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黄昏のオダマキ  作者: ないある
陋能転国編
6/25

6話【兄弟】

暴力表現、残酷な描写が多数あります。閲覧には十分ご注意ください。

「ブレナンッ!!」

「平気…腕はだいじょばないけど……」

私は駆け出しブレナンの溢れる血を自身の服の裾を破り止血を試みる。でも血がなかなか治まらない。どうしよう、治療、正元さん…はもう…。それよりアレは何?

今からあけぼのクラブに戻る?ブレナンは此処で死ぬの?私も足を怪我をしているが酷くはない。

駄目だ…思考が纏まらない。私は、とにかくブレナンを助ける。

 

「……」

一樹が呆然と目を見開いている。

「なぁ…なんで『コレ』が慈善企業にいるんだ…?」

そう言うが理解できない。一樹は何を知っている?

まひるはメイドの無事を確認すると机を見た。吹き飛んだ肉片に交じっているが商品は無事だ。全て小さな箱に縫操してあったからだろう。それをポケットに入れると一樹に詰め寄る。

「あれ、アレ、なに…っ!?知ってんの…!?」

「知らない。知らないけど生まれるのは……いや、そんなの…だって…何したら…」

「一樹ッッッ!!!」

まひるが声を荒げる。一樹は化け物を見た幼子のような視線を鬼燈に向け震える声で語る。

「鬼燈……なぁ…何したんだ?アレは…」

「『誰』だったんだ…?」

 

――――

最初鬼燈さんに拾われたのは親が死んで行く宛がなかったからだったはず。

鬼燈さんは皆平等に救われる。特に遺漏で差別された人達を救うことを信念にしている人だった。

俺と兄さんは遺漏で普通の保護シェルターに入れてもらえなかった。

俺『永海旬(ながみしゅん)』は『ハスター』兄さん『永海燈矢(ながみとうや)』は『クトゥルフ』というコズミックホラー小説に出てくる神話の邪神の遺漏だ。

だから見た目もすこし髪の毛が触手っぽくてそれが駄目だったんだろうな。

町はボロボロになりオミッションに何もかも奪われ街の人達から逃げるように二人でその場を立ち去った。岩手から宮城の仙台まで歩くのは本当に骨が折れた。

「何処まで逃げるの?」

「宮城の仙台辺りなら良いところがあるかもしれない」

兄さんはそう言うが俺は人の少ない田舎の方が良いと言った。

「田舎は生活するのに困窮するだろ。ただでさえ今社会が混乱してるのに」

まぁ、確かにそうだろう。疲れた。身体は汚れるし食べるものなんて僅かに道中優しい人から分けてもらったものだけ。何日掛けただろうか。ようやく仙台に辿り着いた。

ただ仙台も人は殆どいなかった。街には乗り捨てられた車が点々とあり何処にいけば安住の地が手に入るかも分からない。

そんな不安の中人々が群がる一つの敷地を見つけた。食材を渡している人、衣類を渡している人、その人達は俺達みたいな少し異形に近い見た目をしていた。

その人達と話そうと列に並び順番が来るのを待った。

順番が来て兄さんが口を開いた。

「仙台に来たばっかりで何もわからなくて…貴方達は見た目で差別されないんですか?俺達は差別から逃げてきて」

そう聞くとトゲトゲした羽を持つ鳥みたいなクチバシの女性が反応した。

「あぁ、そうだったんだ。私達は差別されてきた人が集まってできた『陋能転国』っていうグループなんだよね」

「良かったら来る?差別される遺漏を持つ人が生きて人権を認めさせる為に活動してるんだ」

そう言われて断る理由も無かった。陋能転国に辿り着いて服を洗濯してもらい温かいお風呂に入り美味しいご飯を食べられる。そんな当たり前の幸せをようやく取り戻せた。

その日の夜陋能転国のボスである鬼燈さんと顔を合わせた。

「私も遺漏が神話関連なんだよ。それも厄ネタの」

鬼燈さんは『アパテー』と呼ばれる女神の遺漏を持っているらしい。『欺瞞』『不実』『不正』『失望』を働かせるという遺漏だけれどそれを悪い事ではなく慈善に活かす事で人々に悪い存在ではないと理解してもらうのが一番の目標らしい。

