1話【オリンピュア大祭前日】
約2年後の後日談です。
『オリンピュア大祭』
それは数年に一度平和の為に行われる国際的なスポーツ大会だ。世界中の災害、遺漏やオミッション等の被害により開催が見送られていた。しかし満を持して開催が決まった。
「マジでネット復旧して助かった」
千春はポチポチとパソコンを弄りながらそうぼやいた。彼女は結界で閉ざされてから今まで興味の無かった漫画などのフィクションにどっぷりとハマってしまっていた。そのおかげでフィクションキャラから生まれたオミッションに詳しくなれた。それが転じて今に至る。
それは2026年2月12日のことだ。『オリンピュア大祭が開催』の告知がなされる。【差別、国同士の確執、仲間を亡くした悲しみを乗り越えよう】をスローガンににオリンピュアの発祥地であるギリシャで今年行われる。
「競技は遺漏者と無遺漏者で分けられるらしいよ。遺漏者は遺漏禁止であり遺漏で肉体変化した人たちの枠と遺漏を持っていても発動しなければ競技に影響のない者でも分けられる…色々調整してるんだね」
ブレナンは義手でスマホを操作しながら興味深そうに皆に話している。
あけぼのクラブではオリンピュアの話題で持ちきりだった。明日開かれる大会を遠くの友人とオンラインで観戦するのが楽しみで仕方がないと。
そして誕生日が2月5日の双は19歳を迎えていた。
現在開催前日の2月11日。オリンピュアのスケジュールの最終確認をしていた。みんなで楽しむ為にお菓子や料理を準備しパソコンの動作確認。だが話題はもっぱらオリンピュアの優勝国の予想だ。
「うぉお…っ」
呻いているのは人見。過去のオリンピュアの記録を見ている。
「中国に卓球で勝てる気がしない…今頃モモはほくそ笑んでいるかもしれない…」
「え?中国って卓球強いの?」
「興味無さすぎるでしょ。ガチの強豪国だよ」
千春の言葉にあまりピンときていない双はあまりスポーツに興味が無いようだ。
『モモほくそ笑んでるよ〜』
「アアアアッアアア!!!」
メタの言葉に人のものとは思えない絶叫を出して花菜が転がっている。
「シズ、見てるか。これがスポーツでも負けず嫌いな女の姿だよ…」
まひるは遠目で窓に映る空を見つめていた。
『僕達は仕事しながらになるかな〜』
歩の後ろでは陋能転国の面々が病気や負傷者を治療したり物資を運搬したりと忙しそうだ。
「無理して参加しなくても良いんだよ…?」
ランバが、そう伝えるも歩は「みんなと一緒にいたい」と頑なに接続を続けていた。
「アメリカは大体オールラウンダーに強い…特にバスケは」
『そうだな。強豪国と自負している』
『でも試合はどう転ぶか分かりませんし〜』
デレックは不敵に笑う一方タニアは他国を警戒している。
『カナダもアメリカに負けず劣らず強いと思うよ〜?』
ブレナンの姉であるアニタが言う。ブレナンがあけぼのクラブに残る意思を尊重しメッセージでやりとりすることが増えたが今日と明日はオンラインで一緒に会話ができ嬉しそうだ。しかし両親はブレナンに戻って欲しくてあれこれ説得を試みている。そこにはアニタはなるべく触れたり関わらないようにしている。
「ムフパはタンザニアだっけか?」
アメリカは何故かやたら強い。人口の多い国は強い選手を選び放題なのだろうか。悔しそうに千春は歯を食いしばった。
あけぼのクラブで共に戦ったムフパとも交流し一緒に観戦する仲だ。荒見の質問にムフパは頷いた。
『そう。といか俺の同居人が選手で出てる』
『ブライトン・ハミシって奴な』
「タンザニアも応援したい…」
ランバはバグシィとおもちゃで戯れながらそう言う。ねこじゃらしにやんのかステップと前足をおもちゃに当てるという器用なことをしているバグシィ。
それを眺めても楽しさよりも己に舞い込んだ依頼の為に準備を進めないといけないという考えが先走る。つまり観戦している暇など無い。運営する側である。
やんのかステップを踏みながらちゃんとおもちゃを動かせと言いたげに「みゃあお」と鳴くバグシィに慌ててまたねこじゃらしを振った。
————
