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黄昏のオダマキ  作者: ないある
世界編
36/56

36話【無慈悲の暴戻】

部屋には大量のフラスコ。手がぶつかり内1本のフラスコを倒してしまった。思っていたよりも動揺してしまっているようだ。

同じ組織の仲間を殺した。それもただの疑心暗鬼で。はっきりとした証拠もなく。だがそうしないと…。

「はぁああっ……」

ため息を吐く。もう、色々と疲れてきた。エラー因子の研究が行き詰まってしまった。これ以上進展もなさげだ。

どうしたものか。

そう考えている時に決壊が突如として壊れたときた。

「これは…新しい発見が出来るはず」

――――

あけぼのクラブを襲った翠嵐海。ランバが名付けたそのオミッションはとても今戦うべき存在ではない。あまりにも強過ぎる。

翠嵐海が足を踏み込むとその位置にいた花菜に拳を超速でぶつけようとする。

花菜はホースを絡め拳を何とか自身から逸らしたが勢いと拳の硬さで完全には逸らしきれず左頬に当たってしまう。

「いってぇなクソがっ…!」

「此奴は駄目だ!此処で戦うな!!」

ランバが珍しく声を荒げる。

その間にも再び足を踏み込み回し蹴りをして近づこうとした千春を打ち据えようとした。そしてまた足を踏み込む。

「とにかく建物からどかさないと!」

違和感を感じる。方角を気にしているような立ち回りに見える。

「はぁっ!」

タニアが足で翠嵐海の腹に蹴りを食らわせた。タニアは筋肉がとても発達している為喰らうととても痛そうだ。翠嵐海の腹が少しガラスのようにキラキラと輝いている。それを見た翠嵐海は自身の腹を殴り破壊した。

「…?見破られた?」

恐らくタニアの遺漏なのだろう。それを看破したということは見破るほどの知能かそれとも体を削ってから無理やり体を再生させたのかのどちらかだ。


双が電気に乗り壁をタックルで突き破り翠嵐海を外へ追い込んだ。翠嵐海は身体を上手く動かせないのか少し動きがぎこちなくなっている。

「体内電気を操れる気がしてたけれど…今ようやく学習完了したよ」

隠れて電気を操る修行を行った。あけぼのクラブの電気のインフラは常に双が動かしている。それを使い細かな電気の操作を可能にした。相手の体内電気を操り体の動きを鈍らせる。

トモシビが翠嵐海にヘビを絡ませ足の動きをを不安定にする。

トモシビは動きが鈍った所を確認し解説する。

「翠嵐海のオミッションとしての力は【鬼門】です。一定の範囲を八方位の空間に見立て、鬼門【北東】に攻撃を当てると攻撃を強化し自身に当たる攻撃をカウンターにする。裏鬼門【南西】に攻撃すると相手の力を抜き自身に取り込む。なので方角に気をつけてください。翠嵐海から見た八方位です。ですが…」

「翠嵐海が本気を出す前にランバ、移動させてください」

「わかった」

ランバは自身の力に集中しその間の時間稼ぎをトモシビ達に任せる。

多くの阿鼻叫喚の生みの親の暴戻が再び足を踏み込んだ。その1歩にさえ意味がある。だからこそ1歩も踏ませてはいけない。最短で命を絶たなければいけない。

デレックが足で翠嵐海を掴み飛び上がり足を離した。着地されるその無防備な瞬間にかかと落としをする。


咲弥と一樹が走って向かってきた。このオミッションの気配。忘れもしない仇の存在感を。

その姿を見て咲弥が叫ぶ。

「殺してやる!!殺してやるッッッ!!!」

自体が混迷を極めはじめた。今ここで戦っても死者が出る。それは駄目だ。ランバはそう考えたが今は動けない。話すこともできない。集中しないといけない。

瞬間、翠嵐海が力を込め首に付いている触手を操り体を飛び上がらせた。

「ちぇっ!」

松実は全身から凍える風を操り凍りつかせようとした。

咲弥が翠嵐海に手榴弾、を周りに召喚させマシンガンを撃ち始める。

翠嵐海は足を踏むと地面が動き出し自然の盾が作られる。

攻撃を防ぐ間翠嵐海が笑ったように見えて咲弥はゾッとした。

建物内で戦うことをできない者を守る者、戦いに貢献し時間を稼ごうとする者、ランバの周りで護衛兼盾になろうという者に別れている。


鈴彦の圧縮を受けても耐えている。正しくは潰れてもすぐに体を再生させている。

その上素早い。ブレナンの引き寄せで瓦礫をぶつけてもびくともしない。まひるの振動にも臆さない。ただそこに存在しているだけで生き物として、オミッションとして圧倒的に上位の存在だと見せつけてくる。