能力で怖がられて苦しんで泣くだけでは無く立ち上がった。そんな強さを持っていた。

俺は風を操って傷ついた身体を再生させることができる。兄さんは海を操ったり空を飛べる。そんな具合だ。

毎日安心して暮らせる上に同じ境遇の人々と交流できて幸せだった。

ただ過ごしているうちに鬼燈さんが昔ひどい差別にあった事がわかってきそれほど過去のトラウマに追い詰められている。PTSDというものなのか時々一人で泣いていたり震えている。強迫的に認められることに固着して一人で働き詰めになっていて何度もメイドの卯木さんに世話を焼かれていた。

その卯木さんに依存しているようにも見えた。だから力になりたくて俺含め周りは鬼燈さんの手伝いをして段々と組織として纏まりが出来てきた。

衣食住を確保しただけでもかなり組織の信頼を周りから貰えていた。ただそれだけじゃ駄目だと鬼燈さんは言っていた。もっと特筆した『実績』を持たないとほかの組織に埋もれてしまう。そう焦りを見せ始めたのが駄目だったのかもしれない。


俺の遺漏は再生能力を兼ね備えている。それに目をつけた。再生だけではなくその再生した組織をほかの生き物に転用させ適応できる。拒絶反応を起こさない画期的な能力。

身体のありとあらゆる組織を移植できる医学を目玉にした慈善組織の完成だった。

たった一人。俺の身体を素材に多くの人の命を救うという狂気じみた慈善活動。

そんな非人道的な会話が聞こえたんだ。

「卯木、それなら私達は私は、認められる?」

「はい。鬼燈様の望むままになります」

「旬の再生の遺漏さえあればありとあらゆる臓器を提供できる様になり多くの人が助かります」

そんなの嫌だ。

何を言ってるんだ…。おかしい。狂ってる。

 


無論俺は逃げようとした。

廊下を走って、走って兄さんのいる部屋に飛び込んだ。兄さんは最初驚いた顔をしていたが話を聞いて驚愕、苦い顔をして俺の手を取り一緒に逃げようとしてくれた。ただ一つ誤算があった。鬼燈さんに見つかった。俺の手を握っていた兄さんが手を離した。ぼんやりとした目で俺を無表情で何の感情も無さそうに見えた。その隙を突かれ俺は鳩尾を殴られた。

「うぐっ…ぅうぅ…っ」

本気で鳩尾を殴られ蹲るしかできなかった。

そのまま引き摺られ地下室に運ばれ捕まった。

 

彼女の…鬼燈さんの遺漏により兄さん含む皆んな催眠状態で操り人形になってた。もしかしたら会ったその日からそうだったのかもしれない。俺ももしかしたら催眠をかけられていたのかもしれない。

これは正しいことなのだと刷り込まれていた。

手術台に固定されて身動きが取れない。


「移植の際に問題が出るとまずいから」と鬼燈さんの声が聞こえて麻酔を使う気がないということに気がついて身体から変な空気が漏れた。

「やめ、やめてやめっ、や、やだっヤダ、助けて兄さん、やめてっ…」

兄さんの手にメスが渡されゆっくりと近づいてくる。

何度も慈悲を乞うても無駄だった。腹を兄さんに切り開かれる。

血が溢れて鋭い痛みがすぐにやってくる。肉が裂ける音がする。 

「いっ、ぁあああっああ゙あ゙あ゙あ゙っ!!!!」

「いだいいだいいだいいだぁ゙い゙ぃ゙!!!」

ガシャガシャと手足の拘束具が音を立てる。

泣き叫んでもがいても何も止まることはない。血も止まらずゆっくりと臓器が引き抜かれていく感覚が気持ち悪い。腹の中に手を突っ込まれて掻き回されるような激痛。

 

自分の体の中の匂いなんて知りたくなかった。震える視界。無機質なよく知る人の真顔。全部気持ち悪い。吐き気がする。

ある日は眼球を、またある日は歯を、手足、心臓、肝臓膵臓肺…。

何日も何日も何日も何日も何日も何時間もずっとずっとずっと終わらない生き地獄。身体が再生するのを止められないし助けも来ないし殺してと懇願しても皆「我慢して」「皆の為」「世界の為」ばっかりで俺の心配なんてしてくれない。

