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黄昏のオダマキ  作者: ないある
陋能転国編
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4話【陋能転国】

4話【陋能転国】

陋能転国に向かう前私は自身に与えられた部屋で少し考え事をしていた。

部屋にはベッドや机や椅子…最低限のものしかない。今の空っぽの私のようにも感じる。此処から部屋に少しずつ物を置いていき私らしさを埋めていこうと考えれば良いかもしれない。自分の好きをこの部屋に収束させる。そう考えると楽しく感じる。


今考えていることと言えばあの異形頭…。何故私が起きた瞬間そこにいたのか。起きるのを待っていたのか。記憶喪失にしたのはあの異形頭なのか。私の話した異形頭と同じ容姿の異形頭が政府機関に入り込みオミッションなどの用語を教えたと言うのを人見という人がラジオで暴露したと。

「…なにか繋がりはないのだろうか」

私という存在がプロトコルの一部に組み込まれている?

…記憶が戻れば何かわかるかもしれない。

部屋を出て誰が陋能転国に私と一緒に行くのか話し合うことにした。

 

「そうだ。僕が陋能転国行ってアイドルとして全国デビューするようにマネージャー兼スポンサーになってもらおう!みんな不安なこのご時世に僕というふわふわアイドルがいればみんな笑顔になれるっ!」

「あっぺなこと言うでねこのおだずもっこ(馬鹿なこと言うなこのお調子者)」

荒見さんがぺしんと敦己のふわふわな頭を優しくだが叩いた。

「ばっぱ!いいでしょ!?このふわふわがアイドルになるなってのが無理があるよ」

ケハケハケハハハと笑っているが周りの視線から普段から問題児扱いされていることがわかる。

妹のまひるに至っては窓際で空を仰ぎ見ている。

「……青い………真っ青だ…主に顔が」

そんな様子を見て敦己に荒見が詰め寄る。

「ごしゃぐなや。おめのせいでいっづもがおるってばさ(さわぐな。おまえのせいでいつも疲れんだよ)」

「マジでこの獣突飛な事しか言わねぇ」

「前もアメトリンでアイドルなるとかほざきやがって…今度は日本全土かよ…ジェネリック豊臣秀吉」

花菜は眉間を押さえている。

「瑕疵だ……」

優しそうでふくよかな獣の見た目なのに中身が問題児すぎて私はそう言うしかなかった。

 

いやそれよりもだ私は一つ気になることがある。

「私…もしかして東北出身なのかもしれない」

東北にいたし…荒見の訛りを理解できてる。

「確証はないよ」

まひるが私の方に視線を向ける。

「え?」

「結界ができてから訛りも外国語も何故か人間は皆理解できるようになってるんだ」

「…ほぇ…」

「んだっちゃ。英語わがんねけど耳さすーって入んだ」

成る程荒見さんの東北訛りを理解できているのはそういう可能性も…そう言えば日本に旅行していたブレナンが日常会話で難なく日本語を話せているのもそういうことか…私達が理解できる言葉に置き換わっているから英語が分からない日本人側も理解できると。

…ラジオでも『全ての言語』がわかると言っていた。…訛りもその範囲内ってことか。

会話内容に齟齬がなくなるのは嬉しいがやはり今この世界は異常事態に陥っているということか。

「あ、それで結局誰がランバの付き添いすんの?」

まひるが手を挙げる。

「この愚兄は後で。先に私が身体検査受けたいし」

 

