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黄昏のオダマキ  作者: ないある
戦々恐々編
54/56

54話【大地の怒り】

陋能転国まで行きたい。人見に連絡を残すために残りの気力を振り絞りデレックは叫ぶ。

「人見…!お前の力を貸してくれ…!」

帰ってきたのは痛みに呻く人見の言葉

『まじ…私たちも死ぬ…っ一樹さん!!』

意識が薄れながらも電車の音が聞こえてきた。


目を覚ますとベッドの上。

起き上がると梦と歩の他に荒見、人見、卯木、燈矢が治療を受けていた。メタは梦につきっきりで泣いている。

「…いや、まだリトアニアに鈴彦とタニアがいるから戻らなきゃいけない」

「無理!今は無理だ!あけぼのクラブから陋能転国だけでもキツイのにリトアニアまでどれくらい距離があると思ってんだ!異界使ってもかなり時間かかったぞ!」

鼻血と吐血をしながら一樹が叫ぶ。

「ランバは今は忙しそうだし貴方達も重症だった。頼れそうなのはバグシィだけれど…声が届くかわからないし今は休んでよ」

ブレナンはマフラーを弄りながら今は休めと催促してくる。重症のはずの敦己が未だに吐血が止まない一樹の背をポンポンと優しく叩いている。

「あれ?骨折れてた?」

「歩?元気になったのか?」

「うん。やっぱ陋能転国すごいよね。ね?」

拍子抜けするほどあっけらかんとしている歩。


一方一番重症な口が壊滅状態の梦は傷跡は残りそうだと言われている。しかし長時間そのままで生きていられるだけで上々だ。

「何があったんだよ。リトアニアそんなにヤバかったの?」

双の質問に「まだ終わっていないよ…あれは人の生きる場所じゃない」と歩は首を横に振る。

「…そう言えばアニタは?」

「姉さん?今…あれ?」

「アニタさん?」

アニタはレヰチと一緒にいたはず。千春は部屋を見て回るがいない。卯木と荒見に飲み物を運んでいたレヰチは一人で動き回っている。

「レヰチ!アニタは?」

「んー?忙しいから部屋別々に動いてて知らない…ごめん」

「そう…」

何処へ向かったのだろう。

――――

マズローは身体能力よりも遺漏頼りだと思っていた。

「………」

その姿が大きく変形していく。膨張しぐちゃぐちゃと身体が変形する様は見ているだけでこちらの気が変になりそうだ。

「マズロー…一番危険なタイプですね」 

「そういうものですか…」

タニアは自身が操られた事によりマズローがもしかしたら裏で仲間の糸を引いていた可能性を危惧する。危険な遺漏を持ちながら無条件に信頼されていた。

鈴彦は妹の結子を理解する為に読み漁った心理学の本から言葉を呼び起こす。遺漏で自身の姿を変える事も出来る。ユングの心理学で提唱される仮面(ペルソナ)

(この方の遺漏は心理学関連ですかね…)