生きる為に口に食べ物を突っ込まれるのも生理的な下の世話をされるのも屈辱的だ。人権なんてない。ただの商品の、素材づくりの感覚なんだろう。皆救われると謳っているが…そこに僕は入っていないのは明らかだ。

その癖鬼燈は泣きながら罪悪感を隠さず毎日俺に謝っていた。

「……ごめんね」

「ごめんなさい」

鬼燈がそんなことを言っている。それより手を止めてほしかった。

それでも止まらない。傷つけないようにゆっくりゆっくり時間をかけて体を引き抜かれる。

そんな日々から逃げたいのに逃げられない。

兄さん。俺はあんなに一緒にいたのに。覚えてないの?覚えているけれど価値のないものに見えてしまっているの?声を聞きたいよ。

ねぇ、いつもみたいに旬って呼んでよ。

「…さ…ん」

「に、」

メスが身体に突き刺さる感触。呻き声を漏らしてしまう。

兄さん。ねぇ、俺達此処までようやく来れたのに俺は此処で死ぬの?…死んだら兄さんはどうなるの?一人になるの?

返事は無くまた体の中身が引きずり出された。

 

――――

 

もうそろそろ部屋から出て何時もの仕事。そう思っていたのに鬼燈さんに任された仕事は何時もと違ってた。俺は弟の旬の部屋の掃除で弟の痕跡を全て消すように言われた。思い出の品も。写り込んだ写真も動画も消してベッドもコップも歯ブラシも。お気に入りの漫画も。

全てゴミ袋に入れて存在を消す。

この仕事の意味…あの日から決められていたんだろう。

あの日は確か俺の誕生日だった。旬が手術台に固定される日。

置いてあったプレゼントの箱には『燈矢兄さんへ』と書かれていて思わず開けてしまった。


手紙とメモ書き。そしてプレゼントに手作りのクトゥルフの顔の付いたヘアピン。

そう言えば旬は何時もプレゼントのチョイスが可笑しかったな。と苦笑してしまう。クトゥルフの顔よりシルエットかイメージデザインにすれば良いだろとか男の俺にヘアピンかよとか色々考えてしまう。確かに俺の顔は女っぽいけどさ。

手紙を開いてみる。

『兄さんへ。何時も側にいてくれてありがとう。手紙とかいい年して恥ずかしいことするなって思うだろうけれどこんな時だから側にいられて嬉しいから手紙を書いてみることにしたよ。オミッションが現れた日兄さん以外の家族が死んで苦しかったけれど兄さんが側にいてくれて何とか此処までこれたんだよ。優しい鬼燈さんに拾われて運が良かった。これからも兄さん頼りになるだろうけれどよろしくお願いします。誕生日おめでとう。旬より』

「………」

『今日はケーキ作ったから一緒に食べよう!』

そんなメモが貼っていて…。



何をしてるんだ俺は…。


何で…俺は弟の身体を当然の様に切り刻んでいる…?


気がつけば走り出していた。涙が罪悪感が止めどない。でも、生きてる。助けなきゃ。助け出せるはず。俺が助けないと。まだ死んでない。

「旬ッ!!!」

扉を開き血生臭い何時もの部屋に飛び込んだ。そこに映っていた光景は一生忘れないだろう。

旬の身体が…歪な再生をしている。身体の再生が追いついていないのかあるいは再生のし過ぎで再生能力がバグったのか。

手の肘の部分から枝分かれするように腕が枝分かれして指も増えている。異形の臓物が腹から飛び出てボコボコと嫌な音を立てている。目や歯が増えていてどんな表情なのかも見えない。腹の中目玉のに集合体が生えていて生理的嫌悪を煽ってくる。

「お……ぁ……っ…」

旬が言葉にならない呻き声を漏らして此方を複眼で見つめている。今の感情は何なのだろう。

更に変形が増していく。俺を見て危機感でも覚えたかのように。

「…旬?」

身体がボコボコと不快な音を立てて旬の身体が変形していく。名状しがたいその黄色の衣。小腸のような触手、歪な手足が伸びている。

そいつが拘束を破り壁を突き破り部屋から飛び出した。

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