37話【出航】
「……」
「…、…その」
松実の無残で人型であることが微かに分かる死体。咲弥は遺体すら残らず血煙と化し僅かな血液しか残らなかった。あけぼのクラブの壁には大きな穴が空き瓦礫の埃が風で流れる。
「…埋葬しないと」
譫言のように一樹は言葉を発した。いつもの日常の動作と考えてして動かないと気が持たない状況だ。荒見はレヰチの手も存在していたが「頭じゃなければ再生できる」と自分より周りを気にかけていた。
「あぁっあのボケクラゲっ!!!あたしの仲間殺しやがって!!!!…あぁ…夢幻泡影…」
「感情の急降下やめろ」
あけぼのクラブから顔を出したシズは花菜の情緒不安定っぷりに眉を顰める。強がっている花菜も其の実メンタルがやられているのだろう。
それ以降暫く誰も口を開くことはなかった。ただ一樹が咲弥と松実の葬式をする為にアメトリンにいる葬儀屋さんのスタッフに話を通そうと向かった。バグシィがいるのでペット同伴可の葬儀場を用意してもらった。
喪服を着ても実感がない。通夜の中ずっと千春は泣いていた。また大切な人を失った。バグシィは咲弥やランバなど一人一人確認する様に近づいて慰めるように前足で触れていた。
ランバは自責の念に囚われてトモシビに「貴方の意図したことじゃない」「最善だった」とランバに話しかけ続けていた。しかしランバは悲しみで苛立っていた。口汚い言葉をトモシビにぶつけた。
「心にもないことを…心が無い癖に…」
「心が無いから嘘偽りない事実を話しているだけです」しかしそう返されるとランバは無言になった。
――――
数日経っても未だ心の傷は癒えない。それは当然の摂理であり人の死は時間をかけて乗り越えることはできてもその悲しみは心の奥底に居座る。
心の痛みにより動けない人の分も合わせてゆっくりと仕事を進めていると振動音が外から響いた。
唐突な土煙。
「…なんだ?」
外をちらっと扉の隙間から覗くと二人の白い身長差の大きな人影。
小さい方が大きな声を上げる。
「お尋ね者の白コンビとはメタ達の事!」
「…らしいですが俺はそうは思わないです」
「もっと合わせて!」
梦がやる気なさすぎ手メタは飛び跳ねて叱っている。
「………」
「今こっち友人死んで相手する暇ないんだけれど」
ブレナンがじとりと睨む。知らないのは仕方ないがそもそもこの人達はだれなんだ?
「えへん!えへん!メタ達は選ばれしワルな二人組!」
「生きる為に食い逃げしたり!」
「俺が支払いました」
自国の通貨だが。食い逃げは嫌だという加害強迫から梦は家をを飛び出す時に自身の財産をちゃんと持ち出していた。そして食い逃げではなく持っていた自国の通貨をそっとキャッシュトレイに置いている。
「……誰の手も借りずそこら辺で勝手に寝た!」
「寝袋は貰ったです」
悪ぶってアイデンティティを保とうとしている。ある種の試し行動か。構ってほしいんだろう。記憶喪失のメタは自分らしさを無理やり付けたかったようだ。しかしその奥底には愛を欲しているのが梦には見え見えだ。しかしそんなのランバ達に知る由もなくただの空気の読めない奴だ。
「悪ぶるのはおやめって何回も行ってるのにもう…」
梦は呆れている。しかしこれを止めると不機嫌になるから適当に相槌を打っている。
「猫ちゃん!」
メタが自分と大して背丈の変わらないバグシィを見てはしゃいでいるうちにとりあえずあけぼのクラブに招き入れ話を聞くことにした。ワルとか言っていたので警戒はしているが。
「…ミフル?」
レヰチはその名前をアズメから聞いていた。確かカクが出会った神話の神の名を冠するオミッション。ブレナンは2人の話を信じるが神がどうこうと言われても人間には分からない。
「ランバとトモシビ、バグシィに何かさせたいのかな?」
「いづい」
荒見は話が見えてこなくてしっくりきていない。トモシビもミフルについては分からなさそうだ。
「…あー…」
梦は目の前に神の側近がいること、神のオミッションに使命を言い渡されたことに気分を悪くしている。
(失礼なことしたら…神罰とか…)
「顔色悪いぞ」
シズはその不安と罪悪感の感情を敏感に感じ取る。かつての自分を重ねている。
「俺…強迫性障害です」
「きょうはく?」
メタも知らなかった。
