44話【遺漏濾過ダム湖】
「…しほ─「仲間でも政治の話は対立を生むから口を閉じろ」…帽子ごと引っ張る!?」
ウェズの頭を引っ張るデレックのその口調には経験故か説得力がある気がする。
リトアニア。バルト三国の一国。オレンジ色の屋根が特徴的な家が多く自然と調和した美しい国。しかし今その国は独裁組織により支配されている。
「うーん…うーん…目立つよなぁ」
歩は自身の身体を気にしている。しかしそれはデレックも同じ。それに今更だ。今此処は本当に人の関わりが薄い。どれだけ目立とうが歩きながら喋ろうが誰も関心を持たない。関わろうとせず足早に離れていく。
首都ヴィリニュスを少し歩くと見えてきた。
「此処ですね。こっちの方が目立ちます〜」
タニアが指を指したのは近未来的で周りより不自然な建築様式の建物。ここで多くの人間が溶かされている。
「その…戦う以前にまだ理解の齟齬とかあるかもしれないです…」
鈴彦が申し訳なさそうに口を開く。
「そういえばリトアニアは死刑制度を廃止した国だったな」
ウェズは唐突に口を挟む。
「神と戦うのに殺す殺さないで考えるのはもう無理があるよ。極限状態になると人は何処までも残酷になれる。歴史が教えているし…陋能転国でも見たでしょ」
歩は息を吐くような声色で話す。思い出したくないが伝えなければいけない。
沙知だってそうだ。催眠にかかっていた上に彼女はすぐに人の言葉を信じる生粋の純粋さを持っていた。疑うことを知らなかった。だから餌にされた。
「……」
鈴彦は無言で俯いた。
中に入ると直ぐ様警備員らしき人物に留められた。
「軍人が勝手に他国の人間殺すなんて問題しかないですって…責任取りたくないです!」
「人道に反した人達だから問題ないですよ」
「…怖い…」
梦は国際問題を懸念しているがそれはもう、今更なのだろうタニアの言葉に絶句した。
梦は警備員に近づき耳元で呟く。
「俺の遺漏は」
「 」
それを聞いた一人の警備員が体を震わせ始める。
――――
何だ…此処は、廃墟…?滅んだ街…目の前にいるのは…
「うっ!?」
名状し難い怪物、人?いや魚?それとも…竜?腐乱死体なのか?
「お前は…何なんだ!?」
そう叫ぶまもなく体を粉々にされる幻覚を、ありとあらゆる苦痛の拷問、恐怖、■■■が近づいて…失神した。
いつから幻覚の中にいた?本物の現実は何処にある?
――――
気絶しているはずなのに悪夢にのた打ち回り夢遊病患者のように動き回り現実にないものに怯えている。
それを見た他の警備員は恐慌したがタニアとデレックにより地面に叩きつけられた。
「流石に陋能転国みたいに電気は通ってないか〜」
歩はそれを無視して建物内を見渡す。特別な遺漏を持つ人がいたから陋能転国と結子が善意でアクリエイティのメンバーの家には電気が通っていた。
しかしとても広い。物音に気がついたのか多くの人が奥から現れた。
その戦闘には両手が欠損し口が裂け右目が見えていない様子の下半身が蛇の姿をした人物がいた。
開口一番その人物は怒りを見せた。
「此処に来るまで心の中で蛇がドラゴンに勝てないとか思ってんだろ!」
「そんなこと思って無いが?」
そんな事考えてもない。ただ邪魔をしてくるから道を開けようとしただけだ。
「話す時間も惜しい」
歩の冷たい星が多くの人間を葬り血が乱れた。
しかし器用に避けられた。部下を殺される様子を見て苛立ったのか血溜まりができる中するすると蛇の下半身で地面を滑り叫ぶ。
「内政干渉!侵略!部下を殺しやがって!!」
こいつ意外と強いと歩が首を横に振る。
「異国のピエロと話しているみたいだ。まるで意味が分からないぞ」
ウェズは目を回し指で頭の横をくるくると回す。
「異国のピエロじゃねぇ!ダイロニス・レグズディンシュだ!」
「人権侵害、人道支援に基づき独断で動いているだけだ」
「そういう事では内政干渉にはならないです」
「良い挨拶だな!ぶっ殺してやる!」
会話にならない。デレックと梦の言葉にダイロニスは殺意を隠さなくなった。
「本気だな!因みに俺の国では水鉄砲も脅しになるぞ!」
ウェズはなぜかノリノリで戦闘態勢に入った。
ダイロニスが戦闘の構えを取った瞬間ウェズが叫ぶ。
「ケツから機械産みやがれ!……クソったれな濾過ダムよりもクソ垂れ流して機械産むなんてヒポクラテスに謝れ!!」
ダイロニスの身体を突き破るようにナオスピカが召喚され建物を突き破る。
ダイロニスの死を確認し呆気なく戦闘は終わった。
「元気ですねぇ〜」
タニアはニコニコしている。いつもの事なのだろう。しかし梦と歩は苦虫を噛み潰した上に腐乱死体を見たような表情だ。
「ウェズ…何で、何で軍隊に入れたんだろう…」
規律とか守れているのだろうか。いや、守れていたら今此処にはいないか…。
ナオスピカのせいで警備員の阿蘇音が大量に向かって来ている。
「ウェズ、お前一人でやれ。ピンチになったら助けるが」
「まぁ…しょうがないかぁ。…甘いケーキが食べたくなってきたなぁ」
――――
アンガシャのいる空間は世界の上にある。空間が歪み本来ならばアンガシャに連なる者しか入り口を作ることはできない。
ミキを握りしめたミフルがアンガシャの前に姿を見せた。
「失礼する。…身の事は無論知っている筈だが」
「ようこそ。神の形をしたオミッションとお話したいと思っていた次第です」




