48話【魔性】
ペルケトラヴィマスでは派手な音を立てたウェズから周りが離れた。
「お前がやったんだからお前が引きつけておけ」
「はいよ」
警備員をナオスピカの手で薙ぎ払いなんとか落ち着いたかと思ったのも束の間警備員とは違う豪華な服装の女性がいた。場違いなドレスコーデで右が金色で左がワイン色のツートンカラーが目立つ。
アンネマリ・カスク。ペルケトラヴィマスの一員の女性。
彼女の遺漏は【ファム・ファタール】。文字通り魔性の女として周りを自身の思い通りに振り回す。
「あんたら…あの煩い不法侵入者か」
「悪いねぇ悪い虫を追っ払うためには運動が必要でさ。お詫びに外のカフェにでも行くかい?」
「はぁ!?冗談やめてよ!嬉しくないし!」
ウェズの軽口に怒るアンネマリ。それを遠くから見守っていたが口論が続きそうで歩が仲裁に入る。
「ウェズ…ふざけ過ぎだよ。人を弄ぶのは…」
「…ッ!?!?!?」
アンネマリの脳内に電流が走る。
金髪の滑らかでそれでいて切り揃えられた髪の毛、麗しい赤い鱗、逞しい四肢。凪いだような尻尾。大きく象徴的な翼。髪の毛から見えるとても目を引く角。宝石のような目。
全て全て初めての感覚。そして実感した。
─これが、恋なのだと。
「…あ、あああっ好き……」
「「「「「!?」」」」」
顔を真っ赤にしてアンネマリは直球な告白をした。
「え?俺?俺のことが?」
「は、はははいぃい…!」
「僕は手島歩、君の名前は?」
「アンネマリ・カスク…遺漏は人を振り回す力があるけれどそういうのじゃなくて、本心です!!」
「…嬉しいな」
歩は仲間に対して感情が重い。そして自分を好いてくれる存在も例外ではない。
「凄く面倒くさいです…」
ウェズのせいでいまややこしいことが起きているのに歩もまた問題児なのだと梦は確信した。
「あ、ああっ私、今ちょっと此処の地図を持って来ます!」
風を切るように凄まじい速度だった。
――――
バタバタと走り濾過ダムを横切る。
「ごぼぉ、ごぶぉ…、ぉああっ…」
「あづい、あづ…、ぁあ、」
「ァ゙、ぁ……っおぁあさ…」
ドロドロの液体が手の形を作り這い出ようとしてまた崩れて消えてしまう。彼らは何も悪いことなどしていない。強いて言えば幼い頃に親に叱られる程度の些細なこと。それなのにこのような仕打ちを受け苦しんでいる。
そんな光景を嬉々として見るのは誰なのか。
それよりも今はあの素敵な歩の力になりたい。アンネマリは通り過ぎていく。
――――
「アンネマリがおかしい」
そう話したのはカジス・ウルボナス。彼はペルケトラヴィマスのリーダーである。黄色に近い毛並みを持つ獣人の姿であり両腕の毛が長すぎて長袖のようになっている。顔には包帯が巻かれ幾度と戦いを繰り返したのが分かる容姿だ。
「拙 は何も知らないけれどね?」
長身の青い肌にピンク色の髪の毛、大きな耳の女性、ジェレナ・ヨナイティテはアンネマリが上の空で浮かれていることを聞かれ首を傾げた。羽根をむしゃむしゃとおやつのように食べている。
「……愚生も……」
性別不詳であり黒髪に赤色と白色が混じり目が隠れ両耳にピアスをした胴体がDNAのように螺旋になっているマズローもそう口にした。マズローは偽名であり滅多に口を開くことはない名乗らない。無表情であり顔に傷跡が多く見られる。
「意外とくだらない理由かもよ?あの子いてもいなくても変わらないし」
ジェレナはアンネマリはダムの運営には関係していない。ただ部下を増やす役割だけだから最低限いなくても平気という姿勢だ。
「小さな綻びが大きな混乱を招く」
カジスは未だ納得はしてはいなかった。
「デメテル…彼奴にしばらく近づけさせるな」
デメテル。このペルケトラヴィマスの要である神のオミッション。ギリシア神話で最高神ゼウスの姉であり豊穣を司る神だ。今はマズローの遺漏により遺漏濾過ダム湖の運営こそが世界の豊穣にもっとも効率的で人々の為だと誤認させられている。
歪な場所では歪な人間関係が育まれる。それは長くは続かない。今まさに綻びを引っ張ろうとする者達が侵入している。
――――
ピンク色の髪の毛に青い肌の女性。
料理が大量に並んでいるが使われているのはただの食材じゃない。オミッションの面影、髪の毛に目玉、見たことない色の肉。それに大量の何かの羽根。
「上の人っぽそうです…そこの人、お名前は?」
梦は名前を尋ねる。何かの羽根と肉を同時にむさぼり食っていた女性は口の中のものを飲み込むと振り返る。
「んっ?!」
口に食べ物を含んでいるため声を出さなかったが驚いたのは分かった。飲み込み、名乗りを上げた。
「拙はジェレナ・ヨナイティテ。貴方達何処から来たの?」
「国外から」
正直に答えたがこれ以上情報は渡したくない。国際問題とかそれ以前にこんな奴らに話す価値も無い。デレックはそれだけ答えると愚直に話す。
「そんなにエネルギーが欲しかったら自分がダムに飛び込んでてほしいが。他人の命を勝手にエネルギーにするな」
「?それしたら欲しいエネルギーを享受できないじゃん」
「欲しいエネルギーになってどうすんのって話」二枚舌をチロチロと動かしながら話す姿は相互の苛立ちを加速させる。その苛立ちを抑えるためにジェレナは肉に齧り付いた。
「それはそうですが…」
「そこ共感する所です?」
タニアの言葉に梦は何とも言えない苦い表情をする。それを横目にウェズはクスクスと笑う。
「良い食べっぷりお上品なペリカンちゃん。沢山食べる子は好きだよ」
「は?…は?はっ!?あの私をあの大口の間抜けな鳥と一緒にするの!?」
「お前死刑!まじて死刑!」「失敬!失敬だから死刑!」




