12話【免罪符】
「……ぅうっ…っげぇえっ…!」
休憩室に備え付けられたトイレの便器に顔を突っ込みアディーは吐いていた。
頭を強く殴打されて気持ち悪い。気分が優れないままどのくらいの時間が経過したのだろうか。フリーダに背を撫でられながら自身の事を想起した。
(クソアママだな…)
母親に性別と見た目が変わりすぎて息子と思われなかった。息子を騙るオミッションだと。だから既に孤児のフリーダ友と共に逃げ出した。
フリーダはメアリー・スーが効いているからついてきてくれるのかそれとも正気でついてきてくれているのかはわからない。
思わず一人でもないのに言葉が漏れた。
「メアリー・スーなら男でも別にいいだろ…!」
だが人々が考えるメアリー・スーとは大抵女だ。そういう認知なのだから遺漏で身体が女になった。
メアリー・スーだがなんだか知らないけど8歳でもう胸そこそこあってそれがまた気持ち悪いと感じている。
口をゆすいでトイレから出るとまだセベロは煙草を吸っていた。灰皿に煙草の吸い殻がいくつも乗っかっている。
「臭い」
八つ当たりというには誘拐犯に言うには間違っているだろう。今この状況を作っているのは目の前の男。色々な恨みを込めて思いついた悪口をぶつけた。
「うるせぇな。大人しくしてろよ」
「ていうか…何で効いてないの?僕の遺漏ずっと垂れ流しなのに」
アディーはそう言い睨んだ。
「…へぇ制御できないんだ。じゃあ…困るな」
「…まあ俺はちょっと神のオミッションに協力して貰っててな」
神のオミッション。それを聞いて固まるフリーダとアディー。
「それ、どうなるの?協力って何を?」
「お前らを捕まえろってさ最底アディーだけでいいと」
「その神のオミッションの名前は?」
「エイル。北欧神話の女神」
「北欧神話…?」
まだ八歳の二人には難しいかもしれない。
「別にエイルが何するために頼んだとかはどうでも良いけどよ」
「代わりに足治してくれたからなぁ」
「治した…それって」
ずっと望んでいたこと。治療が出来る存在。
「どうすれば僕にも治療を…」
「…」
煙草の先を灰皿に擦り付けるとアディーに目を向けた。
暫しの沈黙。
「契約。眷属になれば良い。そしてお互い願いを聞き届ければ良いんだとよ…それと」
一つ間を取ってセベロはアディーに問う。
「お前名前は?俺はセベロ・エレーラ…アディーは偽名だろ?女の子っぽいし」
話していいのか。今までずっと隠していたのに。フリーダは心配するように見つめる。しかしアディーは自身の本名をハッキリと口に出した。
「…ウルツ。ウルツ・クェスター」