体格が大きいのにもかかわらず素早い。足を踏み出させない様にしたいのにその願い虚しく腕を振るう。松実が反応する前に吹き飛ばした。ボギ、ゴギャ、ゴギギと音を立てて数十メートルも投げ出された。


その動作は様子見から本気を出し始めた合図だった。

松実へ駆け寄った一樹は息を呑んだ。見るも無残に体が崩壊している。面影もない。死んでいる。

(そうか、そういう事だったな…)

あの時も遺漏を持つ人がいたのにも関わらず町一つを殲滅するのに時間もかからなかった。

今此処で電車を出してもただ真っ二つにされて無駄に消耗する。ランバの言う通りだ。戦う相手ではない。時間を稼ぐことに集中するべきだ。すぐに判断できなかったのは頭に血が上っていたからだろうか。

ウェズは松実の死体を見て動きが固まった。共に戦った戦友が死ぬのは日常だ…それでも。

「人間みたいな戦い方してプロレスごっこか?レフェリー役として頭のゴングを鳴らしてやりたいよ」

ウェズは遺漏を発動させようと手を伸ばそうとした。しかしそれを遮るように咲弥が絶叫しながら走り出す。咲弥は翠嵐海がまた人を殺したことに激昂した。

「アァアアッアアアア!!!」

「咲弥止まれ!!!迂闊に近づくな!!!」

双の声を聞いた。今見られている。翠嵐海が咲弥の立つ方角を【北東】にする為に動き出している。

「クソっ…クソっ…!またっまた…!!」

レヰチがその大きな手で咲弥の腕を掴み震える咲弥を高速で移動させる。そんな状況の中咲弥は胸が潰れるような悲愴の中脳裏では冷静な考えが巡っていた。

(彼奴が強いから。視界にいるのに殺すことができないなんて悔しい)

「!?」

瞬間レヰチの指が切断された。翠嵐海が触手で引き裂いたようだった。宙に放り投げられた咲弥を千春が咄嗟にお化け提灯の舌で絡め取ろうとすると再び触手が舌を切断する。そして

─咲弥の四肢も切断されていた。

咲弥は痛みに声を上げることも出来ず血を噴射しながら口を開閉させて喉から掠れた呻き声しか出すことは出来なかった。地面に投げつけられた咲弥の首を掴み持ち上げる翠嵐海。

「っ…!?」

首を掴まれても四肢ををもがれ抵抗もままならない。

首を捕まれ弄ばれるように強弱を制御し長く苦しみが続くようにされている。

『こうなったら命を犠牲にしてでも…』

自分の命と引き換えに発動するそれは人類史上最悪の兵器。翠嵐海でも流石に大きな損傷を受ける。

その第二次世界大戦の『核』を発動しようとして…止めた。

(過ちは繰り返すべきではない…)

例え対象を一体に絞り込めて周りに被害を出せないとしても。仇であり不倶戴天の敵だとしても。 

(何で此処でそんな平和ボケした考えになるんだ…っ)

自身を責めた。今此処で殺すべきなのに。翠嵐海はすぐに殺しに来る。なのに、なんで、なんでっ…!

(馬鹿だ…こんな遺漏なのに平和ボケした私じゃ無理だった…)

咲弥は自身に向かってくる死を受け入れていた。

翠嵐海の拳が【北東】にいる咲弥を血煙に変えた。

大きな悲鳴。千春が泣き双が膝から崩れ落ち一樹も息を呑んだ。


それと同時にランバの能力が発動し翠嵐海を消した。正しくはワープさせた。場所は地球上で最も陸から離れた海域『ポイント・ネモ』。そこに空間を作り海にも空にも触れられない、誰の目にも見えない空間の間から出られないようにした。

「彼奴は今殺すべきじゃない」

ランバはそう言いながら松実と咲弥の死を噛み締め涙を流した。

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