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黄昏のオダマキ  作者: ないある
戦々恐々編
53/56

53話【痛み】

「は?!誰!?」

花菜はムフパが突然空から落ちてきたことに驚愕し旬も身体を硬直させる。カクはつい最近見知った相手が追いかけてきたと警戒しギャラルホルンを吹いた。

「ちょっとまだ名前すら知らない相手がいるんだけど!?」

「関係無い。自分の敵だ」

「敵の敵なら…まぁ味方か」

「判断早いな?」

ムフパは見知らぬ日本人に味方判定されるのが早すぎると困惑した。しかし自分的にもカクは不安要素であり味方と言われるのは悪い気はしない。

地面が唐突に陥没し浮遊感を感じた。花菜がホースを飛ばし「足場にしろ!」と叫ぶ。ムフパは持ち前の進退能力ですぐさま適応した。旬は触手を使い器用にホースに引っ掛け浮かび上がる。

「名前は?」

「ムフパ・ズマリディ」

「おっけ」

会話の途中に割り込み傷だらけの花菜に更に追い打ちをかけるように鋭い腕ど頭をえぐろうとするカク。

ムフパが足を上げてカクの腕を蹴り上げ腕を顎に当てる。

「でも俺の遺漏は…『痛み』を操るだけ。実際にはダメージなんて与えられない…」

「動きを止めれるしショックで気絶をさせられない?」

ムフパの苦言に旬は十分だと判断する。痛みは強い。自身の経験則だ。

「あぁ…まだ三人もいる。それに誰も殺せていない」

カクはどうやって殺すか悩んでいた。あけぼのクラブ。陋能転国を落としただけはある。一人一人強い。頑丈な上判断力に優れ死にかけたものをすぐに引き下がらせ秘匿する。

「逃げられた…」

気配が消えたのを感じたカクは低い地の底のような声を漏らす。

「は?」

「…いねぇ!!!」

カクの言葉に人見は建物の仲間でズドドドドと豪快に音を立てて走り中を覗き叫んだ。あけぼのクラブの中にいたはずの怪我人がいない。バグシィしかいない。

「まぁ逃げれたんだな!!よし!!!……なんか言ってからいけやぁあっっ!!!!」

ドゴン、ドゴン、と床を踏み鳴らす。

「………」

真顔で次の攻撃の準備をし始めるカクに旬がかまいたちのような鋭い風を纏った触手を上から雨のように降らせる。

距離を置けばいいだけのことと考えカクは後ろに退けようとして足を滑らせた。泥濘(ぬかるみ)だ。

「あたしがただ馬鹿みたいに走ったと思ったのかぶぁあか!!」

ホースが地面に突っ込まれ水を流し地面を柔らかい泥に変えてしまっていた。

「小癪娘が」

カクは身体を逸らし触手を回避する。しかし風により皮膚が切れてしまう。しかし対したダメージではない。

「……」

カクはギャラルホルンのベル部分が地面に当たるように地面に叩きつけて手を大きく鳴らした。

ギャラルホルンを中心に周囲の建物や墓、そして持つホースや卯木の落とした刀までもカクの手駒として変形し動き出していく。

「……っお前、お前お前お前お前!!!!!」

花菜は叫んだ。

ムフパは顔を顰め変形していく地面を見つめる。

旬が見たのは墓の中に埋葬された遺骨が変形し一体の『がしゃどくろ』に変形していく様だった。


ムフパは躊躇わずに遺漏を発動した。痛みでカクを気絶させると制御を失うかもしれない。しかし元凶のカクがこれ以上なにかをしでかす前に本体を叩こうという判断だった。

「…ッ痛…!?」

頭から指の先まで激痛が走り断つこともままならなくなり揺れる泥濘に倒れ込む。すかさず花菜はカクの腹を蹴り上げた。

「ちょ、あの─あぶなっ…!」

触手で花菜を引っ張り上げる。そうしなければ変形した建物や地面に貫かれていた。

カクは限界を突破している痛みを堪えながらがしゃどくろに命令する。

「あの三人を殺せ」

 アメトリンの有象無象よりも近くの三人を優先しろという命令にがしゃどくろが蠢きカクを襲うその三人を狙い拳を振り上げる。あの骨が墓に眠るアズメや結子等の人々の遺骨で作られていると考えると腸が煮えくり返る思いだ。旬は触手を足代わりに長距離を素早く移動している。がしゃどくろは巨体に反し動きが機敏であり触手の端をかすり抉ってしまい体勢を崩してしまう。ムフパが変形した木々を掴みながらがしゃどくろの腕を伝い走り顔面に近づき首を落とすために締め付ける。

機敏なその動きにがしゃどくろは無理矢理その木々を潰しムフパを払おうと手を振る。しかしそれを躱しながら拳で叩き折る。そしてムフパは旬に合図を送った。それに合わせ風を吹かせがしゃどくろが倒れムフパが飛び降り足で頭を潰した。

残る木々や建物を拳と足で破壊しながらムフパは再びカクに近付いていく。

花菜は洗濯機やホースといった道具を出現さるとそれが自動的にカクの手駒にされることに気が付いた。

「最後に信じれるのは己の肉体。素手こそ最大の武器ぃッ!!」

花菜は負傷故に周りの邪魔な手駒を、旬とムフパがカクを相手に戦いを始めた。

カクの周囲でも変形して襲う物体がある。それを触手で絡め旬はムフパのサポートをメインにする。ムフパの進退能力は優秀でカクの隙を突いてくる。しかしカクの両腕は異形で鋭い。その爪は強固で凶悪。ムフパは爪を立てられる。しかし痛みは感じない。ムフパの痛みを操る遺漏は自身にも作用させ痛みを感じないようにしている。逆にカクは痛みを感じながらの戦闘。本領を全く発揮できずに手駒に頼らざるを得ない。それでも二人を捌いている。

風がカクを切りムフパへの追い風となりだんだん追い詰められていくカク。

(もしかしたらこの男が来た時点で…)

その思考はカクの顔面への拳により中断された。


全ての建物が元に戻った。まるで何事もなかったかのように。カクが力尽きた事により遺漏による変化が終息していく。

――――

元に戻ったあけぼのクラブに三人が入る。やはり誰もいない。いやいないほうが良かったか。

「畜生が、血まみれボロ布纏ってちゃ気分悪いし苛立つわ…おーよしよしお前は置いていかれたのか?それとも慈悲を持って留まったのか?」

「この子さっきは何処にいたんだろうな」

「この猫の品種見たことないんだけれど」

二人の質問責めにピキリと血管が浮き上がる花菜。苛立ちを機敏に感じ取ったのか花菜の足にゴロゴロと喉を鳴らし体を擦り寄せたバグシィ。しゃがみ込み花菜はバグシィを愛で始める。

「あの、俺等の着替える場所は…」

「おう、野郎共の着替えは反対の廊下だ。散れ散れ」

旬とムフパの着替えは反対だと顎で指し扉を占めた。

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