55話【蛇蝎】
翠嵐海の頭や触手、コウモリのようなエラーの翼、鬼灯の飾り、サソリのような下半身。口はエラーの頭になっている。悍ましいと言う言葉で片付けるには些か神聖さを感じる。
(アンガシャより気配は神々しいかな…)
あの世俗的な創造神よりも。
いやそれよりもだ。あの姿。間違いなく人の姿ではリーチが足りない。すぐに防がれる。武器を万が一取り込まれたら厄介だ。武器を消してもらい己の肉体で戦うことしかできない。生き物を召喚するトモシビも戦法がかなり限られる。
「トモシビ、私達が取り込まれる可能性ない?」
「我々はこの世界の理を形作る存在です。この世界の理の中の存在が我々の輪郭をどうこうできるわけではありません」
「つまり無いんだね?」
「はい」
人間の身体よりも圧倒的に暴力に特化した構成。それならば…。
心理により姿を変えられる。その特性を生かしあの時の瑕疵を挽回しようと考えた。ランバは自身の姿の観測を変えあの時の異形に姿を変えようとする。
身体が変形していく感覚は慣れない。大きな口に開いた空間から伸びた手。間違いなく一寸違わずあの時の姿だ。この姿は暴力性が前面に出ている。自身をすべてを破壊した災厄だとネガティブに解釈した姿だから今はそれが適している。
「わ、モンスター」
「棚に上げるな。バグは排除する」
デージを空間を裂き攻撃しようとするも耳が良いのだろうか。最初の挙動で見越され避けられる。しかしそこをウツシビが蹴り飛ばす。
デージの身体の中から触手が貫く。それを手に取りウツシビはデージを力いっぱい結界の壁に叩きつけ更に拳で顔を殴りつける。
「あんまり痛くないな」
オミッションとエラーのいいとこ取りのような身体。痛覚は人の様に鋭くない。
首から生えている翠嵐海の触手が伸びそこからエネルギーを形にしたビームを放ってくる。
翠嵐海とエラーの力を組み合わせたのか。
空間に穴を空けデージの背後に当たるように仕掛ける。
「…自分のエネルギーは攻撃にはならないよ」
「…ちぇっ」
尻尾で結界を叩きつけて振動で身体を震わせようとしてくる。トモシビは聴覚が鋭くかなり効いている。植物の蔦がトモシビを絡め取り動けなくするとサソリのハサミで頭を破壊し身体も貫いてくる。頭を破壊され死亡したトモシビは直ぐ様ランバの隣で蘇る。しかし現状を把握する間もなく直ぐ様蔦と尻尾、触手がトモシビをあらゆる方角から襲う。ランバは空間を開き手でトモシビを守る。その隙にトモシビが召喚した大量のアリがデージの身体を這う。取り込もうとしても蟻では何の役にも立たない。それに加え大量に這われ視界が不明瞭。
「気持ち悪い事を…!」
ハエトリ草を召喚するが中には抜け出す蟻もいる。気休めにもならない。噛まれ、蟻酸で攻撃される。大量の生物の気配に混乱しているように見える。
「酸であれば毒が効かないデージにも多少は効くはずです…確証は無いですが」
蟻の集団行動は協力だ。足を折り、触手を噛み切り捕食しようとする。デージは振動で蟻を振り払い波動により脳を破壊され死んでいく。
生き物を操るトモシビはこれ以上いても足手まといになると引き下がろうとする。
「ワタクシの此処での役割は終わりですかね」
「此処からは近くにいると危険。此処は私にケリをつけさせて」
「わかりました」
ランバにそう言われウツシビは大人しく退却した。
————
アニタはバクシィを呼びとある人物の場所まで移動していた。
ブレナンから聞いた『創造神』という存在に話を聞きたかった。
鮮度の低い空が見える。黒い服を身に纏った多腕の人影。神々しい光景なのに音が全てを台無しにしている。
ヘヴィメタルのドラムにギターが絶え間なく空間を揺さぶっている。既に自身の存在は知られている筈。勇気を振り絞り大きな声で声を掛けた。
「…っあの!!すみません!!」
「おや、貴女は…」
メタルの音楽が流れて声が聞こえにくい。音の刻みが激しく音響のせいでアンガシャの使用している食器が小刻みに揺れている。音楽と共に歌声が入り更に声が聞き取りづらい。
「あの、音…」
「失礼しました」
ぱっと音が消えた。だがしかし音が止んでもまだ耳の中がふわふわする。音量が大きすぎて耳にダメージが入っている。
「どうぞおかけください」
アンガシャが椅子に座るよう促す。有り難く座り目的を早速話す。
「えっと、あーしがまず伺ったのは聞きたいことがありまして…」
「オミッショの神についてです」
「オミッションの神について、今後の復興した社会で貴方は放置するのですか?」
「あの方々には贖罪を約束しています。…まぁ貴方達人間も関わってくるのですが…あまり深くは考えなくても宜しいですよ」
「まさか人間の今後の動きで何か…こうお祭り的な?」
「それです」
ふふ、と柔らかく笑う。その言葉に嘘偽りは存在しない。本気の様だ。
「ええ…そんなので満足するんですか?」
「祭りは祀りですよ。元々神をおもてなしする催しですそれと」
「……それだけ聞くために此処に訪れたわけではないのでしょう?」
その言葉に僅かに震えた。
「…はい」
「亡くなった人は…どうなるのですか?私が…手に掛けた人は…」
「…?アレは貴女の意思ではないでしょう?」
身体を操られただけ。
「死んだ人間はその人間が信仰する宗教の通りに魂が導かれるか…無宗教の人間は私が丁寧にその魂を管理します。苦しくない無になります」
無余涅槃の様なものだろうか。何も感じないのならばそれは無なのか。アニタには答えが出なかった。まだ若い自分には到達できない領域の話だ。
————
デージがウツボカズラの消化液をランバに向けてまき散らす。躱したランバを北東から粘着質な食虫植物のドロソフィルムで捉えそこから極太の波動ビームを発射する。そのビームはいとも簡単にランバの異形の肉体の上半分を焼失したが直ぐ様ランバは再生する。スピリチュアルのせいだろうか。成長速度が速く攻撃が段々と強くなっている気がする。それに加えデージへ運が回ってきたようにランバが体をもつれさせ攻撃が当たる確率が高くなっている。
もうこのデージで最後なのだから天獄の維持を気にせず攻撃をした方が良いだろう。
四方八方から空間を開き触手と拳を当てようとすると南西から攻撃を受けるように立ち回り位置を調節し無効化してくる。吸収までとは行かないが攻撃にならない。
「なら今いるこの空間ごと…」
ギチギチギチギチ…
空間に捕らえられたデージが波動で空間を破壊しようと試みるが空間が反射しデージ自身の首を絞める。
「終わりだ」
デージを空間内で圧縮し続ける。どんな抵抗すらも反射する。もう何もできない。天獄が崩壊していきそのまま姿が見えなくなるほど圧縮されデージの命は潰えた。
ンバは元の姿に戻り大きく息を吐いた。




