20話【閉会式】
ランバとカジス、セベロの三人だけでこの大人数を諌めるのは難しい。
ティタとはさすがに前線には出ないがランバを追い詰める為状況を観察し効率的な動きをする為の指示を出している。
フリーダはどうすることもできなかった。やめてと言っても聞かないだろう。助けを呼ぶにしても呼んでもウルツの兵に成り下がるだけ。
攻撃を受け流すイラリオをセベロが時間を停止させ無理やり受け流す前に攻撃を当てるか遺漏を発動する前に高速で攻撃を仕掛けるしかない。そして何より誰も死なせない事が第一条件だった。
「…」
そして何よりウルツ本人がランバを攻撃しようと拳を振り回している。遺漏者と言っても所詮は八歳の子供。身体が硬いランバには委託も痒くもない。しかしその言動が何よりランバを動揺させてしまう。
「人手が足りない…目立てるぞミフル神」
「承知した」
光と共にミフルが顕現した。いつもは隠れて見えない筈だがかつてカクに姿を見せたように完全に顕現しその姿を見せている。後光を放つミフルはランバを狙い防御が疎かになった遺漏者達にナイフで攻撃を仕掛け死なないように気をつけながら動きを止めている。
ファティが「正義の為に死ね!!」と叫ぶ。ランバはウルツの心を苦しめ苛む悪だ。それは間違いない。それを実感する度精神を追い込まれる。2年間も自身のために選んだ選択を後悔しないように目を背けてきた。
その好きを狙われてブライトンに足を捕まれ投げ飛ばされた。ランバは自身に向かって投げられた修正ペンに気が付き空間を歪ませ修正ペンを地面の中に埋めた。
イラリオがスタメダリアスの光のビームを流し縦横無尽に操りランバに向かい四方八方へ襲いかかる。
「さっさと当たってよ!!」
イラリオにそう叫ばれビームがランバとその周囲を襲う。地面が抉れ壁が壊れていく。
「当たるわけには行かないよっ…皆の為に」
そんな中でも他の者の攻撃は止まらない。ネストルの尻尾がムチのようにしなりスビンが回り込み拳を突き出してくる。
カジスとミフルが2人の攻撃を防ぎファティと攻防を繰り返すセベロにカジスが叫ぶ。
「お前の神を呼べ!!」
「…わかった…」
セベロが呼び出したエイルは優雅に宙に浮かぶ姿をみせた。フリーダとティタを見てからウルツを見つけ空中を泳ぎながら近づこうとする。それをルアンが止めようと立ち塞がるが全く意に返さない。
「不完全燃焼を終わらせましょう」
女神の艷やかな声だった。聞くだけで心が落ち着くような正に医療の女神に相応しい声。
「神の眷属だろうと神だろうと全て完全ではありません」
アンガシャから聞いたランバの話。利用されるだけ、そして感情を持つから選択を間違う。感情的になる。不安定な精神。ルアンはすべてを肯定した。彼女はどちら側にも寄り添うように落ち着いた口調で話す。
「二人もまた人格に、自分自身の為に動いただけです。それが他人を踏むのは生きる者として当然の行動」
「それならば私達神もまた行動しましょう。自分が正義だと思う行動を」
ルアンがウルツに手をかざすと彼の姿は本来の遺漏を持つ前の姿になった。茶髪よりに左目が隠れドラゴンがプリントされたTシャツにドラゴンのアクセサリーがぶら下がったパーカーを羽織っている。半ズボンもまたドラゴンや星のワッペン。本当に好きなものに囲まれた服装だった。
「あっ、」
目から涙を流した。ドラゴンが好きなただの男の子。それが自分。ずっと取り戻したかった当たり前を漸く手に入れた。ポロポロと涙をこぼし嗚咽を漏らしている。
遺漏が消え去り周りの者達も正気を取り戻したようだ。
スタメダリアスは神のオミッションが二柱もいることを恐れ逃げてしまった。
泣き続けるウルツの隣にフリーダは座っていた。
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「すまない。ランバ」
「いやはや同じ警備員として不甲斐ない…本当に何と詫びれば…」
謝罪をするネストルに続き気まずそうに謝罪を口にするルアン達。
その時だった。
空からバグシィがなんとも可愛らしく手足を広げ落下してきた。
「上からにゃんこがっ!!!」
ティタがその姿を見てあんぐりと口を開く。
猫らしく華麗に着地するとすりすりとウルツとフリーダにすり寄った。
「バグシィ慰めるの好きだよね…」
ランバはその献身的な姿を見て少し心が痛くなった。自分のエゴで傷つけた子を代わりに慰めている。
しかしバグシィはランバにもゴロゴロと喉を鳴らしすり寄った。威嚇するやんのかステップのまま。
「そうやって私を慰めてくれると余計に…いや、ありがとう」
(あれ…?何で来たんだろう)
見ていたわけでもないのに…いや、
「もしかしてだけどさ…バグシィって…アンガシャに情報伝えてる?」
タイミング良くやってきたりアンガシャのいる次元に繋げたり…考えれば色々と合点がいってしまう。
実際どうなのかは分からないが。
「…まぁ良い子だし悪意はないだろうけど」
泣き止んだウルツは改めてランバに何故遺漏を消せるのにそのままにしたのかを尋ねる。
当然の疑問だろう。
「言ってもわかんないよ…信じてもらえるとも思わない」
この気持ちは自分にしかわからない。完全に理解されない。お互いの苦しみというのは。
「この世界を作った神にいいようにされるのが嫌だった…」
「それに遺漏が出来たのもオミッションが発生したのも私が迂闊だった。だからその罪から逃げたくない。今元の世界に戻しても死んだ人は蘇らない」
「それに死者を生き返らせるなんてしたら世界の人口も歴史も全部おかしくなる」
「そういう悩みを娯楽として面白おかしく鑑賞するアンガシャにも心底腹が立つ…だから」
「だから私はもうこの世界で皆と生きた世界をそのままにしたい」
話を終えたランバを見ながらウルツはどう答えればいいのかは考えずにありのままの気持ちを伝える。
「なんだそりゃ…」
「神の使い?よく分かんないけど何とかできないもんなんだ…」
「どんな気持ちなのかはわからないけど…それに巻き込まれたし…でも怒るのも間違ってるのかな…」
「その為に今行動していた也や」
ミフルとエイルが並んだ。
「互助互恵。その様に取り零された被害者を我々が救い信仰を集める。非常に合理的でお互い救い救われる関係です」
「崇めるべき也」
ランバにできない救済をする。それにより遺漏の被害者は救われる。実に長い時が掛かったが救済措置が形作られていた。
「それなら……良かった…」
ランバの言葉を聞いたミフルとエイルは救済措置を本格的に開始する為その場を後にした。
セベロは自身の役割を果たし一息つけたようだ。
「神はあくまで自分の為…か」
「のぉ」
ルアンの反応にもカジスも頷くことしかできない。
「あ、そうだったそうだった」
ティタはわざとらしく思い出したようにフリーダとウルツとバルダーに話しかける。
「解決してよかっけどさ…三人とも不法入国は駄目だよね?」
「「「あ」」」
二人のバグシィを撫でる手が止まりバルダーは逃げようとしてルアンに手を掴まれた。
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16日後
いよいよオリンピュアも終わり閉会式。はじめはかなりの騒動が起きたがそれも日が経つにつれ人々の関心はスポーツ競技に戻り元のオリンピュアの形に帰結した。




