2話【オリンピュア当日】
トモシビはオリンピュアの会場の上、神々が集う場でアンガシャの給仕係をしていた。周囲にはあらゆる神話の神々や天使など信仰を集める存在が和気藹々とオリンピュアの開催をを心待ちにしている。
トモシビが淹れた緑茶の解説を始める。
「『摩多羅茶』です」
「摩多羅…日本の神の名前ですね…流行りですか?」
「流行りの新作の茶葉のようです」
会話が一区切りつきトモシビは尋ねた。
「…アンガシャ様は祭神ではないのですね?」
「神話に関するオミッションが今回のオリンピュアの祭神です。私は神話で語られていない上にオミッションではありません」
開催された理由は『神々と交わした約束』だ。元の神話に対する興味関心を人々に広め傷つけられた尊厳を認知という信仰により回復するというもの。近々平和への祈りと人々の団結を示すオリンピュアが開催されるのを利用しようと少しばかりアンガシャが干渉した。
結果今回のオリンピュアは『遺漏の神々を祭神にする』と取り決められた。その結果観客も開催側の運営も選手も神話を調べる人が続出している。
「ククククク……」
オリンピュア開催地に大量の人が集まりその様子を眺めアンガシャは含みのある笑いをする。
遠くで見ていたミフルはそれを見て声をかけた。
「人間を見るだけで面白いのかえ?」
「そうですね…個性があって面白いです」
随分と安上がりな創造神だとミフルは呆れてしまう。そしてこんなイカれた創造神に知らない内に笑われる人間達に仄かに同情した。
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今は遺漏により巨人と呼ぶに相応しい巨体になった人物がその体を使って迫力のある動画を投稿するなどしてインフルエンサーになったりとかなりカオスだ。インターネットにより情報が飛び交うスピードが飛躍的に上がった結果だ。
(なんかゼウス達いる…)
神のオミッション達が外界を見ている。アンガシャの使いであるランバはそれが地上からでも見えてしまう。常に視線を感じながら仕事をこなすのだと嫌な実感を感じながらだ。事前から少し気が滅入っている。
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漸く待ち合わせ場所に辿り着くと既に先客がいた。もう一人雇っていると聞いていた。ランバは早速自己紹介に入った。
「私はランバ。日本の宮城から来ました。貴方が私と同じく警備員になったのですよね…お名前は?」
「余はファム・ヴァン・ルアン。ルアンと気軽によろしくのぉ。ベトナムのニャチャンから」
ルアンは実に奇妙な容姿をしていた。スキンヘッドで青、紫、赤、黄色とグラデーションのかかった肌に3つの目を持ち右目が複眼で満たされている。見た目だけならオミッションと見て取れてしまう。ただ気さくで微笑んで挨拶を返してくれて遠くの国の警備の仕事を引き受けるくらいにはルアンは優しい人物なのだろう。
「それじゃあ敬語は無しで…」
お互い挨拶を済ませた所で透き通るような声が響いた。
「二人共時間通りだね」
現れたのは黒髪ロングヘアに緑の服の上にまともにスーツを着る気がない様子の男。
「我が雇用主のマタイオ・ティタ。趣味は大人向けの動画鑑賞」
「誰?この人オリンピュアの安全管理の職与えたの」
最初の自己紹介から既に信用が終わってしまった。ランバは顔を引きつらせ隣にいるルアンも首を横に振った。多分同じ気持ちだ。駄目な大人を見たような反応。
「本来の安全管理本部長はネストル・ヴラホス…まー我の友人だぁよ」
「貴方は管理本部に所属で…?」
「うん…一応…?アドバイザーだよ」
(ちゃんと把握してるか怪しいのう…)
ルアンは微笑みの裏でそんな事を考えていた。
————
ティタは記憶を想起する。
思い出されるのは前日のネストルとの会話。ネストルに口酸っぱく言われたから気を使っている。
ネストルは遺漏により緑色の小さなウサギのような容姿になっている。折れ耳により右目が隠れているのが特徴的だ。ただそのかわいらしい外見とは裏腹にギリシャの警視庁警備部長であり今回のオリンピュアの全管理本部長だ。そして滅茶苦茶声が低い齢57の男性だ。
『良いか?絶対絶対絶対汚い下ネタを発言するな!』
『い○ぽじゃないもん!そんなのインポッシブル(あり得ない)!!』
『そう言うのだ!!笑えないからな!!』
『うぅ…』
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ネストルの前日の尽力によりこれでもかなりマシになったのだ。自信を持ちティタは自己紹介を続ける。
「因みに出身はキリバスのロンドン」
「キリバスのロンドン??」
ルアンは首を傾げる。
「キリバスにはポーランドとかパリとかロンドンに…ふふ、バナナっていう都市の名前があってね」
大変ややこい都市名だ。そしてバナナで笑うティタに真顔のランバと苦い顔をするルアン。
空気が終わっている。今にも帰りたそうなランバとティタ。慌てて会話を本題に戻す。
「…改めて。集まったね……という訳で爪貸して」
「え?やだ怖い…騙された?」
唐突に爪を出せと言われたランバは思わずさっと両手を後ろに隠した。
「なんじゃお主…サディストじゃったのかえ?」
その言葉に両手をブンブン振り乱すティタ。
「あ、誤解された…!違う!違うって!なんでまたこうなる?!」
「言葉選びが絶望的なんじゃないですか?」
ランバにそう言われ「そうかも…」と肩を落としてしまったティタ。本人は陽気に接して緊張を抜きたかったのかもしれない。もしくは素。
ティタが言うに
『手伝って→手を貸して→指貸して→爪貸して』
とどんどん謙遜した言い方になり物騒極まりない物言いになってしまったという経緯。
「いやー遺漏対策といえば完備班なんだけどさ?ちょっと心許なくてね…ほら、世界中で活動するから足りなくてさ、人手」
オミッションの対策を行う組織【世界完備班】はオミッションやエラーの対処を行う世界の警察のようなものだ。最近出来たばかりの新組織。
ティタが咳払いをして二人に役割を言い渡す。
「絶対に誰も死なせないこと。これ厳守ね」
「ランバには空間操作でオミッションとかを追い払ってね。殺すのは駄目」
「意外と…難しいかも」
不殺となるなら空間に閉じ込めるとか手段が狭まりそうだ。
「ルアン。君にはVIPの護衛をしてもらう」
「VIP?首相とか王族とかかえ…?」
「いんや、一般人の八歳の子供二人…あルアン。その複眼眼帯してくれない?」
「うむ?」
そこまで言うと二人の子供が現れた。
「はーい!護衛対象でーす!僕がアディー・クェスター」
「こっちがフリーダ・ヒルデブラントだよ!」
「………あの、こんにちは」
手を引っ張る白髪の子供に引っ張られる暗い髪の二人の少女だった。




