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黄昏のオダマキ  作者: ないある
陋能転国編
9/25

9話【食べる事は修行です】

色々と生活が変わった。それは陋能転国の生活の補助。つまるところ医療や食料・飲料供給…施しを受けることをやめた。理由は単純にあの『秘密』を知られた結結果鬼燈が何か仕込んだりしてくる可能性と犠牲の上に成り立つ医療を受けるのは駄目だと判断したからだ。それに加えて陋能転国が襲ってくる可能性もあるからだ。


そしてもう一つ。正元から貰った薬だ。

正元の善意と遺漏に作られたならちゃんと使えるはずだと並べる。

「取り敢えずシズから」


『こころのくすり』は【1人1日1錠】と書かれている。1錠手に取りシズは水と共に嚥下する。

ゲームに出てくる薬だからか即効性があると思われるが。

「んー…あんま変わった気はしないけど…気分が良くなった気がする」

本人はそう言うがかなり声量も言葉の数も今の言葉で増えている。

「元々明るい性格だったのかな?」

敦己はそう観察している。

「いづい感じすっか?」

荒見が尋ねるも「特に変な感じはしないよ」と異常もないようだ。

次は『犬の注射』だ。

『犬の注射』という小さな箱には【ペットのワンちゃんに!(他のイヌ科には効きません)】と書かれている。つまるところ狼の獣人には意味がない。

「意味ないじゃんっ!」

まひるは注射器の入った箱を棚にしまった。

「まぁ別に念の為だしいいっしょ」

敦己はぐでんとソファに寝転がりのんびりしている。

『記憶の雫』だが…箱を開けると壊れてしまっている。いくつかのネジとケーブルが取れている。此処にいる誰も機械修理に詳しくない。

「……知り合いに直せる奴もいねぇしな…」

一樹にも心当たりは無さそうだ。せっかく記憶が戻りそうだったのに。

「嘘ー…瑕疵だぁ……」

ランバは肩を落としあからさまに落ち込んでソファにうつ伏せになった。

この機械を直すことも次の目的になってしまった。


次の課題は食糧問題だ。水に関しては花菜の【遺漏】が何とか出来るので問題は無い。


「花菜の遺漏って結局何?」

ランバはそう言えば聞いていないなと尋ねる。

「あたし?あぁ『洗濯』だよ。『クリーンウォッシュマン』ってゲームの主人公の能力。ゲームだから色々な効果があって便利なんだよ。物理的に吹っ飛ばせて心も洗える…くくく」

そう不敵に笑う花菜はホースを空中に顕現させた黒い影からホースを取り出す。

「ホースだけじゃなくて洗濯機も出せるけどね」

次なる課題は食糧問題。

アメトリンでは農業も行われているが無論それだけでは足りない。遺漏により食糧を作れるものもいるが一人では限界がある。それを合理的に解決する手段が一つある。

それは…オミッションを食べること。

「…………」

「え?え?え?」

目が覚めたブレナンはそれを聞いて何度も聞き返す。

「夢じゃないよね?正気で言ってるよね?」

無論人型やどう見ても危険な見た目のものは避ける。動物の形をしている。由来がわかるオミッションを狩るようだ。

「毒は?安全は?」

「洗い流す」

花菜が自信アリげだ。

「………んんん…」

仕方ないんだろう。仕方ないんだ。そう自分に言い聞かせるが…。

「やだあああっあああっ!!!」

ブレナンはジタバタと布団の上で体を捩る。

「片腕なくしたのにバランスすげーな」

花菜はブレナンが嫌がるのは承知だった。彼は安全性の保証のない野生の生き物(?)を食べるのは嫌だった。細菌とか、寄生虫とかそういった物が怖い。オミッションはその筆頭だ。毒があるのか判別もできない上に見た目動物に近くても中身が全く別物だったら?細菌を持っている可能性は?花菜の遺漏が毒を洗い流せたとしても気持ち的には洗われない。

「なんで…なんでこうなるんだ…俺はその辺の雑草でも食べてたいよ…」

「雑草も専門知識ないと毒判別できないでしょ」

「雑草はオミッションより身近だから」

結局ブレナンはオミッションNGを出したので彼にはオミッションは食べさせないことにした。

――――――

「これを料理するんだよな?」

シズがそう確認したのはワニと恐竜が合体したようなオミッション。

「鱗硬そー…ランバお願いね」

「えっ」

双に料理を命じられるランバ。

千春はペラペラと本を捲る。神話関連から妖怪など。

「アニメでは見たことないし…漫画も…なら…なんだろう…悪魔じゃなさそうだし…」

「妖怪…?」

ブツブツと独り言を言いながら探しているとようやく見つけた。

「『アマダツ』日本の妖怪の一瞬だってさ…あ、食べたら美味しいし毒ないって書いてる…多分大丈夫だろうけれど…花菜お願い」

「よっしゃ。ジャバるから」

待ってましたと言わんばかりに花菜がアマダツの身体にホースで水をかける。これで毒はもうないらしい。


――――

「捌…捌く…私が…?」

料理なんて…した事ないのに?