マズローという名前も心理学者か『マズローの五段階欲求』。…実にわかりやすいヒントだ。操るというより認識を上書きするようだ。

今の姿を見れば対戦に特化した姿と見て良いのだろうか。それなら緻密な認識の上書きは出来ないという可能性に賭けよう。

「だから何だって話になりますが…」

鈴彦は自身の遺漏でマズローの身体を圧縮させようと手を差し出すがその前に姿が消えた。

「……」

マズローのその長い剣のような部位が迫ってきた。鈴彦が体を捻りそれを避けるとタニアが足蹴りを食らわせる。

グニャリとマズローの身体が柔軟に足を包み込む。慌てて足を引っ込める。これではダメージが与えられない。

次の手だとタニアは手を伸ばす。皮膚に触れた物をガラスに変化させる。その後に叩き壊せば良い。

「っ…何!?」

タニアと鈴彦がマズローから離れ退避する。

現れたのは人外と思しき少女。

「邪魔者がを排除しろと聞こえて馳せ参じましたよ」

「デメテルです」

それを聞き顔を強張せ冷や汗を流し怯える鈴彦

「ゼウスの姉…ギリシア神話の豊穣の女神」

オミッションとはいえギリシア神話の神。どれだけ破格な力を持つのか。

「使われているオミッションとは彼女のことでしたのね…」

タニアがデメテルに目線を向けていると鈴彦にマズローの巨体が壁を貫きながらタックルを仕掛けてきた。ドゴン、ドゴンと音を立てながら2人が視界から消えてしまった。

鈴彦はマズローに捕らえられ涙目になりながらも自身に迫る壁の一点を圧縮し破壊することで壁に突撃するダメージを無くしていた。

「離してくださいぃ…っ!」

地面に潰れたマズロー。しかし更に身体を大きくし鈴彦を射止めようと日本の手で突き刺そうとする。

(圧縮では殺せない…)

「やっぱり私には無理です…っ代わってください…!」

鈴彦は対戦相手を変えようと攻撃を避け瓦礫を掻い潜りながらタニアの元へ走った。


一方タニアはデメテルと対峙し傷だらけになっていた。

しかしそれでも戦闘意欲は衰えない。ギリシア神話の神だろうが人間だろうが悪事を働くのなら拳で地へ叩き落とす。それだけだ。

「私めこれでも諦めが悪いんですよ?」

「なら諦めないという意思が無くなるように殺すだけだけどね」

デメテルの素早い動きを捉えてはいるが防ぎきれない。腕でガードしても骨が軋む。


「うぁああっ…!」

「え?」「ん?」

二口の内の一口を大きくかっぴらき丸ごと地面も壁も天井も口にはいるものすべてを飲み込もうとするマズロー。

デメテルもタニアも慌てて壁に穴を空けて退避する。デメテルが思わず鈴彦の手を引き救いあげる。

「あっ敵なのに」

「敵じゃないです…味方でもないです…デメテル様…貴方は何なんですか…何故こんな事に手を貸してるのですか…」

泣きながらそう訴える。

「豊穣の為に…」

「こんなの何の関係もないです…」

そうは言うが思考が上書きされている為に響かない。

再び地鳴りが響く。マズローが生き物を人間の思考の気配から探しまた壁を破壊し始めた。

「あんなの情緒も何もない無粋すぎる攻撃ですよ!」

タニアが叫びながらマズローが自身に近づくのを察し壁を抜けた。直後マズローが壁を食い荒らしながら飛び込んできた。

その背に掴みガラスに変えていく。

身体がガラスに変わっていこうとも攻撃の手が休まることはなかった。

崩れていくのも構わず打撃と打撃の応酬。両腕が塞がれたタニアはまだガラスに変化していないマズローの身体を口で噛み切った。その瞬間遺漏の変化を感じ取った。

タニアの遺漏【エジプト神話の『ゲブ』】対象の身体をガラス細工に変える。しかしゲブは本来大地の神。

遺漏本来の力が引き出ていなかった。

姿が変わり遺漏が体の表面に引き出されているマズローに齧り付き摂取した事によりその力が強制的に引き出された。大地そのものを操る神の権能。地面の土埃が登っていく。

「そうですか…大地とはこう使うのですか」

血に塗れたまま口端を吊り上げるタニアにマズローは初めて畏怖を抱いた。

タニアが飛び上がり両手でマズローを地面にたたきつけた。地面が叩きつけられたマズローを肥やしにしようとコンクリートを飲み込みマズローをも飲み込んでいく。もがいてもさらに深く沈み込み姿が見えなくなった。


「貴方が大地を操るなんて何事ですか!?」

「うぅ…ううっ酷いです…」

泣いている鈴彦とつかみ合っていたデメテルが叫ぶ。

「私の遺漏はエジプト神話の大地の神ですから」

「…」

「…?あの?」

デメテルは呆然としている。マズローが死んだ今上書きされた情報が消えて本来の正常な思考に戻ったようだ。

「人が、人が沢山の人の身体が使われている…」

デメテルは既に稼働していないダムを破壊する為にタニアと鈴彦と共に動き出した。

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