51話【二手】
「困ります…っ」
時は少し遡る。鈴彦は苦言を呈していた。「私が…?私が一人で?!」
ジェレナと出会いウェズが死ぬ前。アンネマリが去った後鈴彦は一人別行動を取らされていた。
「お前はかウェズの機体の中にいたときも一人でできたろ?」
「……」
「…せめて何か言ってくれ。言葉が詰まる」
デレックの言葉に無言で硬直している。
「大勢で動くより一人くらい離れて行動したほうが良いから」
「はぁ…?わかりましたよ」
「わかってないですね」
梦は俺も行こうかと言いかけたがタニアに止められ仕方なく一人で鈴彦は歩いていた。
(まさかこれが正解とは)
誰かが死体を引きずりながら歩いている所を目撃するなんて。
――――
殺し合いのゴングが鳴るがコツコツコツコツと机を爪で叩く音が響く。
「マズローも用事があると言いジェレナも時間通りに来ない」
マズローは不明だがジェレナは殺し、アンネマリも裏切り判定され殺された。
「人が誰も報告しに来ない」
ダイロニスが引き連れ大勢死んだからだろうか。
「ずっとずっと待っているのにだ」
「人望がないんじゃないですか?」
「……」
歩の一言に手を止めた。
「元々連帯力は無い」
(自分で言うんですね)
梦は心の中で嘲笑した。
「…吾輩が異変を感じた所で自分で動くべきだった。そうだ。この失敗は吾輩の責任だ」
デレックを見つめ口を開く。
「お前が頭と見た。此処で全員殺し挽回する」
カジスは机をデレックへ投げ飛ばした。デレックはそれを鉤爪で粉砕する。
「この狂った人間タンクを稼動する為にか?」
「そうだ。力があるのならばそれを使い世界を動かす。慈愛やボランティアでまかり通るほどこの世界は優しく創られていないと…お前が軍人なら理解している筈だ」「元よりこの天災が発動するよりも前からこの世界を生きる生命体も神話で崇拝される神々も理不尽なもの。意志あるものは矛盾して稼動している」
カジスの言葉に歩は警戒し空を飛び攻撃の構えをした。
しかしカジスは鷹のように毛を広げ飛び上がると歩の目の前に現れ頭から腹にかけて大きく爪で引き裂いてくる。
歩はそれでも大きく口を開き腕に噛みつき口の中から凍える星を大量に放出した。爪が割れ毛が飛び散る。毛が分厚く腕に対したダメージは入らなかった。だがそれでも隙は作れた。デレックが鉤爪で体中を引き裂き地面に振り落とした。
カジスは余裕のある着地をして梦に猛スピードで近づいた。咬合力が異常だ。梦は顎を噛みちぎられて声を発せられなくなった。
「っ…!っぅぁ゙…っ…!」
痛みにもがき苦しむ梦の掠れた悲鳴が響きのた打ち回っている。しかしそれに構う暇もない。尻尾をズボンから突き破らせ蛇のように伸ばしデレックを拘束する。
「っ肉食動物か…」
デレックが遺漏により弾き出した応え。カジスの遺漏。
サメの咬合力、鷹の飛ぶ力、肉食動物はライオンや犬のような四足歩行だけじゃない。鳥類や魚、爬虫類にもいる…。
尻尾の拘束から逃れようにも蛇のように締め付けられ圧殺されそうだ。
血を吐きながら歩が尻尾に爪を立て無理やり引き千切りデレックを解放する。
「……」
カジスはとどめを刺そうと蹲る梦に手を伸ばすがデレックは掴みかかり壁を破壊するほどの力で押し付け梦から距離を取らせる。
(不覚だ、一人でこいつを始末出来ないなんて)
デレックの自責の念はカジスも同じく感じていた。リーダーである自分が侵入者一人もいまだ始末できていないのだから。
「……殺す」
顔面めがけ噛みつこうとしたがデレックは首を回転させのけぞり顔面を守り頭突きをかました。
歯が折れるくらいの威力。
危うく気絶しそうになりながらも脚力を生かしデレックをはね飛ばした。しかしこれはデレックの計画の内だった。取り替えるように歩が飛び込み足を伸ばし身動きが難しいカジスへ凍えた星を大量に飛ばした。
体を転がしたが避けきれず体の一部に被弾した。
しかしそのまま歩に向け、壁を走り近づき羽根を千切りながら体を地面に突っ込ませた。デレックは直ぐ様反撃に移ろうとするがデレックの脚へ向けて引き抜いた歩を投げ飛ばしまとめて貫こうと爪を飛ばした。
「……っ」
素手で歩の出した凍える星をカジスの胸へ埋め込むほどの力で押し付けていた。
「は…、っ……」
声にならない声を上げてカジスは倒れた。
歩は意識がない。デレックも動けるギリギリの力しかない。
とにかく今は梦の状態を見なければ。
――――
マズローはジェレナ、ウェズの死体を引きずり歩く。
遺漏濾過ダム湖にたどり着き落ちているアンネマリの首と胴体を蹴り入れジェレナとウェズの死体を投げ捨てる。
「…難儀やんなぁ」
やはり稼働していない。電源も壊れて内部回路もイカれている。
無言で溶け切ったのを見つめると来た道を戻る。しかしその途中
「こ、ここんにちは…っ」
鈴彦と鉢合わせた。
「………」
何も返されず鈴彦は「ぅ…」と気まずそうにする。
「あの、今投げたの、あの…俺の仲間がいて、」
マズローが鈴彦に手を伸ばそうとする。
「ごきげんよう」
タニアが口を挟みマズローは挟み撃ちになった。
「………」
「無口さんならやりやすいです。もとより今回は話を聞く気などないですから」
拳を構えたタニアにマズローは隠れて見えない瞳を向けた。
「……?……」
思考がぐちゃぐちゃになる。何だったか。今はこの組織を壊すために動いている。
壊すのはいけないこと。いや、でも此処は人道に反していて…私めは…
何か急に自身のパーソナリティが書き換えられるような感覚を覚え必要なことだと鈴彦に蹴りかかる。
鈴彦は足蹴りを受け止め酷くつまらなそうに殴り飛ばした。
「…っ…!」
舌を噛みタニアは頭を降る。
「マズロー…だったかしら。人の思考を操るような遺漏を持っているのですね」
「…怖い…」
タニアの考察に震え上がる鈴彦。
「………」
「とにかく早く終わらせないと自分を失うってことですよね…」
「そうなりますね…すみません」
マズローとの戦いが始まる。