荒見はシズを呼びに廊下で声を張っている。それにしてもお年寄りなのによく体動くし声も張れている。そういう遺漏なのかただ身体が強いのか…。

「おきてけさいん…またねくさって…おぎろでば!」

双が手を挙げようとして止められた。

「あ、俺…」

「双は見回りでしょ。シズさん、まひるさん、ブレナンさんで」

と双を止め千春は3人を指名する。

「ま、妥当だね。無駄もないし特に殴り込みに行くわけでもないし」

「そんな物騒な…」

まひるの言葉に鈴彦は肩を硬直させぽつりとぼやく。

「ブレナン?なんで?」

「………」

ブレナンはシズ、私を交互に見た。あぁ、訳ありの世話をまひる一人に任せる訳には行かないと。


「あぁ!いっつも婆さんの世話焼いてるから技量を買われたんだな!」

ブレナンの配慮を敢えて汲まず大声で花菜は言葉にする。

あちゃーとまひるは肉球で顔を覆っている。


コンコンとドアがノックされる。千春がドアを開けると一樹がいた。

「牡蠣美味かったか?」

「美味がった。お返しけっから待っててけさいん」

荒見がお返しに何か渡そうと立ち上がるがそれを引き留める。

「いや、いい……あの、さ…」

「アメトリンの人が言ってたが…陋能転国行くのか?俺も…良いかな」

「それは良いけれど…またどうして?」

敦己が首を傾げて尋ねる。

「俺の知り合いに…ちょっと精神的にやられてる奴がいて…そいつのこと診て貰いたいけどそいつ外出れないから訪問診療できるか聞きに行きたくてな」

「何で今まで行かなかったんだ?」

花菜は眉をひそめて首を傾げる。

「いや、行きたかったが……」

そこで一樹は口を閉ざしてしまう。人には言えない悩みを抱えているのだろうか。初めて会った時もそんな様子だった。

 

「…ふぅ…私の人探しも手伝ってくれたりしないですかね…」

「ん?」

鈴彦さんは何か悩んでるのだろうか?

「私の妹が行方不明で…探してはいるのですが捜索範囲がですね…」 

「それに妹はあまり性格が良いとは言えなくて…何処かで誰かの反感を買って捕まったりしてないか…」

「鈴彦さんにそう言われるなんてよっぽど性格の悪い妹さんなんだね…」

「あはは…」

双に遠慮なく言われ鈴彦は苦笑いをしている。

このご時世行方不明は死を覚悟しろと言われていると聞いた。見つかると良いが…。

私達は立ち上がりそろそろ陋能転国に向かうことにした。

「うんじゃあごめんねー」

荒見に見送られあけぼのクラブから出発した。

「はいはい行ってきまーす」

ドアを開けて外に出る。

「おい、歩いて行くわけじゃないぞ」

「え?」

一樹が声を出し私達を止める。歩いて行かない…?車もガソリンもないのに?

---

某所


食事を摂っている鬼燈様。脂身の多い赤身の肉をナイフで切りフォークで口に運ぶ。

咀嚼すると黒とオレンジ色の髪の毛が揺れる。

「ふふ、ふふふ」

一口また、一口と食べ進めていく。

機嫌良くなって良かった。

「はぁ…助かった」

鬼燈様は食事を楽しんでいる様子だ。先程まであんなに癇癪を起こしていたのに。

厨房で調理器具を洗う私の足元には破けた女子高生の制服が転がっている。何処の作品のキャラが元になったかも分からないオミッション。

「これ全部私が片付けるの…?」

私の赤い瞳が目まぐるしく仕事に追われ回る。

長い白髪をお団子にしたのに忙しすぎてズレかける。

「卯木?卯木ー?」

髪の毛を結び直す私を呼ぶ様の声。

やはり鬼燈様は私がいないと駄目なんだ。私がいないと。


我儘を聞き終えて私は自室に入り鍵をかける。

いつものストレス発散にはいつも私は遺漏を使う。

シャツだけになり自身の背中…僧帽筋の辺りに触れる。

【代替え】という遺漏だ。

それはテラトマ体の姿をしている瘤のようなもの。自身のダメージを肩代わりする。その間私の怪我はじわじわと回復していく。

これが本当に気持ち悪い。ストレス発散と八つ当たりで私は自傷に使う。

テラトマ体に自我はないのに泣いているような感覚がする。私には生まれる前双子だったわけじゃない。テラトマ体なんて今までなかった。遺漏で作られた偽物の命のくせに。

自身の身体を傷つける。傷がジワジワと塞がっていく。その代わりにテラトマ体が泣いている。

  

 ――――

「ああああああっっはやいっ!!はやい!!遅くううあああっ!!」

電車の中で震えて泣き叫んでいるランバ。

椅子にしがみつくまひる。

必死に窓を見て心を落ち着けようとするブレナン。

無言で駅に着くのを待つシズ。

「配慮が無いっ無いっ!!瑕疵…瑕疵だあああっ!!!」

「【きさらぎ駅】の電車は現世のルールなんて無い。他に電車なんて来ないんだからよ」

叫ぶランバを眺めながら悠々と壁にもたれかかる一樹。

仙台駅の近くに陋能転国があるからと一樹の遺漏【きさらぎ駅】で異界から仙台駅に向かうと言い出し流されるままついて行ったことをランバは静かに後悔した。これなら時間をかけても歩きの方がマシだった。いくらこちらの方が速いからって…スピード出し過ぎだ。

「あ、此処で食いもん食うなよ。もしかしたら黄泉竈食(ヨモツヘグイ)するかもしれない」

そうは言われたが今此処にいる者誰も何かしら食べようという気にはなれないだろう。


【次は仙台。仙台です】

アナウンスが鳴る。

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