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黄昏のオダマキ  作者: ないある
陋能転国編
5/25

5話【異形】

「畜生が……」

うちは自身の体毛を撫でながらゆっくり立ち上がる。あんなにかっ飛んだ電車に乗るのは初めてだしもう乗りたくない。帰りはもっとゆっくりにしてもらわないと。

震えるランバの肩を叩いてシズと一樹の後を追う。


仙台駅のホームに到着していた。

「はー…異界を通って駅のホームに着くとか訳わかんない…私達駅の線路歩いてたわけじゃないのに…きさらぎ駅とやらの電車はどうなってんのよ」

電車に乗った途端異界の線路にワープでもしたのか。それで仙台駅までの線路に辿り着いた?うーんわからないね。


階段を登って仙台駅の中を歩き続ける。広い。人もいないし中の店も当然営業していない。たった1年半でかなり廃れたように見えるのは証明が機能していないからだろうか。

「……駅から…あとどれくらい?」

シズが一樹に蚊の鳴くような声で尋ねる。

「ここから歩いて四十分」

「よ…四十分?」

ランバがげんなりとしている。

「………ランバって瞬間移動の遺漏だったよね?…私たちを運べたり…」

「え、で…できる…かなぁ?」

「服も一緒に瞬間移動出来るなら…」

「待って、待って…!私陋能転国の場所知らない!知らない所に行けるわけない!」

出来ないようだ。逆に言えば一度行った場所なら行けるようになるということだろうか。記憶にあるなら可能性はあるかもしれない。


駅を出てピンクの橋を降りる。ビルが立ち並ぶ大通りに出ると視界が開けてオミッションがちょくちょく見当たる。


「これ戦う必要は…」

ランバは消極的だ。たしかに無駄に疲れるのは避けたい。ランバは戦闘向きの遺漏に見えないし…シズは遺漏そのものを持っていない。…いやそれでもオミッションに突っ込んで行くしパンチと蹴りが異常に強いけれど。

「シズ、ステイ」

「俺はお前みたいな犬じゃない」

「犬じゃねぇ狼の獣人だ」

シズに犬扱いされてちょっとイラッと来た。犬は可愛いがうちは狼だぞ。兄さんもまんまるな狼だ。

仙台の大通りだと言うのに人がいない。まぁ一箇所に集まっているからなぁ。大体みんなアメトリンにいるし。


「うわっ、影っ」

ブレナンが空を見ると大きな鳥のオミッションが翼を広げて影を作っていた。

街灯に足を着けてこちらの様子を伺ってる。

顔が可愛いタイプの鳥で目がくりくりとしている。顔だけ見れば可愛いのに身体が物騒な作りになっている。生き物の構造をしていない。


「彼奴の元ネタ知ってる奴は?」

元ネタを知っていれば対処方法を作り出せる。神話か、アニメキャラか…はたまた何かのイメージの具現化か…。こういう時に千春がいたらわかるのに…。

「『悪魔だけれどパン屋を開きたい』に出てくるキャラ。名前は『フェザク』足で掴んだものを見境なく投げ飛ばすだけだからそんなに怖くは」

ガァアアンッ!!

留まっていた照明を足で引き抜き投げ飛ばしてきた。

「うっわ……」

思わず死を覚悟するほどの音だ。投げ飛ばされた照明はガラス部分が散らばっている。遺漏者の身体は頑丈で裸足のうちの肉球もそんな簡単には傷つかないけれど…流石に投げられた時の物体に当たったらただじゃすまない。それにシズを避難させたいが生憎あいつは戦いたがりだ。

だがシズは足手まといにはならない。あいつは本当に訳がわからないが相手の弱点をすぐに見抜いてそこを攻撃する。そういう天性の観察眼があるのかただのまぐれなのか…。


ブレナンはフェザクの後ろに回り先程投げつけられた照明を引き寄せた。

ブレナンの遺漏『ヴァーチュース』

物を引き寄せる遺漏。引き寄せるものは手に取るまで無敵になる奇跡を持つ。

遺漏の元になったのは神話の天使らしい。


引き寄せる際に器用にうちらを避けているから引き寄せさえできれば物は自由に動かせれるようだ。

翼を広げ逃げようとしたがあの大きな翼が仇になりぶつかった。

ブレナンは引き寄せた照明を手に当てると照明は引き寄せを失い地面に落下した。

「やっぱりデカいと耐久力も馬鹿にならないね」

「…よし」

シズが照明を掴みランバに話しかける。

「ブレナン、使えそうなものを引き寄せてくれ。ランバはそれを持って瞬間移動で当てる。俺は本当に悔しいがサポートに回る一樹は………俺と一緒にサポートだ」

「なんか俺だけ扱い適当じゃね?」

そしてフェザクの攻撃を躱しながらうちに向き直り作戦の要を伝えてきた。

「まひる。振動で突き刺さった物を内側から動かしてくれ」

「ドン引き」

ブレナンがマフラーを口元に持っていきくぐもった声でぼやく。あまりにも容赦ない。

「わかった…うん、そういう方法ね…うん」

作戦が開始された。

「ランバ!」

ブレナンがランバの後ろに回り近くにあるベンチや看板を引き寄せランバの前で止める。そしてランバはそれを手に取り瞬間移動しフェザクの身体に埋め込む形で瞬間移動する。

唐突に体のなかに異物を入れられたフェザクは落下した。

その隙を見逃さず地面に落ちた瞬間移動その地面と体を振動で揺らした。

うちの遺漏『デュエット』はファンタジーミステリーアニメ『ガッセトラウム』に出てくる獣人の能力だ。正しくは兄さんと能力が2つに分けられてて振動は力の半分でしかないが。身体能力が獣人分強化されているしそこまで困らない。