「えっと一人じゃ心細いから…一緒にいてくれる人いたら良いなぁ…って」
ランバは冷や汗を流しながら伝える。依頼が来たのは六日前…双の誕生日。誰にするか色々悩んでいたが…結局決まらず今更になる。
今回の依頼は警備だ。そして自由度が高い。仕事の
条件はただ一つ
『絶対に死者を出すな』
オリンピュア大祭の祭神はゼウスを筆頭にオミッションの神々全て。成功しなければならない。失敗すれば神々のオミッションを激怒させるかもしれない。最悪敵対だ。
オミッションの対策方法が研究されたりエラーの存在が広まったことでより警戒心が広まっている昨今。だが神のオミッションは未だ研究が進んでいない。
「オリンピュアは…もっど前がら準備してたんでねの?」
「うん…私達の事が広まって今月に入って決めたらしい」
「いや、さ……もっと早く言えやぁああクソ無能がああああっ!!!!」
花菜の絶叫にオンラインで話をしていた梦達もひっくり返っていた。
「………いや、あけぼのクラブはただの地域の保護シェルター…知らないのも無理はないか」
花菜は急に落ち着いて言葉を失っていた。考えれば確かにあけぼのクラブ自体規模が小さい。何かあれば大抵最初に陋能転国に連絡が届く。
「相変わらず元気そうで安心」
ムフパは苦笑いしている。
————
誰がランバに付き添うか。能力の範囲の広さと攻撃力、探索に長けていれば更に嬉しい。選別みたいであんまり気乗りしないが…みんなを連れて行くのは駄目と言われてしまった。仕方ない。入国手続きなど色々と時間がかかりそうだ。
皆を見渡す。
「ゼウスに『ゼウスのパラドックス』回答させて混乱させよーぜ!」
「花菜は却下」
「ぁ゙アッ!?さっきの言葉でだけか!?いや、此処は…頑張ってね。応援するから…うん。優しく見送れる」
『怖いよ』
パソコンに目を向ける。メタが梦の膝のうえで震えて抱っこされている。先程からオンラインの皆は連れていけない。あけぼのクラブ所属ではない。
オミッションを巨大シュレッダーにかける鈴彦を思い浮かべたタニア。
『それで…、あの…死んでいただきたく思いまして…』
「…鈴彦さんがいると血生臭くなりそうですね…」
「私の事なんだと思ってるんですか!?」
あーでもない、こーでもない。ギリシャで一緒に警備をする人を選別するのがなんだか嫌になってきた。そもそも警備という危険な仕事に生き返られる自分はともかく誰かを連れて行くなんて…強いて言うなら『トモシビ』だがトモシビはアンガシャに仕事を振られ現在不在だ。そもそも遺漏などの解説で日本の首相官邸姿を見せたトモシビは…目立ちすぎる。
「やっぱり私一人で行く」
「え?」
「にゃあ…?」
その言葉に視線が一気に集中した。
「危険だし…私一人で行くから皆はオリンピュアを楽しんで観戦してよ。私が映るかもしれないし」
皆はこの日を楽しみにしていた。邪魔もしたくない。
「ランバ…それで良いの?皆と観戦したいなら受けなくても良くない?」
「いやこれ多分アンガシャも一枚噛んでるし」
「…あいつが?」
レヰチの優しさが身に染みるがランバは引かなかった。そしてランバの口から出された『アンガシャ』という名前に花菜の声が1トーン低くなる。
アンガシャ。この世界を作った創造神。そしてランバとトモシビの主である。アンガシャが神々のオミッションとのやり取りにこのオリンピュアを利用しているのはトモシビから聞かされている。
もしかしたらまた厄介事を引き付けていたりするかもしれない。アンガシャの事だ。無理して干渉した結果なにか因果が崩れている可能性がある。
「それなら解決できるのは私かトモシビとか人から外れた存在になるからね…多分」
「まあランバが言うなら…それ以上は言えないか」
一樹の言葉にほっとしたランバ。
「いつでも連絡待ってるからね〜何かあったら頼ってね。あ、私は戦闘だめだめだけど」
人見の言葉に苦笑しながら「わかったよ」と答えた。
しかし「あ、飛行機!」と搭乗時間を思い出し慌てて空港に急いだ。
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