41話【敵討ち】
ジャスミンに殺された。
殺された。仲間を、シズを殺された。優しくて不器用でそれでも母思いの青年だった。
トモシビは被害が周りを巻き込まないように植物の蔓でドームを作り出した。トモシビは千春を蔓から出した。
「鈴彦さん達の元にエラーが集まっています。貴女なら複数を相手にするのが得意なはずです。助けに向かってください」
「…わかった」
「複数相手は辛いなぁ」
ジャスミンは手をブラブラと動かす。
「…でもやらないといけないときはある」
「躊躇がなさすぎるよ君」
ブレナンは怒りに満ち怒気を孕んだ声を吐き捨てる。
ブレナンの欠損した部位に周りの石や瓦礫が集まり義手を作る。様々な関節の部位常に引き寄せで動かすことにより実質的な無敵の右手を作り出した。
それを見て警戒したジャスミンは超速で動き風を巻き起こし常に動き出す。
「…?」
ランバは違和感を覚えた。動きが速すぎて気配を置き去りにしている。現在位置を把握できない。
ブレナンは常に自身の周りに物を引き寄せることでジャスミンの俊足の移動に当たらないようにしている。ブレナンの周りには小石や枝葉が飛び回っている。生首を使う気にはならないが。
物がかわりに当たることでジャスミンの体を傷つけ自滅させようと考えたようだ。
身体に木の枝が刺さり動きが止まったジャスミンに釘を金槌で打ち付けるように義手で殴りつけ枝をさらに深く突き刺す。その衝撃によりジャスミンは4メートルも吹き飛んだ。明らかにその体格からは出ない破壊力。遺漏の力だろう。
「油断したらすぐに体持ってかれるって学習したから」
和平はジャスミンの足元を遺漏の電気をぶつけ牽制するに留めている。しかし威力が高い分操作が難しいのかあまり牽制には役立っていない。
ウェズが机を投げつけジャスミンの視界を覆い隠す。
「軍人さん、火事場の馬鹿力?」
「お前警察官も自衛隊員も軍人も甘く見すぎてるよな?」
「火事場の馬鹿力?それを常に出せるように訓練されてんだよ」
ウェズはヘラヘラと笑いながらも次々とジャスミンを追い込むようにタニアとデレックと連携している。
タニアのその筋力によりジャスミンは地面に叩き落とされ拘束された。それを見たウェズは勝ち誇ったように口にする。
「口を割るんだよ。カクのこと、今までの悪事…あぁ勘違いしないでくれ」
「口を、『こじ開けて』割るって言ってんだよ。脳みその有給消化は終わりだぞ?」
それを聞いたデレックははぁ…とため息を吐きながら口を割らせるために鉤爪を持ち上げる。しかしジャスミンは全く動じていない。
突進、物を投げつける。蹴り、戦い方は極めてシンプルだがその動作がスピードにより底上げされ一撃が致命傷になりうる暴力と化している。
ブレナンは瓦礫と共に拘束されたジャスミンから距離を取る。ジャスミンは痛みを感じていない気がする。
「?ブレナン…何かわかったのですか?」
タニアはその動きに疑問を持った。
「離れたほうがいいかも…」
ランバはシズの遺体を守ろうと動けないでいる。しかしブレナンの動きは緊張で常に強張っている。
デレックの鉤爪が口に刺さりそうになるのに全く恐怖を感じていない。
(突き刺さるのが怖くない?ジャスミンの姿には遺漏が関係しているはず)
悪魔のような角と鬼のような角。スピードに関係性はなさそうだ。ただ、何かのメタファーとするなら…刺さるとかそういうものにも思えてきた。
「身体に何か生えているんじゃなくて刺さっているみたいな…感じ?」
問いかけると素直に話し始める。
「正解。タキフォビア(スピード恐怖症)だよ」
拘束していたタニアが吹き飛び壁に叩きつけられる。自身に触れている存在もスピードを出せるのか。
「あーしが治すから!」