振動により中身をズタズタにされていくのは見るに堪えないがしっかり倒さないと最後の悪足掻きをされたら困る。

シズがフェザクが死んだのを確認しため息をつく。

「俺は何もできなかったな…」

「作戦考えたでしょ」

ブレナンがそう言うが彼は『戦えなかった』事に不満を持っている。

一樹の方が「俺の役目…」と残念がっているが。

休む間もなくうちらは歩き出した。

――――――

陋能転国と言うのは大きな病院を転用したものだった。

入院していた人がどうなったのかとか気になるがそれは老人ホームを改良したあけぼのクラブも同じだ。大方死んだのだろう。


「ブレナン」

名前を呼ばれて振り向くとランバが好奇心に満ちた目で建物の大きさに目を輝かせている。

「陋能転国なら私の記憶戻るかな?」

「戻るでしょ。此処は臓器すら移植できる技術…ていうか遺漏があるからね」


建物に入りロビーに入ると意外と静かだった。人でごった返していると思ったが受け付けの人しかいない。それに受け付けというより物が次々と作り出されている。

その物体を目にしたまひるが近づいて作り手のおじいさんと交互に見やる。

「このアイテム…『サルビア・ムルジム』の魔法商人の能力だ……」

「ギャルゲーの攻略対象のナガタの能力だ…」

「ギャル…ゲー……?」

なんでまひるがギャルゲーを知っているのかは置いておいてギャルゲーを知らないおじいさんが目を点にしている。まるでこの人が攻略対象みたいじゃないか。

お労しい。本当に。

俺は内心彼の肩に手を置いた。

「えっと…」

「……すみません」

こほんと咳をしたまひるは改めて自己紹介をする。

「私達治療をお願いしに来たんです」

そう言うと穏やかに彼は微笑む。

「そうでしたか。自分は前永正元(まえながまさもと)です」

白髪交じりの茶髪で左目が隠れている。茶色いスーツ。老紳士という感じだ。

記憶喪失、狂犬病、鬱病、そして訪問診療の可否についての一切を伝えた。

陋能転国(此処)のオーナー鬼燈(ほおずき)さんは今お客様の担当を我々に一任していらっしゃるのですが…団体客は少し時間がかかるので少しばかり確認をとっても宜しいでしょうか」

「えぇ」

待合室で暫く放置されていた。暫くして正元さんが「今から面談になります」

と俺達を案内した。

――――――

鬼燈と呼ばれたのは女性だった。オレンジと黒の混じったショートヘアに赤色の瞳。

「わざわざお越しいただきありがとうございます」

柔らかい猫なで声にも似た声。

緊張を和らげさせようとしているのだろうか。

奥にはメイド服を着た赤い瞳に白い髪の毛の女性がいる。


「狂犬病に鬱病…記憶喪失…ですね。それなら此方で対応できますよ」

そう言うと私が一番安堵の声を漏らしてしまった。

「…どうやって…」

シズが質問をすると鬼燈さんが正元を指さした。

「彼の遺漏はアイテム生成。ゲームのアイテム商人の遺漏らしいですね?」

そう言うと正元さんが若干顔を赤らめて俯いた。

正元さんはそのまま机に近づき三つアイテムを作り出す。『こころのくすり』は錠剤。『犬の注射』という小さな箱。『記憶の雫』と刻まれた手のひらサイズの機械。

「これを使いましょう」

微笑むがはっきり言って此処にいる誰もタダでとは思わない。

「おいくらですか?」

一樹がじとりと見やる。しかし鬼燈さんは微笑んだまま

「我々は慈善企業を謳っているので無論無料です」

「それに彼に訪問診療に猫も…」

 

唐突に地鳴りが響く。


ガァァァアンッッ!!!

 

大きな音が部屋に響くと同時に土埃とともに壁が崩れ瓦礫が部屋に舞う。

そこにいたのは…黄色い衣を纏ったクリーチャー。

あの時あけぼのクラブに現れたクリーチャーと同じ気配のする生理的な嫌悪を掻き立てる気配。千春が『気持ち悪い』と言っていたアレだ。

  

「は…?」

結子さんも何がなんだか分からないと呆然と現れた異形を見つめていた。

唐突なことに一同動きが固まる。

一番近くにいた

正元さんの身体がバチュンと吹き飛び肉片が四方八方に吹き飛ぶ。

結子さんの前にメイドの人が前に出て自身を盾にした。


「うっぐうぅうう…っ」

メイドの人じゃない…聞き慣れた声…。


「ブレナン…さん…?」

ブレナンさんの…右腕が吹き飛んで…右頬…いや口元が裂けていた。

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― 新着の感想 ―
コメントを失礼します。 長編小説を執筆するのは初めての試みという話でございましたが、ここまで拝読して物語の設定といい説明描写といい、特に違和感もなくスーッと入り込んでくる心地よさがあります。 長丁場は…
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