5話【追跡と試合開始】
会場外では屋台が並んでいる。
「……」
ランバはその中のいくつかの料理に目が向いた。
チーズ。ランバの好物を扱った料理。
(今は仕事中…
チーズ。仕事。
仕事中…チーズ…チーズ…仕事中…警備員…チーズ…チーズ…美味しそう…仕事中なんだから!…チーズ…仕事…仕事仕事…!チーズ中…)
「あむ…っ」
もぐもぐと咀嚼しながら歩く姿は完全に観光客。警備員の名札をぶら下げていながら手にはたくさんの料理。
チーズハットグ、チーズボール、フェタチーズ…。
舌鼓を打ちながら仕事。欲望には抗い難かった。自分がやりたい事はやると決めた。それがランバという自身のアイデンティティ。
(食べながらでも警備の仕事はできるもん)
サクサクと美味しい音を響かせながらランバは見回りを再開した。
それにしても試合は圧巻だ。今現在サッカーの試合が行われている。チェコ対ザンビア。会場の出入り口の近くで観客席を見て回ると人々の熱気が再び湧き出した。先程まで聞こえる声はアディーという名前ばかりだったのに。
やはりと言うべきか熱意というものは人に伝わり伝染するのだろう。ランバもチーズを食べながら試合を眺めていた。ザンビアがゴールを華麗に決めて一点取るとビリビリと響き渡る歓声。ランバもチーズを食べる手を止めてしまった。チェコの選手が負けじと再びボールを蹴りながら駆け出す。
ランバは視線を感じ振り返る。
じっと睨むように見つめてくる男性。高身長の巨体に視線は威圧感が凄い。暗い緑色の髪の毛に金色のバックカチューシャをつけている。ビビットピンク色の瞳に髪の毛と同じ暗い緑色の虹彩。剃り残しの髭が目に入る。
「…何でしょうか…?」
話しかけると男はぱっと笑顔になった。
「イラリオ〜メキシコのサポパンから来たんだよ〜チーズ美味しそうだねぇ」
「え、美味しいですよっ!」
「買ってこようかな〜あ、でも今辛いの食べてるから後にしようかな」
イラリオと名乗る男の手には真っ赤なチキン。それを近づけられランバはそれに気づき一歩後退する。
「私は…辛いの苦手で匂いでもう…」
「美味しいのに〜ま、確かに。ごめんね」
イラリオは歓声を聞き試合に目を向ける。チェコが点を取った直後またザンビアが点を取ったようだ。
「次の試合メキシコ出るんだよね〜勝てるかな?」とぽわぽわした笑顔を振りまいている。
「そろそろチーズ買いに行こうかな」
ぬるりと行き交う人々の間を流れるように移動している。彼の遺漏は『流す』という概念らしい。
「どんな事も受け『流す』よ〜」
ふふふ〜と笑っている。彼なりのジョークの十八番なのだろう。立ち去るイラリオを見送りランバはチーズを食べ終えゴミ箱にゴミを捨てると見回りを再開した。
————
「かなり離れているのぉ」
急いではいるものの何分焦っている所を客に見せて不安を抱かせるわけにもいかない。会場の人のいない駐車エリアより奥の本当に人のいない建物の裏。何故かそこで止まっている。
「追いつかないと誘拐されるかもしれん」
何か厄介事に巻き込まれていないと良いのだが。
(しっかしなんでアディーの嫌がることと余の仕事が被ってしまったのじゃろうか…)
そんな事をぼやきながらルアンは会場を後にした。