「あーめくせーワニだごだ(見た目悪いワニだな)」

恐竜みたいな生き物なんてそうそう見ないだろう。荒見は顔を顰めながらアマダツを見ている。

「すけっか?(助けようか?)」

「あ、お願いします…!」

思わぬ助っ人に目をキラキラさせる。料理上手そうだから何とかなりそうと思っていたが。やっぱり料理は私が担当し荒見は助言係だった。

まず柔らかい腹から捌き内臓を傷つけないように取り出して皮も剥ぐ。多分このまま成功すれば味も落ちないはず。

「猫の手」と言われ鋭利なナイフで自分を傷つけないよう意識していると血の匂いに反応したのかバグシィが様子を見に来た。やっぱり猫だから匂いに敏感で肉が好きなのだろうか。

「バグシィの分もあるからつまみ食いは駄目だよ。まだ熱してないんだし」

菌が怖いから加熱はしっかりしないとサルモネラ菌とかが怖い。

尻尾とか頭とか切り分けるのに時間がかかってしまう。血抜きと臭みを消すために塩水に浸してしばらく休憩していると鈴彦が水を差し出してくれた。

「すみません…任せてしまって…」

料理は基本花菜が担当しているのだが今花菜は選択に追われているらしい。

「いや、いやいやぜんっぜん!役割くれてむしろ有難いです!」

鈴彦は掃除をしていたようで一礼してから廊下を歩いていった。


血抜きを終えた肉を焼き始める。匂いは良い。見た目もそれなりに食べられそうだ。気持ちよりかなり多めに時間焼こうとしたが焼き過ぎも肉を硬くすると言われ十分加熱した辺りで皿に乗せた。


その肉に胡椒をふりかけサラダと共に食べてみることにした。

「野菜育てて良かった〜」

双が早速「いただきます」と言い肉に齧り付いた。

「うわぁ……あ」

ブレナンが缶詰の魚を食べながらその様子を観察して尋ねる。

「大丈夫?手足痺れない?」

「いや、特に…なんか遺漏の質が少し変わった?」

双の髪の毛が静電気で跳ねさせている。

「今なら体内電気も操れそう…」

「いや流石にそれはないでしょ」

恍惚とした双。千春は提灯お化けを撫でながらツッコむ。

オミッションを食べると遺漏が少し変質…いや進化?するようだ。

皆で遺漏を確認しているがランバが叫ぶ。

「遺漏の能力全然上がってないんですけど…!?」

何故か私だけは効果を実感していない。

「ランバだけ?なんで?」

結局理由もわからないまま食事を終えて数十分の休憩をした。

遺漏が駄目なら身体能力向上の為運動や体術に移ろうと外でシズに指南を受けることにした。

「運動能力は問題無い」

ただ護身のための体術を全然知らないからと色々な体の動かし方を手ほどきしてもらった。シズは前まで会話が少なく気が付かなかったが他者に物事への説明をするのがとても上手い。体術では先ずどこが良かったかを先に説明し具体的にどこが駄目なのかを分かりやすく優しく伝えてくれる。冗長がまるで無い。


「なるほど、此処は相手の動きを見て同期すれば躱すことができると…」

「同期…まぁタイミングが大事ってことだ。…お前偶に変な言葉遣いになるな予備のことをフォールバックって言ったり」

そんな事を言われたがそこまで変ではないと思う。

――――――

「ランバー!修行の成果を確認する為に叩いて被ってジャンケンポンしよー!」

「はーい」

双は倉庫から持ってきた鉈を振りかざしている。今からこれを研いで遊びに使おうというのだ。

「頭カチ割る気!?ランバも『はーい』じゃないでしょ!?この社会性不足組は…っ!」

2人は慌てて千春に止められた。双は悪ふざけの度が過ぎることがある。過去に一度流血沙汰を引き起こしてこっぴどく荒見に叱られたのに凝りていない。ランバはランバで周りの人の耐久力を考えていない。自分は身体硬いから周りの遺漏者もそうだろうって考えてしまっているのだろうか。