起き上がったタニアの生傷をアニタがみるみるうちに治すがアニタの顔色が悪くなる。すぐに疲れてしまうのか。
身体に何か突き刺さってもそれはスピード恐怖症の一つの恐怖。だから痛みなんて感じない。ダメージもそこまで入らない。ブレナンとの相性は最悪だ。しかしまたそれはジャスミンも同じだ。取り柄のスピードが周りを動き回る瓦礫のせいで防がれる。
「おにーさんは何なの?引き寄せの法則か何か?」
「惜しいけれど教えない」
仲間を殺した奴に教える義理なんてない。
欠損した部位に義手を作ったように石や瓦礫を使い左腕に鎧を纏う。これにより右腕が義手、左腕の鎧で両手が凶器となった。
両足で両腕を胴体ごと拘束し両手で顔を殴打する。
ゴッ、と重い音が響いた。確かに手応えはあったのにまるで怯んでいない。しかし多勢に無勢。勝ち筋は無かった。
「人数差が多すぎる…あっちに裂きすぎた」
「お前が壊したものだぞ」
ブレナンは蔓を更に義手と鎧に削れたトモシビの蔓をまとい思い切りジャスミンを殴りつける。
何度も何度も仲間の仇を取るために殴りつけだが和平がその手を止めた。
「………」
「こいつは…」
「わかってる、貴方の仲間を殺した。でも、まだ何も詳しく聞いていない…ぼくの相棒で…」
押し倒したままだったがブレナンは手を退かした。
「本当に…ぼくを…さ…Pareって何度も呼んでくれたんだよ…」
「……ジャスミンは…それは嘘だったんだろ?」
ジャスミンは手を震わせた。出会ってからかなりの時が経っている。
「…違う…それだけは…本心。知らないだろうけれど…千景は沢山の美味しいもの教えてくれて本当に楽しくて」
…
二重螺旋の小さな物質をポケットから落とす。それをタニアは足で踏み潰した。
「罪人は変わらない。警察も機能しない。なら軍人の我々が代わりに秩序として拘束をするべきでは?」
「…僕が変わりにジャスミンを変えるよ。そしたらさ…今までやって来たことの悪さがわかるし…変わりに罪を償わせるよ」
「このまま生きててもまた人を殺すよね…なら一緒に…」
「あっはははっは、ははは!!」
悲しいのに笑うのがこんなに苦しい。心中?そんなの嫌だ。
「……出来ない」
二人ともお互いへの攻撃を躊躇ってしまった。
しかしそんなの関係ない。仲間を殺された。
アズメをシズを、今此処で天誅をとランバは手を伸ばすが…。結子を思い出してしまった。
また殺してもまた恨みを買う。終わりのない復讐劇。和平が手を下ろしジャスミンもその手を止めた。それなのにまた争いの種を蒔くのか?
バエルという絶対的な悪意を持つ存在とはまた違う。
兄妹愛、親愛、親子愛、友愛、色々と見てきた。私はそれを見たのに今目の前の友愛を引き裂こうとしている。
口を噤んで手を下ろした。
トモシビは情緒のあるランバにすべてを委ねる気だ。
ならこの悔しさは何処へ行けば良い?私は世界をデバッグする使命を持つのに人の心何一つ理解できてない。そもそもそれが事の始まりだったが。
「……此処で同じ轍を踏むことなく道を舗装するのがデバッガーの仕事かな」
間違いではないはず。私が選んだこの道は生半可ではない。
アニタが歩み寄る。
「贖罪の道は心から生まれます。…罪を償えば赦しを得られ…」
アニタがそう言いかけると剣を持つ腕を無機質に振りかざし二人の首を跳ね飛ばした。
「なに、知らな…」
等のアニタ本人も意表を突かれたようで目を見開き自身の腕を震わせていた。
「え、えっ…あ」
アニタは恐慌状態に陥りながら燃費が悪いと言っていたカマエルの遺漏を使ったことにより鼻血を出し気絶してしまった。
ジャスミンと彼の殺した人間と和平の首が転がっているだけだった。
「…え、……なんで…」
なんで気が付かなかった?なんでアニタの身体が勝手に動いた…?