「色々気になり過ぎてそれが止められなくて!えっと…同じこと繰り返したりとか…有名なやつだと家の鍵閉めたかなとか手洗ってもまだ汚く感じたり…誰かを傷つけてないかなとかありまして!犯罪とか神の冒涜とか色々人それぞれで…!」
「……飲む?薬」
「へ?ここ薬局じゃないでしょ?処方箋もないし…」
「遺漏で色々作れる人が昔いた」
まだ錠剤はたくさん残っている。
一錠とコップに入った水を差し出されるが梦の内心は(これ怪しい薬じゃないか?)とそういう強迫観念が渦巻いていた。
「薬飲めないの?意外と…子供だね。メタは頑張って飲めるよ?」
「そういうんじゃないです…!」
そもそも遺漏で薬作るとかどんな遺漏だったんだ。危ない薬じゃないだろうか。飲んだら人格奪われたり色々中毒とかそもそも毒だったり…いや薬もある意味毒みたいなもの…と思考が加速し続けて要領を得ない。
もうどうにでもなれ。強迫観念が消えるなら。強迫性障害完治でさせられるならこの命賭けてやる。
(……)
「治ったよな?」
「……はい」
急に胸がスッとして幼い頃のように澄んだ心。何年ぶりだろう。自然と涙腺が緩んだ。
「なんだよ…っ心の病気こんな簡単に治るなんて」
ランバはそれを見ながら複雑な心境だった。
たくさんの人が死んだのに、こんなに救われることもあるなんて。
「プレゼンする人が増えたね」
ウェズの言葉にタニアはふふ、と困ったように笑う。
「次の目的地はポイント・ネモでしたね」
メタは周りをキョロキョロしている。梦が知らない人に囲まれて急に心寂しくなった。
(メタの記憶も治してもらえるかな)
そう考えたが…今は泣いている梦が心配だし周りの大人たちがざわついてて話しかける勇気が出なかった。
話の中で誰がどこで何をするか班分けをすることになる。
あけぼのクラブの守護を担いミフル対策をする丁香兄妹・永海兄弟・花菜・バグシィ、荒見はあけぼのクラブでお留守番をする。それでも人手が足りなく陋能転国にいた卯木が人手不足で来てくれていた。
外国に向かい奇襲対策も含めてウェズの遺漏である【ロボットアニメ『星雲ワルキューレ』の主人公が乗る機体巨大ロボ『ナオスピカ』の召喚】を使うことにした。
「運転はそこの常に困り眉のメガネさんで」
「えっ私ですか!?」
「ナード並みに頭良さそうだし俺は出来るだけ適材適所を極めたいんだ」
「自分の遺漏を操作したくないということですか?」
「『私本当は実力者ですよ』オーラを放っているのに?」
「えっえっ?」
「取り敢えずお願いね」
「なんで私がっ!?そもそもこの巨大なロボット…原理どうなってるんですか!?」
「今更すぎないか?このイカれた世界で正気だと馬鹿をみるんだ」
「酷い…それに説得力あって何も返せないです…」
「お労しい…ドンマイです」
鈴彦は梦に頭を撫でられしばし落ち込んでいた。言いくるめられてこの時は知らされなかった。ウェズは責任を負いたくないと鈴彦に任せていた事に。その癖自分のやりたい事は曲げたくない為にデレックについて来たのだが。
人見が遺漏で受信した情報では今現在元々治安の悪い国は崩壊するなど世界中大混乱で世界人口が減っている。
ナオスピカの周りをぐるぐる走りながら人見は自身の周りを鼓舞するために叫んだ。
「聞けい!聞けエエェェッイッ!!」
「人見ですヨーソロー!」
「今度こそヴォイニッチ手稿の真実が…「ヴォイニッチ手稿オカルト本の写真で見たけれど脳が記号を文字として認識できなかったよ」…え?」
「クソバカがあああっ!!!!」
人見は絶叫部分で力を使い過ぎて疲れバグシィを呼び留守番係に入ってしまった。
結果
【あけぼのクラブ】
丁香兄妹・永海兄弟・花菜・バグシィ、荒見、人見、梦、メタ
【ポイント・ネモ】
ウェズ、デレック、アニタ、タニア、レヰチ、ランバ、トモシビ、双、千春、一樹、鈴彦、ブレナン
となった。
出発し数十分経過し海を渡り始めようとした瞬間
「姉さんじゃんっ…!?」
ブレナンの目に入ったのは自分そっくりな顔つきの黒人の女性。紛れもなくブレナンの実姉のアニタだった。何時もの4つに結ばれた髪型に癖の強い髪の毛。しかしメッシュのような赤い色がついている。更に頭の後ろに天使の輪か後光のようなものが浮かんでおり何より背中にピンク、オレンジ、黄色の羽根が付いている。天使のようだ。ブレナンも天使の遺漏だが彼女もそうなのだろうか。
「あ、ブレナン!」
駆け寄ったアニタはブレナンの欠損した腕を見て喉を詰まらせた。