あけぼのクラブで鈴彦はバグシィの世話をしたり休んでいるブレナンの様子を確認していた。鈴彦は外で皆と修行するより裏方作業が好きだった。

「バグシィさんはとてもお利口さんですね…あまり鳴きませんしちゃんとルールもすぐに覚えて守りますし…言葉もわかるようですし」

頭の中で双や敦己の顔が思い浮かぶ。あの2人はいつまで経ってもルール破りの天才だ。バグシィの爪の垢を煎じて飲ませたいと内心思っている。

(ランバさんはあんまりバグシィさんを気にかけていないですし…まぁ自分が記憶喪失で自分の事で手一杯と言うなら納得ですが…)

ゴロゴロと喉を鳴らすバグシィに癒されてしまう。


夕方頃ドアが音もなく開いた。ただズシンズシンという重たい足音に鈴彦は気が付いた。


「…うっ、え…?」

オミッションの気配ではない。まさかとは思ったが彼の言葉でそれは確信に変わる。

「あけぼのクラブ…陋能転国の『アレ』を見たならもう逃さないっ…!」

このタイミングで来るとは思わず鈴彦は声にならない声を出す。

「えっえっ…」

両手の触手が伸び壁や物を破壊しながら鈴彦に向かう。

威嚇しているバグシィを抱えて躱し床に転がる。

改めてその姿を見ると蕾のような頭、花を纏ったような上半身に両手が蔓のような触手、下半身は六足歩行だ。

転がったままバグシィに話しかける。

「バグシィ、皆さんを此方へ連れてきて下さい」

そう言うとバグシィは玄関まで走っていく。捕まえようと触手が伸びるがそれを難なく躱している。やはりただの猫では無さそうだ。

(ブレナンさんのいる部屋には向かわせられません…)

鈴彦は身体を起こす。

「…無実の人を攻撃するのは…貴方達の信条に反するのでは…?」

「そうだよっ…!正元は何もしてないのに…何であんな化け物が…いや、あけぼのクラブは関係ないか…いや、でも…「あ、あぁあっ…!正元…っなんで、なんでこんな事に…っ!!」

優しかった。とても穏やかで見た目が一際異質な自分の事を気にかけていてくれた、何で彼が死ななければいけなかったのか。陋能転国では迫害された人達が集まる場所。俺の事を受け入れてくれた人達なのにと泣いている。

混乱した様でひたすら叫び触手を一つの大きな蔓にして壁に貫かせる。

「…っ…、ぅ、」

冷や汗を漏らして鈴彦は息を荒げる。

「お前達を殺すように言われた…それならやらないといけない」

鬼燈が絡んでいる。この遺漏者はただ操り人形にされている。

「殺す…っ殺す殺す殺すっ…!!」

頭の蕾が花開きオダマキの花が見えた。

「ぇ、ええ…ぅ」

鈴彦は困惑し続けていた。

しかし触手の遺漏者の足六本すべてプレス機にかけられたように圧縮した。

「っぃぎゃ、あああっあああァァッ!!!」

鈴彦は真顔になり歩み寄ると顔を近づけた。

「話を聞く限り…貴方の上司が『こんな事』にした様ですが…」

エラーと言うものはリーダーの女…鬼燈の仕業だ。ランバ達はただ助けを求めに行って巻き込まれただけだ。

「…な、何なんだ…お前…全部、演技かよっ…!?」

(違うのですけど…)

鈴彦は別に演技をしているわけではない。普通に困惑しているし怖がる。でも対応できないわけではないだけ。

「……今すぐ案内してください」

「…こんな足で案内できるわけねぇだろ…お前らが勝手に行きやがれ…こん畜生が」

吐き捨てるように言うとぐったりと倒れる。


「うわぁ…うわぁあ」

からかうように笑う花菜が玄関前に現れた。バグシィが一番近くにいた花菜を呼んだのだろう。

花菜は知っていた。鈴彦は弱くない。ただ臆病なだけ。

「本当戦うときは容赦ないねぇ…腹黒君」

「腹黒じゃないですよ…」

「能ある鷹は爪を隠すんでしょ?」

「…もう勘弁してください」

「んじゃ仕事引き続き宜しく〜あたしはコイツの治療するから」

と触手の遺漏者をズルズルとホースで絡め取り引っ張っていった。


鈴彦の遺漏の『圧縮』文字通り対象を圧縮するというもの。同じものを圧縮して効果を倍増させる事も可能。この遺漏に対して鈴彦は『人間が抱く圧縮に対するなにがしらの偏愛思念から生まれたのでは』と考えている。

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