボット制作まで幅広く活動してますよー」


「男なら筋肉! 筋肉こそ男らしさ! 筋トレ部に入って、君たちもムキムキボディを手に入れないか!」


「新聞部です! プロの記者を目指しているなら、ぜひ私たちと一緒に……って、放送部! 邪魔なんだけど!」


「今どき新聞って何だよ! 記者なんて古くさいものより、ぜひ我が放送部で新時代のクリエイターを目指してみないか!」


「ギャル部でーす。 適当にだべって楽しく過ごしたい子、よろー☆」


「ホスト&ガールズバークラブ部へようこそ。 一時の夢と幻想を提供したい者は、我らのもとへ」


「ククク……悪魔召喚部だ。 深淵なる願いのため、魂を捧げる覚悟を持つ契約者たちは、この魔法陣つくえの前へ……」


 部活動勧誘期間である!


「おお、やってるやってる」


 校舎から校門前までずらりと陣を張り、必死に部活動を宣伝している先輩たちの姿を眺めながら、俺は思わず感心してしまった。


 ただでさえ生徒数の多い桃源高校だ。

 当然、部活動の種類も多い。


 普通の部活も多いが、中には「それ、部活動として存在していいのか?」と言いたくなるようなものもちらほら見える。


 何だよ、悪魔召喚部って。

 しかも、頭の先が長く尖った覆面みたいなものまで被っているせいで、怪しさが尋常ではない。


 ……いや、まあ。

 何というか。


 中二心を刺激されると言いますか。


 ぶっちゃけ、「すげぇ! かっけぇぇ!」と思ってしまいましたけども。


 この世界は世界観自体がそもそも正常ではないせいなのか、あんな格好をしているのにそこまで浮いていないところも、またクールだった。


 桃源高校は規模が規模なので、新入生勧誘期間はだいたい入学式から一週間後に始まり、そこから一ヶ月ほど続く。


 この期間中、新入生は好きな部活動へ仮入部し、体験しながら自分に合った部活を探すことができる。


 もちろん、部活動への参加は強制ではない。

 そのため、普通に帰宅部を選ぶ生徒も少なくないらしい。


 俺の前を歩いている三人――優人ゆうと、エリナ、天川あまがわは、校門から校舎入口へ続く長い勧誘の列を見て、それぞれ視線を動かしていた。


「すごいな……何か、意味のわからない部活も見えるけど」

「そうね。 あ、エトちゃんはどの部活に入るか考えてる?」

「……別に。 興味ない」

「えー、そんなこと言わずに一緒の部活入ろうよー」

「……離れて」


 いや、正確には、感心しているのは優人とエリナだけだ。


 天川はエリナにがっちり捕まって、そのまま強制的に連れ回されている、と言った方が正しい。


 天川はいつも通りの無表情を保っている。

 だが、なぜかさっきから一歩後ろにいる俺をちらちらと振り返っていた。


 まるで「助けて」と言いたげな視線で。


 だが、悪いな、天川!


 俺の脇役モブライフのために、お前には今日、エリナの立派なおもちゃになってもらう!


 そんな三人を一歩後ろから眺めながら、俺は実に穏やかな気持ちで微笑んだ。


 エリナは天川のことを「エトちゃん」と親しげに呼んでいるが、どう見ても本人の許可を取った様子はない。


 以前、修羅場の一件があって以来、エリナはどうやら天川のことをかなり気に入ったらしい。

 何かと俺を探して現れる天川を見つけては、そのまま捕まえて一緒に行動するようになっていた。


 そのおかげで俺は天川に絡まれることなく、一歩後ろから優人を観察できている。


 俺としては、ナイスプレーと叫ばざるを得ない。


 ありがとうございます、エリナ様!

 胸だけ大きいツインテール幼なじみ(負けヒロイン)のくせに、などと心の中で暴言を吐いたことをここに謝罪いたします!


 元々エリナは優人のそばにいる事が多い。

 自然と、天川も俺より優人に近いところにいるように見えるのだろう。

 そのせいで、我が進学科一年A組では天川も半ば「優人の毒牙にかかった哀れな美少女」扱いされ始めている。


 日に日に優人を見る男子たちの目が鋭くなっているが、俺にできることなど、涙を拭いながら優人を応援することくらいしかない。


 頑張れ、優人!

 ついでに天川にもフラグを立ててくれたら完璧だ!


 天川が俺に張りつき始めたときはどうなることかと思ったが、見ての通り、俺の脇役ライフは健在である。


 くっくっくっ!

 見たか、師匠!


 モテ期だの何だのと、ありもしない風評被害を俺に押しつけてきたが、これが現実だ!


 次に師匠と話すときには、きっちり謝罪を要求してやる!


 ああ、世界はこんなにも美しく輝いている。


 俺はこれからも脇役として、己の使命を全うしよう。

 そう、改めて心に誓った。


 ちなみに、有栖川ありすがわはここにはいない。


 そもそもあのお嬢様は別のお嬢様学校に通っているのだから、さすがに桃源高校の校内へ堂々と侵入することはできないらしい。


 ……まあ、校門近くで待ち伏せされていたことはあるが。


 とはいえ、こうして部活動勧誘で騒がしい桃源高校の雰囲気を見れば、あのお嬢様も多少は自重するのではないかと期待したい。


 ……常識というものが通じるなら、の話だが。

 そこに関しては敢えて思考の外側に放り投げた。


 そんな感じで、俺たちは各種部活動の勧誘を眺めながら校内を歩いている。


 青春といえば、やはり部活動イベントは欠かせないからな!


 ……いや、正直に白状しよう。


 俺自身は、部活動にそこまで興味があるわけではない。

 部活が必須というわけでもないし、帰宅部でも特に問題はないからだ。


 だが、優人が今後どの部活に入るのか。

 あるいは部活に入らず帰宅部を選ぶのか。


 それによって、優人ハーレムラブコメの行方も大きく変わってくるはずだ。


 そういう意味では、俺にとっても重要なイベントだと言える。


 俺たちがゆっくりと部活動の勧誘を見て回っていた時のことだった。


「ん? ああ! やっぱり、君ってあのときの後輩くんじゃない?」


 唐突に、明るい声が優人へ向けられた。


 視線を向けると、緑色の髪をポニーテールにまとめた、どこか活発そうな印象の美少女先輩が、優人に向かって手を振りながら近づいてくるところだった。


 何というか、全身から「人懐っこいです!」という空気を放っている。

 例えるなら、嬉しそうに尻尾を振りながら駆け寄ってくるワンちゃんのよう。


 おお!

 これはもしや、元気いっぱいワンコ系美少女先輩の登場ですか!?


 優人のやつ、いつの間にこんな美少女先輩と知り合っていたのだ!

 俺の目が届かないところで……けしからん!

 実にけしからんぞ!


 と、俺が心の中で興奮したのは言うまでもない。

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