56話【夜明けの時】
一同があけぼのクラブに戻ってようやく安寧が戻ってきた。建物も元に戻り戦いは終わりを告げた。
「花菜は?」
「自分の頭にずっと水ぶっかけてるよ」
「風邪引かない内にやめさせなければいけないじゃないか…」
自分の至らなさで仲間を守りきれずに怪我を負わせたことをずっと悔やんでいるようだ。
そしてその側では燈矢が旬に土下座している。
「顔上げてよ……すっごい心痛い」
「ごめん…っごめん…!」
何度も謝りながら顔を上げた。そんな中空気を読まずに
「旬…飲もうか『こころのすくり』」
「お前もかよ!!お前売人かよ!」
「大丈夫だ。このままだと旬のメンタルが危ない」
卯木は薬を旬にゆっくりと口に入れて水を少しずつ飲ませていく。旬はされるがまま嚥下した。
「兄さんも飲む?」
「は?」「え?」「…いや、…は?」
「旬…お前もか」
まひるは眉間に爪を当てて過去を思い出す。何だかこのやりとりがお決まりみたいになっている気がする。
――――
タンザニアのアルーシャに戻ったムフパはいつもの日常を実感し大きく息を吐いた。長い旅のようで短かった。
ムフパ
「ブライトンは何してたんだ?」
「ん?ヒーローが居ない間にヒーロー代理かなぁ」
「…ヒーロー…?」
「いやねぇ、オレはみんなを守ったヒーローだったりするんだよ」
「何だそりゃ」
俺が日本で戦っている間にブライトンももしかしたら戦っていたのかもしれない。だが深くは聞かないことにした。
――――
あけぼのクラブに帰る前リトアニアでメタはランバに実家に連れてきてもらった。
「ただいま…ようやくかえってこれたよ…っ」
メタは泣きながら家の前にへたり込む。
思い出すのは夫婦仲の良い父と母。
珈琲を飲む両親のマネをしたがり何時も甘いココアを淹れてもらったおやつの時間。
忘れてしまっていた。思い出したよ。
大切な家族、家、街、国を。
抱擁したかった。でも、形はもうない。あるのは共に過ごした家だけ。その家に抱きついてさめざめと泣くしかできなかった。
――――
インターネットが復旧した頃。
『【まっつー】さんログインしてないね』
『やっぱり亡くなったのかな…』
『またアドバイスしてほしいな〜…』
多くの人が天災で亡くなり過疎化したとあるゲームのギルドグループのメンバーが集まるSNS。
双はそのグループに所属している。ギルメンの中で特によくおしゃべりをして目立っていた【まっつー】さんがログインしない。
「【まっつー】さんか…」
ぼふんとクッションにもたれかかる。
見えない所でも人の死が見えてしまう。
――――
アニタはずっと何処にいたのか。誰もが首を傾げていた。
ようやくあけぼのクラブに帰ってきたのを見てブレナンは「今まで何処にいたの!?」と怒り半分安堵半分で詰め寄った。
「アンガシャという神の所」
「え」
ランバがその名前を聞いて硬直した。
「あの神何か失礼な事しなかった!?」
「いや、ただちょっと質問させてもらっただけ」
「質問?」
ただ聞きたいことがあったからバグシィに頼んでアンガシャのもとに行っただけだと伝えた。
「それなら言ってくれれば良かったのに」
まぁバグシィに頼んですぐにあっちに行ってしまったというのならば仕方ないかもしれない。
一見全て良い方向に向かったと思えるが…まだ課題は山積みだ。そもそもオミッションがこれ以上増えないという保証は?無い。新しく生まれる赤子も遺漏者だろう。
秩序を守りながらあけぼのクラブは生き続ける。
ひとまず今は戦いの勝利の余韻に酔いしれてひと休みといこう。
此処で一旦完結ですが第二部というか後日談のようなお話を制作する予定です。




